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ある朝、ベッドの上で動けなくなっていた


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:C.H.(26 年 9 月ライティングゼミ withAI)

 

 

 

インド赴任2年目の朝、私はベッドの上で動けなくなっていた。

重い瞼を開け、スマホの時間を見ると、午前7時。そろそろ会社のドライバーが迎えに来てしまう時間だ。重りが体全体に乗っているかのように感じ、起き上がれない体に焦りの気持ちが押し寄せる。日本人上司たちとの連絡グループに体調不良の旨の一文を書いては消して何度も読み直すが、これでいいのか分からない。申し訳なさと情けなさに涙が出てくる。これでは涙で腫れた目とボロボロな顔では会社に行けない。出発時刻の7時半、ベッドの上で半ば諦めの気持ちで体調不良と在宅勤務の連絡を送る。そしてやっと重たい瞼をだらんと閉じた。

 

日本の職場では担当者として自分の仕事だけをこなせばよかったが、インドの職場に来てからは自分の仕事とチームの仕事も管理する立場だ。チームは入社一年未満のインド人メンバーたちで、仕事量も責任範囲も大きく増えた初めての海外赴任だ。インド赴任の私の仕事は、無理なバランスポーズだったのだ。

 

次第に仕事が溜まっていき、知らず知らずに心も体も余力がなくなっていっていた。完璧主義の私は自分のことで精一杯だったのに、チームメンバーのSOSにできるだけ応じ、多忙な上司に自らSOSを出せなかったのだ。目を閉じて片足立ちを保つバランスポーズに、さらに重い荷物を両腕に抱えているようだった。

 

ヨガって体が柔らかくないとできないよね。ヨガと出会った5年前の私はそう思っていた。細くてしなやかで綺麗なボディラインのヘルシーな女性が、滑らかにまっすぐとポーズをとっている「完璧な」イメージだ。

日本にいた頃、週2-3回、朝5時半からのオンラインヨガに参加していた。朝5時20分のアラームで目を覚まし、ヨガマットまで這いつくばりZoomの接続をする。寝起きの固まっている体をほぐし、前屈や開脚のポーズをする。朝の30分間、先生のようにきれいなポーズにはならないが、伸ばした体から軽さを感じる。最後の5分間の瞑想時間には爆睡をかましていた。

 

そうしていると、インド赴任となったのだ。公園ヨガ、ハンモックヨガなど様々な体験をしたが、特に気に入って通っていたのは日曜朝のストレッチヨガだ。インストラクターの先生は、細くて健康的なヨガのイメージ通りの日本人女性だった。このクラスには駐在妻さんやインドではたらく日本人のおじさまが週末の楽しみとして通っている。特におじさまたちは年齢的にも肩こりや腰痛もちの方も多く、先生と全く同じポーズは取れない。かくいう私も先生のようにきれいに体が伸びたり曲がらなくて、不格好なポーズに「恥ずかしい」と思っていた。

 

ヨガを楽しむうちに、ヨガ講師の入門資格の勉強に参加し始めた。ここではヨガの体のポーズだけではなくヨガ哲学も学ぶ。やってはいけないこと1つの「非暴力」という教えに出会ったとき、心の中で妙にひっかかった。マットの上でも日常生活でも、自分にも他人にも攻撃し傷つける思考や発言してはならないという教えだ。あの朝ベッドで動けなくなった私は、すでに「ヨガ哲学」に答えを持っていたはずだった。

 

ヨガのポーズの中で痛みや違和感があるときには、体に無理をさせない。見た目のきれいさではなく、ポーズの本来の目的・効果を最重要視し、時には補助具のヨガブロックを使い、体を傷めないように調整していく。ヨガでは体に無理をさせないのに、なぜ仕事では無理という暴力を許したのか。

 

インドに来て、社内での期待や求められるレベルに対して、経験のなさから来る先の見えない不安、何よりも自分への自信のなさから、「無理してでも頑張れ」「自分はまだできていない」「足りない」と無意識に繰り返し自分を責めてしまい、「今日できることをやった」と自分を無条件に許すことができなかったのだ。次第に体の異変は積み重なり、気休めの通院をし騙し騙し過ごしていた。その結果、些細なことも決められなくなるほどに仕事に支障をきたすようになってしまった。あの朝ベッドから動けなくなった体は、崩れ倒れたバランスポーズから自力で起き上がれない状態だったかもしれない。

 

ヨガも仕事もすべて完璧にすることが重要なのではない、押さえるべきポイントを押さえていればそれでいいのだ。自分で全部引き受けなくていい。メンバーを頼っていい。心身のバランスが崩れたときに自身を観察してまた無理のない丁度良いバランスをとりなおす、それでよかったのだ。社会人として当たり前のことを、ヨガを通して実感した。

現在は日本に帰国し、自分の心と体に無理させないバランスを学び途中だ。ヨガは体が柔らかくないとできないと思っていた完璧主義の自分からサヨナラし、不完全でも不格好でも今ここにある自分を受け入れて、ふらふらと崩れても、それがちょうど良いバランスのはじまりだと思う。

 

 

 

 

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