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ラグビー部の15番を、私はいまだに探している《週刊READING LIFE Vol.358「誇り高き戦士」》


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

タイトル:ラグビー部の15番を、私はいまだに探している≪週刊READING LIFE「誇り高き戦士」≫

記事:雨宮さよ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

「あなたが好きになる人ってみんな似てるわね」

失恋したと泣きながらバーボンソーダをあおる私に、当時の親友が言った。

 

その瞬間、少し酔っていた頭の中に、過去に好きになった人たちの顔が何人か浮かんだ。たしかに、どこか似ている。でも、全員タイプが同じというほど単純ではない。しかし共通している“何か”は確実にあった。

 

人は、自分が憧れた人物像から、意外と逃げられない。仕事の選び方も、恋愛や人との距離感も、「どんな人を信用するか」も、気づかないうちに、その影響を受けているのだと思う。

 

私は高校時代、ラグビー部のマネージャーをしていた。それまでラグビーという競技をまったく知らなかった私は、スコアを記録するために必死でルールを覚えた。

 

サッカー部の男子たちは良くモテていた。我がラグビー部の部員たちはもっと無骨で、スクラムの肉弾戦や、泥んこになったグラウンドへ、ものともせず飛び込んでいく。試合後の選手たちは全身を汗と土にまみれ、ロッカールームは湿布と泥の匂いが混ざっていた。

 

なかなか女子高生には理解しにくい男らしさだったのかもしれない。なのに私は、そんな野武士みたいな野郎どもが、やたらとかっこいいと思っていた。

 

そして試合になると、なぜか毎回、15番のフルバックを目で追っていた。

 

ラグビーでフルバックとは、最後の防衛線と呼ばれるポジションで、点を取るスター選手ではない。最後尾で全体を見て、相手のキック処理をして、抜かれた穴を埋める。自陣に攻め込まれたときは、最後のタックル要員にもなる。

 

派手ではないし、観客の歓声が集中するポジションでもない。それでも思春期の私は、なぜかフルバックという役割にしびれていた。当時は理由なんてわからなかった。

 

でも今振り返ると、私はあの頃から、「誇り高き戦士」という人物像にどうしようもなく惹かれていたのだと思う。

 

ただし、それはいわゆる“陽キャ主人公”ではない。みんなの中心にいて、太陽みたいに仲間を引っ張るタイプとは少し違う。それはそれで素敵だなと素直に思っていたが……。

 

でも、私が惹かれる誇り高き戦士は、もっと静かで、どこか少し陰があって、自分のことを多く語らない人だった。しかも、最後は滅んでいきそうな気配すらある。

 

我ながら、なかなか一筋縄ではいかぬ面倒くさい趣味だと思う。でも昔から、そういう人物像に妙にしびれてしまうのだ。

 

他人に理解されなくても、自分の中の筋だけは通す。誰も見ていなくても、自分の役割を引き受ける。派手に勝つことより、最後まで立っていることを選ぶ。そういう人だ。

 

たぶん私は、「目立つ人」より、「支える人」に惹かれていたのだと思う。もちろん、当時そんなふうに分析していたわけではない。高校生だから、もっとぼんやりしていた。ただ、「なんか好き」という感覚だけがあった。

 

人の好みって、意外と説明できない。でも年齢を重ねると、昔の感覚が人生の選択に繋がっていたことに気づく瞬間がある。

 

社会人になった私は、しばらく秘書の仕事をしていた。秘書というと華やかに見えるかもしれないが、実際はかなり地道な裏方だ。前に出るのは上司で、自分ではない。

 

相手のスケジュールを確認し、空気を読み、トラブルが起きないように先回りして動く。誰かが気持ちよく仕事をできるように、裏でひたすら整える仕事だった。

 

しかも、秘書という仕事は「気づくこと」が仕事でもある。相手が言葉にする前に動く。会議室の温度、来客の表情、上司の機嫌、進行のズレ、時間の押し引き。そういう細かい違和感を拾い続ける。

 

私は最初、その感覚がまったくわからなかった。でも、できる先輩の秘書ほど、そこを見ていた。そして本当に仕事ができる人ほど、自分のミスを人のせいにしなかった。

 

当時は、「大人ってすごいな」と単純に思っていた。でも今思えば、私はあの頃から、“引き受け方”を見て学んでいたのだと思う。

 

誰かのせいにして逃げる人と、「すみません、こちらで対応します」と前へ出る人。トラブルが起きた瞬間、人って本当に性格が出る。そして私は昔から、後者に弱かった。

 

