週刊READING LIFE vol.246

素直が一番!《週刊READING LIFE Vol.246 どうしても達成したいこと》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2024/1/8/公開
記事:松本 萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
 「あなたって天邪鬼よね」
苦笑しながら母が言った。当時幼かった私は「天邪鬼」の意味が分からず「どういうこと?」と母に聞いた。「素直じゃないってことよ」と返ってきた。
 
言われてみればそうかもしれない。
子供のころから嬉しいや楽しいといった感情を表に出すことが少なかった。ポジティブな自分を表に出すことに恥ずかしさを感じて、わざとポーカーフェイスを装っていた。そんな私のことを母は「思ったままの感情を出せばいいのに。素直じゃないな」と思っていたのだろう。
反対にイライラしたときはすぐにばれて「さっき怒ってたでしょ」「嫌そうな顔してたよ」と指摘された。イライラやムカッとした感情に対しても天邪鬼になれたらいいのに、ネガティブな感情に対しては素直だった。「機嫌悪そう」とか「怒ってそう」と思われるのは嫌なので「今ネガティブになってるな」と感じたときは努めて冷静な表情をするようになったら、いつの間にか「落ち着いてるよね」「いつも感情がフラットだよね。怒ることないでしょ」と言われるようになった。そんなことはないのだがイライラしていることが伝わるよりもいいかと思い、曖昧な笑顔でごまかしていた。高校生になる頃には「クール」「何ごとにも動じない」キャラが定着し、職場では「いつも冷静だよね。焦ってるところを見たことがない」と上司や同僚に言われている。
 
感情のアップダウンに悩まされることはよくあるし、「もうダメだ……」と内心ヒヤヒヤすることも多々ある。もっと感情を出したら楽じゃないか、自分らくし生きられるんじゃないかと思うことがある。ただ周囲から落ち着いているように見られることは悪いことではないので「このままのキャラでいいかな」と思っていた。
「それは違うよ。素直でいることが一番だよ」と、通算20年近く続けている弓道が教えてくれた。

 

 

 

私が弓道を始めたのは高校生の時だ。
中学ではほぼ帰宅部状態で、毎日家と学校を往復する日々がつまらなかった。「高校生活は充実したものにしたい」と思い、部活を頑張ろうと決めた。当時の私にとって「部活と言えば運動部」だったのだが、残念なことに運動神経がよくない。そんな私でも入れる部活はなんだろうと考え、行き着いた先が弓道だった。無事弓道部のある高校に入学し、他の部活には目もくれず弓道部に入部した。
 
上下関係が厳しく、一年生の時はよく先輩に叱られた。一時間近く正座のままで怒られたこともある。それでも辞めたいとは思わなかった。「弓道をやりたい」と思って弓道部のある高校を選んだからということもあるが、弓道が性に合ったというのが一番の理由だ。
 
弓道の楽しさは「単純なのに奥深い」ところだ。動作は非常に単純で単調だ。弓派によって矢を射るまでの行程に違いはあるものの、○○術や○○技というものはない。試合内容によって的の中心に当てることが求められることもあるが、基本的には直径36センチの的のどこかに当てればいい。
見る限りすぐできそうに思われる。だがやってみるとそう簡単にはいかない。骨格や筋肉の付き方、体のバランス等人それぞれ固有の癖が大きく影響し、思ったように弓を引くことができない。一番厄介なのがメンタルだ。「絶対当てたい」という欲や「当たるだろうか……」という不安な心が体に影響し、あらぬ方向に矢が飛んでいく。
 
元来面倒くさがりの私は幾通りもの技を覚えるのは苦手だ。その点弓道の動きは一つしかないので性に合う。そうはいっても簡単にできてしまうとおもしろみに欠けるが、毎日稽古をしても当たる日や当たらない日があり、「なぜだろう」「どうしたらもっと上手くなれるだろう」と考える日々の連続が飽きさせなかった。二年生になる頃にはレギュラーに選ばれ、団体戦の選手として大会に出た。ある大会では優勝し、優勝旗を学校に持ち帰ったこともある。
 
高校卒業後一旦離れるも社会人になってから再開した。
7年ほどブランクがあったが再開するとすぐに体が動きを思い出し、高校の時と同じくらいの的中率を出せるようになった。当たると楽しい。そのため高校の時と同じフォームでやっていたのだが、時が経つにつれこのままではダメだと思うようになった。私のフォームは弓道の「道」を意識したものではなく、「技」に重きを置いた力任せの弓道であることに気がついた。
学生弓道にありがちなのが「当てる弓道」だ。学生は試合で当ててなんぼのため、いくらフォームがよくても当たらなくては意味がない。そのため「道」ではなく「技」を極める傾向にある。
私はもう学生ではないし、大会に出て高い成績を上げる必要もない。それならば本来の弓道をしようと考えを改め、「私もこんなフォームで弓を引きたい」と思う人に教えを請うようになった。
 
師匠から「まず基本を見直しなさい」と弓道をする上で大切な下半身を安定させる「胴造り」から学び直すように言われた。毎週課題が出され、一つずつ動作を見直す期間が数ヶ月続いた。もちろん的中率は落ちる。ただ焦りはなかった。なんとなくやっていた動作を一つずつ見直し、自分の癖をコントロールしながら課題をクリアしていくことが楽しかった。稽古を続けることで自分の理想とするフォームに近づけるのだと思うとワクワクした。
 
