週刊READING LIFE vol.240

池上さんをロールモデルにするきっかけはバカヤローの一言だった《週刊READING LIFE Vol.240 私、実は〇〇なんです》

thumbnail


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/11/20/公開
記事:後藤 修(READINGLIFE編集部ライターズクラブ)
 
 
テレビをつけると、彼が出ていた。
 
「いい質問ですね~」
 
明るく優しいトーンで声を掛ける。番組の出演者は前のめりにグッと前に出て
聞き耳を立てる。賢くなるチャンスを逃さない、獲物を捕まえる野生動物の目を
しているようにも見えた。
 
彼の名前は池上 彰さん。
 
もう日本国民で知らない人はほとんどいないだろう。
NHKで報道記者やニュース解説を務めた後、フリーに転身。
その後、分かりやすいニュース解説をすることを売りにテレビに引っ張りだこ。
 
選挙の報道や、特番では必ず登場する誰にでもわかりやすく話をする
日本語通訳士のような存在。
 
 
そんな池上さんを目指そうとしている男。それが私、金融機関に勤めるアラフィフの
平社員のおっさんです。
 
はて? だいぶ、目標高すぎない? あなた?
 
と思われた方。大変いい質問ですねえ~。
 
ここまで、読んでいただいた方なら、ほぼそう思われるでしょう。
 
ですが、ちょっとまってください。
 
そのように思う前に、これから、わたくし、アラフィフのヒラが話すことを
聞いてもらってから、ご判断していただけたらと思います。

 

 

 

8年前の秋の日でした
私は金融機関の店で働くスタッフとして、その日もお客さんの対応をしていました。
 
その日、お客さんと話している時に、後ろに座る上司が突然、怒声を上げたのです。
 
「お前、そんな話をするな!!」
 
え? 僕はポカンとしました。
だって、目の前にお客さんいましたもん。ちょっと常識外れですよね?
 
すると、上司は我に返りました。
そうですよね、普通は。
 
けど、すぐに後私にこう言いました。
 
 
「後で、話がある。ここは俺が対応するから」
 
それから、しばらくしたらこう言われました。
 
「バカヤロー!! お前、どうしてそんな話をするんだ! そんな話し方をしたら
お客さんが他の金融機関に住宅ローンをもってちゃうだろ!? 気を付けて話せ!」
 
今思えば、私の話し方に問題があるということだったんでしょう。
 
つまり、上司にはうちの銀行で住宅ローンをやめて、他の金融機関で住宅ローンを契約した方がいいですよと伝わっていたようです。
 
当時はその言い方で正しいと思っていた私。
ですが、この怒鳴られたことをきっかけに伝えることが恐怖に化けていったのです。
 
その日以降、私は物事を伝えられなくなっていきました。
徐々に、どういうわけか伝え方がまったく分からくなってしまったのです。
 
例えば、お客さんが来た。このようなことを相談しに来ている。
こういう場合、どのように答えればいいのか? また、どんな行動をするのか?
 
今ならば、迷うことなくできるかなと思うのですが、その時は違いました。
僕はお客さんと話しても、どのように対応をすればいいかを
思いつけない男になっていました。
 
窓口の対応だけでなく、電話でもそうなっていきました。
 
「ええと、ああと、これはこれで、ええ~」
まったく脳が働かず、聞き取り力はゼロ。
同僚に何かを伝えても、
「え? え? 何を言いたいの?」と言われる始末。
本当に暗闇にはまってしまったような感じでした。
 
こうなってしまうと、もうだめです。
同僚からは「意味分からないごとうさん 」と言われるほどに呆れられました。
 
また、同僚との情報交換が不通になり、トラブルが起こるようになりました。
トラブル対応にたくさんの同僚を巻き込むことも増え、
本当に、負のスパイラルに陥り、同僚や上司からの信頼が失墜しました。
 
そして、所属長にこう告げられたのです。
 
「あなた、窓口の対応、外れてくれ」
 
まあ、今思うだけでも悔しい瞬間でした。
 
それから、数か月。
 
やりがいいある仕事を奪われた僕はさらなる辛さを味わいました。
 
「あなた、転勤だから。今度は、お客さんと対応する部署じゃないから。
安心していいから」
 
なに? 安心って? そっちが安心なんでしょ!?
 
