メディアグランプリ

大人は人の期待を裏切らない限り学べない


 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:桜井陽(2026年・GW集中コース)

 

教室で先生が「えーと、みなさん、ここまでのところで、わからないことはありませんか」と声を張り上げながら見回す。老若男女が集まるその教室に私も座っている。何人かの手があがり、質問に対して先生が丁寧に答えていく。先生と私の目が合った。「桜井さんは……、大丈夫そうですね」。「え? ちょっと全然大丈夫じゃないんですけど」と訴える間もなく、話題は次に移っていった。

 

私は学びフリークなので、あらゆる学びの場に顔を出している。学生時代から学ぶことが大好き、というわけではなかった。ところが、社会人としての経験を積み、40歳を超えたあたりからなぜか激しい知識欲に目覚めてしまった。大学の公開講座、企業や団体主催のセミナー、クリエイティブ系のワークショップなどに、結構な時間とお金を費やして通ってきた。

 

新しいことを学ぶ気満々の私。それなのに「桜井さんはわかっていますよね」的な反応をされることが多々あったのだ。冒頭のやり取りはその典型例。「わかってませんから! というか、わかっていたらここに来ていませんから!」。私の心の叫びは誰にも届かず、かといって講義の流れを止めるのもはばかられ、釈然としない日々を送っていた。

 

ついに私の自意識は暴走を始める。いつも眉間にシワを寄せていて考えてインテリ風を必死で装っているからか? 20代、30代のころに事件担当の新聞記者として刑事(デカ)さんたちと渡り合ってきた名残りで、今もたまに刑事コロンボっぽくたびれたコートを着てヨタついてるからか? 重厚なMacBook Proをドヤ顔で机に広げてできる風を気取っているからか? 金払いのよさそうなお客さんだと見なされてご機嫌を取られているのか? 完全なる妄想に囚われてしまう。 

 

恐ろしいことに「わかっていますよね」という扱いを受け続けると、だんだんこちらも「知ってますよ。当たり前じゃないですか」と優等生的な振る舞いになってくる。しかし、知ったかぶりでは何も学べない。そして過去の自分や今の世代に、あっという間に追い越されていく。これこそ「老い」だ。

 

ひな鳥がお腹いっぱいのふりをするだろうか? するわけがない。腹が減ったと全力で鳴くから、親鳥は餌を運んできてくれる。それに、かつての事件記者時代、一番恐れられたのは幼児のように質問できる記者だった。例えば警察が発表した容疑者が、明らかに男性の名前だったとする。怖い記者は発表を見ながらも「容疑者は男ですか、女ですか」とさらっと聞いてしまえるようなやつだ。学びの場も一緒のはずだ。「わからないので教えてください」と子どものように力一杯叫ぶことで、ようやく先生は教えてくれる。

 

しかし、50歳超の人生仕上がってしまった私が「餌がほしい!」とピーピー鳴いたらどうだろう。一歩引いて眺めてみると、キモい。キモくない鳴き方はあるのか。わからない。いや、どうすれば……。新人のように手を意気揚々と上げる50代、正直ちょっと怖い。でも、それをやらないと、静かに沈んでいってしまう気がしている。

 

今までやったことのない何かに挑戦する。そのとき、人は「初心者」と呼ばれる。何かを身につけようとするとき、誰もが初心者の状態から始まる。右も左もわからない中で、他者の助けを借りながら徐々に上達していく。良い先生に教えを請うことができれば、上達のスピードも早い。そう。「わからない」を武器に新しい世界での泳ぎ方を覚えていくのは初心者の特権だ。

 

ところが、初心者として扱われるのは、実は簡単なことではないのだ。世間は50歳超の男性である私を初心者としてみなしてくれない。この1〜2年だけでも、本格的に写真に挑戦したり、展覧会の作りかたを学んだり、大学(通信制)で日本文学を専攻したりと、毎日初心者として生きている。それでも、難しい顔をして教室でふんぞりかえっていれば「知っている人」のカテゴリーに入れられてしまうだろう。

 

そこで導き出した一つの答えが「いい大人が初心者として学びたければ、人の期待を裏切れ!」ということだ。単純に言い換えると「アホになれ」

 

とんでもなくピントのズレた写真を恥ずかしげもなく「こんなの撮れましたけど」と提出する。発言するときは「いや〜、難しくて全然わからないですね〜」と正直に前置きしつつ、とりあえず自分がわかったことを謙虚に述べてみる。ときに講義中に口をポカンと開けてみたり、首を傾げたりとボディーランゲージも駆使して「わかりません!」を精一杯伝える。50歳超のオトコが、仕事の場で期待されるコードを裏切るような態度を学びの場では見せることでようやく、「あ、この人、わかってないのね」と教えてもらえるモードが起動するのだ。

 

ええ。わかりますよ。生まれてから乳幼児期を経て、保育園や幼稚園、小中学校、高校、大学など、学校時代は各ステージで先生や親からの「期待」を受けて生きてきましたよね。そして職場や家庭、もっと広く社会から今度はちゃんとした振る舞いを「期待」されてきましたよ、我々は。その期待を裏切るのって、もはや生理的な抵抗がありませんか?

 

それでも、勇気を持って人の期待を裏切ることでしか学べないことがある。一定の年齢を重ねてもなお学びたいと願うみなさん。もし本当に新しい世界に踏み出したいのであれば、「初心者になるスキル」こそが必須の技術と言えるだろう。学びたければ、まず他者の期待を破壊しろ! 「できる人」を装う限り、人は成長しない。

 

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院カフェSHIBUYA

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目20番10号
MIYASHITA PARK South 3階 30000
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00



■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「名古屋天狼院」

〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先
Hisaya-odori Park ZONE1
TEL:052-211-9791
営業時間:10:00〜20:00


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00



関連記事