国際結婚ギャップ解消サバイバル

【国際結婚ギャップ解消サバイバル 第10章】返品大国アメリカの進化と沼《天狼院書店 海外ローカル企画》


2023/01/09/公開
記事:武田かおる(ライターズ倶楽部編集部 公認ライター)
 
 
返品と聞いて、あなたはどんな感情を抱くだろうか。
 
私は15年前に日本からアメリカに移住したのだが、返品に対してネガティブな印象しかなかった。日本に住んでいたとき、買った品物を(大体が洋服だったような気がする)気が変わり返品する際、非常にお店に対して申し訳ない気持ちで返品した記憶がある。
 
「返品したい」と店員さんに告げると、嫌な顔をされたり、なんなら嫌味の一言二言を言われたり、理由を根堀葉掘り聞かれたりしたことがあるからである。また、嫌味を言われた挙げ句に返品できなかったこともあったように記憶している。
 
アパレル店だと販売員さんは売上のノルマもあるかもしれないし、今みたいに完全にコンピューター化もされていなかった時代だったので、売上の返品手続きも面倒なものだっただろうから、態度が変わるのもわからないではない。
 
子供の頃、演歌歌手の三波春夫さんの決り文句で「お客様は神様です」というのがあったが、返品する客は、神様から底辺に急激に格下げされてしまうような感じだ。
 
昨年日本に一時帰国した際、ドラッグストアで、間違えて買ってしまった未開封の化粧品を返品した際は、店員さんの態度は極めて普通だったので、日本も返品に対する対応が変わってきているのかもしれないが、15年前は返品しないといけないものがあると私は決まって憂鬱な気持ちになった。
 
一方、アメリカは返品に関してとても寛容である。それは、私が渡米したての当時から変わらないし、返品は進化を遂げている。
 
渡米して間もない頃に返品したいものがあり、日本のときのように申し訳なさげに、
 
「あの〜、すみませんが、これ返品できますか?」
 
と、腰を超低くしてダメもとでお願いすると、
 
「Sure! (いいですよ〜)」
 
というような感じで、気軽に返品してくれた。まさに肩透かしを食らったような感じで驚いた。
 
代わりに定員さんから、「何か不具合でもありましたか?」というような、こちらを気遣うような質問されることもある。そんなときは、洋服の場合は「サイズが合わなかったので」などと、適当に理由を言うと、それ以上は何も聞かれない。
 
この質問は、当初こちらへの気遣いかなと思ったが、明らかに開封されたような品物が販売されていることもあるので、返品された品を陳列棚に戻すかどうかの判断をするための質問でもあるということに後に気がついた。
 
どちらにしても、簡単に返品できるシステムに慣れてしまった結果、私のショッピングに対する考え方が変わっていった。
 
もともと私はショッピングはあまり好きな方ではなかった。デパートやショッピングモールなどでは店も物も多すぎて、見て回っている間に、その場に酔ってしまいすぐ疲れてしまうからだ。
 
また、気に入ったものが見つかっても、やはり自宅に帰ってから気が変わり、返品となったら、店員さんに返品をお願いし、さらには店員さんを嫌な気分にさせ、私も罪悪感でネガティブな気持ちになってしまう。小さなお店だったらもうその店には行きにくくなったりする。そんなことなら買わない方がましだというような、自分の中での買うか買わないかの押し問答が非常に面倒だったからだ。
 
しかし、アメリカに来て、簡単に返品できるとわかると、「気が変わったら、返品すればいいか」と気軽に物を買ってしまうようになってしまった。
 
そして、返品した後、せっかく来たのだからと、買う気もないのに店内をぶらぶらしていると、結果として返品した以上の金額のものを買って帰るという結末になることがしばしばあった。
 
この返品に寛容という文化が、結果として消費を促進しているのだということに渡米後数ヶ月で気がついた。
 
もちろん、お店や品物によっては返品にもいろいろな規制がある。特に高価なもの、例えば家具などは、それぞれ返品に関する決まりがあるため、すべての商品の返品が簡単にできるわけではない。FANAL SALE(ファイナル・セール)と言って、返品できないものもあるし、小さな個人経営のお店も独自の返品ポリシーがある場合がある。
 