僕は居場所を失って、異動となってしまったのです。
いやあ。本当に本当に悲しく辛かったです。
 
ですが、今振り返れば、分岐点、いや池上さんを目指そうと思った出発点でした。

 

 

 

「初めまして。これからお世話になる後藤と申します。
少しずつ慣れて戦力になれるよう頑張りますので、よろしくお願いいたします」
 
新天地へ行った初日。型通りの挨拶を済ませながら、やや不安な気持ちを
抱えて、私は自分のデスクへ向かいました。
見ると、上司らしい人がそばで立っていました。
すると、
「君の仕事を教えてくれる人は彼だから。分からないことは彼に聞けばいいから」
その人が彼と言ったのは、僕の向かいに座る男性の同僚でした。
見ると、僕はキュッと体が締まりました。
 
なかなか迫力ある人だ……。言われたら怖そうだ……。
 
どうやら僕より数歳上の方。この人に話しかけて、何かを言われたら
恐怖を感じなければいいが。
 
その時、そんな風に思いました。
 
「これから、どんな仕事するんでしょうか?」
「ああ、お客さんに商品を説明したり、店へお客さんから得た情報を電話で
伝えることが主な仕事だから。頑張ってね」
 
え? お客さん対応クビって言われたてここに来たのに……。
彼の言葉は少し疑問を感じました。でも、語り口調は優しく笑顔でした。
 
見かけは怖い顔をしている不動明王。が、中身は優しい弥勒菩薩様。
そんな感じに思えてきました。
 
この人と一緒にやったら、何かが変わるかもしれない。
なんとなくそんなことも感じました。
 
その予想は的中しました。
 
それは仕事中、僕が尋ねるたびに、どんな質問でも全て的確に答えてくれたのでした。
僕のつたない説明でも、彼は弥勒菩薩様のように聞いて答えてくれたのです。
 
 
例えば、お客さんの対応の仕方が分からず、迷っていると
「この場合は、こういい風に答えな。すると、お客さんが納得してくれるから」
と言ってくれたり。
電話対応で対応しづらい言葉をお客さんから投げられた時も快く
交代してくれたり。
 
さらに、それらが終わると
「こういう風に言えば、店のスタッフは‘なるほど’と言って電話切ってくれるから」
とありがたい訓示を授けてくれたのです。
 
本当にすげえ。弥勒菩薩様だよ。この人。
 
感激しながら、仕事を共にしました。
 
そのような対応をしていただくと、私も変わっていきました。
 
それは新天地に来てから数か月間、仕事が終わると、必ず喫茶店に寄ったのです。
コーヒーを飲みたいからではありません。
なぜかというと、彼、いや、弥勒菩薩様の教えを復習するためにです。
 
やり方としてこうでした。
ノートにその日起こった仕事の内容を思いだしました。そして、その時彼がどのように対応して、どのように答えたのか。そして、僕にどんなアドバイスをしてくれたのか?そして、僕はどう考えればよかったかを頭で反芻したのです。
その後、全て文字として書き起こし続けて、それをじっくり読み返しました。
それはお経を暗唱するかのようにと今となっては感じます。
 
すると、そうするうちに、仕事力が上がってきました。
 
具体的にいうと、コミュニケーション力が徐々にアップしたのです。
たどたどしかった会話がスルッとできるようになりました。
「ああ、そういうことね」
「わかった。ありがとう」
みんな笑顔で私の話を聞いて返事をしてくれるようになりました。
 
