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週刊READING LIFE Vol.29

おっぱいを潰して生きています《週刊READING LIFE Vol.29「これがないと、生きていけない!『相棒アイテム』」》


記事:森野兎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

わたしには、必要以上のおっぱいがある。
 
なにを以て「必要」な大きさとするかは、人それぞれだ。
一般的に、おっぱいは大きい方が魅力的、小さいと物足りないようなイメージが主流である。
だがそれはあくまで大衆の意見だ。
おっぱいが大きくても、それを有効活用できない人間がいる。
それどころか、必要以上のおっぱいによってもたらされるデメリットに、苦しんでいる人間がいる。
ぜいたくな悩みだと思うかもしれない。
しかしそれはおっぱいが大きくて悩んだことのない人の価値観だ。
おっぱいが大きい人には、大きい人なりの悩みがあるのだ。
 
「おっぱいは大きい方が魅力的」な価値観が世の中にはびこっている割に、わたしはおっぱいが大きくて得をしたと思ったことがほとんどない。
 
大きなおっぱいは、運動するときに邪魔。
大きなおっぱいは、重たくて肩が凝る。
大きなおっぱいは、ブラジャーの種類が少ない。
大きなおっぱいは、着太りして見える。
大きなおっぱいは、いずれ垂れる運命にある。
 
など、大きなおっぱいには、様々なデメリットがある。
 
「せっかくのおっぱいを武器にして、色仕掛けで男を落とせばいいじゃん?」
という意見もあるかもしれない。
しかしわたしにとって、それは無理な提案だ。
なぜならわたしは自意識過剰だからだ。
おっぱいを強調するような服を着て、男性とデートに行ったとする。
そうなるとわたしの頭の中は、男性に「こう思われるのではないか」という被害妄想で埋め尽くされるだろう。
 
「めっちゃおっぱいアピールしてくるじゃん」
「おっぱいで落とそうとしてるじゃん」
「おっぱい出したらいけると思ってるじゃん」
「そのおっぱいの出し方は勝負かけにきてるときのそれじゃん」
「こんなにおっぱい出してくる女はドエロいに違いないじゃん」
 
ムリムリムリムリ。
そんなこと思われたら、耐えられない。おっぱいアピールが半端ない女だと思われていないか気になるあまり、デートどころではなくなってしまう。
わたしのような自意識過剰がおっぱいを武器にするなど、2万年早いのだ。
 
「おっぱい強調した服じゃなくても、大きい人ってなんとなくわかるじゃん? そうなるとやっぱり、おっぱいが大きい人ってモテそうじゃん?」
という意見があるかもしれない。
しかしある男友達から、「男はおっぱいを好きな人が多いけど、大きさは関係ない。好きな人だったら、大きくても小さくてもいい」と聞いたことがある。
女性を性的な対象として見たとき、おっぱいが大きい方がより魅力的なのかもしれないが、一人の人間として見たとき、その人を好きかどうかを、おっぱいの大きさで判断しないそうだ。
確かに自分を振り返ってみても、おっぱいが大きいからといって、好きな人に振り向いてもらえるわけではなかったし、離れていく心を繋ぎとめられるわけでもなかった。
第一、 よく考えたらおっぱいで選ばれたところで、嬉しくない。
 
大きなおっぱいは、肝心なところで役に立たないやつなのだ。
 
そしてわたしがおっぱいが大きくて何より困るのは、洋服選びだった。
ジャストサイズのTシャツが着られない。
前でボタンをとめるシャツが着られない。
首のつまったタートルネックが着られない。
どれも胸の部分がパツパツになり、強調されてしまう。望んでもいない「やらしさ」が出てしまうのだ。
「この服着たいのに、おっぱいが目立つから着られないな……」と思ったことが何度もある。
雑誌のモデルがスレンダーに着こなす洋服を、おっぱいが邪魔して同じように着こなせず、
泣く泣く諦めた服が、何着もある。
もう持って生まれたものはどうにもならないと、諦めていた。
それはオシャレを楽しみに生きている人間にとって、悲しいことだった。
 
そんな悩みを抱えながら生きてきたわたしは、6年ほど前、あるものに出会ったのだ。
 
その名を「胸を小さく見せるブラ」という。
 
これは名前の通り、大きな胸を小さくスッキリ見せてくれる代物だ。
特殊な構造で、無理なく負担をかけないかたちでおっぱいのボリュームを抑え、コンパクトにブラへ収納することができる。
馴染みのない人は、「そんなものを欲しがる人がいるのか」と思うかもしれない。
だが大きなおっぱいに悩む女性は一定数存在しており、某下着メーカーでは、発売以来ヒットしている商品なのだ。
 
それまで、胸を小さく見せるブラの存在は、ネットで目にしたことはあったが、実際に使用している人が周りにいなかったので、その効果は半信半疑だった。
また今でこそ色んなメーカーで取り扱いがあり、リーズナブルな商品も増えているが、当時はわたしの知る限り、販売していたのは最初に開発したメーカーのみで、普通のブラよりも高価だった。
しかし大きなおっぱいで悩む者にとって、「胸を小さく見せるブラ」は気になって仕方がない名前の商品だった。
そしてある時わたしは意を決し、その効果を確かめるべく、下着売り場に赴いた。
 
初めて着用したときの衝撃は忘れられない。
 
自分のおっぱいが、コンパクトに収まっている!
ピタッとした洋服を着ても、胸の膨らみが気にならない!
太っていた人が、ダイエットに大成功したような、背の低い人の身長がぐんと伸びたような、そんな感覚だ。
Tシャツも、前ボタンのシャツも、タートルネックも着れる。
今まで着れなかった洋服たちが、着れる。
おっぱいに集まる視線を気にしなくていい。
それは、諦めていたものを、手に入れた瞬間だった。
 
今では365日、「胸を小さく見せるブラ」を愛用している。
最初は普通のブラと両方を使用していたのだが、気が付いたら「胸を小さく見せるブラ」ばかり選んでいるので、いっそ全てのブラを「胸を小さく見せるブラ」に買い換えた。
リーズナブルな商品が増えたとはいえ、胸を小さく見せるブラは、普通のブラよりも高価だ。
また種類も限られているので、好みの色やデザインで選べなかったりする。
それでも、わたしは胸を小さく見せるブラが手放せない。
わたしが着たいものを着るために、この子は欠かせない。オシャレの相棒なのだ。
 
小さなおっぱいを寄せて上げて、大きく見せる商品はたくさんある。
それを求める人がいるのと同じように、大きなおっぱいをスッキリコンパクトに見せたい人がいる。おっぱいが大きいばかりに、それが恥ずかしくて、隠すように生きている人の味方になってくれるのが、「胸を小さく見せるブラ」なのだ。
 
わたしは、胸を潰して生きている。
だから、胸を張って生きていける。

 
 
 
 

❏ライタープロフィール
森野兎(READINGLIFE編集部 ライターズ倶楽部)
アラサーのOL。2018年10月より、天狼院書店のライティングゼミに参加。
ライティング素人が、「文章で表現すること」に挑戦中。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2019-04-22 | Posted in 週刊READING LIFE Vol.29

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