「ぬか炊き」のあふれる魅力とは?〜北九州・小倉で100年以上続く郷土料理「ぬか炊き」を全国区にした立役者〜《WEB READING LIFE「百年床・宇佐美商店」第1話》
2022/02/07/公開
記事:田盛稚佳子(READING LIFE編集部公認ライター)
本州からの玄関口である、福岡県北九州市のJR小倉駅から徒歩10分。
青々とした木々に囲まれた小倉城を右手に眺めながら横断歩道を渡ると、そこには一気にレトロな街並みが姿を現す。
ここは大正時代から「市民の台所」と呼ばれてきた市場「旦過市場(たんがいちば)」である。約180mの道路沿いに生鮮食品や飲食店など約110店舗がひしめき合う。
映画で言えば「ALWAYS 三丁目の夕日」に出てきそうな市場といった感じであろうか。
生活圏が身近な人々が集い、他人との距離が近く感じられる、温かみあるこのレトロスポット旦過市場には、全国でもここだけにしかない隠れたグルメがある。
それが江戸時代から100年以上も愛されているという「ぬか炊き」だ。
「ぬか炊き」とは、サバやイワシなどの青魚を漬物で使うぬか床(ぬかみそ)で炊き込んだ、小倉発祥の郷土料理である。
江戸時代の初めに小倉城を築城した藩主・細川忠興のもとにぬか漬けが伝わり、その後、お国替えで新しく小倉藩主となった小笠原忠真が「家宝」として特にぬか漬けを好んで食べていたそうだ。
やがて小倉城下の人々にもぬか漬けが広まり、各家庭で作られることとなった。それが「ぬか炊き」の始まりとされている。
ぬか漬けと言えば、ご飯の付け合わせで出てくるキュウリやナスの漬物というのが一般的であろう。しかし、ここ北九州市近郊は海に面しておりサバやイワシなどの青魚が多く獲れる。普段使っているぬか床を使って、地元の新鮮な魚を美味しく、また保存食として食べるためにはどうしたらいいかと考えられて作られたのが「ぬか炊き」である。
各家庭で日々作っているぬか床を使い、炊き込むことで作られていたのである。ゆえに、同じぬか床と言っても山椒や唐辛子を入れる分量は家庭によって異なるし、少しずつ味が違う。その家庭ならではの味が出る。
まさに小倉が生んだ「歴史的おふくろの味」なのである。
ここ旦過市場に、全国ネットのテレビ番組に取り上げられ、大注目を浴びたお店がある。
「百年床・宇佐美商店」だ。
2021年3月27日放送の情報テレビ番組「旅サラダ」で取り上げられると、放送後2時間以内に店への注文が殺到し、1日で数百件のオーダーがくるほどの反響で、放送後30分以内の注文でもすでに3週間待ちとなってしまったそうだ。
ネットや電話、FAX以外にお店に直接やってくるお客さんもいる。その対応に追われたことは容易に想像がつく。
そのため仕事が落ち着くまでは、実際のテレビ放送の模様を当日はおろか、2ヶ月近く経っても見ることができないほど、商品の仕込みと接客販売に追われる日々だったという。
まさに全国ネットの力、また放送時間帯と視聴者層が見事にマッチした結果だろう。
そんなすごい「ぬか炊き」とは果たしてどんなものなのか。
放送後30分で3週間待ちとなってしまうほど、予約が取れない商品はどうやって作られているのか。
今回、「百年床・宇佐美商店」の三代目店主である宇佐美雄介さんに、製造過程を伺った。
ここからは企業秘密ギリギリのところでもあるので、こっそり読んでいただきたい。
ぬか炊きを作るうえで一番のポイントとなるのは、文字通り「ぬか床」である。
基本的にはぬか床は一日数回、愛情を込めてかき混ぜる。最低でも朝と晩は2回、しっかりかき混ぜることでぬか床がいきいきと発酵してくるのだという。
発酵してきたぬか床にはナスやキュウリ、トマト、ミョウガなどを漬けていく。
万が一かき混ぜるのを忘れると、どうなるのだろう? ぬか床の匂いが急に悪くなったり、粘りが出てくることもある。特に暑い時期だと発酵自体が進みやすいため、1日で使い物にならなくなってしまうこともある。それくらい、ぬか床は繊細なものなのだという。
そうして野菜を漬けて発酵の進んだぬか床に、山椒や唐辛子(山椒は家庭によって入れないところもある)などを入れて、ぬか床がさらに熟成してきたら、ようやくぬか炊きを作る準備ができるのである。
ちなみに宇佐美商店で使用しているぬか床は、なんと100年もの歴史がある。
