【環境カウンセラーと行く! ものづくりの歴史と現場を訪ねる旅】第9回:100年先も続く未来をつくるために――川下から見るものづくりの景色(加山興業株式会社)
2023/01/09/公開
記事:深谷百合子(READING LIFE編集部公認ライター)
生活をしていると必ず出るのがゴミだ。皆さんの家庭では、毎日どんなゴミがどれくらい出ているだろうか?
「ものづくり」では、ものをつくる過程でもゴミは出るし、つくられた製品そのものもいずれゴミになる。ついさっき買ってきたポテトチップスも、つくる時にはジャガイモについていた泥やジャガイモの皮などのゴミが出る。食べ終わってしまうと空袋はゴミになる。その空袋、捨てた後はどうなっていくのかご存知ですか?
「ものづくり」では「つくる側」にスポットライトが当たるけれども、ものづくりの結果出たゴミを処理する人がいるから成り立っている。私たちの体にも「動脈」と「静脈」があるように、ものづくりの現場でも「つくる側」と「出たゴミを処理する側」の両方が存在する。
今回は、ものづくりに欠かせない「出たゴミを処理する現場」を取材した。
ゴミを搬入する大型車両が行き交う工場内に入ると、車両の側面に「とっても頑固なゴミ屋さん」と書かれた車が通り過ぎていった。
「とっても頑固なゴミ屋さん」とは、どんな廃棄物も徹底した適正処理、徹底的なリサイクルにこだわるという創業以来の精神だという。そこには、「ゴミ処理」に対する世間の見方を変え、100年先も続く未来を皆と一緒に考え、実現していこうという強い想いがあった。
田畠 真一さん
加山興業株式会社経営企画室 室長
徹底した分別で埋め立て処分されるゴミをゼロに近づけたい
当社は1961年に設立しました。当時は高度経済成長期の真っ只中。大量生産、大量消費によりゴミの排出量は急増しました。また、プラスチックや合成繊維などの石油製品が普及し、大量に廃棄されるようになったのもこの頃です。
大量のゴミで処分場はすぐに埋まってしまいますし、有害な物質を含むゴミが適切に処理されないまま捨てられるなど、公害問題が深刻化していました。
会社を設立した当時の当社は、「埋め立て処分場の運営、管理」を行っていました。しかし、深刻化する公害問題を前に、埋め立て処分されるゴミの量を焼却などによって減らしたり、有害なゴミを無害化する取組みが必要だと考えるようになったのです。そこで、それまでの「埋め立て処分場の運営、管理」から、「ゴミの減量、無害化を行う中間処理」に事業をシフトしていきました。
その後、環境基本法の改正や社会情勢の変化に伴って、必要な設備を必要な時に導入していきました。最近では、太陽光パネルのリサイクル設備を導入しました。今後、使用済みの太陽光パネルの廃棄量が増えると見込まれているからです。
現在は焼却炉、破砕・選別機、固形燃料RPF(Refuse Paper and Plastic Fuel)製造ラインなど、9種類の設備を使ってリサイクルを行っています。これらの設備により、最終的に埋め立て処分されるゴミの量を限りなくゼロに近づけていくのが目標です。
リサイクル率を上げるためには、分別が必要だということは皆さんもご存知だと思います。でも、身の回りのものを見て下さい。ひとつの材料だけで出来ているものは少なく、大抵のものは、金属とプラスチックなど、異なる材料が混合しています。例えばスマートフォンは、金属、ガラス、プラスチックなどの材料が使われています。
こうしたものは、破砕して細かくしてから、人の手で選別するほか、磁力を使って鉄を取り出したり、風力を使って比重の大きいものと小さいものに分けたりします。また、「塩素を含むプラスチックは光を通さない」という性質を利用して、塩素を含むものと含まないものとに分けます。こうすることで、リサイクル率を上げています。
紙ゴミやプラスチックゴミは、もう一度紙やプラスチックとして生まれ変わるのが望ましいですが、汚れや臭いの付着などのために材料としては使えないものもあります。そうした紙ゴミやプラスチックゴミは「RPF」という固形燃料にし、石炭などに代わる燃料として使われています。
<固形燃料RPF>
この固形燃料の品質は、紙とプラスチックの配合比率によって変わります。石炭と同等のカロリーになるように紙とプラスチックの配合を調整するのですが、これはもう「職人技」です。5分おきに行う成分分析結果と、出来上がった固形燃料の状態を見て、作業者は配合量を調整しています。
この固形燃料RPF製造設備は、リサイクル率向上のためには欠かせない設備なので、スペアパーツは全て準備して稼働率を落とさないようにしています。
理想は「使いやすくてリサイクルしやすいもの」
様々な設備を導入してリサイクル率を上げていますが、月5000トン入ってくる廃棄物のうち、約20%はリサイクルできず、埋め立て処分されています。これを減らしていくのが今後の課題です。
