【スマホ版『どうぶつの森』レポ】あなたのために私は置く《週刊READING LIFE Vol.65 「あなたのために」》
記事:なつき(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
今日も定位置に置く。白物家電を作るための鉄、家具を作るための木、服を縫うための綿、これらを必ず同じ場所に置く。場所が足りなくなっても置く。これらは毎日売れる。需要があるのだ。毎日誰かが覗いては買っていく。
ちょいちょいキャンペーンが開催される。欲しくなるようなデザインが美しい品々。見本と同じものが欲しくなる。そんな時、手元にクラフトするための材料とお金があればすぐに着手することができる。材料は欲しいと言われたものを採ってきて渡せばいくつか手に入る仕組みだ。
どうぶつの森、というゲームを知っているだろうか。ファミコン時代に発売され、DS、3DSにも受け継がれ、スマホにも配信、長く愛されているゲームだ。人気があると聞いていたので3DSのソフトを買ったことがある。けれどもあまりハマることはなかった。自分の分身とその分身が住む部屋を飾っていく類のゲームは他にも色々やっていて新鮮さは特になかった。だからスマホに配信が決まったことを聞いてもなぜ人気があるのか不思議に思っていた。
ある時友人が「スマホでどうぶつの森やっている人なら友達になろうよ。IDは○○」と連絡してきたことがあった。あまり興味はなかったが、友人とやり取りできるのは面白いかも、と登録することにした。無料で遊べるゲームということも私の背中を押した。
ゲームスタート。自分の分身を作るところから始まる。顔の輪郭、髪型、顔のパーツ、数種類あるものから作りだす。分身なので自分に少しでも似た形状で設定した。次に分身が何をするためにこの場所にいるかが教えられる。今回の設定は、キャンプ場を作る手伝いをしてほしいというものだった。自分の部屋ではなく、動物のためのキャンプ場を作る。自分の部屋と言うワードは少し聞き飽きていたがキャンプ場と言われるとちょっとワクワクしている自分がいた。自分好みのキャンプ場を作る、更に仲良くなった動物を招待できる。そういう設定だった。キャンプ場には最初から置かれている家具が数点とテントが2つ置かれていた。この家具やテントを置き換えたりバージョンアップしていくことで自分の好みの場所にしていく。
では置き換えるための家具はどうやって手に入れるのだろうか。それは動物たちから材料をもらってクラフトする必要があった。動物たちは分身のいるキャンプ場とは別の場所に配置されている。そして動物たちはお願い事を3つ持っていて1つ叶えてあげるごとにいくつかのクラフト材料をくれる仕組みとなっていた。例えば、リンゴが欲しいと言われたらリンゴのなっている木に採りに行きリンゴが欲しいと言っている動物にあげる。代償に木材5個をくれるといった具合だ。
試しに新しい家具を作ってみることにした。木材30個で椅子を作った。自分のキャンプ場に設置してみる。新しい家具が設置されることで自分のキャンプ場感が少し出てきた。なるほど、この感じが愛され続ける理由なのか。そう思いながらもこれだけだったら時間が経てば飽きるよな~と漠然と思っていたのも事実だ。
でもこのどうぶつの森、それだけではなかった。スマホ配信されていることでオンラインで他の人と繋がっている。チャットの様な会話はできないが現実の人が作った分身がゲームの中に時間交代で現れる。その人たちも自分たちのキャンプ場を持っている。そのキャンプ場はいつでも見に行くことができる。見に行くと、クラフトを駆使して美しく飾っていたり、同じ種類の家具で統一感を持たせたりと分身のキャンプ場作りを楽しんでいることが伺えた。この状態にするまでにどれだけクラフト材料を集めたのだろう。私もせっせと動物に会いに行き要望を叶えクラフト材料を手に入れることに勤しんだ。
