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週刊READING LIFE Vol.29

20年の歴史の重みとともに、なくてはならないビンテージ品になったとき《週刊READING LIFE Vol.29「これがないと、生きていけない!『相棒アイテム』」》


記事:加藤智康(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「えー、パパおしり破れているよ」「ほんとだー」
 
「え、お尻丸見えか?」
 
と思わず聞かずにはいられなかった。先日触ったときは破れていなかったはずだったからだ。思わず手をお尻にやって破れ具合を確認してみた。子供たちは意地悪そうな笑みを浮かべていた。これはしてやられたと感じた。
 
「うそだろ?」
 
「ばれちゃったか」「うそだよーん」
 
力が抜けそうになったが、まずは一安心したのだった。なにせ、20年以上使ってきたこの相棒が、まさかお尻まで貫通する穴があいたとなれば、修理方法を考えないと行けないからだ。
 
20年。長い間使ってきた相棒は、今では裾は破れ、膝もやぶれていい具合に骨董品のような様相を醸し出している。ふと思う。人間は服を着ない日があるだろうか? 必ず服を着ないと警察のお世話になってしまうので、絶対に着ると思う。たまに下着を装着せずにいる人もいるとは聞いている。下着のゴムが身体を締め付けるから、昼も夜も着ていない人はいるだろう。長寿を目指すわたしは、その健康法もやってみたいのだが、最近の相棒を見ると、いつどこかが裂けないとも限らないので、きちんと下着を装着している。というわけで、沢山相棒を持っている人もいるとは思うが、わたしは1つだ。20年間、雨の日も風の日も、1つの相棒と暮らしている。
 
時は遡り、20年前に相棒と出会った。どこで出会ったかも覚えていないが、出会いはそんなものだ。一目惚れというケースもあるだろうが、いつのまにか馴染んで情がうつり、長く一緒にいるという話も多い。わたしは後者だろう。相棒を買うなら、大学の先輩が勤めるメーカの相棒と決めていた。当時、身に余るような高額な相棒を手に入れたのだった。
 
それから20年。ずっと一緒だ。結婚した妻よりもながい付き合いだ。
相棒は一人もしくは一個にした方が良い。浮気は許されない。来る日も来る日も同じ相棒と寄り添うのだ。汗にまみれ、お風呂という洗濯機にも入れず過ごした1年。ビンテージの香りにうっとりした時もあった。妻の嫉妬をかい、勝手に洗われたときは相棒の寿命が縮まる感じがして、大きなショックを受けた。今は、妻とも和解し、半年に1度はわたしが自ら洗うようにしている。
 
これだけ長く相棒と一緒にいると、子供たちの教育にもいい。というのも、物を大切にすることを教えられると思うからだ。腹立たしいのは、子供たちの相棒は沢山いて、大切にしていない感じが強くするからだ。昨日と違う相棒を選んだり、破れたらすぐ捨てたり。確かに子供の成長についていけない相棒は、どうしようもなくて、捨てるか別の物に再利用するしかないのはわかるのだが。それにしても、多すぎる相棒は、教育上よくないと思っていた。妻がつい買ってしまうのだろう。
 
そんな中、わたしは1つの相棒への愛着を示し、子供たちがものの大切さに気づくのをまっているのだが、一向に変化がない。まだまだわたしの愛情表現がたりないのだろうか。
 
そんな相棒も、2年前からよれよれになってきた。膝のあたりが破れてきたのだ。最初は小さかったほころびが、足を入れた瞬間に音を立てて穴が広がったときは心臓が止まるかと思った。
 
「あいぼーーーぅ。なんてことになってしまったんだ」
 
「パパ、破れている方がかっこいいんだよ」「あ、普通は」
 
当時小学生娘たちがわたしの相棒と、わたしを眺めながら残念そうにフォローしてくれた。
それからは、大きく広がったほころびが拡大しないように慎重に毎日足を入れるようにしていた。しかし、そんな気遣いも続かなくなる。まるで人間関係と同じだ。
 
最初付き合い始めたときは宝物を扱うように気を遣うのに、いつの間にかいい加減な付き合い方になりがちである。少しずつ無理しても広がらない傷に、どんどん慎重さがなくなっていき、ある時点で傷が広がることになる。その時は、一気にひろがることになる。わたしの相棒も、人間関係も似ていると思ってしまう。相棒はわたしの人生の先生のようだ。
 
人間ではなく、ただのジーンズなのに、こんなにいろいろな事を教えてくれるなんて、すごいと思う。
 
最近、さすがに買い換えようとジーンズを見に行った。一時期千円を切るようなジーンズもでていたが、最近は三千円ぐらいが相場なのだろうか。わたしが買ったものよりも半額以下である。世の中の低価格に日本経済の危機感をも感じてしまう。外国で作ったのだろうか。また、種類も沢山あって選ぶのも大変で、買い換えたいと思うほどのジーンズは無かった。決め手に欠けるその他大勢のジーンズと比べて、自分のはいているジーンズの歴史の重みを感じずにはいられなかった。
 
