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週刊READING LIFE vol.242

推し活とは、大人の手のひらの上で踊らされることだ《週刊READING LIFE Vol.242 全力推し活!》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/12/4/公開
記事:青山 一樹(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「あの時は、大人の手のひらの上で踊らされていた」と、後から気づく人は多いと思う。私は、小学校5年生の時に気づいてしまった。今にして思えば、ませた子どもだったのかもしれない。
 
私を、ませた子どもに育て上げた張本人は「キン肉マン」である。私のような団塊ジュニア世代で「キン肉マン」に熱中した人は多いであろう。今から40年ほど前、小学校低学年だった私は、まさにキン肉マンの虜になった。
 
私が、初めてキン肉マンを目にしたのは、週刊少年ジャンプだった。しかも、買ったものではなく、父親が帰宅途中の電車で拾ってきたものだった。「こんなに、面白い漫画が世の中にあるのか!」と、当時の私は興奮で、その日の夜はなかなか寝ることができなかった。
 
「どうにかして、キン肉マンに接する機会を増やしたい」と思った私は、キン肉マン消しゴムを買うことにお小遣いを費やした。キン肉マン消しゴムとは、キン肉マンに登場する超人の形を模した人形であり、通称「キン消し」と呼ばれていた。
 
「キン消しを集め出した」というものの、私が生まれ育ったのは三重県の片田舎である。近所どころか町内を見渡しても、おもちゃ屋さんがなかった。家族と一緒に郊外のデパートまで出かけないと、キン消しが手に入らない。
 
私の家から、郊外のデパートまで、車で1時間ほどかかった。そのデパートのおもちゃ売り場で目にしたのは、カートに山積みされたキン消しであった。消しゴムのキャラクターも1種類ではなく、100種類以上あったと思う。私は、溢れんばかりの超人の消しゴムを一つひとつ見て、「これぞ!」と思うものを決めた。そして、親の了承を得て、自分の小遣いの中から1個100円のキン消しを、1つだけ購入した。1回のお出かけで、100円までは好きなものを買っていい。という親との約束を、律義に守ったうえでの購入だった。
 
小学校低学年の私のお小遣は、1か月で数百円だった。ある時、担任の先生が1カ月のお小遣いの額を、クラス全体で聞いたことがあった。私は、同級生の中で、お小遣いの額が最も低い生徒だった。月々のお小遣いの額が増えないなら、お駄賃を増やそう。と、当時の私は考えた。そこで、夏休みや、冬休みには玄関掃除や食器洗いなどといったお手伝いで、1日10円、20円と小銭を稼いだ。そして、お小遣いとお駄賃のすべてをキン消しの購入に充てた。
 
郊外へのお出かけは、月に1~2回程度のペースだった。私は、その数少ない機会に、キン消しを確実に買うことができるよう、家の中ではイイ子を演じていた。「お父さん、お母さんの言うことを聞かないと、デパートへ連れて行きませんよ」と両親から言われることくらい予想していたからだ。
 
キン肉マンに熱中してから、私の生活習慣は変わった。朝6時30分に起き、夜9時に寝る。宿題も親から言われる前に済ます。ご飯を残さず食べる。兄弟げんかも最低限にとどめた。これらすべてが、キン消しを手に入れるために私がとった行動だった。
 
生活習慣の変化が功を奏したのか、お小遣いでキン消しを買うことを、両親から止められたことはなかった。誕生日やクリスマスのプレゼントにもキン消しが届けられた。
 
さらに、世の中のキン肉マン人気は加速し、今まで郊外でしか手に入らなかったキン消しが、私の住んでいる田舎でも少しずつ手に入るようになってきた。郊外のデパートだけでなく、近所のスーパーでもキン消しを購入できる。キン肉マンブームに便乗し、私のキン消し集めは、ますます勢いを増していった。
 
同級生男子の誰しもが、キン肉マンに興味を持ち始めた。月曜の朝の会話が「昨日、テレビでキン肉マン見た?」という会話からスタートしていた。キン肉マンは消しゴムだけでなく、日曜朝10時からのアニメでも大人気になっていた。しかし、私の自宅はキン肉マンを放映するテレビ局が映らなかった。
 
理由は、よく分からなかったが、大人たちの意見を聞くと、自宅のアンテナの向きで、受信する放送局と、受信できない放送局が分かれている。とのことだった。私は、自分の生まれ育った家を恨んだ。
 
私の自宅から友達の家までは、100~200メートルしか離れていない。その友達の家では、キン肉マンをアニメで見ることができるのに。自分の家では見ることができなかった。私の日曜朝の習慣は、いつしか友達の家を訪問して10時から開始するキン肉マンをテレビで見ることになった。
 
しかし、親世代や祖父母世代からすると、日曜日の朝から、他の家の子どもに遊びに来られるのは、喜ばしいことではない。日曜日くらいは、家族でのんびり過ごしたい。と思っている家庭が多いからだ。
 
