川代ノート(READING LIFE)

「結婚は我慢だ」と言うけれど。23歳で結婚して、24歳で離婚した。私は何かを学び取れたのだろうか《川代ノート》


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記事:川代紗生(天狼院書店スタッフ)
 
 
「結婚は人生の墓場」だと、よく言われる。
自分が結婚するまでは、それがどういうことなのかよくわからなかった。みんながみんな声を揃えてそう言う。「結婚に夢なんかない」と。「妥協するのが結婚だ」と。それくらいの覚悟がなければ、結婚してはいけない、と。
 
結婚とは諦めであり、諦めの中で、家族の絆が生まれていくのだと、そう聞かされていた。誰からともなく。どこからともなく。私の母と父はそれほど仲が良いほうではなかったし、夫婦でデートをするようなことは皆無だった。それを見て育っていたから、たしかに「結婚は妥協」なのだと実感していたけれど、それでもなんだか、しっくりこなかった。
 
結婚しているみんなは。他人と家族を作っているみんなは、いったい、何を「我慢」しているのだろうか。
そして、その「我慢」をしてでも誰かと結婚する価値は、あるのだろうか。
 
私は、23歳で結婚し、24歳で離婚している。
同級生と比べると、かなり早いほうだと思う。同世代でバツイチの人は、見かけたことがない。
 
まる一年の結婚生活だった。といっても、私と彼は遠距離だったから、一緒に暮らしてはいなかった。
あるいは、一緒に暮らしていたら。暮らし始めてから結婚していたら。そう考えることもあった。
 
彼はとてもいい人で、優しくて、素直で、どうしてこんなにいい人が私のことを好きになってくれたんだろうと不思議になるくらいだった。明るくて、落ち込むことがなく、しっかりしていて、前向きだった。基本的にネガティヴで、落ち込むことが多く、情緒不安定な私とは真逆のようだった。
 
真逆だからこそ、救われることもたくさんあったけれど、最終的には、あまりにも真逆すぎることが、仇となった。
 
たとえば辛いことがあったとき、私はどん底まで、気がすむまで落ち込むタイプだった。落ち込んで落ち込んで、何が嫌なのか、何が苦しいのか徹底的に考えないと気が済まない。自分の中の苦しみを掘り下げて追究したうえで、原因がわかってからようやく立ち直れる。
 
けれども彼は、たとえ辛いことがあっても、すぐに解決策を見つけて次に向かっていける。客観的に物事をみて、よし次はこうしたら失敗しないなとか、見方を変えればこうだったから結果的にはよかったとか、前向きになれる理由を見つけるのがとてもうまかった。
 
一度落ち込んだら時間がかかる自分。
すぐに前を向いていける彼。
 
どちらがいいとか、悪いとか、そういう問題ではないのだと思う。
きっと、私はうどんが好きだけど彼はそばしか食べられないみたいな、もはや、体質みたいなものだった。
 
私はそれが嫌で、ひどいわがままをたくさん言った。なぜわかってくれないのかと。理解してくれないのかと。承認欲求の強い私にとって、理解してもらえないということは、大きな苦しみだった。それに、彼ならわかってくれると思っていた。わかってほしいとも思った。
優しい彼は、私に合わせるように、努めてくれた。話を聞いてくれた。だったらこう? と質問をしてくれた。
 
徐々に、なぜ、優しい彼にここまでさせなければならないのか、わかってわかってとわがままばかり言う自分が本当に嫌になって、苦しかった。

 

わかりあえる。
わかりあえない。
 
理解できる。
理解できない。
 
共感できる。
共感できない。

 

そんなことを繰り返すうち、私は、なぜみんなが、「結婚は我慢だ」とか、妥協だとか、人生の墓場だとか。そういうマイナスのことばかり言うのか、わかるようになってきた。
 
人は、簡単に変わることはできないという事実を、認めなければならなかった。
いや、というよりも、誰かの力によって変わってしまうという状況は、多くの場合、不健全なのだ。
硬い鉄板を無理やり筋肉の力でねじまげているみたいに、歪んで軋むような、いやな音がしていた。
私が彼をねじまげようとすればするほど、彼と私の間には歪んだ傷が生まれた。ぎいい、ぎいい、と気味の悪い音がしていた。
 
「結婚」や「家族」の辛さってなんだろう、とずっと考えていた。
「結婚は我慢だ」と人は言う。それは一体、何を「我慢」しているんだろうと、しばらく考えていた。
 
今ならわかる。

 

きっと、自分の努力じゃどうにもならないことを我慢し続けなければいけないのが、所謂「結婚の辛さ」「家族の辛さ」なんだろう。
 
「自分がどんなに頑張ったとしてもこの状況を変えることができない」という事実は、絶望であり、一種の挫折である。
自分一人のことなら、どうにでもなる。
自分の努力次第で現状が変えられると確信できるなら、苦しみも、耐えられる。
 