しかし、私たち処理側だけで対応するのは技術的にもコスト的にも困難です。ものをつくる側で、できるだけリサイクルしやすい材料を使って頂くことが重要です。例えば、テフロン加工のフライパンは焦げ付きがなく、とても便利ですが、ゴミになったとき処分しずらいのです。使用されている溶剤などが悪さをして焼却炉を溶かしたりなどの問題を起こします。
また、自動車のバンパーについていえば、昔は鉄が使われていましたが、今は軽量化のためにプラスチックが使われています。でもプラスチックは強度が低いため、ガラス繊維が混合されています。バンパーとしては軽くて丈夫でいいのですが、ゴミになったときにはリサイクルが難しいのです。
リサイクル率アップの目標を持っておられるお客様も多いので、「こういう材料だったらリサイクルできますよ」とこちらから提案もするのですが、コスト面などの問題があってなかなか進まないのが悩ましいところです。使いやすいものが増えると処理しにくいものが増えるように感じています。
ただ、周りの若い世代を見ていると、ものを購入するとき「それがどのようにしてつくられているか」というところまで意識して購入している人が多いです。今後は「どんな材料が使われているのか」「リサイクルしやすいか」といった点も、購入時の判断基準になってくるのではないかと期待しています。
教育現場と連携した体験型の環境教育を子どもたちに
「廃棄物処理業」という私たちの業種は、負のイメージが強く、地域の理解を得られないと操業できません。そのため、地域と共生していくための様々な取組みを行っています。そのうちのひとつが子どもたちへの「環境授業」の実施です。2012年から始めました。
今の子どもたちは小学4年生で環境について学びます。けれども、教科書で「分別しなければならない」ということは習っても、なぜ分別をしなければならないのか、その理由を深く考えるところまでは習いません。ですから、教科書にない部分を補うのが私たちの役目だと考えています。
私たちは、「分別」というゴミの一生の一部だけを取り出すのではなく、ゴミの発生、分別、収集運搬、適正処理に至るまで、すべての段階を知ってもらうことが必要だと考えています。ですから、分別の目的や分別しない場合の問題点などを伝えるのはもちろん、子どもたちには実際にパッカー車にゴミを投げ入れる体験をしてもらったりしています。そして、工場に見学に来てもらって、ゴミがどのように処理されていくのかを見てもらいます。
最初は近隣の学校1、2校から始めましたが、次第に口コミで広まり、市外の学校からも呼んで頂けるようになりました。今では年間で2000人ほどの子どもたちに環境授業を実施しています。授業の実施にあたっては、「そのやり方で子どもは喜ぶか?」「行動変容までインパクトがあるか?」「その内容で子どもの親に伝わるか?」という観点で内容を振り返り、改善を重ねてきました。
子どもたちは自分の気づきを素直に口に出してくれるので嬉しいですね。カードゲームを使ったSDGsの授業をしたときには、「現実の世界でお金持ちになりたいと思っているけど、足るを知るって大事だなと思った」というお子さんもいて、びっくりしました。
子どもたちが環境授業で得た気づきを家に帰って家族の方と話をすることで、大人も環境問題に気づき、行動を起こしてほしいと願っています。
安全・安心を伝える「ミツバチプロジェクト」
地域と共生するためのもうひとつの取組みが「ミツバチプロジェクト」です。工場周辺にお住まいの方にとっては、「ゴミの焼却などで有害な物質が工場から出ているのではないか」「地域の環境を汚染しているのではないか」「人体や作物に影響があるのではないか」といった不安があると思います。
もちろん、法令を守って操業していますし、必要な環境測定も行っていますが、数値だけでは一般の方に安全性は伝わりません。そこで、地域の方の不安を打ち消すためにも工場の敷地内で2014年からミツバチを育てるプロジェクトを開始しました。
ミツバチの行動範囲は半径約3kmです。ミツバチは生育場所の環境に影響を受けやすく、環境汚染のある場所では生きられないといいます。ですから、ミツバチが順調に活動してくれるということは、その生育環境が汚染されていないという証になります。また、採集されたハチミツの成分を分析して有害物質が含まれていないことも確認できます。
実際に養蜂を始めてみると、「不安を打ち消す」以上の良い効果が表れました。ミツバチによる受粉で近隣の農作物の取れ高が上がり、農家の方から好評を得ました。また、食育について考える機会にもなりました。
採集したハチミツは販売をしていますし、地域の商店とのコラボ商品も生まれています。また、年1回収穫祭を開催しています。地域の方をはじめ、取引先の方など、200人近くいらっしゃいます。最初に紙芝居を使って食育や環境との繋がりを学んで頂いたあと、巣箱から蜜を頂いて、皆でレモネードを飲んだりクラッカーにつけて食べたりします。
今では「自分たちも養蜂をやりたい」という同業者様にもミツバチをお譲りしています。自分たちだけでなく、そういう活動の輪が広がっていくのが嬉しいです。
