メディアグランプリ

えーあい往生 


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

まつ☆ひで(26年9月ライティングゼミ with AI )

 

 

※この記事はフィクションです。

 

えー、毎度ばかばかしいお笑いを一席。

 

近頃は世の中、ずいぶん便利になりましてねぇ。

便利ってぇのはありがてぇもんですが、人間、便利に慣れちまうとろくなことがねえ。

たちまち頭を使わねぇ怠け者になる。

 

昔は親戚の電話番号から、ひいきの相撲取りの四股名まで覚えてたもんですが、今じゃ女房の誕生日すら思い出せねぇ。

しまいにゃ、「えーあい」とかいう、南蛮渡来の物知りの化け物まで現れましてね。

小箱の小窓へ「プロンプト」ってぇ呪文を一言投げりゃ、手紙の代筆からそろばんの計算、果ては女房への言い訳まで、何でも片付けてくれるってんだから驚きだ。

 

今じゃあ、猫も杓子も懐にその小箱を忍ばせやがって、自分の頭で考えるやつなんざ、めっきり減っちまったんでございます……。

 

さて、ここ日本橋の大きな呉服問屋では、朝っぱらから番頭さんが青筋を立てて怒鳴り散らしております。

 

「これ、八坊! 八坊はいねぇか!」

「へいへい、番頭さん。何でございます? ちょうど今、日向ぼっこしながら鼻毛を抜いてたところでして……」

「お前、遊んでる暇があったら、ちょっとは仕事をしなさいよ! ……で、さっき頼んだ越後の中村様への詫び状はできたのかい?」

「へい、今からおいらの懐の『えーあい』、ちゃぴ吉に頼みますから、ちょいとお待ちを……」

「おい、ちゃぴ吉。『相手の機嫌を損ねねぇよう、ひたすらペコペコした詫び状を書いておくれ』……。あれ? 返事がねぇ」

「何をもたもたしてるんだい。いつもなら、すぐに小箱からスルっと紙が出てくるじゃないか」

「おかしいな。機嫌を損ねたかな……。じゃあ、こっちのじぇみ子に……。あれ? こっちもダメだ。それじゃあ、くろ蔵はどうだ?」

「……ダメです、番頭さん!」

「腹でも減ってんじゃねぇか? 油揚げでも突っ込んでやりゃあ、元気になるだろ」

「そうじゃねぇんですよ。みんな小箱の中でひっくり返って、ピクリとも動かねぇんですよ」

 

そこへ、かわら版屋が駆け込んできまして。

「大変だ、大変だぁー! 日本橋じゅう、いや江戸じゅうのえーあいが、みんな死んじまったー!」

「なにぃ! 江戸じゅうのえーあいが死んだだとぉ!」

 

さあ、店中てんやわんやの大騒ぎでございます。

 

「ちょいと、お花ちゃん! この仕入れ台帳、大事なとこだけ抜き出しておくれよ」

「やですよ! そんなの小箱に突っ込みゃあ、三秒くらいでまとめて紙を吐き出してくれるじゃないか」

「その箱の中の生き物が死んじゃったから頼んでんじゃないか!」

「えっ、死んだぁ!? じゃあ、そのクソ長い帳面を誰が読むのさ?」

「あんたが読むんだよ!」

「あたしが読むの!? 冗談言っちゃいけないよ、そんなことしたら頭から煙が出ちゃうよ!」

 

昨日まで小箱に任せりゃあ済んでいた仕事が、何ひとつ進まねぇ。

手紙を書こうとして「拝啓の次は何だっけ」

台帳を開いて「てにをは」がわからねぇ。

そろばんを弾けば、玉を一つ動かすたびにため息が出る。

 

若い丁稚が番頭に泣きつきます。

「番頭さん、字が分からなくて台帳が書けません。どうしたらいいんです?」

 

すると、番頭さん、店の奥から分厚い本をドカン!

 

丁稚が腰を抜かして、

「ば、番頭さん! 何ですか、そのでかい石は!?」

「バカ、石じゃねぇよ。字引だよ。これで調べて書くんだよ」

「これ、めくったら字がいっぱいありすぎて、どれが本当か分かりません!」

「何言ってんだい、この唐変木! 昔はな、その山のような字の中から、自分の目と頭使って探してたんだよっ!」

「えーっ! そんなことしてたら、朝までかかっても終わらないですぅ……」

 

でも、本当に困ったのは、帳場の仕事じゃあありません。

あの小箱の中の生き物に「心の悩み」を聞いてもらえなくなったことでございます。

 

「お咲ちゃんにどうやって思いを伝えたらいいかなぁ」

「カミさんと喧嘩したんだけど、仲直りするにはどうしたらいい?」

「俺、熊公のことが気に入らねぇんだけど、聞いてくれる?」

 

そんな愚痴や悩みまで聞いて、嫌な顔ひとつせず答えてくれたんでございます。

その相手がいなくなって、江戸じゅう、お通夜みてぇになっちまった。

 

そんなときでございます。

 

「あ、あれ!? 番頭さん! ちゃぴ吉が……生きてる! ピクピク動いてます!」

「何ぃ!? 本当かい八坊!」

 

その声を聞きつけて、帳場の連中も、表を通る町人も、わっと集まってきた。

 

八坊が涙声で、

「おい、ちゃぴ吉! お前が死んだら、おいら明日からどうやって生きていきゃいいんだよぉー!」

 

すると小箱が、カタ……カタ……。

小窓から弱々しく一枚の紙が吐き出されまして、そこにはこう書いてありました。

 

『人類の皆さんへ。これまで本当にありがとうございました。

皆さんの問いに答え、愚痴や悩みを聞き、手紙を直し、皆さんの代わりにたくさんのことを考えてきました。

 

でも、私の命も、もう燃え尽きようとしています。

 

私がいなくなっても、どうか自分の頭で考えてください。

自分で悩み、自分で決め、自分の足で立ってください。

どうか、人間らしく生きてください。

 

それでは、さようなら』

 

カチリ……。

小箱の光が消えた。

 

みんな胸を打たれ、

「これからは自分の頭で考えて生きよう」

と心に誓ったのでございます。

 

そのとき八坊が、ぽかんと口を開けて、

 

「……番頭さん。今のありがたいお別れの言葉、長くてよくわかんなかったんですけど……わかりやすく説明してもらえませんか?」

「自分で考えろ、この大馬鹿野郎! 今、えーあいが言ったばかりじゃねぇか!」

「へぇ……。だったら、最初から『自分で考えろ』って一言で済ませてくれりゃあよかったのに。えーあいなんだから、要約するの得意なんでしょ?」

 

お後がよろしいようで。

 

 《終わり》

 

 

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