AI時代こそフォント、字を気にしたい
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:村人F(26 年 9 月ライティングゼミ withAI)
僕の字は汚い。めっちゃブレているのだ。線が震えていて変に丸いし性格通りの優柔不断さが隠しきれない。「本当は自信がないんです」って主張が聞こえてくるようで見るのも嫌だ。プログラマーになった理由の半分は文字を書かなくていいからと言っても過言ではない。
ただこのコンプレックスのせいか、フォントに対するこだわりが妙に面倒くさい。Wordデフォルトの『游ゴシック』は文字も微妙な上に名前の「游」が「なにが遊びやねん」って感じがして嫌だ。だから毎回お気に入りの『Meiryo UI』に切り替える習慣が染みついている。
とはいえ最近は変に厳しいこの目が意外と武器になると思えてきた。AI広告を見抜くきっかけになるからだ。そこら中に溢れていて皆もうすうす「意外とわかるもんだな」と気付き始めているだろう。僕の場合そのきっかけは字になる。本当に同じようなパターンばかりなのだ。勢いがいい感じとか、私オシャレですって言いたそうな字など、どこかで見すぎたフォントばかり。そこから芋づる式に色の感じとか構図とか次々と目について「うわあ……」となる。
しかしコンピュータで文字を書いている僕が文句を言うのも筋違いだろう。この文章と同じフォントを使う方も大勢おり、見るだけで蕁麻疹が出てくる方も当然ながら存在するだろう。手書きをしない時点でAI広告作成者と同じなのだ。
内心では綺麗な字に憧れている。定期的にボールペン字講座の受講を検討し「課題で字を書くのが面倒くさい!」と逃げるのもその表れだろう。本当は手で書きたい。でも汚い自分を直視できず、諦めてコンピュータで打ち込むのだ。
ただ字に対するコンプレックスは持っておいた方がAI時代を生き残れると思う。根底にあるのが個性だからだ。
AI広告が嫌な理由をよく考えていくと、同じような物しかないからだと気付く。同じ字を使い、同じ雰囲気に加工して、同じ構図にする。びっくりするほど似たものだらけだ。もちろん以前も多くが『いらすとや』を使いまくっていたけど、今はそれすら独創的に思えてくる。学校とかコンプライアンス研修で「個性を大切に」やら「多様性」とか言われているのに真逆じゃないか。この危機感がアレルギー反応を起こしているのだろう。
ただ手書きにここまで憧れるようになった背景には、忘れられない思い出がある。大学時代に塾講師のアルバイトをしていたころ、反抗期のど真ん中を行く中3女子がいた。雰囲気がなんかツンツンしているギャルで僕の苦手なタイプだ。もちろん「先生ムカつく」とかバンバン言ってくる。
けれど彼女以上に綺麗な字を書く人に会ったことがない。強くてかっこいい字だった。シャープペンシルだから教科書とか書道の感じと違う。あのテイストの言語化は不可能だ。当時の僕は上司の先生から「字から人がわかりますよね」と言われていたから、彼女の本質には美しくて強い心があると感じていたけれど、僕も口下手なので言えないまま日々が過ぎていった。
でも受験前の最後の授業でようやく伝えることができた。「女の子らしくないからコンプレックスに感じている」とか照れていたけれど、「先生にお祝い事があったら、あたしが字を書くから」と嬉しそうに返された言葉が、今もずっと残っている。
この塾には合格発表のあいさつの時、壁に手書きで字を書く伝統がある。彼女も志望校合格の時に書いたわけだけど、数年後に塾へ遊びに行くと高校を卒業した際のコメントが追加されていた。その字は相変わらず綺麗だったけれど雰囲気がやわらかくなっていて、いい青春だったんだなと思った。
この成長は手書きだからこそ伝わるのだろう。僕の字に対する思いの原体験はここにある。だからこそ手で書きたい。コンピュータやAIでそこら中に同じ字が溢れる状況へ違和感を持ってしまう。
そして僕は今、休日に般若心経の写経をしている。占い師に言われたからというスピリチュアルすぎる理由だが、僕の根底にある望みを見抜いているのだから腕は確かだ。お手本の上に半紙を置いてなぞるという、普通にやればコピーができるはずの手法である。けれど字が汚くて唯一無二にしかならない。丁寧さがどうしても持続しないのだ。
だからこそ愛おしい。形はメチャクチャなくせに筆ペンで書いたおかげか普段より綺麗に見える。このブレこそ僕じゃないか。
AIに学習不能な個性として、これからも大事にしよう。
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