けれども、結婚して、家族をつくって、生まれも育ちも違う人間と一緒に暮らすということは、努力したら必ず結果が出るということでは、ない。
 
夫婦とか、家族とかの苦しみは、どうにもできない苦しみなのだ。これだけやったらこれくらいどうにかなるとか、そういうのではない。暖簾に腕押ししているみたいな、理不尽さが、そこにはある。
 
どうしても変えたいと思うものを、もっとよくしたいと思うものを、どう頑張っても変えることができない、だから、我慢しなければならない。その現実に気がついたとき、私は絶望した。
 
わかりあえない。
理解しあえない。
共感しあえない。
 
どんなにその人のことが好きでも、大切でも、理解したいと思っても、人間として違いすぎるという歪みに、私は、耐えることができなかった。
 
あるいは、私は、「共感しあう」とか、そういうことに重きを置きすぎているのかもしれない。
 
それに耐えられないくらいで、1年で決めるなんて、と思う人もいるかもしれない。
たしかに、私は甘かったのかもしれない。

 

母の言葉を思い出す。

「気が合わない」と言っていた父と、もう25年以上も暮らしている母。

母は、言う。

「どうしてわかってくれないのって思ってるうちは、もうどうにもならないんだよね。やっぱり、諦めるしかなくて」

昔はよくイライラしていたような印象だったけれど、今の母は、やわらかな表情を浮かべている。

「気づいたの。他人を変えることなんかできないって。誰かを変えたかったら、まずは自分が変わるしかないんだって。まずは自分が変わって、それでもし、相手が変わったら、ラッキーくらいにかまえてないと、家族ってうまくいかないよ」

喧嘩ばかりしていた父と母は、今、私が一人暮らしをするようになって、実家で二人で暮らしている。

仕事の合間、ときどき、二人で出かけたり、買い物に行ったりしているそうだ。

 

今の二人に会ったとき、私の心がもやもやすることはない。
「結婚は我慢なのだな」と感じることもない。

色々な苦労があったのだろうと思うけれど、それでも、「川代家」の家族の形は、これだったのだと思う。

 

いろいろな、結婚の形がある。
家族の形がある。

家族とは、ちがう環境で生まれ育った者たちが共存するための、小さな社会なのだなと、つくづく思う。

 

「わかりあえない」という理由から、別れを選んでしまった私。
「わかりあえない」という問題があっても、一緒にいることを選んだ両親。

共存する、ということ。

「違い」を認め合う、ということ。それぞれの価値観の違いを認め合った上で、それでも、一緒にいるという選択肢をとれるなら、きっとそれが一番よかったんだろう。

たとえば、お互いが違う人間で、お互いが理解しあえない、共感しあえないことをきちんと把握できてさえいれば、この大きな社会から、差別やいじめはなくなるのだろうか。

もし、一人一人の人間が、私たちは違う人間だと認識することさえできれば、私たちは、大きな「家族」として、うまくやっていくことができるのだろうか。

 

小さな「夫婦」という単位でさえ、私は、自分と違う人間のことを、違う人間と生き続けることを、受け入れることができなかった。

それでも、彼に幸せになってほしいから、私が幸せになりたいから、結局は、受け入れないことを選んだ。

私は、23歳で結婚し、24歳で離婚したというこの事実を、はたして、恥じるべきなのか。反省するべきなのか。

 

家族に、正解はない。

社会に、正解はない。

 

幸せになるために、私は今、何ができるのだろうか。

 

ただ一つ、わかるのは、他人どうしが共存するためには、色々な選択肢があるということを。

幸せには、人生には、人には、どんなものにさえ、絶対的な「正解」はないんだということを。

私じゃない、一人でも多くの誰かに知ってほしいという強烈な欲求が、今この胸のなかにあるということだけだ。

 

 

 

❏ライタープロフィール
川代紗生(Kawashiro Saki)
東京都生まれ。早稲田大学卒。
天狼院書店 池袋駅前店店長。ライター。雑誌『READING LIFE』副編集長。WEB記事「国際教養学部という階級社会で生きるということ」をはじめ、大学時代からWEB天狼院書店で連載中のブログ「川代ノート」が人気を得る。天狼院書店スタッフとして働く傍ら、ブックライター・WEBライターとしても活動中。
メディア出演:雑誌『Hanako』/雑誌『日経おとなのOFF』/2017年1月、福岡天狼院店長時代にNHK Eテレ『人生デザインU-29』に、「書店店長・ライター」の主人公として出演。

 

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2018-11-19 | Posted in 川代ノート(READING LIFE)

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