もちろん、伝え違いや行き違いもありました。
 
でも、その時も弥勒菩薩様がフォローしてくれたのです。
 
「任しときな、これやっとくから」そんなありがたい言葉を
何度もいただき助けていただきました。
本当にとても心強く嬉しかったです。
 
 
こんなかんだで新天地に来て、1年後。ある日、驚くことが起きました。
 
「あんた、よく頑張ったな。頼りにしてるよ、これからも」
 
なんと、職場長が仕事帰りにポンと僕の肩を叩き、ねぎらってくれたのです。
こんなこと今までありませんでした。
本当に夢の出来事。
 
本当に天に上るほどの嬉しさでした。
 
この時、思いました。
 
社会人20年目にして、ようやく物事を伝えられる力をつけたなと。
よくやったよ、私もと。
 
 
現在、私は同じ部署で働き続けています。
時が経ち、スタッフが変わる中でこんな風に私を言ってくれる人がいます。
 
「後藤さん、電話対応のプロだよね」
 
いやあ、嬉しい。そんなこと、昔なんて言われることなんてありえない。
夢のまた夢ですよ、本当に。
あの弥勒菩薩様と出会わなければ、今の人生はありません。
心からそう思っています。

 

 

 

ここまでが僕が電話対応をもとにコミュニケーションスキルの基礎をアラフィフにして
身に付けたという話をしました。自分でも、池上さんのように
分かりやすく話せる土台となるスキルは身についたと感じています。
 
 
ところで、どうして池上さんを目指したいの、あなた? と思った方いるかもしれません。
なかなか伝えるのって、難しいことだよねって思う方もいるかもしれません。
 
その答えはシンプルです。
 
池上さんのような、分かりやすく丁寧に誰にでも話せる力をつける。
そして、その力は努力で手に入れられるものだとたくさんの人に伝えたいと思っているからです。
 
また、それをたくさんの人が身に付ければ、穏便で平和な時間を過ごす人が増えるのではないかと感じているからです。
 
仕事で電話対応をしたり、人と話すとよく思う時があります。
 
それは、本当に情報や何かを伝えるということが苦手な人が多いと。
 
「ええと、これは、あのこの」
 
何を知りたいのか? 何を伝えたいのか? 何を聞きたいのか?
 
伝えようと思っても伝えられない人がけっこういるような感じがするのです。
まるで、昔の私を見るような気分になるのです。
 
こんな感じならば、他の人とコミュニケーションをとる時も軋轢が起こりやすいし
言い争いも起り、相互の理解もできないなと。それが元で、いろいろな悪いことも
おこってしまうんだろうなと。
 
ならば、分かりやすく丁寧に話せるようになったらどうなるか?
 
あの池上さんのような話し方が出来れば、みんな笑顔で‘
あ、分かった。分かった!’と情報を交換できたり、仕事でもプライベートでもスムーズに
どんなことでも進んで行くと思うのです。
 
 
そこには、たくさんの笑顔と穏やかな空気が流れているはず。
そうなれば、空気も明るくなるに違いない。だから、僕はその伝道師になりたい。
そう思うのです。
 
そんな僕もまだまだ未熟です。
僕は池上さんのように伝え方の達人の域には達していない。
話し方でしくじりもするし、毎日反省しながら勉強の毎日です。
 
だけど、みんながにこやかにコミュニケーションを出来る職場や社会を
作る、そうなれば、平和な時間が増える。
そんなお手伝いができるような話し方、伝え方マスターを目指したい。
 
まだまだ、道半ば。これからも修行の毎日ですが、そんな
未来を描けるように、池上さんを追っかけて行きます。
 
長くなりましたが、ご精読ありがとうございました。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
後藤 修(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

愛知県出身。会社員として25年間勤務中。4年前に今までの人生を振り返って
自分らしさを持ちながら生きることを決意し、コーチングとNLPを取得する一方
役者修行をスタート。
本来の自分を取り戻し、‘ありたい自分’で生きていきたい人を支援する活動する夢を
持ち、スローに着実に進めている。

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2023-11-15 | Posted in 週刊READING LIFE vol.240

関連記事