前に出たいわけではない。でも、全体が崩れないように支える役割には強く反応する。人生で初めて、「貢献」という感覚を知ったのも秘書時代だった。

 

そう考えると、思春期のころフルバックにしびれていたのも、少しわかる気がする。

 

点を取る人ではなく、その後ろで最後の守りになる人。誰かが抜かれたら、最後に止める人。目立たないけれど、その人がいないと全体が成立しない。

 

私は昔から、そういう役割に弱いと認めざるをえない。たぶんそれは、小さい頃から触れてきた物語の影響も大きいと思う。

 

滅びかけた国。最後まで守ろうとする騎士。報われない役目を引き受ける人。主人公より、横にいる補佐役や、最後尾で踏ん張っている人物に惹かれていた。

 

負け戦で軍を敗走させるとき、殿(しんがり)という、最後尾を守る役は、その軍の最強の戦士が務める。そんなストーリーを漫画で読んだときには、子どもながらに異様に興奮したのを覚えている。

 

しかも、そういう誇り高き騎士たちは、だいたい口下手だ。主人や上司におべんちゃらが使えない。無骨で、不器用で、でも優しい。最高だ。

 

少し古びていて、どこか時代遅れなくらいの感じもいい。華やかではないのに、自分の美学だけは失わない。あの空気感に、私は昔から弱かった。

 

ここまで書きながら、「何の話なんだこれは」と苦笑している自分もいる。でも、人にはそれぞれ、心の中に住み着く理想像みたいなものがあるのだと思う。

 

それは別に、現実に存在しなくてもいい。実在しないのに、人の人生に影響を与える。不思議な話だ。

 

たとえば、「強い人」に憧れると言っても、人によってイメージは違う。誰より前に立つリーダーを思い浮かべる人もいれば、絶対に弱音を吐かない人を想像する人もいる。明るくて社交的な人を「強い」と感じる人もいるだろう。

 

私は昔から、少し違った。どちらかというと、「最後まで逃げない人」に惹かれる。

 

口数は少なくても、自分の役割を黙って引き受ける人。損得より筋を優先する人。派手な成功より、「この人は逃げないな」と感じる人。逆に、どれだけ華やかでも、責任からするっと逃げる人を見ると、急に冷めてしまう。

 

秘書時代、いろいろなタイプのサラリーマンを見てきた。出世の階段を駆け上がる人、途中で脱落する人、要領の良い人、悪い人。そこでも私は、能力より先に、“引き受け方”を見ていたのだと思う。

 

それはその後の仕事でも同じだった。経営をしていると、本当にいろいろな人を見る。話が上手い人もいるし、自分の魅力を知っている人もいる。ずるさ一歩手前の要領よしもいる。SNSで目立つ人もいる。

 

でも結局、最後に信用されるのは、「逃げない人」なのだと思う。

 

トラブルが起きたとき。空気が悪くなったとき。責任が重くなったとき。そういう場面で、人は本性が出る。そのときに踏ん張れる人、残る人がいる。

 

そして、私はそういう人を見ると、どうしても心が動く。たぶんそれは、「自分との約束を守る人」だからだ。人は、誰かとの約束は守れても、自分との約束を守り続けるのは難しい。

 

誰にも見られていない場所で、今日もやると決めたことを続けること。逃げたくなる場面で、自分で決めた役割を投げ出さないこと。損をしても、自分の中の基準を曲げないこと。

それは思っている以上に胆力がいる。

 

経営をしていると、華やかな能力より、そういう部分が最後に残るのを何度も見てきた。売上が落ちたとき。クレームが来たとき。人が辞めたとき。現場が崩れそうなとき。誰かのせいにして逃げる人もいれば、自分の持ち場を黙って守る人もいる。

 

私はたぶん、そういう場面を見るたびに、昔ラグビー場で見ていたフルバックを思い出しているのだろう。最後尾で、全部を見ていた15番を。

 

現場を回していると、「この人は逃げないな」と感じる瞬間がある。朝一番の電話。現場でトラブルが起きた日。予定が崩れ、人が足りず、空気が張りつめる。そういう朝に、人の本性が出る。

 

言い訳から入る人もいる。既読が止まる人もいる。誰かの責任にしようとする人もいる。

でも、ごくまれに、「すみません、まず動きます」と前へ出る人がいる。

 

私は昔から、そういう人に弱い。たぶん、ラグビー場で最後尾を守っていた15番を、どこかに重ねてしまうのだと思う。

 

