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環境カウンセラーと行く! ものづくりの歴史と現場を訪ねる旅

【環境カウンセラーと行く! ものづくりの歴史と現場を訪ねる旅】第1回:古代から未来へ! ようこそ、ものづくりのタイムトラベルへ(ヤマザキマザック工作機械博物館)


2021/07/19/公開
記事:深谷百合子((READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
敷地内には広大な駐車場と芝生広場、その先にはガラス張りのピラミッドしかない。博物館の建物は一体どこにあるのだろう? ピラミッド内のエレベーターに乗り、地下11mまで下りる。まるで秘密基地に潜入するような気分だ。エレベーターを降りると、目の前に展示室への入口が現れた。奥の方から「ポー」と汽笛らしき音が聞こえてくる。一体何だろう? 展示を見ながら進んでいくと、急に目に飛び込んできたのは、黒光りする蒸気機関車D51だ。工作機械の博物館で蒸気機関車を見るとは、ちょっと不思議な気持ちだ。
 
「このD51だけを見に来られるお客様もいらっしゃいますよ」
副館長の高田芳治さんはそう言って笑った。
 
ここヤマザキマザック工作機械博物館は世界でも珍しい地下工場を改装した工作機械の博物館だ。
 
なぜ工作機械なのか?
なぜ地下なのか?
 
そこには、ものづくりを支える工作機械への熱い思いとプライドがあった。
 


高田芳治さん
ヤマザキマザック工作機械博物館副館長
博物館の企画構想段階から携わり、現在に至る。

 
 

もっと世の中の人に工作機械を知ってもらいたい



 
博物館をつくろうという構想は、実は40年程前にまで遡ります。当時、先代の会長(山崎照幸氏)が海外出張中、飛行機で隣り合わせの方と会話をした際に、「工作機械の製造販売をしている」と話すと、「それは何を耕す機械ですか?」と質問されたそうです。どうやら、「耕作機械」と漢字変換されたみたいです。
 
私たちは普段、多くの機械の恩恵を受けて暮らしています。例えば、洗濯機や電子レンジといった家電製品で家事を楽にし、パソコンやスマホなどで大量の情報をすばやく処理、伝達し、自動車や電車、飛行機で自由に移動しています。こうした工業製品を構成する部品や、その部品を製造するための金型などは、どのようにしてつくられていると思いますか? 実はそれらをつくるのに使われているのが「工作機械」なのです。
 
工作機械は、あらゆる機械をつくるための機械、つまり「母なる機械」なのです。
 
でも、普段私たちがその「母なる機械」を目にする機会は滅多にありません。ですから、「工作機械」と聞いても、なかなかイメージができないのも仕方ありません。
 
そんなことから、「いつか博物館をつくって、工作機械のことをもっと世の中の人に知ってもらいたい」という思いが湧き上がってきたというわけです。
 
展示する機械は30年程前から集め始めていましたが、2003年頃から10年程かけて、本格的に整備しました。そしてヤマザキマザックの創業100周年の記念事業の一環として、2014年から博物館プロジェクトが始動しました。
 
しかし、乗り越えなければならない課題があったのです。
 
 

地下工場のメリットを生かして博物館に


課題のひとつは、「博物館をどこにつくるのか」ということでした。
 
この建物は、元々はレーザー加工機を組み立てるための工場として2008年に竣工しました。レーザー加工機というのは、レーザー光を使って鉄やステンレス、アルミなどの金属の板を色々な形に切断できる機械です。子どもの頃、虫眼鏡に太陽光を集めて黒い紙を焼いた経験はありませんか? それと同じ原理で、レーザー光をレンズで絞って金属板にあてて切断します。
 
レーザー加工機にとって、ホコリは大敵です。スギ花粉の80分の1、PM2.5の5分の1程度のごく小さなホコリですら、レーザー加工機の切断性能に著しい影響を及ぼします。ですから、レーザー加工機を組み立てる時には、クリーンな環境が必要です。
 
クリーンな環境をつくるには、外からのホコリの侵入を防がなければなりません。ところが、人や物が出入りするために扉が開くと、どうしてもホコリが中に入ってきてしまいます。この問題を解決する答えが「地下工場」でした。
 

 
地下工場にすると空気の流れを制御し易くなるので、クリーンな環境を保てます。そしてそれ以外にも、いくつかメリットがあります。その内のひとつは、省エネルギー効果です。
 
地中の温度は年中15~16℃で安定しています。皆さんも経験したことがありませんか? 井戸水つまり地下水は、夏はひんやりと冷たく、冬は温かく感じるでしょう? 実は空気でも同じようになります。
 
