夜、すっと眠れるようになりたい
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:chocolat(26 年9 月ライティングゼミwithAI)
妹にとって、子どもの頃の私はまるでジャイアンのようだったと思う。4歳下の妹を子分のようにあごで扱っていたからだ。きっと不満を抱えつつ、怖さもあったので逆らえなかったのであろう。
そのジャイアンが心底あこがれていたのは、実はのび太だった! なぜか。まずはもう一人の被害者の話から始めなければならない。
私は子どものころからとても寝つきが悪く、隣で一緒に寝ている妹に何度も話しかけては、長々と話し込んでいた。電気を消して暗くなってから、眠るまでの妹と過ごす時間をとても楽しんでいた。すぐに眠くならないのは妹も私と同じ状況で、それが当たり前のことだとずっと思っていた。
しかし、大人になってから妹と話していて衝撃を受けた。「あの頃は、先に寝ているのがばれたら怒られると思って、話が続いたら、まるで起きていたかのように返事していた」と言われたのだ。妹は横になったらすぐ眠くなるらしい。それを聞かされるまで、私は12年間、妹の睡眠を奪い続けていた。妹よ、すまん。
思い返してみると、私は小学校のころから今に至るまで、授業中に眠くなったことはなかった。学校で授業中に居眠りばかりしている友達の気持ちも全く分からなかった。大人になってへとへとになるほど残業するまでは、睡魔に襲われ辛かったという記憶もない。
学生の頃は眠れないとは言え、仕事をしているわけではないから、特に治さなければいけないと思うことはなかった。しかし、社会人になってからは、すぐに眠れないことで、翌日の疲労度が増した。これはまずい、このままではいつか仕事で大失敗するのではないか……。
かかりつけ医に相談すると、あっさり睡眠障害だと言われ、薬も処方された。ジャイアンが母親に怒られてしょんぼりする、あの顔だ。残念ながら、ぴたっとはまる薬にも出会えなかった。
眠れる方法をとにかく調べ、片っ端から試し始めた。のび太はいつも、座布団を二つ折りにして昼寝していたな、などと考えながら。
枕か! その手があったか!
眠れると評判の、首を温めるまくらを購入したときだ。利用者たちが大絶賛していて、口コミを読んだだけで今すぐ眠れるようになるんじゃないか? と思った。眠れる予感しかなかった。
使ってみてすぐに確信した。ジャイアンが長年探し求めていたものはこれに違いない、と。
しかし一週間もするとすっかり慣れて、また眠れない日々がやってきた。ふりだしに戻る……。そもそも、のび太ならこんな枕などなしで、三秒で眠るのだろう。また私は天井を見つめていた。そのとき、ふと気になったことがある。
夜が明けても眠れずにいると、私だけが世の中から取り残されたような気持ちになった。焦ればまたさらに眠れなくなる。みんなにとって恐怖の存在であるジャイアンも、こんな恐ろしい気持ちになることはあるのだろうか。
それでも私はいろんな方法を試し続けた。だが、ある夜ふと気づいた。問題はもっと深いところにあるのかもしれない、と。
眠れない、眠れないと感じるたびに、何度も時計を確認する。1時間、2時間、3時間と時は進み、今日もこうしてまた空が明るんでしまうのか。
枕という道具に頼るばかりで見失っていた。のび太は困ったことがあるとすぐドラえもんに頼っているが、眠るときには何の道具も必要としていない。
私が本当に眠れない理由はもっと別のところにあった。
ジャイアンはみんなにいばりちらしている一方で、怒られてばかりのお母さんのことは怖くて仕方がない。
そんな絶対的な恐怖の存在が、私の心の奥深くにもいる。
眠れない原因は首周りの冷えなどではなく、眠れないことへの恐怖そのものだった——まさか私を怖がらせていた相手は……外の誰でもなく、ジャイアンである私自身だったのだ。
そして、何を試してもうまくいかなかったジャイアンが心底あこがれているのは、実は、1・2・3と数えるだけであっという間に眠りにつくことができるのび太なのだった。
いつでも、どこでも眠れるという。何にも代えがたい素晴らしい特技だと思う。
ジャイアンは誰よりも強くて、みんなに恐れられているが、実は夜だけはのび太に負けているのだ。
それでも今夜もジャイアンはベッドの上でもがいている。
のび太のくせに! という言葉の裏に、あふれる称賛を隠しながら。
≪終わり≫
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