「推し活」の意味がわからなかった私が「いいじゃない、推し活」と思えた日
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:白水 裕(ライティング・ゼミ 2026年1月開講4ヶ月コース)
推し活、という言葉に長らくなじめなかった。
「ファン」とか「好き」の対象なら、いなくもない。でも、自分にとってそれはどちらかといえば「そっと想う」行為であった。仮に思い切って「最近、ちょっと〇〇が好きなんだー」と家族や友人に告げたところで「え? ユウってそういう趣味なんだ、意外―」とからかわれたり、「〇〇のどこがいいの?」と突っ込まれた日には、「言うんじゃなかった」と後悔し、穴があったら入りたい気分になる。
人の趣味や「好き」をかぎまわって話題にすることを一種の社交術のように思っている人たちに知られたが最後、初対面の人に私を紹介する時や、大勢でいて話がふと途切れた際に「〇〇といえばユウさんですよねー」と話を振られ、「それはもう昔の話で、今は好きじゃないんです」とも言えずに気まずい空気が流れる。というような経験を何度かした後で、「もう、誰かのファンだとか好きだとか、絶対に言うもんか」と心に決め、そのように過ごしてきた。
なのに、である。
いつからだろうか。
「推しの試合を見に行くので午後休取ります」「その色は推しの色なので、私にとっておいてください」など、会社であろうと友人の間であろうと、「推し」がいることを公言することが普通になった。
「推し」のために仕事をかわってもらうことや、「推し」のライブの翌日は会議で声が出ないことなど、すべて「推し」の名のもとには許され、それを理解しない人、応援しない人は「遅れている人」「心の狭い人」というレッテルを貼られる。
プライベートの充実やワークライフバランスを重視する人が増え、企業側もそれを認めざるを得ない風潮になってきたのとほぼ時を同じくして、「推し」は「ライフ」の充実に欠かせない要素として、大きな位置を占めるようになっていた。
ま、でも、自分とは関係ないや。そう思っていたが、昨年の夏、いきなり「推しの輪」に引き込まれた。
それは、台湾カルチャーをテーマにした小さな物販イベントを、夫と一緒に開催した時のこと。
コロナ禍の直前にも同じ場所で、同じテーマでイベントを開いた。その時に来てくれた人は「台湾が好き」という人たち。台湾にちなんだグッズを眺め、手に取っては、自分の台湾旅行体験や台湾愛を、会場に立つ私たちに語ってくれた。時には「自分が好きなアレが置いてない」「自分の体験とは違う」と不満げな、「自分が好きな台湾」との答え合わせをしているような人も見受けられた。
あれから6年。テーマはほぼ同じなのに、イベント会場で私が出会ったのは「台湾を推し活する人たち」だった。
「台湾を推し活する」とは?
おかしな日本語であることは承知している。が、そこには「推し活」としか表現できない光景が繰り広げられていたのである。
まず、前回との一番大きな違いは、台湾が好きというだけでつながっている「推し活仲間」が生まれていることだった。
前回の来場者と我々は「台湾が好きな自分」と「台湾に関するイベントの開催者」という1対1の関係であり、そこには「私とあんたたち、どっちがより台湾に詳しいか、どっちがより台湾を愛しているか」と値踏みされるような場面もあった。
一方、昨年の来場者は、知り合いが会場にいないか、まず探す。2019年に比べると、最近では東京、大阪をはじめ、全国で台湾フェス、台湾イベントが頻繁に開催されている。「台湾好き」改め「台湾推し」の人たちは、ひと夏に何か所もそうしたイベントを訪れ、中には「今日はここで3件目なの」という強者もいた。そして、行く先々で知り合いを見つけては、訪れたイベントやグッズ、食べ物などについて情報交換をする。
あのイベントとこのイベントで出展者が同じでもかまわない。むしろ同じ出展者と顔なじみになり、何かを購入したり言葉を交わしたりして、その出展者を応援することも楽しみなのだ。
そして来場者に知り合いを見つけたら、物販コーナーの奥に設けた畳のスペースで、台湾ドリンクを飲みながらおしゃべりの花が咲く。話題は推し(台湾)のことが中心だが、そこから体調のことやパートナーのこと、仕事のことなど、話題は時に無限に広がるようだ。テーブルの上には現地のガイドブックやタウン誌などを置いて自由に読めるようにしてあったので、一人で来た人がページをめくりながら過ごすうち、いつの間にか見知らぬグループのおしゃべりの輪に加わっていることもあった。
その熱気を浴びながら、私は考えを改めた。
いいじゃない、推し活。
「好き」を堂々と人に言えること。
「好き」を同じくする人とつながること。
「好き」のいる場所に何度でも身を置くこと。
これが「楽しい」と思えたら、その「好き」はきっと「推し」なのだろう。
仕事でも家族でもなく「好き」を軸にしないと立っていられないほど人間がヤワになった証拠だ、けしからん、と言う人もいるかもしれない。
でも、「推し」があるから令和の私たちは、なんとか生きていられるともいえる。
それは、推しを語る人たちの、心から幸せそうなニマニマ顔を間近で見てしまったから。
「ここから動きたくない。帰りたくない」と言う人たちの声に、びっくりするほど本気がにじむのを聞いてしまったから。
「これ、毎年やりなよ。やるべきだよ」
会場のオーナーが初日の夜につぶやいた言葉に後押しされて、今年も夏の終わりに台湾イベントを計画中だ。私たちの「推し台湾」は「台湾推し」の人たちを、どれぐらい笑顔にできるだろうか。
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院カフェSHIBUYA
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目20番10号
MIYASHITA PARK South 3階 30000
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00
■天狼院書店「名古屋天狼院」
〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先
Hisaya-odori Park ZONE1
TEL:052-211-9791
営業時間:10:00〜20:00
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00