私の仕事である、遺品整理の現場は、予定通りに進むことばかりではない。搬出の日にエレベーターが止まることもある。駐車しているトラックが邪魔だと怒鳴りこまれるときもある。夏場は熱中症寸前になりながら作業する日もあるし、突然お客様が涙を流し始めて、現場全体の空気が変わることもある。

 

そんなとき、不思議と人間の本質が見える。

 

誰かが困っているときに、黙って重い荷物を持つ人がいる。空気が悪くなった瞬間、冗談を言って場を和ませようとする人がいる。指示される前に、水を買いに走る人もいる。逆に、自分の持ち場だけを守ろうとする人もいる。

 

もちろん、人間だから余裕がなくなる日はある。私だってある。でも、最終的に「あの人とまた仕事したい」と思うのは、完璧な人ではない。逃げない人だ。

 

ミスしてもいい。疲れていてもいい。でも、自分の役割から完全に降りない人。自分との約束を投げない人。私はそういう人を見ると、どうしても胸が熱くなる。

 

たぶんそれは、昔からずっと、「最後まで立っている人」にしびれてきたからなのだと思う。

 

たしかに私は、昔から同じ種類の人というか、同じ匂いのする人を好きになっていた。それは、どこか孤高の人たちだった。正直、好きになるには十分面倒なタイプばかりだったと思う。でも私は、そういう人たちに惹かれてきてしまった。

 

たぶん私は、その人に「誇り高き戦士」のようなものを求めていたのだと思う。清冽(せいれつ)な孤独に耐える強さ。誰にも理解されなくても、自分の美学を曲げない強さ。簡単に群れない感じ。

 

みんな素敵な人たちだった。でも結局、私が勝手に求めていた“清冽さ”の域まで達している人には、出会えていなかったのかもしれない。いや、そもそも、そんな人は恋愛なんかにうつつを抜かさないのではないか。

 

そんな絶望を、私はどこかでずっと持っていた気もする。今思うと、私は恋愛をしていたというより、「この人は最後まで逃げない人だろうか」を見ていたのかもしれない。

 

一緒にいて楽しいとか、話が合うとか、もちろんそういうことも大事だった。でも、それ以上に気になってしまう部分があった。苦しい場面で、この人はどうするのだろう。

 

不利になったとき、誰かのせいにする人だろうか。それとも、自分の役割を引き受ける人だろうか。そんなことばかり見ていた気がする。今考えると、私もかなり面倒くさい。もっと普通に恋愛できれば楽だったのに、とは思う。

 

でも結局、人は、自分が「美しい」と感じてしまった生き方から逃げられないのだと思う。

 

もちろん、現実はそんなに綺麗じゃない。みんな疲れるし、弱るし、逃げたくなる日もある。私自身、片づけると言っていた部屋は全然片づかないし、読もうと思った本は三ページで閉じる。

 

それでも、心のどこかでは、ずっと探している。誇り高き戦士を。

 

いや、探しているというより、自分もそうありたいと思っていると言ったほうが、たぶん近い。

 

他人から理解されなくても、自分の中の筋を持つこと。誰も見ていなくても、引き受けるべきものを引き受けること。派手じゃなくても、自分の役割から逃げないこと。

 

私は、そういう生き方にずっと憧れてきたのだろう。

 

そして人は意外と、自分が子どもの頃に憧れたものから逃げられない。私はたぶん、かなり早い段階で、「誇り高き戦士」という幻想に取り憑かれていた。実在するかどうかもわからないのに。

 

でも、実在しないからこそ、人はそこへ何かを投影するのかもしれない。理想とか、美学とか、こうありたいという願望とか。そういうものを。

 

だから今でも、ときどき考える。私は結局、何にしびれていたのだろう、と。ラグビー部の15番だったのか。静かな補佐役だったのか。最後まで立っている人だったのか。

 

あるいは、自分の役割を黙って引き受ける、その姿勢そのものだったのか。正直、いまだによくわからない。わからないまま、これからも惹かれ続けるのだと思う。

 

電車の中でも、仕事の現場でも、ときどきそういう人を見かけることがある。派手な人ではない。でも、黙って自分の役割を引き受けている人だ。私はたぶん、そういう背中を見るたびに、無条件で胸が熱くなってしまう。

 

そして私は、これからも、人の肩書きや外見の魅力より、「この人は最後まで自分の役割を引き受ける人だろうか」を見てしまうのだと思う。

 

思春期にラグビー場で見ていた15番を、いまだに探しながら。≪おわり≫

 

 

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