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ミニシアターのある街、東京

記憶に残る映画体験を、48席の小さな空間から届けたい≪ミニシアターのある街、東京≫


記事:遠藤淳史(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
東京は杉並区。JR阿佐ヶ谷駅から徒歩3分。
 
ひっそりとした住宅街の中に、一際目を引くオレンジ色のファサードが目印の映画館がある。それがミニシアター「ユジク阿佐ヶ谷
 
1998年から阿佐ヶ谷に存在するミニシアター「ラピュタ阿佐ヶ谷」の姉妹館として2015年4月にオープン。座席数は48と小さめだが、一度来たらその独特な雰囲気の虜になること間違いなし。
 
 
 
個性あふれる上映ラインナップだけでなく、多種多様なイベントを手がけることで今日まで着実にファンを増やしてきた。今年は節目の5年目に突入。
 
 
 
左右の壁に貼られたたくさんのポスターにお出迎えされながら階段を降りていくと、そこにはまるで違った空間が広がる。
 
 
 
「チケットってどうやって作るのかとか、整理番号で入場ってどう案内するんだろうとか、本当に何も分からなかったです(笑)」
 
オープン当初から支配人を務める武井悠生さんはそう語る。(以下、武井)
 
以前はCM制作会社に勤務しており、映画館で働いた経験もなかったという武井さんが今日までどのように映画館を創り上げてきたのか、お話を伺った。
 

武井悠生さん

 
 

アニメーションに魅せられて


武井:美大に通っていた時にアニメを作っていました。その頃から映像全般に興味があったんですけど、中でもやっぱりアニメーションがすごく好きでした。前の職場にいた時、フランスで開催されたアヌシー国際アニメーション映画祭に研修で行かせてもらったんです。そこで世界各国の最前線のアニメーションに触れたことで、こういった面白い世界があるんだ……! とワクワクして。そこからもう少し広い視野で映画の世界を見てみたいと思いました。
 
——ユジク阿佐ヶ谷はアニメ作品をたくさん上映している印象があったんですが、そういった背景があったんですね。
 
武井:そうですね。月一で必ずアニメーションを上映するっていうのは決めてます。というのも、それをやり始めてからお客さんが反応してくれることが増えたんですよ。配給会社の人たちとやりとりの中でも「次はこういうアニメやりたい!」と言い続けていたら、だんだん繋がっていって今に至る印象があります。”自分の中で嬉しい枠”みたいなものでしょうか。もちろんそれだけだとお客さんが集まるわけではなかったりするので、そうじゃないものも合わせて上映することでなんとかやっているところはあります。
 
——自分のこだわりは絶対どこかに置いておくぞ! という決意みたいなものですね
 
武井:そうそう。それを続けていったことを他の配給会社が見て、「ユジクさんってアニメーションよくやってますよね〜」という印象になって、それを求めてくださってる配給さんも増えていったんで、続けてきて結果よかったなって思います。おかげで「じゃあ全国でのロードショーが終わったらユジクさんにお願いします!」って声をかけてくだるところも増えてきました。
 
——こだわり続けていたところがいつの間にか個性になっていたと。しかもそれをちゃんと受け入れてもらえるのは嬉しいですよね。
 
武井:今の仕事は自分の主体性も問われるし、好きなものに直結してる。だからこそすごくやりがいはありますね。支配人であることのプレッシャーもそういったところでうまく折り合いをつけています(笑)
 

取材日の上映作品。アカデミー賞を受賞した『グリーンブック』から台湾映画特集の小粒な良作まで、ジャンルは多岐に渡る

 
 

ここにしかない魅力を


——ユジク阿佐ヶ谷は「女性が来やすくて、大人から子供まで楽しめる作品を上映する映画館」というコンセプトでスタートしたと、過去のインタビューで拝見しました。その意図を改めてお聞きしていいですか?
 
武井:オープンして一番最初に上映した作品が『セシウムと少女』という、弊社のオーナーが監督を務めた作品だったんです。これは、主人公の女の子が過去と現在を行き来しながら原発や戦争の問題を考える、というストーリーで、アニメーション部分の製作に私も少し携わりました。その中で、主人公と同じ女性である自分は、これからの社会や映画に対してどんな風にアプローチできるんだろうっていうところを考えていたんです。
 
—-当事者である自分の立場から映画に対してできることを考えていらっしゃったと。
 
武井:『セシウムと少女』には「これからの未来の子供達が生きづらくないように」という願いもメッセージとして込められています。だから自分とは無関係のところから始めるのではなくて、女性であることが社会の中でどういう風に変化していくのか、そこを起点にコンセプトを練っていったという感じですね。
 

この空間を使ってワークショップやトークショーなどのイベントも頻繁に行なっている

 
 
——元々この場所はアニメーション学校の撮影スタジオとして使われていたそうですが、劇場としてオープンするにあたって、武井さんが一番こだわった部分ってどこですか?
 
武井:やっぱり黒板ですね。
 
——やっぱり!
 

ユジク名物の黒板アート。
特集上映のたびにアート作家の方に1日かけて描いてもらっているそう
タイミングがよければ描かれている様子を見られるかも?

