コーヒー好きの僕がオススメするコーヒーは
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:奥津光佳(ライティングゼミ・2026年5月開講/通信・4ヶ月コース)
みなさんはほっと一息入れたい時にどんな飲みものを飲むだろう?
緑茶、紅茶、ハーブティー、ルイボスティーに、麦茶に、烏龍茶。人によっては、ジュースや炭酸、キンキンに冷えたビール、とかもあるかもしれない。
その中でも僕はダントツでコーヒーが好きだ。
なんなら豆から挽く。美味しく飲みたい時は、とことんこだわる。近所の山から流れる湧き水を汲みに行き、鉄瓶でお湯を沸かす。温度計でお湯の温度を調整して、コーヒーのビーカーも温めておく。
コーヒーを濾す時に使う紙のフィルターも、そのままコーヒーの粉を入れてお湯を注いでしまうと紙のにおいがコーヒーにうつってしまう。だから粉を入れる前に、お湯で濡らしてにおいを落としておく。
ここまでやってから、ようやく粉を入れてお湯を注いでいく。注ぎ方にも色々あるのだが、いい加減細かくなりすぎるので割愛しておく。
文字にしてみるとなんと神経質にコーヒーを淹れているのだろうかと何とも微妙な気持ちになるが、こだわり抜いて入れてたコーヒーはやっぱり美味しい。香りもいいし、味もいい。丁寧に淹れたコーヒーを飲みながら、ソファで本を読む時間はなんとも言えず至福である。
と、こんなコーヒーの淹れ方なんて、良いかもしれないが、やりすぎていて一周回って鼻につく感じさえある。
だから、声を大にしてここで言いたいコーヒー好きの僕が一番オススメするのは「コンビニのコーヒー」であると。
どうしても忘れられない一杯のコーヒーがある。
今から7年前、その日は最高で最悪であった。
生まれて初めて、200人が集まるイベントのリーダーをした。企画書を作り、1年かけていろいろな方に登壇をお願いし、会場を押さえ、チラシを作り、SNSで宣伝をして、事前に告知用の動画を作ってなどなど…。たくさんの人が関わり、進行状況を確認しながら、自分でもできる限りの仕事は抱えてイベントの当日に向かっていく。
忙しくなってくると、たくさんの人が楽しんでくれるようにとか、悠長なことは全く考えてなんていられない。とにかく、無事に終わって欲しい。開催1ヶ月前くらいになると、それしか考えられなくなっていた。
当日が近づくにつれて緊張感が増していく。
司会進行の準備、会場の確認、撮影の機材のチェックなど、やらなきゃいけないことは山積みで、結果睡眠時間も削れていく。青白い顔で、目を血走らせながら、フラフラと準備をしている僕をみた同僚は「どこかで事件でも起こしてきた犯人みたいだぞ」と、微妙に顔を引きつらせながら教えてくれた。
なんとか無事に開催当日を迎える。
それでも、初めてイベントを担当している僕は、どこかで何かトラブルが起きていやしないかと、あっちへふらふら、こっちへふらふら。「〇〇がない!」と声が聞こえれば、慌てて道具を探して持って行き、「インターネットと接続できません!」と呼ばれれば、機材を抱えて走った。
ようやく迎えた昼休み。僕はやらかしてしまった。
お昼を食べねばと控え室にいくと、同僚たちが「今日の夜どこで打ち上げするよ?」と楽しげに話している。当日の進行表を睨みつけている僕は、そっちの方を見向きもしない。
「奥津も行こうぜ」と同僚が声をかけてくれる。
思い返してみるとなんでそんなことを言ってしまったか、わからない。同僚は気遣って声をかけてくれたんだろう。労おうと思ってくれていたと思う。なんせ、必死に走り回っている僕を知っていてくれたのだから。ただ、そんな同僚の優しさに気づけないほど、その時の僕は切迫していた。
午後からのイベントの続きもある。それに何を考えていたのか、次の日の朝イチから重要な打ち合わせも入れてしまっている。その資料はまだ手付かずだ。今夜完成させなければいけない。
進行表を見ながら頭の中では、自分のやらなければいけないことを必死に組み立てている。どう考えてものんびりと同僚と打ち上げをしている時間なんてない。自然とこんな言葉が口を出た。
「みんなで勝手に行ってきてくれ」
会社のソファに倒れ込みながら、昼間の出来事を思い出している。
その日のイベントは無事に終わった。あぁ、いらんことを言ったという後味の悪い気持ちを抱えつつ、会場の片付けを終えた僕は、同僚たちに「じゃあ行くわ」と声をかけて会社に戻ってきた。
今頃みんなで打ち上げしてんのかなぁ、とイマイチ回らない頭でぼんやりとそんなことを考える。
冷静になるほどになんてことを言ったんだろうと、自分の情けなさに泣けてくる。
資料作りをするために戻ってきたのに、やる気なんて欠片も出てこない。後悔を抱えながら、ソファの上から動けずにいた。
「……!」何かの声でバッと飛び起きる。どうやら眠ってしまっていたらしい。どれくらい寝ていたのかさっぱりわからない。時間! 何時!? と慌てて周りを見渡すと同僚が立っていた。
「今日まで、お疲れ様」と渡されたのは、近くのコンビニで売っているホットコーヒーだった。
「じゃあ、資料作りがんばれよ」とすぐに同僚は帰っていく。手元には、温かいコーヒーが残った。
なんだかよくわかっていないが、手渡されたコーヒーをゆっくりと飲んでいく。なんだかいつもよりもずっと美味しい。香りが落ち着く。お腹の奥の方が温かくなっていく。
意識せず、ほぉ…と息をつく。勝手なことを言っていた自分を同僚は気にかけてくれていたのだ。わざわざコーヒーを持って。わざわざ会社に戻って。もしかしたら自分はいなかったかもしれないのに、足を運んでくれたんだ。
今度こそ、ちゃんと同僚の心遣いに気づくことができる。少しずつ、冷ましながらコーヒーを口に運ぶ。
コンビニのコーヒーをこんなにゆっくりと味わったのはその時が初めてだったと思う。
それ以来、そのコーヒーは僕の中で人との関係をつなぐコーヒーになった。自分にとって、嬉しいことがあった時も、悲しいことがあった時も、後輩がうまく行った時も、何か失敗をしでかした時も、かたわらにはコンビニのコーヒーがあった。
美味しいコーヒーは、日本中、世界中に山ほどあるだろう。なんなら自分自身で淹れたコーヒーの方が美味しい。
でも、大切な時に必要なタイミングで心に寄り添ってくれるコーヒーは多くない。
次は一人分か二人分かそんなことを思いながら、今夜は一人、コンビニの前でコーヒーを飲む。
≪終わり≫
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