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大きく変わる


 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:仲西悠歌(ライティング・ゼミ GW集中講座)

 

人生のどこかで、自分自身を根こそぎ変えてしまいたいと願う瞬間がある。現状に対する耐えがたい苛立ちであったり、まだ見ぬ自分という可能性への、あまりに熱烈な渇望であったりする。何者かになりたい。このままの自分で終わりたくない。その想いが心に留めておけなくなったとき、人はようやく重い腰を上げ、行動へと突き動かされる。

 

「変化」の扉を叩くべく宅建(宅地建物取引士)という国家資格の取得に挑んだ。突きつけられたのは、単なる知識の習得などではなく、私という人間のこれまでの在り方を根本から見つめ直す、きわめて個人的で残酷な性格改善のプロセスだという事実だった。

 

「大変だ」という言葉では生ぬるいほどの現実が、幾度も私の前に立ちはだかる。

 

想像以上に高く、冷徹だった。難解な法律用語や膨大な暗記量はもちろん。

十五パーセント前後という合格率の低さが、約三十万人もの挑戦者の心に静かな、確実な、プレッシャーを与え続ける。

 

あーー これ受かるんだろうか。

30歳までに受からなきゃ……。

 

不安を鼓舞するように、机の前に「宅建合格!今年合格!絶対合格!」見える位置に貼り。へこたれてきたら幾度も「絶対合格」唱え続けた。家じゃなかったら頭のおかしい奴と思われる勢いだがそんなこと気にしてる余裕なんてものはない。

 

社会人として限られた時間をやりくりする中では、どうしても「効率」や「最短ルート」といった甘美な言葉に誘惑されるものだ。語呂合わせの歌を覚えて、分かったつもりになる。けれど、本質的な理解が伴っていなければ、少し角度を変えて問われた瞬間に足元をすくわれる。聞き方が違うだけで、同じことを聞かれているのに全く別の問題に見えてしまうのだ。模試で合格点が取れてても、本番は違う問題、年々問われ方は新しくなってる。この不安から勝てるようにテキストを何度も破けボロボロになったページをめくり続け、毎晩絶対取りたい法律の条文や表を唱えてから寝るようにした。寝につくまで目を瞑りながらテキストを思い出し頭の中で読んでいた。

 

これをできるようになったのは、何回か不合格を経験してようやく私は気づいた。「私は運では受からない。小手先のテクニックでは到底太刀打ちできないんだ」と。自己の理解力の限界という厳然たる事実。多くの人が途中でペンを置いてしまうのは、試験そのものの難度もさることながら、「できない自分」をありのままに直視し、それを受け入れるという精神的苦痛に耐えかねるからだろう。

 

この苦悶の中で、私はある既視感を覚えた。かつての高校受験に明け暮れた日々だ。偏差値を上げること、基礎を徹底的に叩き込むこと、定期テストで着実に点を取り続けること。当時の私にとって、それが世界のすべてだった。

 

振り返ってみれば、最も成績が伸びたのは、気合を入れ直して頑張り始めた時ではなかった。むしろ、自分の弱さを分析し認め、「基礎のここが理解できていない」という決定的な欠陥を直視せざるを得なくなった瞬間からだった。華やかな応用問題に目を奪われるのをやめ、偏差値という残酷な数字を一度飲み込んで泥臭く教科書の基本に立ち返る。そのとき初めて、変化の歯車が静かに回り出す。

 

この「高校受験の法則」は、驚くほど正確に宅建の学習にも当てはまる。合格に必要なのは完璧な人間を演じることではない。自分は今何ができていないのかをいかに早く見つけ出し、迅速に改善のサイクルへ繋げるか。ただそれだけだ。

 

模試の結果が振るわない時、つい自分を正当化する言い訳を探してしまう。「たまたまミスが重なっただけだ」「まだ本気を出していないだけだ」と。

しかし、その失点こそが現在の自分の等身大であると、無条件に認めなければならない。どこが曖昧で、どの知識が混同しているのか。その欠落を早期に発見することだけが、改善への唯一の入り口となる。基礎を習得する工程は、自分の無知を一つひとつ潰していく作業だ。それはときに、積み上げてきた自尊心を削り、喉の奥がヒリつくような痛みを伴う。

 

思えば、この「大変さ」の正体は、自分をアップデートする際に生じる「軋み」のようなものだった。昨日までの慣れ親しんだ思考回路を一度壊し、新しい知識の型に自分を無理やり流し込む。その過程で生じる拒絶反応が、私を何度も挫けさせようとした。けれど、その軋みが大きければ大きいほど、私は自分が変わりつつあることを実感した。

かつての私は、どこかで「自分を高く見せたい」という見栄に縛られていた。できない自分を認めるのが怖くて、やり直しのきかない現実から目を背けていたのかもしれない。だが、この一年泥にまみれるようにして基礎をさらった経験が、私に真の謙虚さを教えてくれた。華々しい成功体験よりも、一問のミスに悶え、自分の無知を認めた瞬間のほうが、よほど尊いのだ。

 

「大変だ」と口にしながら踏み込み続けたあの一歩一歩が、今の私の背骨を作っている。受け入れることは、決して敗北でも停滞でもない。それは、より高く跳ぶために一度深く膝を曲げるような、力強い前進のための助走だ。

 

この挑戦の果てに、過去よりもずっと強く、しなやかな自分に出会えることを確信している。失った時間は戻らないし、選ばなかった世界線をロードし直すこともできない。「正しかった」と言えるように努力し続けることだけは、今この瞬間の私に託されている。

 

大きく変わるぞ、ここから私は始まるんだ。

強く、つよく願いながら、今日も愚直に、変わり続けることを選ぶ。

 

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