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「借り物の言葉」が組織を殺す——サステナビリティ経営と仏教哲学の交差点


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:川瀬健二(2026年1月開講・渋谷/通信・4ヶ月コース)

 

「社長、あなたが発しているその『サステナビリティ』という言葉に、社員の誰一人として体温を感じていないことに、お気づきでしょうか?」

 

この問いを、私はあえて真正面から投げかけたい。2010年から15年間、私は上場企業のサステナビリティ経営の最前線に立ってきました。統合報告書の制作、ESG評価の向上、国際的なフレームワークの導入。その中で一貫して自らに、そしてクライアントに問い続けてきたことがあります。

 

「それは本当に、企業価値を向上させているのか?」

だが、現場で見えてきたのは、あまりにも皮肉な現実でした。上場企業は競うように専門部署を立ち上げ、最新の指標を追い、洗練されたレポートを世に送り出す。外部評価は上がり、株主からの視線も良くなる。しかし、その華やかな舞台裏で、確実に失われていったものがあります。

 

それが、経営者の魂の言葉と、現場の誇りです。外部コンサルタントが用意した、耳あたりの良い言葉。どこかで見たことのある、実体のないスローガン。完璧に整えられた数値と価値創造ストーリー。それを経営者が読み上げた瞬間、現場の空気は凍りつきます。社員は直感するのです。「また始まった。これは自分たちの現実とは、何の関係もない遠い世界の話だ」と。

 

サステナビリティ部門は、評価指標を満たすために必死に数字を集める。現場はそのための膨大なデータ提出に追われる。目的を失った作業の中で、組織は静かに、だが確実に自壊していきます。社内からは、売上や利益に貢献しない部署というレッテルを貼られてしまう。

 

なぜ、これほどの乖離が起きるのか。構造はシンプルです。

ひとつは、専門部署への丸投げ。

もうひとつは、経営者の言葉の不在。

 

サステナビリティが自分ごとではなく、単なる担当業務に成り下がった瞬間、組織は分断されます。これを私は、「サイレント・ディスコネクト(静かなる断絶)」と呼びたい。誰も声を上げない。しかし、誰も本気では関わっていない。この状態でどれほどKPIを精緻化しても意味はありません。なぜなら、人の心が動いていないからです。

 

優秀な人材から順に、愛想を尽かして去っていく。人材不足の昨今、莫大な費用と時間をかけて獲得したのにも関わらず、次々と去っていく。現場は疲弊し、創造性へのリソースは枯渇する。表面上は整っていても、内部は空洞化している。現在も、そして将来も、これは企業にとって最大のリスクです。

 

では、私たちはどこへ立ち返るべきか。私はここで、日本が世界に誇る経営者、稲盛和夫氏の思想を再定義したい。彼の経営の根幹には、極めてシンプルな一言がありました。

 

「利他」

 サステナビリティとは、本来この一言に尽きるはずです。誰かのために存在する。社会のために価値を生む。それを外側から押し付けられる「制約」ではなく、内側から自然に湧き上がる「意志」として持てるかどうか。仏教には「自他一如(じたいちにょ)」という教えがあります。自分と他者は切り離された存在ではなく、分かちがたくつながっている。この視点に立ったとき、経営の意味は一変します。利益は目的ではなく結果になり、評価はゴールではなく通過点になる。サステナビリティとは、不自由な縛りなどではなく、最も合理的で強靭な生存戦略そのものなのです。

 

利他で動く組織は、強い。命令ではなく意志で、評価ではなく信念で動くとき、現場に初めて「熱」が戻ります。やらされている仕事が、自らやりたい仕事へと昇華されるのです。

そして、この変革を解く鍵が、稲盛氏の有名なあの方程式にあります。

 

人生・仕事の結果 = 考え方 × 熱意 × 能力

多くの企業は能力と熱意ばかりを追いかけます。スキルを磨き、努力を強いる。しかし、最も重要なのは考え方です。考え方がマイナスであれば、どれほど能力が高くても、結果は大きなマイナスへと振れてしまう。逆に言えば、考え方さえ整えば組織は劇的に変わります。利他という軸を持ち、経営者が自らの血が通った言葉で語り始めたとき、サステナビリティは初めて魂のある経営へと脱皮するのです。

 

私はこれまで、数多くの現場を見てきました。そして確信していることがあります。外から入れられた正解では、組織は1ミリも変わりません。変わるのは、内側から溢れ出す言葉だけです。だからこそ、今必要なのは内省です。

 

「自分たちは、何のために存在しているのか」

「誰のために、その命(リソース)を使いたいのか」

その問いに、経営者自身が愚直に向き合うこと。すべてはそこから始まります。サステナビリティは、流行でも、義務でもありません。それは、企業がどう生きるかという姿勢そのものです。

 

私はこれからも、この問いに向き合い続けます。もし、同じ違和感を抱えて立ち止まっている方がいるなら、一緒に歩んでいきましょう。評価のためではなく、誰かのために。その小さな積み重ねが、やがて大きな「恩の循環」を生む。それこそが、私が信じるサステナビリティの真実なのだから。

 

≪終わり≫

 

 

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