週刊READING LIFE vol.242

色気が人を惹きつける《週刊READING LIFE Vol.242 全力推し活!》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/12/4/公開
記事:松本 萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
ここまで自分が「推し」にはまるとは思わなかった。
都内でイベントがあればもちろん行くし、この前は名古屋まで日帰りで会いに行った。そして今週末は神戸でイベントがあるので、有休を取って参加する予定だ。どこにでも会いに行くので推し活仲間から「フッ軽萌さん」と呼ばれている。
 
推しに惹かれる理由は、推しから感じる「色気」だ。
温かな性格、優しい態度、細やかな気遣い、包み込むような微笑み、子供のように無邪気に笑う笑顔、そんな中に垣間見える鋼のように強く、どんなときも顔を上げて前を見据える一面を見たとき、その人に色気を感じる。
いかにもだだもれのセクシーさではなく、寒い時期にタイツを脱いだ足先に真っ赤なペディキュアが塗られていた、分かるか分からないかくらいの微妙な表現の中にその人の本質が見えたとき「色気」を感じてその人の虜になる。
持論だが、人としての「色気」があれば誰しもが誰かの「推し」になれると思っている。

 

 

 

私は子供のころから何かに「はまる」ということがなかった。
自分から「やってみたい」と言ってスイミング、ピアノ、絵画教室、卓球と様々な習い事に通わせてもらったが、どれも続かなかった。長く続けているものといえば、高校のときに始めた弓道ぐらいだろうか。今でも週に一度の稽古を欠かさないようにしているが、疲れたとか友達と遊ぶとなると、サボってしまう。好きだしいくつになっても続けたいと思っているが「推し」までには至っていない。
 
友人がアイドルグループのライブのチケットを取ろうと必死になる姿を「テレビで見られるじゃん。そんなに時間とお金と労力を費やして必死にチケット取ろうとしなくても」と冷ややかな目で見ていた。天邪鬼なところがあるので「好き」と公言している友達をうらやましいと思う気持ちもあった。そんな思いすら口に出せないひねたところが私にはあった。それが今では「リアルで推しに会えるって最高だよね。なんとしてもリアルで会いたいと思うその気持ち、分かるよ。私も一緒だよ!」と思えるまで変わった。
 
私の思考を180度変えた「推し」は関西に拠点を置く美容家だ。
 
私が推しを知ったのは4~5年前だ。そのころの推しはプロのメイク講師養成講座を開催しながら、さまざまな化粧品で日常的に使えるメイク方法の講座を一般向けに行っていた。当時の私は「化粧はしなければいけないもの」と半ば義務的なものとしてメイクをとらえていたため、そこまで推しに惹かれることはなかった。「顔立ちもスタイルもきれい人だな。美容家だから当然か」とどこか冷めた目で見ていた。
 
そんな私が推しに惹かれるようになっていったのは、毎日推しを見るようになったからだ。
コロナ禍で社会が暗い雰囲気になる中、推しが「1000日連続Facebookライブをします」と宣言し、毎夜ライブを始めたのだ。新しく出たデパコスメイクでエレガントなメイクをしたかと思ったら翌日にはプチプラメイクを紹介したり、冠婚葬祭や着物用などシーン別メイク方法や、十二星座ごとの特徴を活かしたメイクなど内容は盛りだくさんだった。ディズニーのプリンセスメイクと衣装で登場することもあれば、クリスマスコンサートや年越しのカウントダウンをして一緒に新年を迎えるというイベントもあった。
 
「1000日連続ライブ」と聞いたとき、「1000日って2年半以上! しかも毎日やるって……」とびっくりした。本当に続けられるんだろうかと疑心暗鬼に思いながら、会社から帰ってきて一息つく時間帯に始まる推しのFacebookライブを毎夜見るようになった。
 
