メディアグランプリ

公募落ちは、都落ちのようなもの〜求められるもの、生み出されるもの〜


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:藤尾ひびき(26 年 9 月ライティングゼミ withAI)

 

 

わたしは詩歌を詠むのが好きだ。嬉しい時も、悔しい時も、口ずさむように言葉を紡ぐ。

その好きが高じて、公募への参加も始めた。

だが、なかなか思うような結果には至らず、鳴かず飛ばずの日々である。

 

それは去年の出来事だった。

初めて応募した県文芸祭で、わたしの一遍の詩が、入選したのだ。

――まさか、このわたしが?

最初は到底信じられなかったが、通知書を確かめると、やはりそれは間違いではないらしい。

戸惑いが徐々に薄れていき、喜びがじわじわと湧き出てくる。

わたしにも、何か一つ、誇れる結果を残すことができたのだ。

とても、嬉しかった。

 

驚いたのは、授賞式に参加した時のこと。

受賞者の大半は、自分よりも遥かに上の世代の人たちだった。

ほんの一瞬の違和感が、胸の奥に滲む。

 

一体、自分の何が評価されたのだろうか。

 

わたしはその疑念を抱いたまま、午後の講評会に足を運んだ。

興味本位で初めて参加したその講評会では、審査員と受賞者との交流会のような時間が流れる。

参加者自身の詩を一人ずつ読み上げ、それをその場にいる人たちで感想を言い合っていく。

とうとうわたしの番が来た時には、随分まったりとした空気が漂っていた。

わたしが詩を読み終えると、審査員の一人が言った。

「これは……」

彼はそのまま口を噤んで首を捻った。その一瞬に、重い空気を感じた。

そしてその審査員は、難しそうな顔をして言った。

「なんで、これ、選んだっけ」

 

衝撃的な一言だった。わたしは真正面からその言葉を受け止めた。

――なんで、選ばれたのか。

わたしは困惑した。むしろそれを提示するのがこの講評会の役目ではないのか。

 

「僕は絶対選ばないと思うんだよね、だって、これ〝句読点〟がついてる」

そうなのだ。

わたしの提出したその詩には「、」が二箇所ついていた。

 

  行ってきます、と手を合わせ

  ほほえむあなたに独り言

  わすれものだよ

  あいしているよ、

  わたしの頬に風ふれる

 

「これは意図的につけてあるの?」

審査員はわたしに聞いた。意味はあった。「、」には、呼吸を置いていた。

わたしはこの詩を何度も推敲して、そこに「、」を残したのだ。

それなのにあの審査員は、意図せず作ったものだと決めつけるように、問いかけてきた。

その後はもう、その審査員の言いたい放題だった。

 

「句読点がついた詩なんて、今まで見たことがない」

 

(そんなはずはない……)

数人並んだ審査員のうちの一人が言った。

「谷川俊太郎さんも、句読点を使った詩は詠まれていますよ」

審査員同士でそこまでフォローが必要なのかと、わたしはその場で絶望していた。

 

――詩を読むのに、ルールなんて要りません。

 

講評会の最初にそう言ったのは、紛れもなくあの審査員だったのだから。

 

あまりにショックが大きくて、一時は、筆を折ろうとまで思い詰めたこともあった。

自分の居場所をなくしたような気持ちでいた、そんな頃だった。

職場の休憩室で見た大河ドラマに、源義経がいた。

ドラマの中の彼は、すでに身内から追われる身となっていた。

一緒に見ていた同僚が「義経は、何も悪くないのにね」とぽつりと言った。

 

その一言を聞いた瞬間、わたしは思わず息を止めた。

 

(これって、今のわたしと同じじゃない?)

 

都を追われた義経は、奥州へ。奥州平泉には、彼を庇護する者がいた。

そのことが、ひどくわたしの胸を打った。

 

義経は、本当に「負けた」のだろうか。

わたしには、彼がただ頼朝という〝時代〟に合わなかっただけのように思えた。

そして今なお、「彼は悪くない」と見る者がいる。

 

義経の物語が、わたしの詩の見方まで変えてくれた瞬間だった。

 

あの詩は、確かに誰かが選んだ詩なのだ。

わたしのあの詩もまた、あの審査員の物差しに乗りきらなかっただけ。

誰かの物差しから外れることは、終わることではない。

求められるものは、その時、その場所によって違うのだ。

 

ある時、これは、と思う作品ができ、公募に出した。

必ず選ばれる――自信があった。

だが、結果は落選。

悔しかった。それでもわたしは前を向く。

その悔しさを胸に、新たな歌を詠み続けることで、わたしはわたしの物語を紡いでいく。

 

  何度でも空に向かって咲く花に

  昔も今もあいをしる僕

 

都落ちは、決して敗者の物語だけに留まらない。あえてそこから、美しい物語が新たに生まれることもある。

そしてそれと同様に、公募落ちしたからこそ、新しい歌を詠むこともあるのだ。

 

わたしにとっての都落ちは、むしろこういうことなのかもしれない。

 

 

 

 

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