この地域は夏の最高気温が38℃、冬は最低気温が氷点下になります。機械は鉄でできていますが、鉄は1℃温度が変化すると0.01mm伸びたり縮んだりします。私たち工作機械メーカーはその10分の1以下の精度で勝負をしているので、機械を高精度に組み立てるために、機械の組立開始から完了までの間、工場の温度を一定に保つ必要があります。ですから、通常は多くのエネルギーを使って冷暖房しなければなりません。
 
ところが、外から取り入れた空気の通り道を地中に設けると、どうなると思いますか? 夏の熱い空気は冷やされ、冬の冷たい空気は温められます。つまり天然の冷暖房装置があるようなものなのです。だからエアコンに必要な電力量が、地上の工場と比べると、およそ5分の1程度で済むんです。つまり、地下工場はとても省エネな建物になっているのです。
 
そして、この省エネな建物であることが、工場から博物館として生まれ変わる要因になりました。
 
博物館プロジェクト発足当初、「博物館をどこにつくるのか」という課題を抱えていましたが、地下工場であれば、ランニングコストを抑えられ、珍しい地下博物館をつくれるのでは!? とアドバイスがあり、この地下工場の組立ラインを別のクリーンな工場へ移管し、博物館に改装することになったのです。
 
地下工場なら、冷暖房にかかる費用が抑えられ、駐車場の確保に頭を悩ませる必要もありませんからね。そうして、2018年9月から博物館への改装工事が始まり、2019年11月2日、遂にオープンすることができました。
 
 

こだわり抜いた展示品



 
「どう展示するか」ということにも苦心しました。
 
展示に関して、先代会長からの遺言がありました。「工作機械だけを展示しても、一般の人にはわかりづらい。工作機械の存在をよく知ってもらうには、工作機械を使ってつくられた物も一緒に並べたい」と。
 
そこで、展示に適した工業製品が世界中から集められました。展示している蒸気機関車「D51409」もそうです。工作機械でつくられた代表的な工業製品として、蒸気機関車の展示は大変魅力的です。しかし、運搬と整備はどうするのか? 工作機械の整備は工作機械のプロである自分たちでできますが、さすがに機関車の整備は素人である自分たちにはできない。どうしようか? と思案していたところ、社員の中に鉄道マニアがいましてね、彼の紹介で、元国鉄で長年にわたって蒸気機関車を整備してこられた方々にお願いして、現地から運び出すための分解から、こちらに運んで来てからの再組立と整備まで、たいへん助けてもらいました。そのおかげで、実際に運転席に座ることもできますし、汽笛も鳴らせるようになりました。
 
1911年製のT型フォードも展示しています。自動車産業と工作機械は切っても切れない関係ですから、なんとしても車を展示しようということになったわけですが、せっかくなら生産技術の歴史を語ることができる車が良いと考えました。それで、ヘンリーフォードらが考えた大量生産システムでつくられたこの車を展示することになったのです。
 

 
およそ100年前の段車(だんぐるま)工場を再現した展示にも力を入れました。当時のものづくりの様子を感じてもらえるよう、ベルト掛けの機械を実際に動かしています。このように、実際に動かして見せる展示を「動態展示」といいます。
 


 
工作機械の展示も、「動態展示」にこだわりました。先代の会長から、「集めた機械をきれいにするだけでなく、動かすように」との指示があり、ほとんどはしっかりと動くように整備しました。もちろん、なるべく元の部品を使ってです。これは工作機械を見たこともない人に、機械を動かすことでより一層わかってもらえるようにするためです。
 
現在、博物館で展示している機械は76台ありますが、内71台はいつでも動かせます。こうした古い機械は、当社のOBたちが整備しました。皆、腕に覚えのある熟練技能者たちです。
 
図面もないのに、苔むした機械をどうやって整備したと思いますか? 彼らに聞いたら、ポケットからデジタルカメラを取り出しましてね、そのカメラで部品を1個外す度に写真を撮り、撮った順番を逆に並べると、組立順序を思い出せるというんです。彼らは分解した部品を一つずつ磨き、そして「摺り合わせ」という工作機械を精密に組み立てるための高度な熟練の技も使って、再び組み立てたのです。
 
彼らには、現在、来館者に機械の説明をしてもらっています。展示機を整備した彼らがする説明には、私にはできない迫力があります。彼らの中には昭和32年入社で今年80歳になる方もいますが、車の運転が安全にできる間は、いくつになっても来てくださいと言ってあります。
 

