幸せとは
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:草野 香(26年9月ライティングゼミwithAI)
「あなたは幸せですか?」
と、聞かれたら何と答えるだろう。
今の私は、あれが欲しい、そのために先立つものがない、もっとこうなりたい、でもまだまだ努力が足りない。と、また足りないものに目がいき、自分が恵まれていることを忘れかけている気がする。
大変なことがあった後は、何も変化のない日常が幸せだと感謝できるのに。
人は喉元を過ぎると忘れてしまう生き物、私もその一人だ。
みなさんの中にも、夏休みが来ると宿題の多さや大変さに苦労し、必死にやり遂げ、そして夏休みが終わって提出してしまえばそんな苦労があったことなど微塵も覚えていない経験がある方もいらっしゃるだろう。
幸せとは、私にとって「夏休みの宿題」に似ている気がする。
去年の今頃、私は駅の階段で転び、頭蓋骨骨折をした。それだけ聞くと大変なことになったと思われるかもしれないが、今では笑い話となっている。
頭を打った瞬間、「どうしよう、どうなっちゃうんだろう」とその日の友人との約束と、自分の怪我のことを考えていた。
その日、私はワイドパンツにパンプスを履いて出かけていた。
スマホを見ていたわけでもない、すまして歩いていたわけでもない。裾を踏みそうだな、手でパンツを持たないと、と思っていた矢先、目の前が真っ白になった。
階段がない!足がつけない!と。
そのとき、パンツの裾にヒールがひっかかり、足が階段に着地できなくなっていたのだ。
階段5段分くらいに全身を這わせ、床に打ち付けた頭で身体を支えたのだから周りの人も驚いただろう。もしかしたら「巻き込まれなくてよかった」という安堵の視線だったのかもしれない。派手に転んでしまった……恥ずかしさのあまりすぐに起き上がったが、頭が徐々に腫れ、大きなたんこぶになり、とにかく痛かった。
駅の階段、こんなところに勢いよくぶつければ痛いに決まっている。大の字というと大げさだが、もちろん、腕や足もぶつけていた。しかし、見た目にわかるような傷もなく、何ともないように見えたようだ。
頭を打っていたこともあり、救急車で搬送された。そして骨折しているからと経過観察のため入院となった。
「意識もあるし、話せるし大丈夫だろう」と思う反面、「何かあったらどうしよう」と思っていたが、幸い翌日の検査で問題はなく、帰宅することができた。
頭と首の痛みはしばらくの間続いたが、翌日から仕事に行き、支障はないとは言い切れないが今までとほぼ同じ生活はできていた。周りからも「手術になったり、傷がなくてよかった」と。また「1か月くらいは注意したほうがいい」とも言われ、心配しながら日々生活していた。
幸いなことに何事もなく、日常の生活はしていたが、頭と首が痛い日々が1か月くらいは続いていただろうか。支障はないとはいっても、痛みで判断力がないことや首の可動域が狭くなっていたこと、振動が嫌だったこともあり、走ることや車に乗ることなどは不安で避けていた。
そのときは毎日、何事もなく生活できていた日常がどんなにありがたいことなのかということを身に沁みながら生活していた。食事をするにも、出かけるにも、何をしても。十分足りていることばかりだったと。
これに限らず、体調が悪くても、トラブルが起きても、環境が変わっても、「いつもと同じ」がそうでなくなったとき、「前はよかった」「恵まれていた」「幸せだった」と改めて思うことが多い。
それなのに、「いつもと同じ」が続くとあたり前になってしまう。あんなに感謝していたのに、また足りないところに目がいってしまう私になっている。
周りや世界を見れば、もっと大変な状況の中でそれを受け入れて生活している人もいるだろう。
私に起きたことは些細なこと。でも、何事も起こらないことのありがたみを感じることができたことには違いない。
そして、その日以降、階段を使う時にはその時の恐怖を思い出し、手すりの近くを歩き、一段一段確認しながら歩くことには気を付けている。これもまた、しばらくしたら忘れてしまうのだろうか。
そして、日々を過ごす中で、この時期だけは大変だったことを思い出して、またしばらくすると忘れて、を繰り返すのだろう。
幸せとは夏休みの宿題のようなものだと思う。苦しい間だけ実感できて、提出した瞬間に忘れてしまう。
この文章を書きながら、改めて何事もなく毎日が過ごせることへの感謝を忘れないようにしていきたいと思っている。
≪終わり≫
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