メディアグランプリ

タケノコ掘って、時間を愛でよう

thumbnail


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

渡辺(ライティング・ゼミ1月コース)

 

「日本人はルールとしきたりや義理人情を重んじおもてなし精神が溢れる人種です。日本にはルールがあり、それを脅かすなら、国をあげて退去を命じます」

……世知辛い!!!
最近、世の中の世知辛さがよく目に入ってくる。この文章はちょうどいまX(旧Twitter)で流れてきたものだけれど、こういった感じで意図的に探さなくても、世知辛い文章ばかり流れてくる。つらい。疲れる。もちろん最近の世知辛さの方向性は外国人排斥だけではないし、この考え方を全否定できるほど世の中は単純ではないことはわかっている。

 

これは世の中の流れなのか? それとも私のアカウントだけなのか? 私だけだとしたらアルゴリズムの問題なのだから、私は潜在的にこういった投稿を希求しているというのか……? いや、そんなことはない。私はこの投稿を見ることで少なからずダメージを受けているし、自分が海外旅行に行ってこんな言葉を投げかけられたらと思ってげんなりしながらも、すべからくどの国にもあることなのだろうなと若干諦観している。

 

SNSが生まれ、人が集まり、情報が集まる。するとこういった、極端で受け入れがたいような強い主張を避けることはできない。自分の想像を超えるような考え方や生き方をする人に出会うことがある。非常に都会的な現象だと思う。自分とは全く違う考え方や生き方を知る機会を偶然得るのは、それがランダムに人を吸い寄せ続ける都会という仕組みによるからだ。刺激は強いが、疲れる。情報の氾濫だ。

 

ところで最近、友人の誘いでタケノコを掘りに行った。
といっても、彼の実家の裏山に。
家の裏がすぐ崖になっていて、石段を伝ってその上にあがる。竹林の中をうろつきながら、地面から10cmくらい頭を出している茶色いこぶを探す。これが結構難しい。土と同じ色をしているせいで、近くまで来ても案外気づかない。
どうにかそれを見つけると、まずは周りの土をくずす。タケノコを収穫するには、根を土から離すために、根ごとぶった斬らなければならない。土をどかしたら、その根元に細いシャベルを思い切り突き立てる。そしてその勢いでシャベルごと上に持ち上げてしまう。そうすると、根っこごとタケノコが土の上まで上がってくるから、あとは素手で抜き取るだけだ。
こういった調子で、合わせて10本くらいを収穫した。重労働だったし、単純なように見えて結構頭を使う場面も多かったが、やったことはシンプルで、タケノコの収穫だった。時計を見ると3時間も経っていた。

タケノコを掘った3時間の間、私はタケノコのことしか考えていなかった。どこにタケノコが生えるのか。どっちの向きに根が伸びているのか。どう掘り起こしたら、タケノコの傷を最低限に抑えられるか。どのタケノコが一番おいしそうか。その3時間の間、タケノコに関係すること以外は何も起こらなかったし、タケノコ以外のことを考える必要がなかった。シンプルな時間が過ぎた。
掘り終えると、ここ数日の刺激で落ち込んでいた気分が、かなり良くなった。タケノコを掘ること以外何もしていないのだが、それだけで事が済んだことが、なによりうれしかったし、安心した。何も想定外なことだとか、理解できないようなことは起きなかった。何にも驚かされる心配がなく、誰にも急かされる恐れもない。自分と赤の他人と自分の出来を比べる必要もない。こんなに安寧な空間に身を浸したのはいつぶりだろうか。私は、可能な限りタケノコを、その可食部が残るように掘り起こすことだけを考えればよかった。

 

そしてこの安寧な環境においては、時間の過ぎ方が自然だった。まどろっこしい言い方だが、満足感のある時間の使い方だった、といえばいいだろうか。本来人間ひとりが3時間でできることというのは、超高速で難解な英語の問題を解くことでも、東京から台北まで超スピードで移動することでも、巧みに話術を駆使して1億円の商談を成立させることでもなくて、たけのこを10本掘り起こすことだけなのだ。それ以上のことは、普通はひとりの人間が抱える必要はないのだ。こう並べてみると、いかに現代人が大量のタスクを背負って日々を生きているかがよくわかる。

 

思うに現代の、特に都会的な環境に身を置く人々は、生活が情報過多に陥っていると思う。都会は、転じてSNSは、自分の生活の範囲を超えた情報や、自分の理解を超える意見、自分の理想を超えた幻想を毎日のように見せつけてくる。もちろん閉鎖的な環境もまた不健康なのは間違いないのだが、毎日のように自分の常識や価値観を塗り替えられるような体験をする必要まではないはずだ。Instagramの普及が、若者の自己肯定感を下げるといった言説も、あながち否定できない理由がここにある。

 

私の目の前にタケノコがあるのならば、ひとまずタケノコのことだけを考えればいい。それだけで済むような生活が、私たちにはもっと必要なはずだ。

 

 

 

 

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院カフェSHIBUYA

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目20番10号
MIYASHITA PARK South 3階 30000
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00



■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「名古屋天狼院」

〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先
Hisaya-odori Park ZONE1
TEL:052-211-9791
営業時間:10:00〜20:00


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00



関連記事