モノトーン革命《週刊READING LIFE Vol.366「もう戻れない」》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:松本萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
もう戻れない、モノトーン以外の洋服を着る日々になんて……
7年前まで「モノトーンが似合うのは、女優やモデルみたいにスタイルが良くて、顔立ちがいい人だけ。私みたいに、さほど特徴のない顔で一般的な体型の人が着たら、地味になっちゃう。地味にならないよう、色や柄で華やかさを足さなきゃ」と思い込んでいた。
そんな私が一変、今ではモノトーンばかり着ている。クローゼットを開ければ白や黒ばかりが並んでいる。たまには色味のあるものを着ようと、淡い黄色のカーディガンを羽織っていたら、「そういう色も着るんだ! 珍しいね」と友人に言われてしまった。
7年前の今頃、ファッションの講座を受けたことで、選ぶ洋服の種類がガラッと変わった。パンツばかり履いていたのがスカートに替わり、柄物の洋服が無地に替わった。それと同時に「可愛い服を着ているね」「自分に似合う洋服を着ているよね」と言ってもらえることが多くなった。
洋服のセンスが変わると同時に、生き方や考え方も変わっていった。色や柄で自分を飾るのを止め、シンプルな洋服を身につけ続けた結果、見栄を張ったり、自分を格好良く見せたいという気持ちが消えていった。やせ我慢をすることが無くなり、うまくいかない出来事が起こっても「仕方ない。今がその時じゃないだけ」と割り切れるようになった。
モノトーンの洋服たちは、私のマインドを変え、生きやすい人生をもたらしてくれた。
30代中頃までの私は、プライベートを蔑ろにしていた。長期休暇となれば海外に行き、週末は友人と遊んだり、趣味の弓道をして楽しく過ごしていたが、仕事とプライベートどちらが大切かと聞かれれば、「仕事」と答えていた。大切という言葉は、少し語弊があるかもしれないが、優先度合いは仕事の方が高かった。仕事で頑張って成果を出し、評価されてこそ、自分の存在意義や存在価値があると信じていた。そのため、仕事帰りに友人と会う約束をしていたのに、「今日中にここまで終わらせなきゃだめだ」と仕事を優先して友人を待たせたり、ドタキャンしたこともある。友人には申し訳ないことをした。
30代後半になり、異動した先で仕事内容や働き方が変わると同時に、「このままで私は幸せなのだろうか」という思いが芽生えるようになった。今までの職場では定期的に土曜出勤があったため、週末の予定を極力入れないようにしていたが、異動先は週末の出勤がなかった。残業も減ったことだし、今までやってこなかったことに挑戦してみよう。そんな気持ちが芽生えた矢先、毎日読んでいる企業家のメルマガが目に留まった。
「おしゃれレッスンを開催します」
モデル事務所を経営する企業家が、一般向けにファッション講座を開催する告知文が書かれていた。毎日発信されるメルマガには、ファッションのこと、プライベートのこと、マインドのこと、色々なことが書かれていた。歯に衣着せぬ文章が痛快で、お昼に発信されるのを楽しみにしていた。
その中でもファッションに関する文章は、当時の私にとって驚くものばかりだった。
ファッションに自信がないなら、柄は着るな。
バッグと靴まで入れても3色で抑える。
引き算こそ美学、つけ足しがダサい。
センスは知識量。
当時の私はどれも実践できていなかった。これも何かの縁と思い、講座に申し込むことにした。
メルマガの印象から厳しい人なのではと想像していたが、全くそんなことはなかった。ハッキリとした物言いではあるものの、もったいつけたり、飾った言い方をせず、今までの経験から生み出される説得力のある言葉ばかりだった。
講座の中で、持っている洋服を10着持って行き、体型や雰囲気に合った洋服かを見てもらう機会があった。多くの受講生たちが「似合わない!」と言われる中、私に言われた言葉は「少年なんだよね」
当時の私はパンツスタイルが大半で、生地は綿素材が多く、ボーイッシュな洋服ばかりだった。「あなたの体型だと素材は柔らかくてフェミニンな洋服だったり、体の曲線を生かす洋服が似合うんだけど…… 今は若いから少年だけど、このまま年齢を重ねると『おじさん』になるわよ」
色々な意味でびっくりした。
子供のころから自分はボーイッシュな顔立ちだと思っており、そのため洋服もボーイッシュなものが似合うと思っていたが、どうやら女性らしい洋服が似合うらしい。ウエストに比べて腰回りが大きいのが子供のころからのコンプレックスで、敢えて隠すようにしていたのに、それを出したほうがいいなんて。そして極めつけは「いつかおじさんになる」だ。女性として生まれたからには女性のままでいたいのに、今のファッションを続けていたらどうやら叶わないらしい。
講座の中で同行ショッピングがあり、私に似合うと言われた洋服は、淡い色合いのニットと今まで履いたことのない白色のプリーツスカートだった。受講生仲間からは「可愛い」「似合っている」と言ってもらったが、今まで着たことのない洋服だったのでドキドキしながら購入した。