やはり、私たちの20年の関係を覆して、買いたくなるほどのジーンズは見つかられなかった。いや、すでに見つけようとしなかったのだろう。そこには愛着もあるし、苦労を分かち合ってきたことや、信頼関係もある。なにしろわたしの体系にぴったりフィットしている安心感が絶大だ。ウエストの余裕具合もベストである。指が2本~3本ぐらいはいる余裕感は、見つけるものではなく作る物だと信じている。何回かの洗濯を経験しながらつくりあげられたフィット感を作り上げるには相当な時間が必要だろう。
 
さらに、言えばポケットの柔らかさも気持ちが良い。手をおけばそこに絶妙な深さと優しさを兼ね備えたポケットがまっている。冬などはダウンジャケットを羽織るが、もっぱら自分の体温を感じることができるジーンズのポケットをよく使う。肘の角度が90度ぐらいになって、前ポケットに両手を入れる姿勢が、寒さに打ち勝つ前向きな感じを醸しだし、思わず駆け出したくなるぐらいにモチベーションを上げてくれる。一度だけ浮気して、妻の弟さんから頂いたジーンズをはいてみたことがある。その時は、自分を見失ったようで、手の置き場がしっくりこずに不安な気持ちになった。慣れは恐ろしい。しかし、普段はくものは慣れた物がいい。
 
気づくと、ジーンズに合わせて気に入った上着も固定になっていた。わたしは、常に同じような服装をしているので、パーソナルカラーとしても固定化されていた。ジーンズは薄い青、上着は赤のダウンジャケット。ジーンズが上着も選んでいるのだ。
 
もう、こんな絶妙な薄い青色をした相棒はみつからない。わたしの歴史で積み上げられた風格のある色に育て上げているからだ。代わりはいるはずがない。
 
しかし、子供たちの前で胸をはれないのは、世の中で言うビンテージジーンズとは恥ずかしくて似ているといえないと思っているからだ。なにせ20年前に買ったときは、何万もしていないものだし。本物は、数万、時には驚くほどの価格で取引されていた時代があることも聞いている。
 
元々ビンテージは、ワイン用語として「かなり昔の良質な物」という意味があるらしい。熟成されたというか、使い古された感じがしながらも良い物という認識だろう。一方で、わたしのジーンズは、ただ使い古してしまったという感じもする。だからか、破れたとこは恥ずかしく感じてしまうのだ。しかし、人のために履くのだろうか? なんでそんなに引け目を感じてしまうのか? 自分は子供に、言われたことで考えた。
 
「破れた方がいいって」「お尻のポケットの破れているのもかっこいいよ」
「そうだよそうだよ」
「まだまだ使えるって」
 
と子供たちは言ってくれた。
 
「だよね-。よーし、パッチをあてて穴が広がらないように修理するぞー」
とわたしが宣言すると。
 
子供たちも。
 
「そうだよ、そうだよ。ジーンズも喜ぶよ。大切に使うっていいことだよ」
 
といってくれたことを聞いてジーンときた。そうだった、この相棒のジーンズは、わたしの中ではビンテージ品である。誰のためでもなく、自分の為に履くのだ。なおかつ、子供たちも1つのものを大切に修理しながらでも使う大切さを理解していてくれたのだ。
 
わたしは早速アマソ゛ンでパッチを選んで注文した。次の日には手にアイロンを持って、ジーンズの裏からパッチをあてて修理をした。
 
うらからパッチあてて、アイロンでジーンズを修理する自分の姿を考えたら、うれしくなってきた。大切な相棒から新しいものに変えなくて本当によかった。じっくり見るとジーンズの裏側にも歴史があることがわかった。なかなか見る機会は少ないけど、裏側の色落ちもとても素敵だった。日頃お世話になっているポケットの白さも、目を引く。20年経って初めてじっくり裏側を見ることができた。まだまだ知らないところがあったのだ。
 
結婚する前から履いているジーンズ。そして、子供よりも年をとっているジーンズ。
まだまだ活躍してもらうために、修理もした。心なしか膝の傷が輝いて見える。
若干履いたときは違和感があるが、じきになじむだろう。もう、こいつがなければ、生きていけない相棒になっているから、どこまでも大切するのだ。
 
ジーンズを修理したとたん心も軽くなり、外出したくなってきた。
今日も1本しかないわたしにとってのビンテージジーンズをはいて、外出しよう!
お尻のポケットに財布を入れて、前ポケットに手を突っ込んで、お出かけだ!

 
 
 
 

❏ライタープロフィール

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2019-04-22 | Posted in 週刊READING LIFE Vol.29

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