国際結婚ギャップ解消サバイバル

【国際結婚ギャップ解消サバイバル 第11章】アメリカの高校―優等生に求められるものと与えられるもの《天狼院書店 海外ローカル企画》


2023/9/4/公開
記事:武田かおる(ライターズ倶楽部編集部 公認ライター)
 
 

全米優等生協会(NHS)について


高校の優等生と聞いて何を想像するだろうか。
 
学業の成績が良い、学級委員や生徒会長をしている、かつ真面目な性格の生徒等を思い浮かべる方が多いのではないだろうか。
 
アメリカの高校には全米優等生協会、英語でいうとNational Honor Society (略してNHS。以下NHSと記載)というものがある。NHSは米国全域の高校生のための組織であり、各高校が支部となる。このNHSのメンバーに選ばれるためには、ある一定レベル以上の学業の成績を修めている事以外にも、クリアしないといけないいくつかの項目がある。
 
私はアメリカに来て15年が経とうとしているが、恥ずかしながらこのNHSについて最近まで全く知らなかった。
 
現在高校4年の息子は(アメリカの高校は4年で卒業する)、幼いときから勉強が飛び抜けてできたわけでもなく、性格も内気な方で、優等生とは程遠いところにいた子供だった。だが、ある行動が実を結び、昨年、息子が全米優等生協会のメンバーに選ばれた。
 
NHSに選抜される時期やプロセス、出願書類については学校によって異なる事もあるため、あくまで長男が通う学校の場合についての流れについて簡単に説明したい。
 
高校3年になって間もない昨年の9月、ある基準以上の成績を修めた高校3年生の生徒すべてに学校のNHS担当者からNHSへの申込みの誘いがあった。声がかかった生徒は、締切までに、高校在学中、これまでに行った地域でのボランティア活動、リーダーシップ体験、地域を良くするための活動や今後の計画、この3項目についてのエッセイと、高校の先生にお願いして2通の推薦書をあわせて提出するように説明があった。その後、審査があり、今年度はおよそ30 名がNHSに選ばれた。

 

 

 

地域でのボランティア活動(コミュニティー・サービス)


アメリカでの子育てや教育は、日本で生まれ育った私にとって、ルールを良く理解できていないスポーツ競技の試合をアウェイで戦っているようなものである。自分がアメリカで育っていないため、この時期に親が何をするべきなのかということが分からず失敗ばかりしてきた。文化の違いだけでなく、私は世間知らずでうっかりミスが多いため、嫌な汗を書いたり、子供に恥を欠かせてしまったことは数しれない。
 
こういった事情から、子育てに関するセミナーなどがあると参加するようにした。セミナーや先輩ママから聞いた中で、大学準備に関して皆が口を揃えて言うことがあった。
 
それは、「学校以外での活動や、コミュニティ・サービス(地域のボランティア)に積極的にすることが大事」ということだった。最終的に、そのことが大学出願の際有利になってくるということだった。
 
また、結果的にこのコミュニティ・サービスに参加することは、大学受験だけではなく、高校在学中、NHSに出願する際に必要だったということを最近になって知ることになった。
 
私自身も、コミュニティ・サービスという形で自分の住む地域に恩返しをしたいと思っていた。
 
それを意識するようになったのは、2011年に起こった東日本大震災の直後だ。震災支援のために私を含む日本人有志が集まって募金活動をしたのだが、図書館や食料品スーパー、子供の通う学校や体操教室など、近隣地区の様々な組織の人たちが、我々の募金活動の趣旨を理解してくれて、募金ブースの設置や募金活動を紹介してくれたのだ。
 
アメリカ人にとっては、日本は遠い異国の一つに過ぎない。にも関わらず、震災の復興支援のために、日本にゆかりのある人や、日本に全く関係のない人たちも関心を示してくれて多くの募金をしてくれた。そのときに、「次は私が地域の人たちに恩返しがしたい」という強い気持ちが沸々と湧き出てきたのだ。
 
息子と私の初めてのコミュニティ・サービスは、所属していたサイエンス・クラブを通じて参加した地域のゴミ拾いだった。他にも私自身は、子供の学校でのボランティアや(卒業アルバム制作のお手伝いや、学校の花壇の手入れ、ヨガクラスの企画、遠足の付添、アートのクラスの先生の手伝い等)を行った。
 
