週刊READING LIFE vol.241

自業自得なのは、解っていますので《週刊READING LIFE Vol.241 どうか私を笑ってください》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/11/27/公開
記事:山田THX将治(天狼院ライターズ倶楽部 READING LIFE公認ライター)
 
 
『何で、こんな苦労をしているのかねぇ』
 
毎週二回、私は決まってこんな気分に為る。天狼院で受講している、ライティング系ゼミの課題提出が有るからだ。
それ等には当然、提出締め切りがある。
 
そう。私は毎回、迫る課題提出期限に苦労しているのだ。
 
「それなら、止めればいい」
 
と、声が聞こえてきそうだ。
何しろ、自主的に講座を受講しているのだから。
それに私は、課題を出さなかったとしても、別に懲罰が待っている訳でもないのだから。
当然、止めるのだって自由だ。
 
では何故、私が書くことを止められないのか。
それには、深〜い訳があるのですよ。
 
『第一位は定期的にペースを崩さず、投稿し続けてくださった山田さんです!
山田さんから見た独創的な世界の記事がおもしろかったですね!』
 
これは8年前、私がライティングを本格的に学び始めた頃、天狼院の第一回メディアグランプリで首位を獲得した時に頂いたコメントだ。
首位といっても当時のランキングは現在と違い、部門別に分かれていた。私が首位に立てたのは、『お客様部門』というライティング・ゼミの前身であるライティング・ラボ参加者だけに限定したカテゴリーだ。
なので、三浦店主を始め天狼院のスタッフや、プロのライターさんや編集者さんとは分離した部門なのだ。もっとも、そうでもなければ、私の様な筆力の無い者が首位に為る訳がなかった。
 
それでも、誉められることは嬉しいものだ。
以来私は、始めに誉めて頂いたことで、今でも書き続けていられると公言してきた。それが、無難な答えと思ったからだ。
加えて、ライティング・ラボが数回開講された頃、天狼院のスタッフから、
 
「山田さん。折角の投稿権ですので、提出して下さい」
 
と、念を押されたことが有った。
それまで私は、講義を受ける事はあっても、課題を提出する事はなかった。何故なら、私自身の筆力に自信が無かったからだ。
 
それでも、私に課題提出の要請が来たのは、訳があったからと思われた。
何でも、受講生数に比べて記事提出が少ないとのことだった。
発起した私は、
 
『自分の様な年寄りが率先だって書けば、若者は書かざるを得ないだろう』
 
と、思い立った。
若い受講生に奮起を促したく為ったのだ。
 
そしてもう一つ、グランプリ首位を獲得する半年前、
 
『しまった! 先に書かれた!』
 
と、感じた悔しさが有ったのも事実だった。
それは、在る人物に対して感じたものだ。
 
私が、天狼院でライティングを学び始めた時から、同い年のN氏という知り合いがいた。小柄で落ち着きがあり、物静かなN氏は、声と図体がデカく、やたらと江戸弁でまくし立てる私とは、正反対な存在だった。勿論N氏は、私に比べて知的で教養溢れる大人として見られていた。
N氏の人物像は、それで間違い無かった。
スピーチの講座で講師を勤め、天狼院でも講座を開いた経験が有るN氏は、著書も執筆していて、私等とは比べ様もない筆力だった。しかも、その教養や筆力は、圧倒的な読書量に依るところだった。
 
ただ、同じライティング・ラボという土俵に立って、N氏が最初に書き上げた、
 
『結婚しても男が「イクメン」や「カジメン」に絶対になってはならない理由』
 
と、題した記事がいきなりバズった。
この、ややもすれば炎上しそうな題名の記事は、読み進めると初めの印象とは全く違った内容のものだった。
今読んでも、実に見事な記事だ。N氏の記事は、三浦店主にも誉められることと為り状況が一変した。
何故なら、私に大きな“悔しさ”をもたらしたからだ。
 
8年も前のことなので、もう“負け犬の遠吠え”と為らないと思う。
実は、N氏の記事と同じ内容のことを、私は既に数十年前から思っていたからだ。家事が得意ではないウチのカミさんからも、常々言われてきたことだったからだ。
8年前の私には、それがバズる程のコンテンツに為るとは、考えが及ばなかったのだ。
それにも増して、私にはN氏程の筆力は望むべくも無かったのも事実だった。
私は今でも、この時の悔しさを忘れてはいない。
悔しがってばかりもいられないので、一旦この悔しさを封印し、N氏や他の受講生に遅れまいと付いていくことを考えた。
 
それが、今でも書き続けることが出来ている理由の一つだ。
 
私は以前から、何かを書いたり読書することは厭わなかった。
但し、誰かに読んで頂こうとか、筆力を上げる為に読書しようとは考えていなかった。そこには、全く自分勝手で気儘な書き物や読書しかなかった。
 
