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環境カウンセラーと行く! ものづくりの歴史と現場を訪ねる旅

【環境カウンセラーと行く! ものづくりの歴史と現場を訪ねる旅】第5回:未来に手渡すものづくりの心――土から生まれる物語(INAXライブミュージアム)


2022/05/16/公開
記事:深谷百合子((READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
エントランスの緩やかなスロープを上ると、広々とした芝生広場の正面に煉瓦づくりの煙突と黒い建物が見えた。煙突の高さは22m、7階建てのビルに相当する高さだ。広場の右手には前面がガラス張りのモダンな建物、煙突から少し奥には煉瓦づくりの窯が見える。
 
その広場を左手へ進み、さらに奥へ進むと、優しい色合いで、どこか懐かしさを感じさせる土壁の建物「土・どろんこ館」が現れた。落ち着いた佇まいの建物の中に入ると、そこには静かな熱気が溢れていた。
 
「ここで光るどろだんごをつくるワークショップをやっているのです。大人も子どもも夢中になってつくっていらっしゃいます。社用で来られたお客様の中には、ネクタイ姿で一心不乱にどろだんごをつくっていかれる方もいらっしゃいますよ。私は皆さんのそういう姿を見るのが楽しいですね」
 
館長の尾之内さんはそう言って微笑んだ。
 
INAXライブミュージアムには現在6つの施設がある。施設の原点は築100年を超える大きな窯と煙突がある「窯のある広場・資料館」だ。1986年の開館から20年の時間をかけて施設を拡張してきた。
 
そこには「ものづくりの心」と「土の魅力」を体感できる仕組みがいくつも用意されていた。
 

(写真左)尾之内 明美さん
INAXライブミュージアム 館長

(写真右)竹内 綾さん
INAXライブミュージアム
 
 

原動力は「メーカーとして残さなきゃ」という使命感だった



 
常滑は古くからやきものの街として有名でした。丘陵地が多い地形を利用して穴窯がつくられ、平安時代末期から江戸時代に入るまでの時代には、甕(かめ)や壺といった大型のやきものが多くつくられました。海が近い常滑は大型のやきものを船で遠くまで運べるという利点があったからです。
 
明治時代に入ると、大きなやきものをつくる技術力を生かして、土管が盛んにつくられるようになりました。土管製造最盛期の昭和30年頃には、いくつもの煙突が立ち並び、常滑の街全体で土管を焼いていた様子がうかがえます。
 
「窯のある広場・資料館」も、もともとは「片岡勝製陶所」として1921年に建てられた土管工場でした。当時の常滑では様々な大きさの土管をつくっていましたが、「片岡勝製陶所」では最大級の3尺土管(内径約90cm)も生産していたそうです。ところが時代が進み、土管は塩ビ配管に取って代わられます。この工場も1971年に操業を停止しました。その後、窯を解体するという話が出ました。常滑のものづくりのシンボルでもあったこの窯を何とか生かせないか。産業遺産として残した方がよいのではないか。そうした思いから、当時の伊奈製陶株式会社(現:株式会社LIXIL)は常滑の土管製造の一翼を担った企業としてこの施設を預かり、やきものの文化を伝える場として、残っていた窯、建物、煙突を整備しました。そして、伊奈製陶株式会社から株式会社INAXへ社名変更した記念事業として、1986年に一般公開しました。その後、「窯のある広場・資料館」は1997年に文化庁の国登録有形文化財(建造物)に登録、2007年には経済産業省「近代化産業遺産」に認定されています。
 
この姿を100年先まで伝えることができるように、2016年から3年かけて大規模な保全工事を行いました。それに伴い、展示内容も一新しました。土管を生産している様子を映像で再現し、当時の姿をそのままお客様に見て、感じて頂きたい。当時のものづくりの「熱」を伝えたい。そのために様々な工夫を重ねています。
 
特に、窯の内部に映し出す映像にはこだわり、何度も調整を重ねて制作しました。こちらの施設では、煙突が屋根の上からではなく地面から建っています。不思議だと思いませんか? 実は、窯内部での炎の動きに関係があるのです。窯の左右から上がった炎は、内部に置かれた製品に倒れかかるように、空気の対流に沿ってまんべんなく回り、地下の煙道に吸い込まれていきます。地下の煙道に吸い込まれた炎は煙突に導かれます。それで、煙突が地面から建っているというわけです。
 
