あれは恋ではなかったけれど《週刊READING LIFE Vol.291 すれ違いの中の愛》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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2024/12/31/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「何? この人、変わってるわ」
私がその人と会ったのは、確か20代後半の頃のこと。
詳しくは思い出せないのだけれど、母のお友だちのおばさんからの依頼だったと思う。
そのおばさんの知り合いの方に、息子さんがいて、なかなか結婚をしないので心配しているのだという。
そこで、周りの知り合いに声をかけて、どなたか良いお嬢さんはいないだろうかと、探していたのだ。
1980年代の後半は、まだ結婚適齢期というものが重視されていた時代だった。
遅くとも、20代には結婚して、家庭を持つのが当たり前。
それが健全だとされている世の中だった。
なので、本人がのん気に構えていたとしても、親や周りの人間がソワソワして何かしらの手助けをしようとしていた。
ちなみに、わが家は少し違っていて、母は私に、「結婚したら、絶対に苦労するから、1分1秒でも長く家にいたらいいよ」と、常に言っていた。
だから、「早く結婚しなさい」と、言われることなどは、一度もなかったのだ。
でも、世間一般では、20代後半にもなると自分も周りも焦り出す頃だった。
母のお友だちの知り合いのおばさんからの紹介の例の男性は、どうやら結婚願望がないというのだ。
それならば、それでいいだろうに。
ただ、その知り合いのおばさんは、親として納得がいかなかったのだろう。
何とかならないものか、とやきもきしていたそうだ。
そんな経緯で、私のところに、その「結婚したくない」男性が紹介され、一度会うというところまで、あれよ、あれよと決まって行った。
しかし、よく考えてみたら、おかしな話だ。
本人は、結婚に興味がなく、結婚する気はないと断言している男性と、結婚なんて急ぐこともないし全く焦ってもいない私が、会ってどんなことになるのか。
それでも、私はそんな機会があっても悪くないだろうと思い、承諾したのだ。
その男性との待ち合わせは、確か神戸あたりの喫茶店だったと思う。
初めて店で会った彼は、さほど背が高くない人だった。
その日、私と会うことを彼自身も親からの依頼なので引き受けたというシチュエーションだったが、かといって、そんな態度をありありと表わすことは、相手に失礼だと心得ているような人だった。
なので、一緒にお茶を飲みながら、話をしていてもイヤな気持ちにはならなかった。
ただ、やはりどこかその頃に私の周りにいた男性たちとは少し違って、独特の雰囲気を持った人だった。
彼は、自分の趣味の話や考えていることを、積極的ではないが、会話が弾むような程度には話しをし出した。
そんな話を聞いていると、その内容だけでなくて、彼の考え方だけではなく、人に対する姿勢や思いやりの気持ちも伝わってきたのだ。
それは、あからさまに、いかにもそうであるということをアピールするようなものではなく、時間を共に過ごすことで、さり気なく相手が受け取れるものだった。
彼は、人としてとても魅力にあふれていた。
ただ、そうではあっても、決して建設的な方向へ行くことがないこともわかっていた。
どんなに彼の話が面白くて、興味を持ったとしても、私の気持ちも恋愛感情に傾くことはなかった。
それでも、思った以上に話が面白く、尽きなかったので、一旦お店を出て歩こうと言うことになったのだ。
その時、確か彼が知っている神戸の景色のきれいなところまで行こうということになったと記憶している。
その季節がいつだったかはもう忘れてしまったけれど、長い時間をかけて歩くのが苦ではない爽やかな気候だったように思う。
人混みを抜けて、彼の声がクリアに聞える場所も通って、その目指す場所へと連れて行ってくれたのだ。
その途中、よくわかるくらいに親切で優しい行動はしないのだが、時々私の方を見て、どれくらいのペースでついてこられているかを確認するのが、彼の優しさだったと思う。
彼がおススメの、景色の良い場所に着いたときには、すでに夕暮れ時を迎えていたように思う。
目の前に広がる、壮大な景色に気持ちはとても爽快感で満たされたことを覚えている。
最初に出会った喫茶店では、真正面から見ていた彼を、外に出て歩きながら話す時は横顔が主に見える場所に私はいた。
ひょんなことから、出会うこととなった見ず知らずの男性。
面白い立ち位置で、いわゆるお見合いでもない。
ただ、彼の親のたっての希望で、それを彼自身も、私ものんだというような出会い。
そういうと、なんとも無駄な時間、出会いだと捉えることもできるかもしれない。
ところが、彼自身も私も、それをそのようには捉えず、一つの出会い、面白い体験と捉えていたのだろう。
彼の横顔を見ていて、そう思ったことを覚えている。
だから、こんなことして何になるのというような気持ちも湧いてこなかったし、早く帰りたいと思うこともなかった。
ふと、意識すると、おかしなことをやっている二人だったのだが、それに関わった誰にも迷惑をかけることはなかったし、イヤな思いをすることもなかった。
昨日まで全く知らなかった人と、時間を共に過ごすことで、相手の人となりを知ることになり、気持ちが動くと言うことはあるのだなと感じた。
日々、色々な人と出会い、知り合うことはいつでもあるが、その相手をわかるようになるには、やはり時間をかけること、よく話をすることが大事なんだなとあらためて思う経験となった。
今の時代、男女の出会い、結婚は出会い系のアプリが主流になってきていると聞いたことがある。
実際、娘のお友だちや、ママ友の子どもさんたちも、結構そのアプリでの出会いから結婚に至っているケースが多いのだ。
少し前には、怪しいアプリなのかと思っていたが、今ではそんなレベルではなくなってきているようだ。
結婚という共通の目的があって、お互いの詳細を最初から伝えていて、その目的に達するまでの時間はショートカットされて無駄がないのかもしれない。
知らない人と出会って、恋に落ちて、相手を知ってゆく過程では、趣味や考え方、性格の違いが問題となって、悩みや別れを経験するのがいわゆる恋愛だ。
それを楽しみと思い、醍醐味として捉えるならば、恋愛も有意義だろうし、結婚という目的に最短で最も傷つかずに到達するには、出会い系アプリも優秀なのだろう。
恋愛の過程にも、年代が色濃く映し出されるのかもしれない。
ただ、今から30年以上も前、なんとも珍しい、先のないお見合いを体験した私としては、人との出会いはどこまでも面白いと思うのだ。
最初から想像することのできない展開があったり、お互いの関係性によって変わっていったりすることもあるからだ。
例の彼とは、もちろんあの日、神戸で素晴らしい夕暮れの景色を見て終わった。
その後の彼が、どのような人生を送ったかももちろんわからない。
ただ、あの日、同じ時間を過ごし、話をする機会を持つことで、私は色んなことを感じ、気づくこととなったのは間違いない。
人との関わりは、時に面倒と感じることもあるだろうが、相手と接するからこそ、自分自身のことがわかったり、新しい気づきをもらったりすることもある。
生きてゆく限り、人との関わりから逃れることは出来ない。
そう思うと、面白がって、相手に興味を持って話をし、そのような機会を持つことが人生の糧になったり、彩を添えてくれたりするのではないかと思う。
□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。
終活アドバイザー。
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