天狼院でライティングを学び始めてから、それまで以上に筆力不足と読書不足を痛感する様に為った私は、リカバリーの方法を探った。
当たり前の話だが、筆力は一朝一夕に上がるものでは無い。しかも、私は根っからの怠け者だ。
取柄といえば、一旦始めたことをなかなか止めないシツコイ性格であることだ。正確には、諦めの悪さは他に引けを取ったことが無いのだ。
折角の事なので、持ち前の諦めの悪さをライティングに利用しようとも考えた。要するに、誰よりも続けようと自分に誓い、続けろと自らに命じた。
 
その後、ラボは天狼院ライティング・ゼミに昇格し、受講生も益々増えた。
私は、それまでにも増して置いて行かれない様に‘キュウキュウ’と為っていた。一向に筆力が向上しなかったからだ。
その後、多くの方々が、ゼミを継続出来ず離脱していった。私には彼らの真意を測りかねている。どうやら課題提出の果実である、Webページへの掲載が思う様に為らなかったことが一番の理由らしい。
私はと言えば、元々の低筆力故、掲載率は著しく低かった。しかし、それでメゲることは無かった。当然の結果に過ぎないことは、自分自身が一番解かっていたからだ。
そして私は、意外と鈍感だ。不掲載が、苦には為らなかった。
それに、記事が掲載されないことで、気分がネガティブに為っている自分が嫌いだった。
その上、還暦を間近にした(当時)私に、落ち込んでいる余裕は無かった。時間の無駄でしかないからだ。
 
落ちても(記事が掲載されなくとも)落ちても書き続けている内、いつしか私は、書くことが楽しくなってきた。自宅に戻り、PCの前に座ることが、嬉しくて仕方がなくなった。
物を書く目標(締め切り)が、在ったからだろう。
 
2年経った時、
 
『山田さん。入試受けないのですか?』
 
一通のDMが届いた。
それは、天狼院のライティング・ゼミに、上級クラスの『プロフェッショナルコース(現・ライターズ倶楽部)』が開設された時だ。入試とは、『プロフェッショナルコース』への試験のことだ。
送り主は、スタッフの川代さんだった。
私は、短いDMの裏に、
 
『オイ、山田! まさか、入試を受けない選択は無いよな!』
 
と、本音が隠されているのを読み取った。
正確には、勝手に読み取れたと思った。
私は、よく利用させて頂いている天狼院との今後を考え、
 
『ハイ、勿論受験させて頂きます』
 
と、即レスを返した。その裏には、
 
『解りました。受験しますから、御勘弁下さい』
 
と、本音を隠していた。
 
そもそも、筆力の無い私が、上級コースに付いて行く自信は無かった。だいたい、“プロ”と名が付くところへ、私なんぞが出しゃばったところで、『猫に小判』状態になることが請け合いだった。
その上、通常コースより格段に高い受講料と、受験料のことをカミさんに相談出来ずにいたのも事実だった。
 
要領を得ないまま、私は受験当日天狼院に向かい、店頭で受験料を払った。
そこには、出題をしてくれるはずの川代さんも、合否の判定をして下さる三浦店主の姿も無かった。
暫くすると、通信画面に川代さんが現れ、
 
「ではこれから、入試を始めます。テーマは『○○』です。二時間で5,000字の記事にして下さい」
 
と、手短に告知して下さった。
私は、
 
「すみません。今日ここで書くとは思っていなかったので、PCを持って来ていません」
 
と、最後の抵抗を試みた。
本心では、分の悪い雰囲気から逃げ出そうとも思っていた。
 
「あ、手書きでいいですよ。スタッフ、山田さんに2・3枚紙を渡して」
 
と、川代さんは、私の手の内を御見通しの様子だった。
実際、他に二名居た受験生は、ちゃんとPCを持参していた。
 
私は押しつぶされそうな空気を避けようと、一旦店外へ出てタバコを一服した。
 
『さぁ、如何したものだか』
 
私は、無い頭を振るスロットルで回した。
しかし、そこには大きな壁があった。それは、課題テーマだった。
生活習慣のせいで、私には無縁のテーマだったのだ。
しかし、文句を言ったところで埒が空く訳ではない。
私は気を取り直し、店内に戻った。
 
私は思い付くままに、メモ書きし、おもむろにペンを走らせた。
今でも覚えているが、話の着地は、
 
『お前なんか、二度と(慰安旅行に)誘わない』
 
と、言われてしまったことにした。
納得には程遠い出来だったが、何とかポジティブに文章を閉じることだけは出来た。
 
執筆中は、悲惨の極みだった。
悪筆な上に漢字が書けない私は、スマホを辞書代わりにしながら、何とか入試を書き終え提出した。手書きなので正確な字数は不明だったが、多分、3,000字に少し届かなかったと思う。5,000字の課題なのに。
 