ここでは、全米で展開している洋服の販売店やスーパーなどで取り扱う日用品雑貨の返品しやすい物について、未使用のものを返品する場合について深堀りしてみたい。

 

 

 

店舗での返品、客としてうれしい日米の差


日米の返品ポリシーで、大きな違いがいくつかある。その一つはレシートがなくても返品が可能な点だ。店にもよるが、レシートがない場合、身分確認の証明(運転免許証)などを見せないといけないことがあるが、その店のみで使えるギフトカード、(プリペイドカード)で返金してくれる場合が多い。ギフトカードは有効期限がないことがほとんどないので、現金やクレジットカードへの返金ではなくても、私的には問題ない。いつかそこで買い物をする際に使えるからだ。
 
しかし、レシートなしの返品の場合、返品時の商品の価格で返金になる場合があるので注意が必要だ。つまり、万が一、返品した品物の値段が購入時より値引きされていたら、返金額が購入時よりも減額されている場合がある。そのため、私は全額を返金してもらえるように、できる限り返品する場合はレシートを持参するようにしている。
 
また、アメリカの場合、返品可能期間が結構長いのも顧客としてはうれしい。お店にもよるが、それが30日や60日、長い場合は90日の場合もある。
 
ただ、この返品期間が長いと、気が緩んでしまって、いつか返品しようと思っていると、この期限が過ぎてしまっていることもある。むしろ、お店側はそれを知っていてあえてこの返品可能期間を長くしているのではないかと勘ぐってしまう。
 
 

人からのプレゼントも返品OK


アメリカでは人からもらったプレゼントを返品しても問題ない。そのため私自身も夫からのプレゼントを2回ほど返品した事がある。
 
渡米当時はプレゼントの返品と聞いて、非常に違和感があった。だが、一度夫からなにかの記念日に盆栽をプレゼントされた事があった。夫が私日本人の私を喜ばせようとして選んだプレゼントだとわかっているので悩んだが、結局返品した。
 
私は植物をすぐ枯らしてしまうし、盆栽は手入れが必要なのは知っていたため、面倒くさがりの私はかなりの確率で盆栽をだめにしてしまいそうだと思ったからだ。
 
読者の方でプレゼントの返品と聞いて驚かれた方もいると思う。私もその一人だったので、無理もない。しかし、プレゼントの返品が公認されている証拠として、アメリカにはギフトレシートと言うものがある。それは、プレゼントに添えるための専用レシートで、値段が書いていないレシートだ。
 
例えば、あなたが友達にプレゼントを買ったとする。支払いのときに、レジの人に「ギフトレシートをください」というと、普通のレシートとは別にギフトレシートを発行してくれる。プレゼントに添えてそのギフトレシートを一緒に友達に渡すと、万が一友達がプレゼントを気に入らなかった場合、そのギフトレシートを持って店舗でプレゼントを返品すれば、その店の他の同額の物に交換できたり、その金額分のギフトカードを受け取ることができる。洋服や身につけるもので、サイズが合わなかったり、色違いに交換したい際も、ギフトレシートがあると簡単に対応してくれる。
 
調べてみると、一部の対象の商品は、日本のアマゾンでもギフトレシートを発行してもらえるということがわかった。日本のアマゾンから誰かにプレゼントを送る場合に、受け取る相手が喜んでくれるか不安な場合は、プレゼントと共にギフトレシートを添えてみてはいかがだろう。
 
 
 

オンラインショッピングの返品の手間という壁を壊したアマゾン


アメリカでは返品がしやすいというのは移住してすぐ感じたが、やはりオンラインでの購入は返品が面倒でリスクがあると感じていた。
 
オンラインと店舗の両方で販売しているアパレルのお店だと、オンラインで買った商品を店舗で返品すれば返品の送料がかからない場合が多いので返品しやすい。(一部それができないアパレルブランドも存在する)
 
一方で、アマゾンでオンライン購入の場合、数年前までは店舗での返品が全くできなかったため、「無料返品」と記載されていない商品の場合、商品の代金から送料を差し引かれた。オンラインショッピングでは送料がかかるのが当たり前なのに、返品のために送料がかかるとなると、それが引っかかり、リスク要因となって購入意欲が萎えてしまっていた。
 
