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お店は額縁


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:岸本 多実代(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
「この空間の雰囲気をなんとかしたい」が始まりの気持ちだった。なんだろうこの空間。なんか落ち着かない。なんか居心地がわるい。なぜ気持ちがざわざわするんだろう?
 
主人から引き継いだ飲食店。急に引き継ぐことになった飲食店。えっ! 私、料理苦手なんですけど! 「赤字になってもいいからしばらくやっといてって」、そんな無茶な!
 
確かに売り上げが下がりつつある飲食店、このまま夫婦で経営を続けていても近い将来行き詰まるのは見えている。だからって、新しいメニューを考えるとか新しいイベントを考えて盛り上げていこうじゃなくて、俺が出稼ぎに行くという選択肢を見つけ出し、それを選ぶなんて。そんなの聞いたこともない。
 
「赤字になってもいい」とは言われたけれど、「料理苦手だし、赤字になったよごめんね!」では終わりたくない。料理が苦手な私でもお客さまに喜んでもらえるためにはどうしたらいいんだろう? 突然出稼ぎに出ていくと決めた主人に、見返してもやりたいし。
 
その時、私はこのお店でひとり佇んだ。そこで感じた。「この空間、楽しくない」そもそも空間が楽しくないと料理も美味しく感じないんじゃないか。腕に自信がある主人はついつい自分主体で考えているけど、主役はお客さまじゃないか。お客さまが楽しいと感じてもらえたら、それだけできっと料理も美味しいと感じてもらえるんじゃないかと。
 
まずは座席の配列を変えてみた。無造作に置かれたテーブル配置が最初はいいと思っていたが、いつもお客さまが座る場所に迷いがあるようだ。つまりどこが自分で落ち着く席なのかがわかりづらい。もしかしたら落ち着くであろう席がないのかもしれない。お客さまにもわかりやすいよう、2人テーブル、4人テーブル、多めの人数テーブルとゾーン分けを。そして、薄暗い色のテーブルクロスをはずして、木目調に。
 
たったそれだけなのに、なんだろう。雰囲気が昭和レトロもどきの喫茶店になったぞ! 不安だらけの私の気持ちに、少しだけ光が見えてきた。もうなんだかんだ思ってる暇はない。やるしかない!
 
お店に来て楽しい雰囲気って何だろう?
考えたけど、そんなの分からない。挨拶だけはきちんとしよう。小学生の時にも習ったじゃないか。まずは挨拶からって。今までももちろん「いらっしゃいませ」は言ってたけれど、もっと気持ちを込めて、来てくれてありがとうの気持ちを込めて「いらっしゃいませ」を言おう。そしてお客さまが帰られる時は目を見て、「いらっしゃいませ」の時よりももっと感謝の気持ちを込めて「ありがとうございました」と言おう。たかが挨拶だけれど、それだけで気持ちいいと思ってくれたら、少しでも楽しいと思ってもらえるのではと。
 
その日はやっぱりやってきた。ちょっとぐらい主人も手伝ってくれるんじゃないかと思っていた。昨日まで主人がいたお店に、もう主人はいない。バイトと2人で切り盛りできるのか不安でたまらなかった。だけど、お客さまはこちらの都合なんて知らない。しかもお金だって昨日までと同じ料金。料理が苦手といっても、私が作った料理にお金をもらう以上、プロ意識を持たなければお客さまに失礼だ。
 
最初のお客さまが入ってきた。私は飛び切りの笑顔で「いらっしゃいませ!」という。お客さまはニコリともしない。店内の雰囲気が少し変わったことに気づいた様子だけど、すぐに二人席に座った。よかった、オーダーは一番不安が少ないハンバーグランチだ。料理に自信がない私にできること。少しでも丁寧に半熟目玉焼きを焼き、時間は多少かかっても、焼き立ての熱々ハンバーグをだす。
 
最初のお客さまが帰られる時、やはり特に笑顔もなにもないけれど、また飛び切りの笑顔で「ありがとうございました。またお待ちしております!」とご挨拶。それからは、ずっと飛び切りの笑顔で迎い入れ、飛び切りの笑顔で見送る。いつしか何人かのお客さまから帰り際に「美味しかったよ!」とか「また来るね!」と絵顔で声をかけていただけるように。
 
主人がいなくなった店内にまた一人佇む。あんなに不安でいっぱいで見切り発車的にスタートしたけれど、あの時主人が突き放してくれたことを感謝する。いつまでも主人が手伝ってくれると思っていたら、いつまでも主人に甘えていたかもしれない。そして、お客さまが楽しそうに、美味しそうにお食事されている顔を見つつ感じた。飲食店はただ美味しい料理を提供すればいいのではない。お店は飾られている絵画でいうと額縁にすぎない。お店はひとつの箱に過ぎない。中に飾られる絵こそが主役。それぞれのお客さまの美味しくて楽しいヒトトキが絵なのではないか。お店は額縁の中でお客さまに輝いてもらうための場を提供する役目なのだと気づいたのでした。
 
 
 
 
***
 
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