オレンジの相棒
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:奥津光佳(ライティングゼミ・2026年5月開講/通信・4ヶ月コース)
乗っている車は、マニュアルの2シーターの4輪駆動。
と、言われたらどんな車を想像するだろう?
イマドキ、マニュアルの車はそうは多くない。そして2人しか乗れない2シーター。響きだけ聞いたら、なんだか高級車に乗っていそうな雰囲気が漂う。
見た目だって、それなりにイカしている。メタリックなオレンジのカラーはかっこいい。こじんまりと丸っこい車体はキュートな感じもある。乗ってみるとシートはフカっとしていて乗り心地だって悪くない。
車の入り乱れる東京の首都高だって軽やかに走ってくれるし、舗装されていない雑草や木々の生い茂った山道だって難なく走ってくれる。
僕にとって、最高の車だ。
ただその昔、この最高の車で女性をデート迎えに行った時に言われたことがある。
「なんでこんな車で迎えにくるの!」と…。
そりゃそうだ。食事に行こうと誘い、お洒落な装いで待ってくれている相手を迎えに行ったのは、オレンジ色に光り輝く「軽トラ」だったのだから。
決して、軽トラを必要とするような生活をしているわけではない。工務店でもないし、農家でもない。
会社で使っている社用車でもない。
譲り受けたわけでもないし、自宅で必要なわけでもない。僕はアパートに住むただの一般男性だ。
乗るべき理由は何にもないのだけど、でも「軽トラ」に乗っている。しかも、新車で買った。
そうなると人にもよく聞かれる「どうして軽トラに乗ってるの?」と。
その理由はかつて描いていた夢が、はかなく消え去ったことに関係している。
昔、山間の古民家に一人で住んでいた。まだまだ20代前半で若かりし僕は、素敵な古民家生活に憧れを抱いてた。
古民家に住みながら、DIYをして和モダンな部屋を作ってみること、薪ストーブを入れて薪をくべながら過ごすこと、庭で畑をしながら野菜を育ててみること…。そんな夢を描きながら自分の古民家を手に入れた。
憧れを実現するために何が必要か想像がつくだろうか。
資材を運んだり、薪を運んだり、腐葉土を準備したり、とにかくたくさんのものを運べることと汚れてもいいということを古民家生活では求められる。
その生活において、当時乗っていた軽自動車では不便極まりなかった。物は乗らないし、汚れると落ちない。馬力もなかったから山道に入るとすぐにぬかるみにはまって動かなくなってしまう。
そこで僕は考えた。この古民家生活を満喫するためには「軽トラ」が必要だと。
ただ、よく走っている白い軽トラではつまらない。あまりに軽トラ感がありすぎて、20代の僕にはちょっと恥ずかしさもあった。世間一般から見たら軽トラってだけでほぼ同じなのだから、羞恥を覚えるのはそこじゃない! と今ならツッコミを入れられるのだが、致し方ない。
ともかく、かっこいい軽トラを探して、僕はあらゆるメーカーのカタログをめくり回していた。
あれでもない、これでもない…。まったく欲しいデザインは見つからず、僕は迷走していた。そもそも軽トラは、実務を想定して作られているので、カラーバリエーションはほぼ白一択。あっても、シルバーの2色があるくらいで、格好良さを求める前提が間違っているのだが、どうにも諦めきれない。
カタログを探し、インターネットを叩き、最後の最後に見つけたのがオレンジ色の軽トラだった。
当時、軽トラのカラーバリエーションを増やそうというメーカー同士の動きがあったらしく、ちょっとずつ色んな軽トラの色が増えていた時期だった。
そのはしりにあったのがオレンジ色だった。
カタログを見た瞬間「これだ!!」と僕は思った。とても格好良かったのだ。派手すぎず、でも綺麗な色合い。山道を走る姿を収めたカタログ写真にどうにも胸がときめいてしまったのだ。
しかし、まだまだ発売したてのその車。すぐに中古車では出回っていない。当時は働き始めでお金もないのに、どうしてもその車が欲しかった僕は、ローンを組んでまでオレンジ色の軽トラを手に入れた。
そこから約10年、僕はこの軽トラに乗り続けている。仕事の転勤もあって古民家を引き払う必要があり、手元には軽トラだけ残った。初めは古民家生活のための車だったが、乗っているうちに愛着が出てきてしまい、丁寧にメンテナンスを繰り返しながら乗っている。
この前メーターを見てみると走行距離は15万キロを超えていた。
僕はこの車でどこへでも行く。荷台に荷物をドンと乗せて西へ東へと走っていく。東京や神奈川の都心だって走るし、長野や富山の山奥だってこれで行く。電車やバスよりも圧倒的に車での移動が好きなので、道が繋がってさえいれば仕事でもプライベートでも軽トラで出かけていった。
小さくてもトラックなので、色んな人のたくさんの荷物も運んだ。
自分の引っ越しも、知人の引っ越しも、大事な人の引っ越しも。
この軽トラと共に巡った場所も助手席に乗せた人たちも、もう思い返せないほど積み重なってきている。
住む場所が変わっても、付き合う人たちが変わっても、この軽トラだけは10年間一緒に走ってきた。
軽トラに乗っているのはちょっとダサく見えるかもしれない。
でも、何にも変えられない、僕にとっては最高の車で、最高の相棒だ。
今度はどこに行こうか。
≪終わり≫
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