ただ、間違い無いと思ったのは、入試を突破は無いだろうことだった。
 
数日後、意外なメールを受け取った。
何と、川代さんから『天狼院ライティング・ゼミ プロフェッショナルコース合格』なる知らせが届いたのだ。
私は今でも、手書きで提出した答案を、私の悪筆のせいで三浦店主が解読出来ず、
 
『ま、山田さんは長く続けているから合格でいいんじゃないの? 年寄りだし』
 
と、温情を掛けて下さっての合格と思っている。
その証拠に、プロフェッショナルコースに昇格後、私の記事は一向に掲載される気配が無かったからだ。筆力不足は、明白だった。
時には講評で、三浦店主から、
 
『拝見します』
『つまらないです』
 
と、たった二行で終了したことが有ったぐらいだ。5,000字もキーボードを叩いたのに。
恥ずかしい思い出ではあるが、私は、どんな酷い文章でもちゃんと講評を返して下さることに感謝した。
そして、読んで頂けるのだから書き続けなければと再確認した。
 
三浦店主の教えは一貫して、
 
『問題の解決は書くしかない』
『量(書く)に勝る正義は無い』
『考える前に書いてみろ』
 
と、兎に角、書き続けることだった。
私は素直に、教えに従った。従い続けた。
そして一つの答えを見出した。それは、誰にも負けず書き続けることが出来れば、いつしか“何者”かに為ることが出来るかも知れないと考えたのだ。
 
私はいつしか、毎日5,000字綴ることが、全く苦には為らなくなっていた。
むしろ、楽しいとさえ思える様に為って来た。
そしてまた、書くことが楽しいを通り越して、ストレス発散となっていることに気付く様に為っていた。
 
だから私は、今でも書けている。
苦もなく、書き続けることが出来ている。
 
以前、清涼飲料水のテレビ・スポットに、御年50を超えたサッカーの三浦知良選手が登場するものがあった。
全体練習でバテバテになった若手のチームメイトに、もう上がろう(終わろう)と即されると、カズは、
 
「俺はもう少し。もっと、上手くなりたいから」
 
と、再び走り出すものだった。
実に格好良かった。それ以上に、私にとっては、書くことに対してまた一つ、モチベーションが上がることとなった。
 
今でも書き続けている私だが、多分、専業の物書きと為ることは無いだろう。何故なら、還暦を過ぎた私には、いくら何でもそこまでの時間的余裕は残されていないと思うからだ。
私は既に、立派な初老人だ。
 
しかし、9年間も書き続けて来たことで、いくつかの書き残したいことが出て来たのも事実だ。
何をどういった形にするかは見当すら付かない。
でも、喜んで私の残したことを受け取ってくれる若者がいることも事実だ。
これは何とかしなければならない。
 
その為には、やはり書き続けるしか、私には手立てがない。
 
そう、思い続けているものの、毎回の締め切り間際に為ると決まって、
 
『何で、こんな苦労をしているのかねぇ』
 
と、考えて仕舞う。
決して、書くことが嫌いになった訳では無い。
自分から、能動的に書き始めたのは事実だ。
勿論、書きたくない訳では無い。
 
無論、私の本音から出た訳では無い。
何故なら、ネット環境とかのトラブルで締め切りに間に合わなかった際等、とんでもない喪失感と敗北感が、私のメンタルを叩いてくるからだ。
 
多分、私は、好きなことで苦労する自分のことが好きなのだろう。
言い換えると、自分の意思で苦労している現実を楽しんでいるのだろう。
 
止めようと思えば、いつでも止められることを続けているのだから。
 
そう、『自業自得』極みを楽しんでいるのだろう。
 
だから、他人(ひと)から笑われる様なことかも知れないが、いつまでも続けているのだろう。
ただ、書くということを。
 
だから、今思うこと。
 
それは、私が何等かのことを書き続けた爪痕をどこかに残したい。
 
例えそれが、ヘミングウェイの『老人と海』に出て来る老漁師が釣り上げたカジキの様に、鮫に食いちぎられ骨だけに為ろうとも。
 
そして、書き続けることが、誰かに笑われ様とも、『老人と海』の主人公・サンチャゴの言葉が、私を勇気付ける。
 
「人間って奴は、負ける様には出来ちゃいない」
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山田THX将治(天狼院ライターズ倶楽部所属 READING LIFE公認ライター)

1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役
幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数17,000余
映画解説者・淀川長治師が創設した「東京映画友の会」の事務局を40年にわたり務め続けている 自称、淀川最後の直弟子 『映画感想芸人』を名乗る
これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿
ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている
本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」
映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり
Web READING LIFEで、前回の東京オリンピックの想い出を伝えて好評を頂いた『2020に伝えたい1964』を連載
加えて同Webに、本業である麺と小麦に関する薀蓄(うんちく)を落語仕立てにした『こな落語』を連載する
天狼院メディアグランプリ38th~41stSeason四連覇達成 46stSeasonChampion

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2023-11-22 | Posted in 週刊READING LIFE vol.241

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