あるダメンズと女子会での会話
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事: みちよ (ライティング・ゼミ名古屋会場)
「ダメンズ」ということばがあるが、何を隠そうわたしはダメンズと縁をもちやすい。
今回は、そんなわたしが、久しぶりに「これは!」と思うダメンズに出会ったので、
今回はそれを紹介しようと思う。
自分のプライベートを明かすようで少々気恥ずかしいが、
ダメンズ研究の一資料として参考にしていただければ幸いだ。
今回選ばれたダメンズは……ジャジャン!
「二人で刺身盛り合わせを食べているとき、ワサビを一人で使ってしまう男」である。
「あー、それダメ~」という多数の女性からの声が聞こえてきた。
そう、ダメである。
・自分のことしか考えていない。
・相手の気持ちに気づかない。
・食べ物を遠慮なくとる
というわけで、診断名は「配慮欠如・自己中心型」となる。
……と、ここまでなら皆さんに紹介するほどではない。
問題は、「その後」である。
わたしの視線に気が付いたのか、
ワサビをすべて自分のしょうゆ皿に移したあと、
彼は一瞬「しまった」という顔をした。
しかし、何も言わない。
私の顔を見ない。
むしろ、そっぽを向いて鼻歌でも歌い出しそうな勢いの“誤魔化し”っぷりである。
いや、そんなんで誤魔化されないから。
だって、今まさにワサビがないから。
ここで問いたい。
なぜ「あっ、ワサビ全部使っちゃった、ごめん」の一言が言えないのか。
ごめんなさいが言えなくて許されるのは、小学生以下である。
そして、なぜリカバーしない。
「すいませーん、ワサビの追加お願いできますか?」
——それだけでいい話ではないか。
仕事でもなんでも、誰にでも間違いはある。
エブリワン・テイクス・ミステイク。
にんげんだもの。
問題は、そのあとだ。
どうコミュニケーションをとるか。
どうリカバーするか。
その“たった一手”に、人間性は出る。
彼は、どちらもせずに、ただただ問題をなかったことにした。
・面倒を避けたい
・気まずさから逃げたい
・自分の非を処理できない
というわけで、診断名はより深刻な
「不誠実・自己保身型」となる。
さて、また別の日。
彼が個室の居酒屋を予約してくれたときのことである。
その日は強い雨が降っており、店に着いたときには二人ともそれなりに濡れていた。
上着を脱ぐ。
そして、ダメンズ案件は起きた。
ジャジャン!!
「コート掛けが2つあるにもかかわらず、片方に自分のコート、もう片方に自分の傘を掛けた男」である。
「うわ〜、それダメ」という多数の女性の声が聞こえてきた。
そう、ダメである。
彼は何の迷いもなく、自分のコートを掛けた。
続けて、自然な動作で傘をもう一つのフックへ。
その横で私は、コートを「いざ掛けん」とした姿勢のまま、
行き場を失い、静かに立っている。
やがて彼は、その異様な静寂に気づいたのか、
私と、私のコートと、そして自分の傘を見比べて、
「ああ」
とだけ言い、傘をどけた。
——いや「ああ」じゃないわ。
何か言うこと、あるだろう。
ごめんなさいが言えなくて許されるのは……もう言うまでもない。
ちなみにこれは、男女の問題ではない。
仮に相手が同性の友人であっても、
ワサビは半分こするし、コート掛けも一人ひとつ使う。
つまりこれは、気遣いの問題ですらない。
もっと手前の話だ。
総じてこのダメンズは、
・共有意識がない
・状況への感度が低い
・相手の存在が計算に入っていない
「気が利く・利かない」以前の問題なのである。
さて、ここまで冷静に、いやむしろ手厳しくこの彼のことを分析しているわたしだが、そこはダメンズに縁があるわたしのこと。
そう、好きで付き合っていたんである。
彼に「あ〜」とがっかりしながらも、
一緒にお酒を飲む時間は楽しかったし、
映画や音楽の好みも合って、
毎日のLINEも日々の喜びだった。
一方で、述べてきたような「小さな」出来事が少しずつ積み重なり、
看過できないものになりつつあった。
——大切にされていない気がする。
そんな感覚が、じわじわと形を持ちはじめていたのである。
それは女子会でのこと。
わたしのこの恋の話を肴に、みんなで飲んでいた。
「……というわけでさあ、彼、ワサビを全部使っちゃったわけ。ひどくない?」
というと、しっかりもののアイちゃんがおもむろに問うた。
「そういうときさあ、黙っちゃうの?」
え?
そう、わたしはその瞬間をとらまえて何かを言うことをしない。
「うん、その場ではチーンって凍っちゃって何も言えない。じゃあアイちゃんだったら、なんていうの?」
「そういうときはね」
アイちゃんは両手を組み、その上に顎を載せて、首を傾けて満面の笑顔で言った。
「ワサビ、好きなんだね~♡」
ハッ。
あまりにスパイスの利いた一言に、一同大爆笑した。
そうかあ、そう言えばいいんだ!
みんな急いでメモメモ、と手にメモする仕草をした。
誰かがすかさず追撃する。
「えっ、じゃあさ、コート掛けに傘をかけられちゃったときは?」
アイちゃんは先ほどと同じポーズで言った。
「そこ、傘かけるとこじゃ、ないよ♡」
うおー!
勉強になる勉強になる!
みんなで涙が出るくらい笑いこけながら、メモメモ、と、メモをとる仕草をした。
そうして、わたしは、そういわれた時の彼のリアクションを想像して、さらに笑った。
さて。
長年ダメンズ好きをやってきたわたしだが、
そろそろ卒業したい。
アイちゃんのように、理想的コミュ力キャラへの変貌を遂げたい。
そう。
言わなかったわたしが、
ダメンズの芽に水をやり、肥料を与えていたのかもしれない。
小さな違和感に目をつむり、
その場の空気を守ることを優先して、
自分の気持ちを後回しにしてきた。
その積み重ねが、
「ダメンズと縁がある」という結果をつくっていたのだとしたら——
それは、少しだけ悲しい。
でも同時に、少しだけ希望でもある。
気づいたのなら、
きっと次は違う選び方ができる。
もう、ダメンズ好きには戻れない気がする。
自分を大切に。
人を大切に。
そのどちらも、空気をまとうように自然にできる人を。
そして、自分自身もそうあれるように。
今日もわたしは、静かに目を光らせているのである。
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