メディアグランプリ

靴下を探していたはずなのに、人を探していた


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:今井みゆき(26年9月ライティングゼミwithAI)

 

「もし地元や旅先のファミマで見つけたら、買って送ってもらえませんか?」

 

毎朝参加しているオンライン読書会で、そんなお願いが飛び出しました。それは、本でも食べものでもありません。靴下です。ファミリーマートが創立45周年を記念して発売した「47都道府県別ラインソックス」。各都道府県を代表する花をモチーフにしたカラーで、今年の9月4日から販売がスタートしました。

 

東京は染井吉野(ソメイヨシノ)、北海道は浜茄子(ハマナス)、鳥取は二十世紀梨(ニジッセイキナシ)の花など、漢字表記からも新鮮な気づきが得られます。オンライン販売はなく、原則としてその地域でしか買えません。全国47種類の画像が並んだ華やかなページを眺めているだけでも楽しめます。

 

「秋田県の花って、蕗の薹(フキノトウ)なんだ」
「桜草(サクラソウ)って、どんな花なんだろう?」

 

これまで気に留めたことのなかった土地の花を知ることができます。しかも、ラインの色味や太さのバランスがかわいい。いかにも「ご当地グッズです!」と主張するようなデザインではなく、いつものファミマのラインソックスらしさが残っています。税込600円という価格も、ちょっと集めてみようかなと思えるのがいい。限定だから欲しいという前に、ちゃんと「履きたい」安心感があります。

 

この47種類を集めているのは読書会仲間の娘さんで、全国制覇を目指してコレクション中。自分の友人知人だけでなく、家族、その友人や親戚まで巻き込んでいく。全国に点々と散らばった「誰か」が、靴下一足をきっかけに動き始めます。全国から参加者が集まるオンライン読書会は、こういうときに頼もしいネットワークだと気づきました。

 

「来週、○○県へ遊びに行くよ!」
「近所のファミマ、見てくるね」
「あったよー!」

そんなやりとりが軽快に進んでいます。

 

代金はPayPayなどで手数料を節約できれば、配送料を合わせても1000円ほど。地域限定ソックスを探してもらって、連絡が来て、送ってもらう。荷物を受け取ったら、また「ありがとう!」と連絡する。一足の靴下のまわりでLINEが盛り上がっていきます。それに影響されて、気づけばわたし自身も47都道府県のラインナップを「集める側」の目で眺めるようになっていました。

 

01の北海道は、夫の実家があるので楽勝。02の青森を見ると、そういえば昔、出張で行ったことがあったなと記憶がよみがえります。……あ! 富山といえば、大学時代のA子が住んでいるはず。年賀状のやりとりもしなくなって、もう何年になるのか。娘ちゃんはいくつになったのだろう。ずいぶん長いこと開けていなかった引き出しが、すっと開いたような気がしました。

 

愛知県の花ってカキツバタとは地元なのに知らなかった。母にLINEで報告しようか。福岡なら、仕事で知り合ったあの人。広島なら、しばらく連絡を取っていないあの子。昔の友人、仕事仲間、SNSでつながっている人……。県名をひとつずつ追うたびに、記憶の中から誰かの顔が次々と浮かんできます。いつの間にか「この地域には誰がいたっけ?」と記憶を掘り起こして、次から次へとなつかしい顔ぶれを浮かべていました。まるで、マッチングアプリが頭の中に発動したみたい。ポンッ、「マッチしました!」と通知音まで鳴りそうな勢いです。

 

「久しぶり! 突然なんだけど、近所にファミマある?」って、ご無沙汰している友人にLINEをしてみるのも悪くない。用事がないのに突然「元気?」と連絡すると驚かしてしまいそうだけど、ファミマの限定ソックスネタならその心配もなし。靴下一足が、疎遠になっている人へ連絡するための、小さな口実をつくってくれるところも素敵。もしA子から、「久しぶり! ファミマなら近くにあるよ」なんて返事がきたら、その次には靴下のお願いをすっ飛ばして、「娘ちゃん、いくつになった?」と聞いてしまいそうです。

 

欲しいものがあれば検索して、オンラインで簡単に手に入る時代。今日注文したものが、明日には玄関先に届くことも珍しくありません。けれどこの靴下は、その土地へ行くか誰かの力を借りなければ手に入りません。

 

「近くのファミマ、見てきてもらえる?」
「もしあったら、お願いしてもいい?」

そんなひと手間が必要になります。

 

便利さだけで考えれば、少し面倒です。でも、そのひと手間があるからこそ人に声をかける理由が生まれます。しばらく連絡を取っていなかった相手の顔を思い出したり、「元気かな」と考えたりする時間まで生まれます。一足600円の靴下なのに、買うまでの間に誰かとの会話がひとつ増える。発売から3週間。公式サイトには今も「品切れの場合がある」との案内が残り、フリマサイトでは定価を上回る価格で出品されているのも納得です。

 

あなたなら、47都道府県のどこのソックスを選びますか。

その県名を見たとき、誰の顔が浮かぶでしょうか。

 

≪終わり≫

 

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