週刊READING LIFE vol.240

片づけはテトリスのように《私、実は〇〇なんです》《週刊READING LIFE Vol.240 私、実は〇〇なんです》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/11/20/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「ねえ、ゆりちゃん、コレ、大事なモノやから、持っておいてくれる?」
 
あれは多分、小学校の中学年くらいだったと思うので、せいぜい10歳くらいだっただろうか。
そんな頃から、母は私に大事な書類などを預けるようになっていた。
絶対に失くしてしまったら困る、重要な書類。
そんな大事なモノでも、母はすぐに失くしてしまうのだ。
言い換えると、いつもモノを探す羽目になっていたのだ。
なぜならば、母はモノの片づけが出来ず、手に入れたモノをあちらこちらに置いてしまう人だった。
そうなると、必要になった時に必死に探しても、とても大変な作業になってしまう。
例えば、海水浴場の砂浜に、小さな指輪を落としてしまった時と同じくらい、探し出すのは骨が折れる作業だ。
 
私は、物心ついた頃から、片づけというものが出来ていた。
その片づけは、今で言うところの、整理整頓、整理収納という種類のモノだ。
手元にやってきたモノは、しまうべき場所をしっかりと考え、そこに丁寧に収納していた。
例えば、勉強机の引き出しは、お菓子の空き箱などを利用して、一番上には文房具、鉛筆などは、長さの順番にきれいに並べてしまっていた。
また、別の箱には定規や分度器、コンパスなどをしまって。
二段目の引き出しには、ノートやメモ帳を、引き出しの角に合わせてまっすぐに入れていたりしたのだ。
 
タンスの中も、Tシャツやセーターもシワにならないようにきちっとたたみ、下着類もきれいに並べて収納出来ていた。
部屋の床にモノが放り出されていたり、ずっと置きっぱなしにしたり、というような状況になったことは一度もなかった。
そんな私だったので、小学校での通知表の生活面では、6年間、「整理整頓が出来ている」には、二重丸がずっとついていた。
もちろん、学校の机の中やロッカーも整頓されていた。
なので、片づけが全く出来ず、モノをすぐに失くしてしまう母は、そんな私を頼って、大事なモノを預けるようになったのだ。
学校の先生も、母も、片づけが出来ることだけはいつも褒めてくれていたのだ。
 
そんな母はと言うと、昭和一桁生まれの人間で、モノが無かった時代を長く生きて来た人だった。
なので、手元にやってきたモノは全て保管していたのだ。
当時、いただきモノで包んであった包装紙やリボン、きれいなお菓子の空き箱、とにかくどんなモノでも取っておくのだった。
そこは、私と同じなのだが、どうも母は上手く収納するという点が出来なかったようだ。
 
実家は、当時、父の両親と同居していて、一番多いときには7人家族だった。
なので、私が小学一年生の時に建て直した家は、今で言うところの8Kの間取りだった。
その後、しばらくして父の両親、私の祖父母たちが立て続けに亡くなってしまい、部屋をゆったりと使えるような状況になっていった。
そうすると、母は自分の寝室だけではなく、和室や応接間、納戸などにも自分のモノを置くようになってゆき、どの部屋もモノでいっぱいだった。
 
よく、実家の母が片づけられない人だったので、私も片づけが苦手なんです、とか、片づいた、スッキリした空間を体験したことがないので、片づけられないんです、と言われるがそんなことはないと私は思う。
だって、私の実家は、片づいた時など、一度もなかったのだから。
片づけられないのは、遺伝でもないし、環境も関係ないと思う。
 
物心ついたときから、私が勝手に出来ていた片づけ。
なので、工夫したとか、試行錯誤を繰り返して出来るようになったとか、そんな経験がないのだ。
そう思うと、私の生まれ持った特技、才能かもしれないと確信したのは、結婚して子どもが出来て、ママ友との付き合いが始まった頃だった。
お互いの家を行き来して、子育ての話などをよくしていたが、最後に出るお悩みは、「片づけられない」というものだった。
そんな時、片づけが勝手に出来る私は、ママ友との会話を楽しみながらも、手は動かしてちゃちゃっと片づけをよく手伝ったりもしていた。
そうすると、たいていの場合、とっても喜ばれ、私はますます自分の片づけられるという特技、才能を嬉しく思っていたものだった。
多分、そんな大会は無いと思うが、同じスペースにどれだけたくさんのモノを収納できるかというモノがあったとしたら、私は優勝する自信がある。
それくらい、収納が得意だったのだ。
その、収納をするときの自分の頭の中はどうなっているのかを考えてみると、まるでパズルを組み立てるように、収納するモノと場所の関係を一瞬で察知できているように思った。
 