こうした炎の動きは、この窯の大きな特徴なのです。実際のところ、焼成時の窯内部は1000℃を超える高温のため、のぞき穴から見るだけでも熱く、炎の動きの詳細を観察することは簡単ではありません。ですから、この炎の動きがどれくらい正しく再現できているのかは分かりません。けれども、窯の構造からどんな風に炎が動くのかを専門家を交えて調査しました。こうして映像にすることで、やきものができる工程と仕組みを言葉で説明しなくても、見て下さった方に直感的に伝えることができるようになりました。欲を言えば、さらに「熱」や「におい」も伝えることができたらいいなと思っています。
 
消えゆくものを記録として残す、技術を伝承するということも、ミュージアムの使命として考えています。例えば土管製造機を実際に動かしている映像を紹介していますが、今はもう、こうしたものを動かしている所はありません。常滑市内の陶芸作家にお願いして動かして頂き撮影しましたが、貴重な映像になると思います。
 
他にも、石炭を投入したり、土管を運ぶなど、当時の作業を再現した映像もご覧頂けます。映像制作にあたっては、ダンサーに作業者を演じて頂いたのですが、当時作業に携わっていた方々にヒヤリングしたり、記録を参考にして当時のものづくりの「熱」を伝えることにこだわりました。
 
土管製造に携わっていたご年配の方にも、当時の仕事の様子などをお聞きし、音声として記録を残しました。「今聞いておかないと」という強い思いがあったからです。本当にギリギリのタイミングで記録を残せたと思います。
 
 

心も光らせてくれた「どろだんご」



 
INAXライブミュージアムは1986年に「窯のある広場・資料館」を公開後、1997年に「世界のタイル博物館」、1999年に「陶楽工房」と施設を拡張してきました。その後、「発想から製品まで、ものづくりの心を伝える」というコンセプトのもと、2006年に「土・どろんこ館」と「ものづくり工房(現:やきもの工房)」を加え、グランドオープンしました。
 
土は太古の時代から人間にとって身近な材料でしたが、最近は土に触れる体験が少なくなりました。土は水や火、人の手を通じて多様な表現ができるという魅力があります。そうした土の魅力や可能性を体感して頂きたいと思い、「土・どろんこ館」では「光るどろだんごづくり」のワークショップを開催しています。
 
「光るどろだんごづくり」では、やきもの用の粘土を丸めただんごを、道具を使って真球になるまで削った後、色をつけます。色をつける材料も液体状にした泥です。その後、色を塗ったどろだんごの表面を、ガラス瓶の口を使って押さえつけるようにして磨きます。押さえつけることによって粘土表面の粒子が同じ方向にきれいに揃うと、光を反射して光沢が出るのです。
 
どろだんごは誰でも完成でき、ものをつくる喜びを感じて頂けるものでありながら、自然の素材であるために思うようにいかないという面もあります。例えば、湿気の多い日や、自分の手が湿っている時などは、一生懸命磨いてもなかなか光らなかったりします。「思うようにいかなくてちょっと悔しい。だから、次はこうしてやろう」という気持ちが湧いてくるのが「光るどろだんごづくり」の面白さのひとつかもしれません。
 
毎年「光るどろだんごづくり」の腕を競う全国大会を開催していますが(現在は感染症対策のため休止中)、大人と同じ土俵で競って子どもが最優秀賞をとることもあります。技を磨き、自分で工夫したものが評価されるのは嬉しい体験なのだと思います。
 
「いじめにあって学校に行けなくなってしまった娘が、大会で入賞して自信を取り戻したようです。賞状を持って元気に登校しました。どろだんごは娘の心まで光らせてくれました」というメッセージを頂いたこともあります。何かに挑戦し、それが認められるという機会をつくることができたのかなと思うと嬉しいですね。
 
その他、毎年夏には「どろ田」をつくって、子どもたちが全身を使って泥の気持ちよさを体感できる「どろの遊園地」も開催しています。最初は汚れるのを嫌って「どろ田」に入りたがらないお子さんもいますが、慣れると全身泥だらけになって遊んでいます。やきもの用の粒子の細かい泥を使っているので、滑らかで気持ちがよいのです。ですから、毎年遊びに来られるリピーターの方が非常に多いです。「反抗期になって言うことをきかない息子も、これだけは来るんです」とおっしゃる親御さんもいらっしゃいます。この企画も感染症対策のため中止していますが、ぜひ早く再開したいですね。
 
土に触れ、自分の手でものをつくっている時は、時を忘れて無心になれます。自分のエネルギーを土に伝えながら逆に土からエネルギーをもらっているような感じがします。ここでの体験を通して、何か変化するきっかけを提供できていたら嬉しいです。
 
 