そんなある日「朝のインスタライブを1000日する」と宣言し、Facebookライブと同時進行で朝5時台からの朝活メイクライブも始まった。
「夜に加えて朝も!」とビックリしつつ、出勤準備をしながら朝活ライブを見るようになった。「見られるときに見よう」と思っていたのに、気がつけば毎日見るようになっていた。
 
ときにお悩み相談が始まり、人生観や人間関係、仕事のことなどフォロワーから寄せられる質問に対し、推しなりのアドバイスをする回もあった。
推し自身の幼少期の出来事や大人になってから経験したことを語ることもあった。「そんなことがあったのか」とビックリするエピソードが盛りだくさんで、そんな経験をしているからこそ出てくる言葉の数々が自分の中にストンストンと落ちるのを感じた。
 
いつしか「推しの顔を見ないと、一日が始まらない」と思うようになった。
 
毎日会いたいと思う人が自分にできるなんて、自分でも信じられない。好きになればなるほど斜に構えて素直になれずモヤッとする私が「大好き! 画面越しでもいいから毎日会いたい」と思える推しが現われる日が来るとは。
 
どうしてこんなに推しに惹かれるんだろう。
行き着いた答えが「人としての色気を感じる」からだった。やわらかい雰囲気をまといながら、時に凜とした芯の強い一面を見るたびにハッとさせられた。一人の女性として、一人の起業家として見せる表情、仕草、佇まいに惹きつけられた。自分の理想とする自分でいられるよう心身共に自分磨きを怠らず、パッと見からは想像できないスポ根精神にやられた。
 
私は推しの色気から生き方のヒントをいくつかもらった。
 
推しはライブ中に自分の持っている美容のスキルを惜しみなくフォロワーに教えてくれる。
Facebookやインスタライブ中に投稿されるコメントを一つ一つ声に出して読み上げ、「こんなときどうすればいいか分からない」というコメントに対しレクチャーしてくれる。無料のライブなのに「そこまで教えちゃっていいの?」と思うようなことも教えてくれる。まさに有料級だ。
根底には「辛いときにメイクが自分を支えてくれた」という推しの思いがある。人が幸せになるメイクを届けたいという考えの元、惜しみなく教えてくれる。
 
どんなに高いスキルを持っていてもオープンにせず「ここからは有料です」とする人がいる中、惜しみなく与えられる人からは優しさとともに、余裕を感じられる。余裕がなく自分のことばかり考える人から、人としての奥深さや懐の深さは伝わってこなく、魅力を感じられない。
魅力は色気に通じる。
「あの人に勝つんだ」「トップになるんだ」という勝負心は人を動かすエネルギーになるが、時に人を不快にさせたり、ギスギスした人間関係を生み出してしまう。勝負を挑むのは「昨日の自分」にして、周囲には余裕のある態度でありたい。
 
だれしも悲しい思い出や辛かったできごと、恥ずかしい思い出、誰にも言えず墓場まで持っていく話があるだろう。そんな出来事は大っぴらにしたくないと思うのが普通だが、推しは自分のことをオープンに話す。
子供時代のこと、家族とのこと、大人になってからのできごと。そしてどんなできごとも「あってよかった。あのときの経験が今の私をつくっている」と話す。
 
話を聞くと「そんな大変な経験をしてきたのか」とびっくりするとともに、目の前の画面では優しい微笑みをたたえている推しを見ると「強い人だな」「辛い過去に潰されないしなやかな精神を持った人だな」と感銘を受ける。
 
私は悲しいことや辛いこと、失敗談を人に知られることは避けたいと思ってしまう。親に申し訳ないと思いつつも本当のことを伝えられない、墓場まで持っていく話がある。他にも恥ずかしい思い出やなさけないできごとがたくさんある。
私はそんな話を人に話したら「バカにされたらどうしよう」「陰で笑われたら恥ずかしい」と羞恥心が勝り話せない。かっこつけな人間だ。
 