 
博物館ではこうした展示品を古いものから最新のものへと順に展示するのが一般的です。ただその時に、過去の機械ばかり並べて見てもらうのではなく、近未来のものも見てもらいたいとの思いから、スマートファクトリーを併設して、工場見学もできる博物館にしました。スマートファクトリーというのは、第四次産業革命(IoTまたはインダストリー4.0)といわれるこれからの工場のことです。
 
第四次産業革命と言うなら、第一次、第二次、第三次があったわけで、それに沿って見てもらえるように、展示品をゾーン毎に分類して並べました。そうすることで、近代工作機械の発展史と産業革命との関係がわかり易くなりました。
 

 
 

体験型の博物館として次世代を担う子どもたちの学びの場に



 
展示品のキャプションは、小学4年生が読んでわかる表現に努めました。そうすれば、工作機械を初めて見る、その子どもたちのお母さんやお父さんにもわかってもらえると考えたからです。
 
古い工作機械を見ていると、「この部品は何だろう?」、「なぜここはこんなメカニズムなんだろう?」などと、次々と疑問が湧いてきます。そして、「そうか、この方が使い易いからか!」、「こうした方が丈夫だからなんだ」と段々わかってきます。それらがわかったうえで、子どもたちにもわかる言葉にしていきました。
 
工作機械の展示を通じて、ものづくりの楽しさ、大切さを子どもたちに伝えられたらよいので、子どもたちを中心に沢山の方に見に来てもらえたら大変嬉しく思います。
 
身近にある電化製品も展示しています。電化製品には半導体が使われています。半導体は半導体製造装置でつくられますが、その半導体製造装置は工作機械がないとつくれません。だから電化製品は工作機械からみると孫のようなものです。それを知ってもらいたいのです。
 
言葉による説明だけでなく、実際に触れて体感してもらえるように工夫もしました。例えば、「精密体験コーナー」というのがあります。人間の指先の感覚はとても敏感で、1ミリの1000分の5の段差でも触るとわかるのです。
 
また、実際に金属加工を体験してもらえる「モノづくり体験コーナー」を設けました。文鎮(ぶんちん)やオブジェをつくってもらうのですが、お子さんでも安全に、しかも短い時間で作業の体験ができるように、スタッフみんなで知恵を出し合って改善を重ねてきました。
 
嬉しいことに学校の社会科見学で来てくれた子どもたちが次の週末、お父さんやお母さん、あるいはおじいさんやおばあさんを連れてもう一度来てくれるんです。そして学校の見学ではできなかったモノづくり体験をして、自分でつくった物を大事そうに持って帰っていきます。
ですから今後、体験コーナーをもっと充実させていきたいと思っています。
 

 
 

最後に


来てくださった方に喜んで帰ってもらえることを第一に、スタッフみんなの力を借りて毎日少しずつですが改善しています。是非ご家族連れでお越しください。スタッフ一同、心からお待ちしています。
 
 

ヤマザキマザック工作機械博物館
所 在 地:岐阜県美濃加茂市前平町3-1-2
開館時間:10時~16時半(最終入館は16時まで)
休 館 日:月曜および年末年始
入 館 料:大人500円、高校生・大学生300円、小学生・中学生200円
団体割引有り(20名以上)、障がい者割引有り(手帳提示要)、
学校行事の場合の入館料は無料(事前申請要)
(各種お問合せは、ホームページよりできます。)
アクセス: JR「美濃太田」経由、長良川鉄道「前平公園」より徒歩約10分
またはJR美濃太田駅よりあい愛バス「ヤマザキマザック工作機械博物館」下車
車の場合は、東海環状道「美濃加茂IC」より約10分
ホームページ:https://machine-tools-museum.mazak.com/

 
写真提供(建物外観および内部):ヤマザキマザック株式会社
 
文:深谷百合子、写真:松下広美(名古屋天狼院店長)
 

□ライターズプロフィール
深谷百合子(READING LIFE編集部公認ライター)

愛知県生まれ。三重県鈴鹿市在住。環境省認定環境カウンセラー、エネルギー管理士、公害防止管理者などの国家資格を保有。
国内及び海外電機メーカーの工場で省エネルギーや環境保全業務に20年以上携わった他、勤務する工場のバックヤードや環境施設の「案内人」として、多くの見学者やマスメディアに工場の環境対策を紹介した。
「専門的な内容を分かりやすく伝える」をモットーに、工場の裏側や、ものづくりにかける想いを届け、私たちが普段目にしたり、手にする製品が生まれるまでの努力を伝えていきたいと考えている。

この記事は、人生を変える天狼院「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」をご受講の方が書きました。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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