そうだ、パーティーを続けよう《WEB READING LIFE 通年テーマ「祭り」》
記事:射手座右聴き (天狼院公認ライター)
涙が出た。
「残念ながら、閉店することになったんですよ」
今、一番読みたくない言葉だ。
今、一番悲しい言葉だ。
今、一番頭に入ってこない言葉だ。
SNSで目にするだけでも辛いのに。
その言葉をリアルで聞いた時は、
頭がぼんやりとした。
目の前が霞んだ。
それは歌舞伎町の一角にあるレストランとクラブ。
5月の後半のある日、のことだった。午後1時。
静まりかえった大通り。ゴジラを左に見ながら、角を曲がった。
人通りはほとんど、ない。
テイクアウトを始めたというので、久々にお店に顔をだしてみた。
知人が新宿区のテイクアウト店マップを作り始めていて、
そこにお誘いしつつ、美味しいタイ料理を持って帰ろうと思ったのだ。
しかし、オーナーの顔は険しかった。口元は笑顔だった。
が、眉間には寂しさがあった。
「せっかく誘ってもらったけど、もうお店を閉めようと思って」
鈍い衝撃を感じた。
最近は顔を出していなかったが、数年前まで一週間に2回くらい行っていた場所だった。そこに行けば誰か知り合いに会える。約束なしでもフラッといける貴重な場所だった。
なくなるなんて思ってもみなかった。1階のレストランバーは遅い時間まで
人が入っていたし、毎週末、地下ではクラブイベントが行われていた。海外からひとくせもふたくせもあるアーティストが登場し、20平米ほどのスペースに100人近いお客さんが入ることも珍しくなかった。
いつのまにか、自分のような素人DJには少し敷居の高いお店になっていた。
そう。8年前くらいまでたくさんイベントをやらせてもらっていた。
私はJ-POP中心に自主イベントをしているのだが、スペース的に、ちょうどよかった。毎回30名程度のイベントが多かったので、踊る人は踊り、休む人は休む。そんなことがしやすい箱だった。広めのDJブースが奥にあり、最新の機材が揃っていた。ブースの横には大きなスピーカー。なんと言っても音がよかった。向かい側にバーカウンターがあり、そこでお酒を作ってくれる。これがまた美味しかった。クラブのお酒というのは味にかなり差がある。丁寧に作るお店とサラッと作るお店の差が確実にあった。
ここは、サラッとしかも丁寧に作ってくれるお店だった。地下の狭めな空間でおいしいお酒と音に身をまかせる。お腹が空いたら、上にあがって、レストランバーのフードをオーダーする。欲しいものが十分に揃っていた。
そんなお店で、実験的なイベントをさせてもらっていた。泣ける曲で踊るJ-POPイベントだった。その頃はまだ、エモいという言葉がなかった。泣ける曲、と、盛り上がる曲、は対極にあるように捉えられていた。が、しかし、泣けるバラードは、みんなの心に響く曲、だったら、歌いたくなったり、盛り上がりたくなったりするんじゃないか。逆に、激しい曲でも、歌詞がつきささったら、泣けるんじゃないか。そういう仮説でイベントを始めたものの、なかなか主旨が伝わりづらく苦戦した。泣ける曲をかければ、「それは踊れるのか」 と言われ、踊れる曲をかければ、「それは泣ける曲なのか」 と言われる。
なかなか定着しない中でも温かい目でみてくれたお店だった。
わがままも聞いてもらった。
「各県のレアなお酒を、この日のために仕入れてください」
県をフィーチャーしたイベントのときのお願いだった。・
各県出身のDJがその県出身のアーティストの曲だけでDJをする。
そんなイベントだった。
たとえば、北海道出身のDJさんが、ドリカムと松山千春とサカナクションなどをかける。広島出身のDJさんが、Perfumeとポルノグラフィティと浜田省吾をかける。
というような感じだ。
いきものがかりがかかると、途中で引っ越しているので、
元々静岡だ、いや、今は神奈川だ、という論争が起こるのも醍醐味だ。
また、ご当地しかわからないCMソングが流れたりする。大阪出身のDJさんなら、
上申電気のCMソング、といった感じだ。
こんなイベントだったら、ご当地ポッキーは必要だろう。ご当地お菓子だけじゃない。
ご当地酒も必要だ。
「各県のお酒ですか。それ面白そうっすね」
と喜んで仕入れてくれた。
当日はお酒が進んだ。全国各地のお酒に、全国各地のJ-POPで盛り上がるのだ。
ご当地の強さに驚いた。
しかし、もっとわがままを聞いてもらったのは、自分の誕生会だった。12月12日が
誕生日だったので、2012年12月12日にパーティーをした。
普通にやるんじゃ面白くない。
「食べ放題、飲み放題は無理っすか」
ダメ元で聞いてみた。
「飲み放題はOKだけど、食べ放題はちょっと。でも、この金額ならできます」
金額を提示してくれた。
結局のところ、お客さんが1200円で食べ放題飲み放題。赤字分は私が払う、といううイベントをやらせてもらった。祝えば祝うほど、主賓が困る、というバカバカしいイベントに100人以上がつきあってくれた。
いろいろお世話になっていたのに、残念ながら自分がイベント主催に疲れてしまう時があり、それから足が遠のいてしまった。
仕事の合間に、毎月三本のイベントを回し、いっぱいいっぱいになった。仕事がばたついているときに、イベントの企画をし、DJを呼び、集客も背負う。それが楽しいどころか負担になっていたのだ。
それから数年、イベント主催から離れている間に、お店とのつきあいは変わった。
そんな間もDJで呼んでくれていた渋谷中心になった。
もっと顔を出せばよかった。
いつしか遠のいていたお店だったが、
オーナーの顔を見たら、後悔しかなかった。
祭りの時間は限られているが、その時間を十分、この歌舞伎町のお店に
注げたのだろうか。
いや、しかし、ほかの店にも同じことが言えた。
お世話になったお店がどんどん閉店していく今、
自分にできることはなんだろうか。
一回一回のパーティーを大切にすることしかできない。
今、こうして、あの店の思い出を書くしかない。
後の祭りはごめんだ。
□ライターズプロフィール
射手座右聴き (天狼院公認ライター)
東京生まれ静岡育ち。新婚。会社経営。40代半ばで、フリーの広告クリエイティブディレクターに。 大手クライアントのTVCM企画制作、コピーライティングから商品パッケージのデザインまで幅広く仕事をする。広告代理店を退職する時のキャリア相談をきっかけに、中高年男性の人生転換期に大きな関心を持つ。本業の合間に、1時間1000円で自分を貸し出す「おっさんレンタル」に登録。5年で300人ほどの相談や依頼を受ける。同じ時期に、某有名WEBライターのイベントでのDJをきっかけにWEBライティングに興味を持つ。天狼院書店ライティングゼミの門を叩く。「普通のおっさんが、世間から疎まれずに生きていくにはどうするか」 をメインテーマに楽しく元気の出るライティングを志す。
天狼院公認ライター。
メディア出演:スマステーション(2015年),スーパーJチャンネル, BBCラジオ(2016年)におっさんレンタルメンバーとして出演
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