信じること、任せること
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事: 小林こば。(ライティング・ゼミ 名古屋会場 )
先日、初めて高速道路でACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を使った。
ACCとは、前の車との車間距離を保ちながら、自動でアクセルやブレーキを制御してくれる機能だ。高速道路では便利だと聞いていたし、最近の車なら当たり前の装備なのだろう。
それでも、僕はこれまで一度も使おうと思わなかった。
「機械に運転を任せるなんて怖い」
そんな気持ちが、どうしても拭えなかったからだ。
もし前の車を認識できなかったらどうするのだろう。
ブレーキが遅れたら。
そのまま追突したら。
そんな最悪の場面ばかりが頭に浮かび、「自分で運転したほうが安心だ」と思い続けていた。
ところが、友人たちに話を聞くと、皆ごく当たり前のようにACCを使っているという。
「もう高速ではACCなしは考えられない」
そう言われると、自分だけが昔の運転を続けているような気がしてきた。
せっかく付いている機能なのだから、一度くらい試してみてもいいかもしれない。
そう思って、高速道路で恐る恐るスイッチを入れた。アクセルで希望の速度まで加速し、「SET」を押す。
メーターには、前の車を認識したマークが表示された。
「ちゃんと認識してる」
その瞬間は少し感動した。
しかし、本当の恐怖はそこからだった。
前の車との距離が近づいていく。
「まだ減速しないの?」
そう思っているうちにも距離は縮まる。
「いやいや、本当に大丈夫?」
次の瞬間、僕はたまらずブレーキを踏んでいた。
「ちょっと、ACC切れちゃったじゃない!」
助手席の妻が叫んだ。
運転している僕より、妻のほうがACCを信頼しているらしい。
「ごめん」
もう一度「SET」を押す。
今度こそ、ACCを信じて待つことにした。
前の車との距離が近づく。
右足がブレーキを踏みたがる。
それでも我慢していると、車はスッと自然に速度を落とした。
ちゃんと間に合っている。
でも、自分の感覚より少し遅い。
その「少しの遅れ」が、とてつもなく怖かった。
しばらくの間、僕はブレーキペダルの上に足を置いたまま、いつでも踏めるように構えていた。
手のひらには、信じられないくらい汗がにじんでいた。
普段なら気楽な高速道路なのに、行き先までの一時間でどっと疲れてしまった。
楽になるはずの機能なのに、かえって神経を使っている。
「こんなに疲れるなら、自分で運転したほうがいい」
正直、そんなことも思った。
ところが、不思議なことが起きた。
帰り道を三十分ほど走った頃から、少しずつACCの「癖」が分かってきたのだ。
「あ、このくらいの距離で減速するんだ」
「ここではちゃんと加速するんだ」
一つ一つの動きを見ているうちに、「大丈夫なんだな」という感覚が少しずつ積み重なっていった。
ACCが変わったわけではない。
変わったのは、僕のほうだった。
僕がACCを信頼し始めたのだ。
この感覚は、AIとの付き合い方にもよく似ている。
最近は、AIエージェントをよく使っている。
AIエージェントが登場した当初は、なかなか手を出せずにいた。
自分の意図しない形で、プログラムを書き換えられるのが怖かったからだ。
それでも、少しずつ仕事を任せるうちに、AIの得意なことや苦手なことが分かってきた。
仕事を任せる前には、ルール集を用意する。
そこには、開発の方針や守ってほしいこと、やってはいけないことを書いておく。
いわば、僕とAIエージェントとの約束事だ。
ルールが明確なら、AIはその範囲の中で仕事を進めてくれる。
僕も、一から十まですべてを細かく指示しなくてよくなる。
もちろん、こちらの意図とは違う結果になることもある。
そんなときは、同じ間違いを繰り返さないよう、ルールを付け加えて調整していく。
そうやって約束事を一つずつ増やしていくうちに、AIに任せられる仕事も少しずつ増えていった。
僕はこれまで、自分でできることは、なるべく自分でやってきた。
そのほうが安心だった。
でも同時に、本来ならもっと楽にできたことまで、自分一人で抱えていたのかもしれない。
「新しいものは怖い。任せるのは不安だ」
そう思って試さなかったことで、便利さや楽しさを逃していた。
似たようなことは、意外と多いのかもしれない。
だから最近は、新しいものに出会ったら、とりあえず試してみようと思っている。
もちろん、最初からうまく使いこなせるとは限らない。
それでも、何度か試すうちに、少しずつ相手のことが分かってくる。
どこまで任せられるのか。
どう付き合えばうまくいくのか。
自分は何をすればいいのか。
そうして新しい関係が生まれ、少しずつ信頼が育っていく。
ACCもAIエージェントも、きっと同じだ。
信頼して任せられるようになれば、僕はもっと大切なことに集中できる。
来週は、ACCを使ってもう少し遠くまで車を走らせてみようと思う。
AIエージェントには、もっと大きなシステムの調査や分析を任せてみたい。
信頼関係は、最初からそこにあるわけではない。
恐る恐る近づき、少しずつ任せながら、築いていくものなのだ。
これからも、新しい技術は次々に現れるだろう。
そのとき、怖がらずに試す姿勢を持ち続けていたい。
その姿勢が、僕の生活を豊かにし、世界を少しずつ広げてくれるのだと思う。
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