講座が終わって少し経ったころのことだ。関西に住む幼なじみが東京に来るので、会うことになった。久しぶりに会うし、おしゃれをしていこうと、ショッピング同行のときに購入したニットとスカートで行くことにした。ご飯を楽しみながら話しをする中で、「さっき待ち合わせしたとき、どこにいるのか分からなくキョロキョロしちゃったよ。今までと全然雰囲気が違うから、気がつかなかった」と言われた。
ファッションが違うだけで、長年の友人が私だと気がつかなかったことに驚いた。それと同時に、ファッションの講座を受けたものの、どこかで「たかがファッション」と思っている自分がいることに気がついた。たかがではなく、されど、なのだ。
その時初めて、自分の着る物への意識が芽生えた。洋服が違うだけで、周囲に与える印象は違う。ましてや自分に似合わないものを着ていたら違和感のあるファッションになり、それが私に対しての違和感に繋がるのではないか。
家に帰り、改めて講座のテキストを見返した。自分の体型に合うファッションが書かれているページを写メし、自分に似合う洋服か分からないときは、写メを見て確認してから購入するようにした。講座で習った通り、頭の先から足先までのトータルコーディネートを意識すること、色味は3色までにすること、無地メインにすることを忠実に実行した。そうしたところ、職場でもプライベートでも「おしゃれだね」「似合っているね」と言われるようになった。
ファッションを通じ、自分に似合うものを身につけることの心地良さを知った。
そして、自分に似合う洋服を身につけることを通じ、「自分」に意識を向けるようになった。
自分はボーイッシュな外見と思い込んで生きてきたが、実はそうではなかった。ということは、外見やファッション以外も、自分のことを勘違いしていることがあるんじゃないか。
それ以降、自分に「なぜ?」と問いかけるようになった。
「○○すべき」という考えが浮かんだとき、「なぜ自分はそう思うの?」「本心からそう思っている?」「私ではない、誰かの考えに影響されていない?」自分が心から望んでいることなのか、それとも周りの目を気にしているだけなのかを問うた。モヤッとしたとき、「何に対して私はモヤッとしたの?」「私はどうしたい?」「この気持ちを解決するために、今私ができることは何?」と俯瞰して自分を見るようにした。
そうすると、徐々に自分の本音に気がつくようになった。友人の言動に対し「○○すべき」と不満を抱くとき、「自分であったらこうするのに……」と心から思うときもあれば、自分も本当はそう振る舞いたいのにできなくて、恨めしく思っているときがあることに気がついた。同僚が何人かで飲みに行ったことを後で知り、「なぜ自分は誘われなかったのだろう…… 嫌われているのかな」とモヤッとしたとき、「さほど飲めない私が、酔っ払って楽しそうにしている同僚たちの輪に入れなかったとして、楽しい時間を過ごせただろうか」と問うてみると、家でのんびりするのが好きだから、飲み会に行かなくても楽しく過ごせている自分に気がついた。
自分への問いかけを続けることで、勘違いや思い込み、偏った考えに囚われ、がんじがらめになっていることに気がついた。通りで生きづらいわけだ。
モノトーンの洋服を着たことで、外見だけでなく、内側もシンプルに、そして自分らしい自分で生きられるようになった。モノトーンが私に変革をもたらしてくれたと言っても、過言ではない。
つい先日のことだ。そろそろ仕事を終えて帰ろうとフロアを歩いていたとき、知り合いを見かけて声を掛けた。すると第一声が「洋服素敵だね」だった。
その日は白色の半袖ニットに白色のスカート、靴と鞄も白色が基調で、ほぼ白色のワントーンコーデだった。7年前の私だったら、白色のワントーンコーデなんて、膨張色だし「私が白色の洋服を着るなんておこがましい……」と、恐れ多くて着られなかった。
知り合いの言葉が嬉しかったこともあるが、苦手意識を克服して自分に合う洋服を選択できるようになり、そして胸を張って着られるようになった自分が誇らしく思えて嬉しかった。
外見もマインドも、どちらも唯一無二の私だ。外側も内側も繋がっている。自分に合う外見に整えることで、私はマインドも整えることができた。「大事なのは見た目ではなくて中身」と言って、ファッションを侮ってはいけない。ファッションを変えることで中身を変えることができる。そのことをモノトーンの洋服たちが、私に教えてくれた。
❏ライタープロフィール
松本萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
兵庫県生まれ。東京都在住。
2023年6月より天狼院書店のライティング講座を受講中。
「行きたいところに行く・会いたい人に会いに行く・食べたいものを食べる」がモットー。趣味は通算20年以上続けている弓道。弓道と同じくらい、ライティングも長く続けたいと思い、奮闘中。
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