子育ては親育て
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:福乃 玲(ライティング・ゼミ名古屋会場)
「習い事は何をしていますか?」
これは、ママ友との会話の定番中の定番だ。
わが家も例にもれず、いくつか習い事をしている。
もっとも、私は小さいうちは遊ぶのが仕事だと思っている。勉強だって、まずは学校のことができれば十分だ。
けれど息子は違うらしい。
あれもやりたい、これもやりたい。
今やっている習い事は、すべて息子が自分からやりたいと言って始めたものだ。
私は仕事をしているので、送迎にも限界がある。だから新しい習い事を始めるときは、自宅から通える範囲で二つほど候補を探し、体験に行って比べるようにしている。
そして最後は息子に選んでもらおう。
そう決めていた。
ところが、実際にはそう簡単ではなかった。
最初に悩んだのは習字だった。
授業で字を褒められたことがきっかけで、息子が習字をやりたいと言い出したのだ。
今の時代に習字? そう思ったが、今の時代だからこそ手書きの文字に価値があるのかもしれない。そう義理兄から言われ、私は気持ちを切り替え、ネットで見つけた二つの教室に体験を申し込んだ。
一つ目は、公民館の一室のような場所だった。
生徒はなんと一人。しかもその日は、その生徒が来ておらず、息子一人だった。
先生は少し物静かで、級や段の認定もないらしい。そして、教室へ向かう道が狭すぎる。駐車する際、車を擦らないかと冷や冷やしていた。ただ、息子は初めて筆を持たせてもらい、とても楽しそうにしていた。
体験できるのは一回。この日で体験は終わった。
一方、二つ目は人気の教室だった。
先生は明るく、生徒もたくさんいる。級や段の認定もあり、月謝はむしろ安い。駐車場にも問題がないし、四回も体験できるらしい。
どう考えても、こちらの方が魅力的に見えた。
一回目の体験が終わった後、息子に聞いた。
「どっちが良かった?」
「一つ目!」
即答だった。
「なんで?」
「先生にいっぱい見てもらえそうだから」
私は思わず言った。
「でも、生徒が一人って寂しくない? 級とか段とかあった方が楽しいかもしれないよ」
すると息子は、少しむっとした顔で言った。
「そんなの僕はどうだっていい! 僕は字が上手になりたいから習字に行くんだ」
ドキッとした。その通りだ。
本質からずれていたのは、私の方だったのかもしれない。
生徒が多い方が安心。認定制度がある方が分かりやすい。
月謝が安い方がありがたい。駐車場が怖くない方が助かる。
私の頭の中には、私にとって都合のいい条件がずらりと並んでいた。
親が送迎する以上、もちろん現実的な事情を無視することはできない。
でも、息子が見ていたのはそこではなかった。
自分が字を上手になれるか。
先生が自分を見てくれるか。
そこだけだった。
でも、結局、私はさらに二つ目の教室へ体験に連れて行った。
そして最終的に、息子は二つ目の教室へ通うことになった。
今でも、二つ目の教室を選んだこと自体が間違いだったとは思わない。
実際、息子は楽しく通っている。
ただ、私は「選ばせる」と言いながら、息子の選択を尊重しているような顔をしながら、結局は自分の正解に息子を誘導していたのだと思う。
なんだかモヤモヤして、いつも的確なアドバイスをくれる友人に相談してみた。
「それは息子さんの直感に従っても良かったかもしれないね」
「確かに二つ目の方が良い教室かもしれない。でも、息子さんが自分で選んで、自分で違ったと思う経験も大事なんだよ。今回それが経験できなかったとすると、またどこかでその経験をしなければいけないことになるかもね」
なるほど、と思った。本当にそのとおりだ。
私は失敗させたくなかった。
でもそれは、息子のためというより、私が失敗を見たくなかっただけなのかもしれない。
正解を引き当てることだけが、成長ではない。
違ったなと思うこと。やっぱりこっちじゃなかったと思うこと。
それもまた、自分の感覚を育てるためには必要なのだろう。
そんなことがあったのに、最近また同じような出来事があった。
今度はスポーツのクラブチームである。
正直、習い事の数としてはもう限界だった。しかもクラブチームとなれば、保護者の関わりも増える。私はそういう集団活動が得意ではない。
それでも息子がやりたいと言うので、二つのチームへ見学に行った。
一つ目は、かなり本格派だった。
チーム名からして強そうだ。練習も試合も多いし、監督は厳しそう。保護者も熱心そう。
正直、私は少し怖かった。
二つ目は対照的だった。
全体的に穏やかで、コーチも優しい。保護者も優しそうな雰囲気だった。
ただ、試合はそれほど多くないらしい。
体験後、息子に聞いた。
「どうだった?」
「どっちも良かった」
「一つ目のところ、監督、怖くなかったの?」
「めっちゃ怒るけど優しいよ」
私は「厳しい=怖い」と見ていた。
でも息子は違った。厳しさの中にある優しさを感じ取っていたのだ。
確かに部員の子どもたちの中で、萎縮している子はおらず、皆活き活きとプレーしていた。監督が本気で子どもたちと向き合っていることを、子どもたち自身も感じているのだろう。
迷っていたとき、今度は整体師さんに相談した。
その方は筋金入りの体育会系である。
「絶対に一つ目!」
即答だった。
「まずは練習量! 苦手な保護者には関わらなければいいんですよ。ただニコニコしてれば大丈夫!」
そして私の不安を聞いて大笑いしていた。クラブチームに入部するというのが、私のイメージとあまりにも乖離していたらしい。
「これは、ママが試されてます!」
息子がどちらに入るのか楽しみだと言う。
結局、息子は二つ目のチームに入った。
理由は単純である。
一つ目へもう一度体験に行くことすら、私ができなかったからだ。
習字のときは、息子の選択を信じられなかった。
そして今回は、私自身が尻込みした。
形は違うが、どちらも私の不安が原因だった。
どちらが正しかったのかは分からないし、きっと正解なんてないのだろう。
ただ一つ分かることがある。
習い事選びで試されているのは、子どもだけではないということだ。
むしろ、親の方なのかもしれない。
子どもの選択を信じられるか。
失敗する自由を認められるか。
自分の不安を、子どもに背負わせていないか。
そんなことを何度も問われる。
今度、クラブチームで子どもだけが参加する二泊三日の夏合宿があるらしい。
入部したばかりなのに、参加しませんかと声をかけてもらった。
息子に聞くと
「行く!」
即答だった。
息子はまだ一人でトイレに行けない。
家では今でも、「ママ、ついてきて」と言う。
そんな子が大丈夫だろうか。
ご飯は好き嫌いなく食べるだろうか。
ちゃんと寝られるだろうか。
心配は尽きない。
でも、きっとこれは息子への試練ではなく、私への試練なのだと思う。
可愛い子には旅をさせよ。
昔の人はうまいことを言ったものだ。
旅に出るのは息子だが、送り出す覚悟を試されているのは私の方である。
これから先、息子はもっと大きな選択をしていくだろう。
そのたびに私は不安になって、きっと口を出したくなる。
でも、その不安で息子の可能性を狭める母親にはなりたくない。
笑顔で送り出し、失敗したら一緒に笑う。
間違えたら、また選び直せばいい。
そんなふうにそっと見守り、必要なときに手を差し出せる母親になれたらいいと思う。
これがなかなか難しい。
まずはこの夏の合宿から。
たった二泊三日。
息子にとってだけでなく、私にとっては、大きな一歩なのである。
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