そのことがよくわかったのは、大人になって出会った、「テトリス」というゲームだ。
あの、落ちてくるパズルのピースを瞬時に当てはめて、クリアしてゆくというゲーム。
私はあのゲームが大好きだった。
楽しいとか、ワクワクするというよりも、ただ快感だったのだ。
きっと、あの感覚がずっと子どもの頃から頭の中で描かれて、私は来る日も来る日も、モノを収納してきたのかもしれない。
 
そんな収納の技術が一番発揮されるのが、海外旅行の時だ。
大きなスーツケースに、一週間分の衣類などを持って行くことが多かったのだが、そうなるとかなりタイトになってゆく。
なので、Tシャツ一枚も、細く、細く巻いてゆき、あの陸上競技のリレーのバトンの中に収まるんじゃないかというくらい細長く出来るのだ。
そうやって、大量の衣類も、化粧品や靴なども例のテトリスのように、上手くはめ込んでゆくのだった。
 
ある時は、同じマンションのお友だちが海外旅行に行く際、私が荷造りを手伝ったこともあった。
持って行きたいモノが全部納められないとSOSが来て、私が手伝いに行ったのだ。
すると、衣類は全て、例のごとくバトンの中に入るくらいに細くして、上手くパズルをはめ込むように納めてゆくと、スーツケースにゆとりが出て来たのだ。
そのお友だちは、まだ他にも持ってゆきたいモノがあるから、良かったととても喜ばれていた。
そして、帰りに困らないようにと、納めた状態を写真にも納めていたのが面白かった。
そんなふうに、私は自分のモノをきちんと整理収納できる人間だったのだ。
 
ただ、それだけ上手にお家を片づけることが出来て、モノがはみ出したり、汚部屋にしたりしたこともなかった私だったが、その片づいた家が好きではなかったのだ。
これは、もうずっと前からモヤモヤしていたことだった。
周りの人からは、いつも褒められていたこと、家は片づいていたのに、友だちを招いたり、ゆったりと家で過ごしたりすることが出来なかったのだ。
片づけが得意、才能だと自信を持っていたはずなのに。
そのギャップにどこか悩んでいたのだが、その後に出会う、断捨離によって全ては解決出来た。
 
ただ、何でもかんでも収納してきた私だった。
それは、それできれいに納められてはいたのだ。
ところが、住まいというのは、そこに住まう住人が快適に過ごすためにある場所なはず。
けれど、私が長年やってきたことは、まるで倉庫のように、ただモノを収納していただけだったのだ。
そのモノが必要なのか、好きなのか、そんなふうに考えることがなかったのだ。
そうなると、家は、そこの住人が主役でなく、モノが主役の場所となってしまい、それでは居心地が良くなる訳がなかったのだ。
整理整頓、収納の前には、自分の意志で選び取るという作業、断捨離が必要だとようやく知ることとなったのだ。
断捨離の片づけに出会って、初めて私はモノを片づけ、始末することによって、今の自分の心地よい居場所を手に入れることが出来たのだ。
 
「片づけが出来ない」と、今も悩み続けている人も、モノを収納してゆくには限りがある。
だって、今の時代は相当な量のモノが家の中にあるからだ。
それらを、まずは必要なのか、使いたいのか、と、自分の思いに問いかけて選び取ってゆくのが、快適な住まいのための片づけだと思う。
きちんと収納できる才能なんて、必要はない。
そのエネルギーは、モノを取捨選択する方に使った方がお家は片づいてゆくはずだ。
 
今ではもう、大量のモノを持っている訳ではないので、私が得意だった、同じ場所にたくさんのモノを収納できるという才能を発揮することはなくなった。
そんなことは、出来なくても快適な暮らしが出来るのだ。
 
その才能が使えるところを思い出してみると、ちょっとたくさん切りすぎてしまったカボチャを煮物にするとき、様々なカタチをしたカボチャをお鍋の中に上手に入れることが出来る時くらいだろうか。
 
そう、今の自分にとって必要なのかどうか、好きなモノなのかどうか、まずは考えて選び取ることが出来ると、お家の片づけはそんなに難しくはないはずだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。

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2023-11-15 | Posted in 週刊READING LIFE vol.240

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