多くの方に現場を見てほしい
「ゴミの処理」というのは私たちの生活になくてはならないものですが、まだまだ誤解や知られていないことが多くあります。「無いと困る施設」だけれど、「自分の住む地域には来ないで」と言われてしまう切ない業種です。
「漠然とした不安」の原因のひとつは「知らないこと」によるものなので、実際の状況を正しく知って頂くことはとても大事だと考えています。ですから、子どもだけでなく大人の方にもぜひ現地に来て頂きたいです。自分の出したゴミがどこでどのような処理をされているのかを見るのとそうでないのとでは、分別やリサイクルの大切さに対する理解度の深さが違うと思います。
現場を見ることで、「便利だけどリサイクルが難しい」「安いけれどリサイクルできない」などの課題を知り、将来製品を購入する時に少しでも「リサイクルしやすいか?」と考えてもらうことができればいいなと思いますし、「リサイクルしやすい材料を使ってものづくりをしよう」と志す子どもたちが増えることを願っています。
ゴミを処理する現場というのは、暗くて汚いイメージを抱きがちです。そうしたイメージを払拭するため、看板や表示は子どもが見て楽しめるように、明るい色使いやイラストでポップな感じにしています。リサイクルするための機械の色も暗い色が多いのですが、明るい色にしたいと思い、こちらから色を指定した機械もあります。私たちは、来て頂いた方の「体験」を大切にしたいと考えているので、見て頂く内容はもちろん、「見た目の印象」にも気を配っていきたいと思っています。
「廃棄物処理」を誇りの持てる職業にしたい
「廃棄物処理業」に対する世の中のイメージは、まだまだいいとは言えません。そこで働く社員自身も、人から仕事の内容をたずねられたときに、「私の仕事は廃棄物処理です」とは言いたくないという人もいます。やはり、「汚い」とか「毎日ゴミを触っているんでしょ」と思われるのが嫌なんです。一方で製造業はカッコイイですよね。皆がよく知っている製品の基幹部品をつくっているなどと言う人と比べてしまうと、やはり仕事に対するモチベーションを保つのは簡単ではありません。
けれども、子どもたちが工場に見学に来てくれることで、刺激を受ける機会が増えています。「このゴミはこの後どうなるんですか?」と質問されて答えられなかった新入社員は、「もっと勉強しなければと身が引き締まった」と話していました。また、見学に来てくれた子どもたちから感想文を頂くのですが、「とても重要性の高い仕事だと思った」と書いて下さっているのを見ると、励みになりますね。「自分たちの仕事は地域や環境のためになっている」ということを子どもたちから教えてもらってモチベーションが高まったという話はよく聞きます。
こうした機会を通じて、社員には「廃棄物処理」という仕事に誇りを持ってもらいたいと思います。また、見学に来た子供たちが将来職業を選択するときに、「廃棄物処理に携わってみたい」と思う人が増えてくれたら嬉しいですね。
今、年間2000人に環境授業をしていますが、これからもっとこの活動を広げ、年間1万人、2万人を目指していきたいです。そして、いつでも自信を持って「見学に来て下さい」と言える工場であり続けられるよう、これからも日々努力を重ねていきたいと思います。
加山興業株式会社(千両・市田リサイクルプラント・KAYAMAファーム)
所 在 地:愛知県豊川市南千両2-67
営業時間:8:30~17:30
休 業 日:土日祝日(見学は日程によって、土日祝日でも対応可)
料 金:無料
連 絡 先:0120-053-381(事前にご連絡のうえ見学日をご予約下さい)
アクセス :名鉄豊川線「諏訪町」駅下車、車で10分
東名高速道路「豊川I.C.」から車で15分
駐 車 場:有り
ホームページ: https://www.kayama-k.co.jp/
写真提供:加山興業株式会社
文・写真:深谷百合子
□ライターズプロフィール
深谷百合子(READING LIFE編集部公認ライター)
愛知県生まれ。三重県鈴鹿市在住。環境省認定環境カウンセラー、エネルギー管理士、公害防止管理者などの国家資格を保有。
国内及び海外電機メーカーの工場で省エネルギーや環境保全業務に20年以上携わった他、勤務する工場のバックヤードや環境施設の「案内人」として、多くの見学者やマスメディアに工場の環境対策を紹介した。
「専門的な内容を分かりやすく伝える」をモットーに、工場の裏側や、ものづくりにかける想いを届け、私たちが普段目にしたり、手にする製品が生まれるまでの努力を伝えていきたいと考えている。
この記事は、人生を変える天狼院「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」をご受講の方が書きました。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
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