また、アマゾンでの返品の場合、数年前まで、返品の場合、品物を梱包し、アマゾンからメールで送られてきた返品センターの住所ラベルを印刷し、指定された宅配会社の窓口まで持参して返送するという手間のかかる手続きが必要だった。
 
だが、ここ数年は、「無料返品」と記載された商品の場合、アマゾンが委託した店舗に返品できるようになった。店舗の返品受付カウンターで、スマホの返品用のQRコードを見せると返品が完了するというシステムだ。さらに、返品窓口を請け負っている洋服の量販店では、返品するとその店の5ドルの割引クーポンがもらえる。つまりその量販店でアマゾンの返品したら、その店で割引で買い物ができてしまうのだ。返品のリスクどころか、返品したら消費者が得になるシステムになっている。
 
さらに驚くことは、商品によっては返品しなくても返金されるものさえある。過去に2回、子供用のベルトと、自分用の長袖シャツを買った際に、「返品不要で返金します」と言われたことがあった。「申し訳ないので、返品したい」とアマゾンに連絡をとってみたが、「返品不要」の一点張りだった。
 
このように、アメリカのアマゾンはここ数年間の間に、消費者が購入ボタンを押すまでに考える「返品の手間と送料負担」というリスクを取り払った。それだけではなく、むしろ返品したらお得になる場合もあるというように、オンラインショッピングのマイナスイメージを完全に覆した。その結果、私は以前よりも気軽に購入ボタンを押すようになってしまったのだ。
 
 

無人化したアマゾン返品ステーション


昨年発見した返品システムの進化は、返品コーナーの無人化である。アマゾンで購入した品物を返品できる店舗の一つに、2017年にアマゾンに買収されたホール・フーズ・マーケットがある。ホール・フーズは、健康に良いオーガニックの食料品や日用品雑貨、化粧品などを取り扱うスーパーだ。少し価格設定が高めだが、カスタマーサービスが非常に良いので、消費者としては安心して気持ち良く買い物ができるお店である。
 
近所のホール・フーズでも、以前はカスタマーサービスのカウンターで係の人が返品を受け付けてくれていた。だが、数ヶ月前に返品に行くと、ちょうど駅の券売機のようなスクリーンがある機械の横に図書館返却用のボックスが設置された感じの無人の返品マシンに変わっていた。
 
早速返品してみたが、ユーザーフレンドリーで簡単に返品ができた。
 
まず、スクリーンの下にスマホの返品用QRコードをかざすと、バーコードのシールが機械から発行される。それを返品する品物に貼り、160センチくらいの高さの返却ボックスの投入口を開けて、返品の商品を入れると返品が完了する。一つの商品の返品につき、一分以内に返品処理ができてしまう。返品後、30分以内には、私のアマゾンのアカウントに返金が完了していた。返品の手続きが機械でできてしまうと、店員さんとのやり取りもなく、さらに手続きが楽である。
 
そして、返品後は必ずホール・フーズで買い物をしてしまう。アマゾンのプライム会員だと、ホール・フーズでの買い物もかなり割引になるからだ。
 
アメリカが消費大国と言われているのは返品大国であるからこそだと思う。アメリカでは、返品はガソリンである。つまり、火にガソリンをかけるとそれがさらに大きくなるように、返品は消費を増加させるためのものなのである。
 
昨日、クリスマス前につい買いすぎたプレゼントを返品しにホール・フーズの無人返品ボックスに向かった。そこでは私と同じく買いすぎたプレゼント、または人からもらったクリスマスプレゼントらしき物を返品しようとしている人の行列ができていた。
 
列の最後尾に並び、返品が終わったら何を買おうかと気がついたら考えていた。同時に特に今必要としないもののを買う行為と返品の無限ループの沼の中で踊らされている自分に気が付き、複雑な気持ちになった。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
武田かおる(READING LIFE編集部公認ライター)

アメリカ在住。
日本を離れてから、母国語である日本語の表現の美しさや面白さを再認識する。その母国語をキープするために2019年8月から天狼院書店のライティング・ゼミに参加。同年12月より引き続きライターズ倶楽部にて書くことを学んでいる。
『ただ生きるという愛情表現』、『夢を語り続ける時、その先にあるもの』、2作品で天狼院メディアグランプリ1位

この記事は、人生を変える天狼院「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」をご受講の方が書きました。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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