そこで、私は、近所の人から好かれる子どもを演じることにした。まず、キン消しを手に入れるために身に着けた、早寝早起きの習慣を活用した。平日6時30分に起きて、すぐに朝ご飯を食べるのではなく、近所をジョギングした。田舎の朝は早い。朝6時を過ぎると、田畑で作業している祖父母世代の人たちが増えるのだった。
 
ジョギング中に、その人たちは見かけては「おはようございます!」と元気に挨拶する。同級生たちは、まだ寝ている時間帯にもかかわらず、私は早起きして走っている。さらに、そろばん塾、書道塾にも休まず通い、友達より少しだけ早く進級した。
 
当時、私が住んでいた地域は、祖父母と両親が同居する家庭が多かった。一家の大黒柱は、お父さんではなく、お爺さんだった。私は、小学校低学年ながら、親世代ではなく、祖父母世代に好かれた方が、友達の家を訪問しやすいことに気づいていた。さらに、祖父母世代に好かれるには、早起き、挨拶、習い事、などがキチンとできる子どもということも、それとなく分かっていた。
 
私は、スポーツや学校の勉強が、飛びぬけてできる子どもではなかった。しかし、このような取り組みの結果、祖父母世代に対する好感度があがり、日曜日の朝から友達の家にお邪魔しても、嫌な顔一つされなかった。当然、お邪魔したときは節度をわきまえていた。
 
例えば、テレビを見る時は正座をする。お昼ご飯を勧められても食べずに帰る。午後からも遊ぶときは、一度帰宅し、自宅でランチを食べた後、再び友達の家にお邪魔する。という行動を取った。
 
キン肉マンという存在に全力投球した私は、家の中ではキン消しを手に入れるために、家の外ではキン肉マンのアニメを見るために、大人に好かれる子どもとなった。
 
しかし、キン肉マンのブームは3年ほどで下火になった。アニメの放送が終了したのは、ちょうど、私が小学4年生から5年生にあがるときだった。「漫画の原作は続いているのに、なぜアニメの方が先に終わるんだ!」と私は、激しい怒りと深い悲しみを覚えた。
 
キン肉マンのブームはテレビアニメの人気がきっかけだった。そして、そのアニメの終了とともに、ブームも去り、おもちゃ屋さんからキン消しが消えた。どこへ行っても手に入ったキン消しが、どこへ行っても手に入らなくなった。私のキン消しコレクターの活動も終焉を迎えた。
 
親からは「もう、キン肉マンの消しゴムは買わなくていいの?」と郊外のデパートへ出掛けるたびに聞かれた。私は「もう、どこに行っても売ってないから、買いたくても買えないよ」と、いつも悲しそうに答えた。
 
キン肉マンに代わる次のブームが巻き起こった。それは、ビックリマンシールとミニ四駆だった。クラスメイトは、次のブームに乗っていった。しかし、私はキン肉マンロスから立ち直ることができず、ビックリマンシールを集める、ミニ四駆を走らせる、といった遊びから一線を引いていた。
 
「ブームは必ず去る。そして、必ず次のブームが作られる」、「ブームを作るのは大人、ブームに踊らされるのは子ども」と、私は小学校5年生にして、妙に冷めた考えを持っていたからだ。
 
キン肉マンに魅了された私は、玩具メーカーやテレビ局が作り出したブームという、特殊な大人の手のひらの上だけで踊らされていたのだろうか。いや、実際は別の大人の手のひらの上でも踊らされていた。
 
それは、私の両親である。キン肉マンのアニメが終了したころ、親から「あなたを育てるのに手がかからなかった。大人しいし、親の言うことも素直に聞くし」と言われたことがあった。
 
私はその言葉を聞いた瞬間、親の手のひらの上でも踊らされていたことに気づいた。両親は、キン肉マンに夢中にさせれば、私がいい子に育つことを知っていたのであろう。キン消しを手に入れるため、キン肉マンのアニメを見るため、という欲望のためであれば、親が育てなくても、私は親の理想通りに育っていく。さらには、私がキン肉マン以降のブームには乗らない。という確信も両親の中にはあったのだろう。
 
玩具メーカー、テレビ局、そして両親という、大人の手のひらの上で踊らされていた私のキン肉マン全力推し活は、36年前に終了を迎えた。今、実家の押し入れには、当時の全ての小遣いを費やして買った500種類を超えるキン消しだけが残っている。
 
いや、キン消し以外にも残っているものがあった、起床時刻6時30分という早起き、自ら進んで行う挨拶、エアロビクス歴23年・盆栽教室6年という習い事を休まず続ける、という習慣も私の中に残っている。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
青山 一樹(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

三重県生まれ東京都在住
大学を卒業して20年以上、医療業界に従事する
2023年4月人生を変えるライティングゼミ受講
2023年10月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に加入。
タロット占いで「最も向いている職業は作家」と鑑定され、その気になる
47歳からの男性育児奮闘記を広めるべく、ライティングスキルを磨き中

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2023-11-29 | Posted in 週刊READING LIFE vol.242

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