一見ネガティブな話をフォロワーの前で話した後「あのときの辛い経験が今の私を作っていると思えるから、今は感謝している」と話す推しに、芯の強さを感じる。
ネガティブなできごとをネガティブなままで放置し「環境のせいだ」「周囲のせいで自分は辛い目に遭ったんだ」というのは簡単だが、悲観していても始まらない。
できごとに対してどうとらえるかはその人次第で、そしてどんな経験からも学ぶことはできる。
 
「人と仲良くなりたいと思ったら、まずはオープンマインドでいること。自分が心を開くから、人も心を開いてくれるんです。まずは自分から」「人生に失敗なんてない。思ったとおりにいかなかったことは失敗ではなくて、このやり方ではできなかったというのが分かったという経験。自分に起きたすべてのできごとは大切な経験です」と笑顔で語る推しに、いつも勇気をもらっている。

 

 

 

推しのライブや講座に参加し何度も話を聞くうちに、少しずつだが考え方や行動が変わってきた。
 
子供のころからおしゃべりではなかったため、自分のことを話すのが苦手だった。表情が豊かでないため「クールでプライドが高そう」「なにを考えているか分からない」と言われ、口をつぐんでしまうことが多かった。そんな幼少時代の経験から「私が話したってどうせみんな興味持たないでしょ」と、自分の考えや思いを話すことから避けていた。
 
推しの「オープンマインド」という言葉に触れ、そして実践する姿を見るうちに、徐々にオープンマインドの精神が私の中で養われていった。
自分から笑顔で話し掛け、クスッと笑えるようなネタや今までの失敗談を交えながら「私はこんな人間ですよ」と伝えるようになったら「初めて会った気がしないわ」「人見知りしないタイプだね」「パッと見、真面目でクールそうに見えるけど実はおもしろいね」「深い話ができて嬉しかったよ」と言われるようになった。
 
しかたなくやっていたメイクも楽しくできるようになった。
「眉毛は人相における玄関」と教えてもらい眉毛を描くようになってから、幼い顔立ちがキリッと引き締まり自分の顔が好きになった。口紅がチークの代用になると知り、旅先でチークを忘れた際に血の気のない顔でいることを免れた。「メイク面倒くさいな」と思うとき「顔は人とのコミュニケーションの窓口です。あなたの顔は人を幸せにする顔になっていますか」という推しの問いかけを思い出し、丁寧にメイクをするようにしている。
 
メイクから自分を大切にすることを学び、自分をもっと丁寧に扱おうと意識が変わった。
推しのおかげで自分を受け入れられるようになった。
「どうせ自分なんて」と思うことがなくなった。
自分を好きになることができた。
推しは最高だ。
 
昨年の暮れ、推しのFacebookライブは連続1000日を達成し、インスタライブは今年の夏に連続1000日目を向かえた。インスタライブ1000日目達成の朝活ライブは、フォロワーからの祝福のメッセージが止まらなかった。
推しのことがますます好きになった。
自分との約束を違わずに目標を成し遂げる推しはやっぱり最高だ。
 
推しはフォロワーのことを「さん」付けで呼ぶ中、数人のフォロワーに対して「ちゃん」付けで呼ぶ。推しよりも年下で、ライブ中のコメントが多かったりイベントによく参加するフォロワーに対し親しみを込めて「ちゃん」付けで呼んでいる。かくいう私も「萌ちゃん」と呼ばれている。イベントに参加すると、はじめましての推し活仲間から「萌ちゃんって呼ばれてるよね」と声を掛けてもらえる。
推しから「ちゃん」付けで呼ばれていることは、私のちょっとした自慢だ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
松本 萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

兵庫県生まれ。千葉在住。
2023年6月に天狼院書店の「人生を変える『ライティング・ゼミ』」に参加し、10月よりライターズ倶楽部を絶賛受講中。実体験を通じて学んだこと・感じたことを1人でも多くの人に分かりやすい文章で伝えられるよう奮闘中。

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2023-11-29 | Posted in 週刊READING LIFE vol.242

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