 
 
——これは最初から武井さんのアイデアで?
 
武井:そうですね。「ここは絶対に黒板にしたい!」って思いは一番にありました。映画館をこれから作ると言っても、すでにお客さんが慣れ親しんでいる映画館がいくつも都内にはあります。その中で差別化を図るには、もう少しプラスアルファで楽しんでもらえる、すごく分かりやすいポイントがないと面白くないと思ったんです。そこで映画の他に一個、アピールできることってなんだろうと考えた時に、イラストレーターやアニメーターの方が周りにたくさんいる環境だったので、そういう方達と何かできる空間っていいかもと思ったのがきっかけです。
 
——来るたびにイラストが変わっているのが新鮮ですし、思わず写真に撮ってしまいます。消すのがもったいないですよね?
 
武井:ホントに! 「ごめんなさい〜」って毎回言いながら消してます(笑)
 
——でも武井さんのその読みは見事に当たってると思います。都内でこれほどインパクトのある劇場って少ない気が。与えられた地の利や環境を最大限に活かしてるなと感じました。
 
武井:ありがとうございます。だからこそもっと色んな方に来ていただきたいんですけど,気付いていない人はまだまだいます。けれどもお客さんの割合は意外と若い方が多いので、たくさん写真を撮ってInstagramなどで広めていただけたら(笑)
 

思わず目を引くスタッフお手製のボードも必見。丁寧な解説で作品の理解がぐんと深まる

 
 

映画館で観ることの楽しさを伝えていきたい


——逆に、もう少し改善していきたい部分ってありますか?
 
武井:映画をいいタイミングでかけたい、もっとたくさんの人に見てもらいたいという気持ちがあっても、現実的に昔からある他のミニシアターみたく、固定で来てくれるような人をなかなか取り込んでいけてないというところは感じます。そこはこれからの課題だなって思いますね。
 
——その上でこれから仕掛けていきたいことは何かありますか?
 
武井:姉妹館であるラピュタ阿佐ヶ谷に100人ほどが入れる芝居小屋・ザムザ阿佐ヶ谷というスペースがあるんですけど、そこと連動してイベント上映などができればもっといいなと思っています。ラピュタはここから歩いて行ける距離にあるので、そちらの宣伝にもなるかなと。
 
 
 
——楽しみですね。武井さんが支配人として今日まで過ごされてきた中で「映画」そのものに対する見方って何か変わりましたか?
 
武井:作品をお客さんに見せるって立場になると、一個人でこの作品が面白いとか嫌いとか決めつけるのではなくて、もう少し視野を広くしておかないとダメだなって思うようにはなりました。個性を出すにはもうちょっと自分で取捨選択しなきゃって考えていくと思うんですけど、それよりかはもっといろんな人の意見を聞いたりとか、なるべく自分だけの世界にならないようにはしようかなって。
 
——好きなものだけ観てると偏っちゃいますもんね。誰もが「好きなジャンル」ってあると思うんですけど、その辺りをうまく網羅してくれるユジクさんのバランス感覚は本当に絶妙だなと感じます。
 
武井:ありがとうございます。地元の人たちも来れるし、コアなお客さんにもずっと引き続き来てもらう。そのために広い視点は持っておかなきゃと思います。
 
——今、全国でミニシアターの閉館が相次いでいますが、その中でミニシアターに求められる役割ってなんだと思いますか?
 
武井:私たちが映画館で見てもらうことの良さ、素晴らしさをずっと持つことはどの時代も大前提なんですけど、お客さんにもそう思ってもらうための努力を続けることですね。本当に当たり前のことなんですけど。お客さん来ないねとか、若い人全然来ないねとか、努力なしに言ってるだけでは何も変わらない。小さい劇場だけれどそういう人たちに来てもらえる工夫を考えるのが一番の役割かなと。できることはまだまだたくさんあると思ってるので、これからも楽しみにしていただけると嬉しいです!
 

 
阿佐ヶ谷をはじめとした中央線沿いには、他にも個性豊かなミニシアターが立ち並ぶ。その中でもユジク阿佐ヶ谷は、独自の工夫で唯一無二とも言える存在感を放っている。
 
全くの未経験から今日まで映画館を創り上げてきた武井さんの思いは5年目に突入した今も変わらない。
 
「映画館で映画を楽しんで欲しい」それだけだ。
 
今度の週末は、都内のシネコンもいいけれど、阿佐ヶ谷の街にふらっと足を踏み入れてはどうだろう。心を震わす、思いもよらなかった傑作に出会えるかもしれない。
 
 
 

ユジク阿佐ヶ谷
住所:東京都杉並区阿佐ヶ谷北2−12−19−B1F
TEL:03-5327-3725
Mail:yujikuasagaya@gmail.com
公式HP
公式Twitter
公式Instagram

◽︎遠藤淳史(READING LIFE編集部公認ライター)
1994年兵庫県出身。関西学院大学社会学部卒。
都内でエンジニアとして働く傍ら、天狼院書店でライティングを学ぶ。週末に映画館に入り浸る内に、単なる趣味だった映画が人生において欠かせない存在に。生涯の一本を常に探している。Netflix大好き人間。

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