自然の持つ力を生かす



 
土は建材としての役割もあります。1990年代半ば頃から、シックハウス症候群が社会問題になりました。建材などから発生する化学物質は、シックハウス症候群を引き起こす原因のひとつです。さらに、湿度の高い日本では、湿気による結露やカビの問題もあります。そうした問題を建材で解決することができないだろうか? そこで目を付けたのが日本の気候と相性のよい伝統工法「土壁」でした。
 
土壁は日本古来の建築材料ですが、日本の気候に合った優れた機能を持っています。ひとつは調湿機能です。土壁は、湿度が高いときには空気中の水分を吸収し、湿度が低いときには水分を放出してくれます。また通気性もあるので、室内の空気をきれいに保つことができます。さらに、土壁は熱や冷気を逃しにくいという特徴もあります。「土・どろんこ館」は外壁にも内壁にも土が使われていますが、やはり他の建物と比べて空気が違う感じがします。館内の気温や湿度も安定していて、過ごしやすいです。
 
こうした土壁の特徴にヒントを得て開発された建材「エコカラット」は、調湿やにおいの吸着、シックハウス症候群の原因とされるホルムアルデヒドなどの有害物資の吸着・低減といった機能を持つ、人や環境にやさしい建材なのです。
 
他にも身の回りにある自然からヒントを得て開発した建材があります。それは防汚機能を持った外壁タイルです。水をかけるだけで汚れが落ちるのですが、何にヒントを得たと思いますか? 実はカタツムリです。カタツムリの殻がいつもキレイなのはなぜだろう? そんな疑問から出発し、カタツムリの殻の構造を持つタイルを開発したのです。水だけで汚れが落ちれば、洗剤を使わずにすむので、環境への負荷も小さくてすみます。
 
地球に無いものをつくり、使うことは、地球にとっても私たち人間にとっても負荷がかかります。一方、植物や動物の構造や暮らし方はとても理に適っています。私たちLIXILは「人びとの豊かで快適な住まいの実現」を目指していますが、こうした身近な自然が持つ素晴らしい特徴にヒントを得て、ものづくりに生かしていくというのは非常に面白いと思います。
 
 

土の魅力を伝えていきたい



 
土は色々な顔を見せてくれます。色も茶色や黄土色だけでなく、黄色やオレンジ、ピンク色など様々です。そして、色々な仕上げがあります。「土・どろんこ館」の土壁に見られるように、高い左官技術によって非常に滑らかな仕上げもできれば、手づくりの味わいを残すこともできます。土が水と火と出会えばやきものになります。タイルはやきものの一種ですが、世界各国の装飾タイルを見ていると、その時代、その国の人々の暮らしや生活文化がたちのぼってきます。
 
そうした素材としての魅力だけでなく、土には私たちの心を落ち着かせてくれる効果もあるように感じます。土の持つ温かさや柔らかさに触れると癒やされます。
 
土は私たちにとって身近な材料ですが、同時に限りある資源でもあります。土があるから、この地球の自然の循環が成り立っています。そんな土の素晴らしさを、全身で感じて頂けたらと思います。
 
 

INAXライブミュージアム
所 在 地:愛知県常滑市奥栄町1-130
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休 館 日:水曜日(祝日の場合は開館)、年末年始
入 館 料:一般700円、高校生・大学生500円、小学生・中学生250円
       団体割引有り(20名以上)、70歳以上600円、障がい者無料
アクセス :名鉄線「常滑駅」または中部国際空港より
       知多バス「知多半田駅」行き
       「INAXライブミュージアム前」下車徒歩2分
       車の場合は
       セントレアライン(名古屋方面から)「常滑IC」より約7分
       知多半島道路「半田IC」より約15分
駐 車 場:乗用車・バス駐車場完備
ホームページ: https://livingculture.lixil.com/ilm/

 
 
写真提供:INAXライブミュージアム
文:深谷百合子、写真:松下広美(名古屋天狼院店長)

□ライターズプロフィール
深谷百合子(READING LIFE編集部公認ライター)

愛知県生まれ。三重県鈴鹿市在住。環境省認定環境カウンセラー、エネルギー管理士、公害防止管理者などの国家資格を保有。
国内及び海外電機メーカーの工場で省エネルギーや環境保全業務に20年以上携わった他、勤務する工場のバックヤードや環境施設の「案内人」として、多くの見学者やマスメディアに工場の環境対策を紹介した。
「専門的な内容を分かりやすく伝える」をモットーに、工場の裏側や、ものづくりにかける想いを届け、私たちが普段目にしたり、手にする製品が生まれるまでの努力を伝えていきたいと考えている。

この記事は、人生を変える天狼院「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」をご受講の方が書きました。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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