祭り(READING LIFE)

「骨が落ちる音」《週刊READING LIFE 通年テーマ「祭り」》


2021/08/02/公開
記事:青木文子(天狼院公認ライター)
 
 
骨が落ちる音をはじめて聞いた。
その音はかすかな音だった。
 
病がわかってから、35日であっという間に逝ってしまった父の納骨だった。日曜日に自宅で四十九日の法要を終わってから、夕方に墓地に移動して納骨をする段取りだった。
 
それぞれが車に便乗して墓地についた。夏至からまだ日も経っていないので、16時過ぎてもまだ高いところに太陽があった。墓地の長い階段をゆっくりと登った。汗ばみながらたどり着いた墓石の前。
 
「それでは納骨をはじめましょう」
 
四十九日の法要から同行してくれたご住職に言われるままに骨壷の覆いを外す。ほんの2ヶ月前には笑いながら話していた父が、今はこの骨壷の中に収まっているのだ。骨壷の蓋を開いた。もう一ヶ月近く前にお骨拾いで拾った骨は、骨壷の中に白い大小の欠片になっていた。高温で焼かれたからであろう骨の表面は、あたりの光を反射せず、白くザラリとしていた。
 
「これにお骨を入れてくださいね」
 
ご住職から渡された袋は、晒で作られた納骨袋だった。
納骨に集まった親族で、教えられるままに納骨袋に骨をひとつふたつとつまんで入れていく。あるところまで入れたら、あとは袋に向かって骨壷を傾ける。骨壷の口からシャラシャラと音を立てて、骨はすべて納骨袋に収まった。
 
あとで調べると、納骨袋を自作する人もいるそうだ。古来は自分たちでつくっていたのであろう。晒を縫ってつくる納骨袋は縫うときに結び玉は作らない、返し縫はしないなどの約束があるそうだ。
 
納骨袋の口を同じく晒でできた紐でしっかりと縛る。
 
「それでは、どなたかその水鉢の台をどかしてください」
 
墓石の前の、同じく石でできた水鉢。それが動くようになっているらしい。先程から、この墓石のどこから骨を入れるのだろうかとぼんやり考えていた。確か祖母や祖父の時の納骨にも私は立ち会っていただろうに、すっかり忘れている。
墓石をどかして納骨するなど、納骨の方法や墓石のどこに納骨するのかは宗派によっては違うのであろう。
 
二人がかりで墓石の前の石でできた水鉢の台を動かす。そこに、ポッカリと小さな穴が現れた。この穴がそのまま墓石の内部につながっている穴らしい。
 
「では納骨してください」
 
ここにはもう父はいない。その気配もない。そこにあるのは私の投影しているなにか、感じ取ろうとしているなにか。それでも最後だとふと感じで、手を伸ばして納骨袋をそっとなでた。
 
納骨袋が穴の中に入れて手が離された。納骨袋は虚空に落ちていった。どこか遠くの穴の中に吸い込まれるようだった。音がしたのだ。かすかな音が。最後のその音を私は耳元ではっきりと聴いた。
 
水鉢の台が戻された。墓石は何事もなく佇んでいた。ご住職が最後のお経をあげた。手を合わせて、納骨の儀が終わった。かたわらの墓碑に父の戒名が祖父たちの名前に並んで真新しく刻まれていた。
 
墓地の長い階段をゆっくり降りながら考えた。人が生きていくことは祭りだ。死にゆくことも祭りだ。
 
詩人の宮沢賢治は花巻農学校で教師として勤めていたときに生物の授業を担当していたという。今は高齢で、かつてその授業を受けた方たちを訪ねてインタビューする映画を観たことがある。うろ覚えではあるがこんなことを言われていた。
 
「宮沢先生は授業で言っていました。細胞は毎日お祭りをしているのだと。人の中で毎日お祭りが開かれている。だから人が生きるということはお祭りなんですね」と。
 
それを受けてか社会学者見田宗介は賢治論としての著作に『存在の祭りの中へ』という題名をつけている。
 
人は泣いて笑って、足掻いて頑張って、せいぜいどんなに長くても数十年の時間を過ごす。そして必ず死ぬ。
 
生きていくということがひとつの祭りだとしたら。人が亡くなって納骨をすることは、祭りの終わりなのかもしれないと思った。祭りのあとはいつも寂しさが漂うものだ。
 
それぞれの祭りをどう生きていくかは、その人に任されている。私はせめて、その祭りを、最後の最後まで賑々しく生きていこうと思った。
 
梅雨はまだ明けていなかった。昨日まで大雨の予報だったのに、この日はなぜだか晴れていた。ふと、父の最後の悪戯だろうと思った。7月の初めの空は、もうすでに夏の気配がしていた。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
青木文子(あおきあやこ)

愛知県生まれ、岐阜県在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学時代は民俗学を専攻。民俗学の学びの中でフィールドワークの基礎を身に付ける。子どもを二人出産してから司法書士試験に挑戦。法学部出身でなく、下の子が0歳の時から4年の受験勉強を経て2008年司法書士試験合格。
人前で話すこと、伝えることが身上。「人が物語を語ること」の可能性を信じている。貫くテーマは「あなたの物語」。
天狼院書店ライティングゼミの受講をきっかけにライターになる。天狼院メディアグランプリ23rd season、28th season及び30th season総合優勝。雑誌『READING LIFE』公認ライター、天狼院公認ライター。

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