初代店主でもある祖母が、嫁入り道具として持ってきたのがこのぬか床だという。毎日、大切に大切にかき混ぜられ、発酵を繰り返し、親子三代にわたって守り継がれてきたまさに「家宝」と言えるぬか床。ぬか炊きに必須の青魚であるサバやイワシは目利きの店主が新鮮なものを選んできて下処理をする。この下処理が丁寧にできていることも、美味しいぬか炊き作りのポイントである。
そして、砂糖と醤油、みりんで作った煮汁に新鮮な青魚を入れて、じっくりと煮込んでいく。少しずつ色があめ色になり、魚に味が染み込んだところで、最後の味付けとして「家宝」とも言えるぬか床を加え、さらにコトコトと煮込む。そうすることで青魚の独特の臭みも消えるのである。
そしてそれまで漬けられていた、野菜のエキス、ぬか床に含まれる山椒の実や唐辛子、昆布の風味が加わることで、ぐっと味が染み込むのである。
煮込んでいく時間は、少なくともサバが2時間半、イワシは3時間を要するという。
鮮魚が傷みやすい時期は、手早く下処理してできるだけ早く煮込みに入ることも大事である。お店の奥で製造するため、エアコンをつけていても大鍋を前に炊き込む時間を考えると、夏でなくてもかなりの労力であることは想像できるのであろう。
「一番難しいのは、ぬか床を入れる量なんですよ」と、店主はおっしゃる。
というのも、暑いと発酵が進むと述べたように、ぬか床は生きものである。ゆえに季節によって味が左右されるところが大きい。
たとえば塩味の濃さ、水分を含む量で微妙に味が変わるため、ぬか炊きを作る時期のぬか床の味によって、鍋に入れる量を微調整する。こうして時間をかけて煮て、柔らかく芳醇な味を醸し出す。その芳醇かつ滋味あふれる味を作りだすのは、100年かけて守り継がれてきた祖母のぬか床であり、店主がその時期に合わせて入れた絶妙なぬか床の量なのである。
祖母の時代から伝わる家宝と、現代に生きる店主の努力の結晶が宇佐美商店の「ぬか炊き」なのだ。
「さすがにこの量だけはレシピにしづらいですね」と店主はそれ以上を語ることを遠慮した。
ただ、青魚とぬか床を入れて煮るというだけではない。
店主の研ぎ澄まされた感覚によって、独特の旨味を引き出すことができるのである。
こうして出来上がるのが、「百年床・宇佐美商店」自慢の「ぬか炊き」である。青魚の骨にすっと箸が通るほど素材が柔らかくなり、新鮮かつ滋味豊富となった魚を丸ごと食べることが出来る。
これなら牛乳が飲めない子でもカルシウムを十分に摂れるし、多くの種類の酵素を含んだ「ぬか炊き」はミネラルやビタミンが豊富である。また発酵食品であるため植物性乳酸菌も多く含んでいる。お通じも良くなり、美容にも健康にも良いという老若男女にとっても嬉しい万能食品なのである。
冷蔵庫でも一週間は持つので、常備菜として昔も今も好まれている。
また少し味が濃い分、他に立派なおかずがなくてもご飯が進むし、お酒もぐいぐいと進むのだ。
この有名な「百年床・宇佐美商店」の看板を掲げる「ぬか炊き」専門店の三代目店主、宇佐美雄介さんは大人気商品の仕掛け人であり、新商品開発にも余念がない。
果たしてどういう商品が生まれたのだろうか。
第2話へつづく
□百年床・宇佐美商店
【店舗情報】
〒802-0006 福岡県北九州市小倉北区魚町4丁目1-30
・営業時間
月〜土曜 10:00‐18:00
日・祝祭日 11:00‐16:00
▼百年床・宇佐美商店さんのぬか炊きが、なんと、天狼院とのコラボメニューで登場することになりました!!!
《百年床・宇佐美商店 × 天狼院書店コラボメニュー》
百年床の糠床を使った「さば」と「スペアリブ」のぬか炊きがメニューに登場‼︎●百年床・宇佐美商店 ぬか炊き定食 1,100円(税込) さば or スペアリブ/ご飯/豚汁
●満腹セット 1,320円(税込) さば2匹 or スペアリブ 2本/ご飯/豚汁
●満腹満足セット 1,320円(税込) さば and スペアリブ /ご飯/豚汁
※+200円でドリンクをおつけできます。
2/12(土)より、まずは「福岡天狼院」にて、ご提供開始いたします!!!(順次、全国展開予定!)
「ぬか炊き」の美味しさを存分にご堪能いただける、スペシャルメニュー、ぜひご堪能くださいませ!
□ライターズプロフィール
田盛稚佳子(READING LIFE編集部公認ライター)長崎県生まれ。福岡県在住。西南学院大学文学部卒。
地域で活躍する人々の姿に魅力を感じ、人生にスポットライトを当てることで、その方の輝く秘訣を探るべく、事務職として勤める傍ら執筆する日々を送る。
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