しかし、当時小学校だった息子ができる地域でのボランティアの機会はあまりなかった。教会やボーイスカウトに所属していれば、もっと地域のボランティアの機会があったと思うのだが、我が家はどちらにも所属していなかった。その後、中学に入り、友達が参加しないと一人ではボランティアはしたくないという年頃に入ってしまったため、しばらく何もできない状態が続いた。
 
 
 

息子が行ったコミュニティ・サービス


あっという間に月日が経ち、2020年の春に新型コロナのパンデミックが始まり、同年、息子は高校に進級した。当時、新型コロナで子どもたちの様々な活動が中止になったが、ボランティア活動もそのうちの一つだった。なかなかボランティアの機会が見つからないでいたが、翌年の2021年、高校2年目の年に町が主催する小学生向けのサマーキャンプのスタッフ(カウンセラーと呼ぶ)のアシスタントのボランティアプログラムを見つけて応募した。息子の幼馴染の友達もそのボランティアに参加し、朝9時から午後3時まで、一日6時間、小学生のサマーキャンプのお手伝いを2週間行った。小学校に入ったばかりの参加者が、息子の似顔絵を描いてくれてそれをプレゼントされたり、大学生のキャンプカウンセラーと知り合いになって色々話を聞いたりと、とても良いボランティア経験をさせてもらったようだった。
 
そして、同じ年の夏、息子の友達の親御さんと立ち話をしていたときに、初めて全米優等生協会の話を聞いた。NHSのメンバーに選ばれるためには地域でのボランティアが必要だということだった。
 
この話を息子にすると、息子もNHSについて学校で聞いていて、応募したいと考えていたようだった。さらに昨年4月から、息子は教会のフード・パントリーでボランティアをすることになった。フード・パントリーは、寄付で集まった食料を種類ごとに棚に整理したり、食料を必要とする人に配布する場所である。息子は、毎週土曜日の朝8時から10時半まで、車で食料を取りに来る人たちに食料を配布している。
 
息子の地域のコミュニティ・サービスに関するエッセイには、これらのボランティア活動を通じて、地域の人の役に立てることが喜びであること。また、フード・パントリーでは、経済的に食料品を買うことができない人が想像よりも多くいたこと等、多くの学びがあったこと等を記していた。
 
 

リーダーシップの定義とは


NHSに出願するためには、地域でのボランティアだけではなく、リーダーシップの体験についてのエッセイの提出が必要だった。地域のボランティアの経験はあるので、そのエッセイ作成については問題なさそうだが、息子はリーダー的な感じではなく、リーダーシップの体験にはどうするのだろうかと思っていた。しかし、リーダーシップについてもエッセイを書き上げた。
 
その内容は、昨年夏に数日間日本の高校に短期留学した際の体験だった。留学先の英語のクラスでは、英語の先生の発音指導のアシスタントをさせていただいたようだった。そして、自分がクラスのみんなの英語の勉強のモチベーションをさらに上げるために貢献できたと綴っていた。
 
正直言って、英語の発音の指導を少し手伝ったことが、リーダーシップと結びつくのかよくわからなかった。だが、アメリカ大学進学・エッセイコーチングを専門にされている、Inessense & Career の創業者、立川愛弓さんのブログを読んで、私の中にあるリーダーシップの概念が間違っていたことに気が付かされた。立川さんが大学院で学ばれたリーダーシップの定義とは、
 
『自分の才能やスキルを知り、今いる場所から自分に出来ることをすること。目に見えるものであれ、見えないものであれ、どこかの誰かの役になっていることを信じ、自分の行動に自信と責任を持つこと』(1)
と記載されていた。
私は、これまでリーダーシップとは、カリスマ性があって、率先して人前に出て皆をまとめたり引っ張っていくような人をイメージしていた。しかし、リーダーシップは決して特別な人のことだけを言うのではなく、自分の考え方次第で、誰でもどこでもリーダーシップを取ることができるのだとをいうことを知った。
そして、地域のボランティアとリーダーシップ体験は重複する部分があるということに気がついた。つまり、地域のボランティアを通じても、人の役に立つ行動をすることでリーダーシップ体験につながっていくと言えるのではないだろうか。さらに、人の役に立つことで、自分の存在意義を考えることができ、地域のボランティア活動への参加とリーダーシップ体験の両方が自己肯定感に繋がっていくように思えた。

 

 

 