そして、材料を集めてクラフトして、を繰り返しているうちに自分のキャンプ場が出来上がった。そうなると、ある程度満足する。もういいかな、とクラフトする回数が減った。クラフトできる家具の数はどんどん増えどれを作るか選ぶのが億劫になった。選ぶ時間が勿体ないと思う様になった。そしてこのゲーム、ちょくちょくキャンペーンが開催される。キャンプ場の隣に花壇がある。花壇で花を育てつつその花に来る虫を捕まえてその虫の数で新たな家具が手に入る。クラフトしなくても手に入る家具が増えた。キャンペーン中の花の種は動物からもらうが、同時にクラフト材料も手に入る。それはつまりクラフト材料がどんどん溜まることを意味する。
いつしかクラフト材料は上限に達した。上限になっても動物たちはクラフト材料をくれる。上限に達しているからそれ以上は持つことができない。なんだか勿体ないと思いつつもクラフトしたい思いは前ほどは湧かない。さてどうしたものか。
そう言えばバザーと言う機能があった。バザーは持ちきれなくなった物を誰かに買ってもらう仕様だ。動物が欲する物、クラフト材料の中から好きに自分で値段をつけて販売できる。1つの箱に同じものを最大10個まで置くことができ、その箱が12個ある。そのバザーに置いてみようと思った。クラフト材料なんか置いて買う人がいるのだろうか。こんなに持て余しているものを買う人がいるのだろうか。売れなくても仕方ない、取り敢えず置いてみることにした。
翌日、売れた。その翌日、また売れた。翌々日、またまた売れた。鉄材、木材は2カ所に置いてみることにした。つまりは3分の1をクラフト材料にしてみた。やはり毎日売れた。クラフト材料の範囲を広げて洋服を作るための綿材を新たに2カ所に置いてみた。鉄や木ほどではなかったが、この綿材もよく売れた。そして、バザーの箱の半分が常にクラフトの材料を占めるようになった。
バザーは買った分身名が表示されるので誰が買って行ったのか分かる形だ。数日続けて同じ分身が買っていったこともあるし、毎日違う分身が買っていくこともあった。置き始めた頃はクラフト材料なんて需要があるのかなと思っていたが、毎日置いてみたことで定期購入されることが分かった。自分が売れないよねと思っていたものが売れた喜びはゲームの中であっても嬉しいものだ。バザーを覗いていくのはこのゲームをプレイしている人間。現実に存在している人間だ。現実にいる人が、私が商品として並べたものを喜んで買っていく。
これは私にとって認められた喜びに匹敵する。必ず売れる商品。見に来てくれるお客さん。分身しか知らなくてもこれは親近感が湧いてくる。来てくれるあなたのために毎日この商品を置いておきたいという気持ちに繋がる。クラフトの材料は最安値で販売している。元は使わないから勿体ないからスタートしたバザーだ。これで利益を得ようとは思わない。
でもふと考えた。ここにはクラフト材料があるから定期的に見に来る人がいる。よく見かける分身の名前がある。ということは馴染みのお客さんがこのバザーにはついているということだ。それは、もしかしたら、可能なのではないだろうか……。
このバザーでちょっと実験したくなった。クラフト材料を置いた箱とは別の箱にリンゴ3個を置いてみた。そして最安値から少し上乗せしてみた。ここのお金の単位はベルなので一番小さい10ベル足してみた。今まで持ちきれなくなったものだし上乗せするのはどうかなと思っていたけど試しにやってみた。すると、不定期ではあるもののこれも売れるようになった。利益が10ベルついたのだ。
ほんのちょっとの儲けだが、こうやって販売してもいいという面白さを発見した。始めはあなたのために、とやってみたことが結果的に自分のためとなって帰ってきた面白い現象が発生した。人に必要とされ役に立てた嬉しさ。少しずつでもお礼の様な形に見えてきた。誰かのために行うことはこういう形でも自分に返ってくるんだなと面白いことを見つけた。
今日も私はせっせと定位置にあなたのために材料を置く。
◽︎なつき(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
東京都在住。2018年2月から天狼院のライティング・ゼミに通い始める。更にプロフェッショナル・ゼミを経てライターズ倶楽部に参加。書いた記事への「元気になった」「興味を持った」という声が嬉しくて書き続けている。
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