NHSへの入会式


昨年の11月の末に、息子の高校でNHSに選ばれた生徒たちのフォーマルな入会式が厳かに行われた。保護者も招待されていたので私も参加した。照明が落とされた講堂にて、司会者がNHSに選ばれた生徒の名前を一人づつ読みあげた。生徒たちは火を灯した小さなローソクを持ってステージに上がり、司会者が、メンバー1人づつが、どのようなコミュニティ・サービスをしたのかということを発表した。スポーツを頑張っている生徒は地域の子どもたちへの指導、またがん撲滅のための募金活動に参加した生徒など、様々だった。ステージに上がると生徒達は手に持っていたローソクをテーブルに置き、校長先生からNHSの証書を受け取った。
その後、上級生でNHSの代表の男子生徒より、息子を始め新しく入会したNHSのメンバーへのスピーチがあった。とても立派なスピーチだったことを鮮明に覚えている。
この式では、NHSに選ばれる事が最終目的ではなく、選ばれた生徒全員が、今後も在学中、勉学に励み、NHSのメンバーとしてのコミュニティ・サービスを行い、リーダーシップを養っていくということを再確認した。私自身も子供のことを誇りに思うと同時に、身が引き締まる思いがしたセレモニーとなった。
 
 

NHSに選ばれてからのこの1年間の活動


息子は以前から行っている週末のフード・パントリーでのボランティアに加えて、NHSのメンバーとして、学校での行事の設営や、また、ライオンズ・クラブが主催で行っているクリスマスツリー販売のお手伝い等、様々な地域での活動に参加するようになった。以前は、友達がいないとしたくないと言っていたボランティア活動も、自分から機会を見つけて率先して行ったり、友達のボランティアのプロジェクトを手伝ったりと、徐々にNHSのメンバーである自覚が芽生えて、メンバーの中でも人間関係が広がってきたようだ。
そんな中、今年の春、息子から「NHSの次期代表に立候補することにした」と聞いたときには、びっくりして腰を抜かしそうになった。NHSのメンバーになり、いろいろな活動を経て、来年は自分がみんなをリードしていきたいと考えたとしたら、ボランティア活動を通じて小さなリーダーシップ体験を重ねていくことで少しづつ自信をつけていったのではないかと考えた。というのも冒頭に記載した通り、息子は優等生という言葉やリーダーからは程遠い子供だったからだ。
「くいのないようにがんばって」と声をかけて、私は経過を見守っていた。代表になるためには、立候補するに当たってのスピーチを皆の前で行った後、生徒の間で投票が実施されるということだった。投票の日が近づくと、息子はスピーチの内容を考え、実際に声を出してスピーチの練習を何度もしていた。
投票から2週間後に「NHSの代表(プレジデント)に選ばれた」と息子が教えてくれた。今年の11月にはまた新たに入会するメンバーを迎えて入会式が行われる。その時に息子は保護者やNHSメンバーの前でスピーチを行うことになる。親としては、息子が大勢の前でスピーチを無事終えることができるのか今からドキドキであるが、なんとかやり遂げてほしいと願っている。
日米の2つのアイデンティティの間で悩み、自信をなくしていた時期もあった息子だが、高校から本格的に始めたボランティアと、この1年間のNHSでの活動を通じて見えてきたことがある。それは、優等生教会会員と認められることで自覚が芽生え、そこからさらなるそれらの経験を積み、自分への自信へと繋がっていったということである。それは、非常に多感な高校時代に、自分自身の存在意義を再確認することにも繋がっていて、とても大事なことのように思えた。
当初、大学受験のために地域のボランティアをすることが必要と聞いていた。まだまだ先と思っていたが、いよいよこの秋より息子の大学出願が始まる。たとえ希望の大学に入ることができなくても、高校時代に行った地域でのボランティアでの経験とNHSを通じて行った活動は、息子にとって何事にも代えがたい経験になった事は間違いないだろう。
 
 
 
 
引用文献
(1)立川愛弓,『リーダーの定義』2023年3月29日, Inessense Education & Career, https://www.inessenceeducation.com/blog/8mfhy5phzlljmpfpap7x7chzljfxwf
2023 年8月29日閲覧

□ライターズプロフィール
武田かおる(READING LIFE編集部公認ライター)

アメリカ在住。
日本を離れてから、母国語である日本語の表現の美しさや面白さを再認識する。その母国語をキープするために2019年8月から天狼院書店のライティング・ゼミに参加。同年12月より引き続きライターズ倶楽部にて書くことを学んでいる。
『ただ生きるという愛情表現』、『夢を語り続ける時、その先にあるもの』、2作品で天狼院メディアグランプリ1位

この記事は、人生を変える天狼院「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」をご受講の方が書きました。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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