最終課題は矢を放す「離れ」の動作だ。
「君の離れはね、力任せに矢を放してるだけなんだよ。『離れ』じゃないんだよ。離れていくから『離れ』と言うんだ。本来自然な体の動きの延長線上にあるものなんだよ」と師匠は優しい笑みを浮かべながら教えてくれた。
今まで色々な人に「えいっ! と力で飛ばしてるよね」と言われてきたが、何が悪いのか、どうすればいいのか分からなかった。そうか、私は自然な動きを無理矢理止めていたのだと気づかされた。
その後も師匠から「力任せに右手を放すんじゃないよ。肩甲骨を寄せていってもう耐えられない、離れていかざるをえない状態になったら自然と矢が弓から離れていくから」「矢は真っ直ぐだよね。真っ直ぐあるものがそのまま真っ直ぐに飛ぶよう、右手を弓から離しなさい」と様々なアドバイスをもらった。
 
高校の時から力任せに放していた私には難解だった。「できた!」と思っても「前と変わってないね」と言われる日々だった。
どうすれば「離れ」ができるのか。なぜ自分は力任せに放そうとするのか。悶々と悩む中、ふと子供の時に母に言われた「あなたって天邪鬼よね」という言葉を思い出した。
そうか、私は弓道に対して素直じゃないんだ。弓から右手が離れていくという自然な状態を無視して「ここまで引いたから後は放すだけ」と放しているのだ。
光が見えた気がした。
 
まずは「難しい」と思うことを止めることにした。
「難しい」と思うのはそこに意識を向けているから難しいと感じてしまうのだろうと考え、右手の動作を考えることを止めた。意識は弓を持つ左手に向け、ひたすら左手を的に向かって押すことで弓の引き尺を伸ばし、右手が耐えられなくなって自然と弓から離れる状態を作った。時に師匠にアドバイスをもらいながら何週間も同じ稽古をした。稽古が出来るのは週に一度で「先週よりも良くなってきた」と言われるときもあれば「先週はできてたのに、今日は逆戻りしてるね」と言われることもあった。
稽古中は「素直になろう」と誓い、師匠からのアドバイス通り稽古をした。
 
ひたすら稽古をしていたある日、弓を引いているといつもと違う感覚におそわれた。弓を持つ左手に力を入れていないの的に向かってスッと真っ直ぐ伸び、右手が自然に弓から離れていった。「えっ! もう離れていっちゃうの」と驚いたが、体が言うことを聞かなかった。矢が的にパーンッと当たる快音が道場に響いた。同時に師匠の「それだ! 今のが離れだ!」という声が聞こえた。
 
こんなにも気持ちいいものなのか。
自然と体が動くってこんなにも爽快な気持ちになるのか。
今まで弓を引くために使っていた力はどこにいったんだろう。
 
自分をコントロールしようとする意識下から体が解放される快感は、初めて味わうものだった。
「離れ」ができた瞬間だった。
 
一度できたからといって何度も再現できるものではないのが、弓道の奥深いところだ。
弓を持つ左手はどうだったろう、弓を持ち上げたときの肩の位置はどうだったろう、弓を引き始めたとき左右のバランスはどうだったろう、胴造りは安定していたのだろうか。意識せずにやっていたため、なぜあの時できたのか自分でも分からない。ただ教えられたことをそのまま再現できるように意識しながら弓を引いていた。
 
「離れ」ができた日から数年経つが、それ以降あの日の「離れ」ほど完成度の高いものはできていない。師匠からは「たくさん練習することは大切。でももっと大切なのは振り返ること。人というのは悪かったところは何かと反省することに意識がいきがち。でもね、なぜ良かったのか、なぜできたのかを振り返ることも大切。そしてあなたが『この人のフォーム好きだな』と思う人の弓道を観察しなさい。そこにあなたの目指す弓道へのヒントが隠れているよ」とアドバイスをもらった。
師匠の弓はもちろんのこと、「この人のフォームはきれいだな」「この人の弓道に対する意識を見習いたいな」と思う人の弓道を観察している。

 

 

 

同時に「素直」に関して考えるようになった。
 
弓道をしているときは師匠のアドバイスを素直に聞くよう心掛けている。今までやっていなかったことをするように指示されてもできないことがある。そんなときは力の使い方をどうすればいいのか、どこの筋肉を使うことでできるのかと細かく聞くようにしている。あまりにもしつこく聞くと「自分で考えることも大切だよ」とたしなめられることもある。
弓歴が長ければ長いほど人からのアドバイスをおざなりにしてしまう人がいるが、私はかなり素直に聞いているのではないかと自負している。
 
では弓道以外ではどうだろう。「素直」だろうか。正直なところこれには即答できない。
「あっ…… 今思ってることと違うことを言っちゃったな」と思うことがしばしばある。長年染みついた習慣を直すのは難しい。
そんなときは初めて「離れ」ができたときの爽快感を思い出すようにしている。力むことなく軽やかにスルスルッと体が動いたときの開放感は最高だった。自分の体に素直でいることが内面に影響を与えることの大きさを初めて実感した瞬間だった。心も体も素直に自然体でいることで最高な気分になった。
 
外側の変化は自分も周囲の人も分かりやすいが、内側というのは見えないため自分でも分からない。分からないということは、なかなか変化しづらいとも言える。それならば手っ取り早く変化の分かる外側を変えたほうがよい。そのためにも目下「離れ」の習得に励む日々だ。
 
私は素直な人でありたい。
どんなときも自然体で自分に正直に生きたい。
だって素直でいることの爽快感を知ってしまったから。
そのためにも「離れ」はどうしても達成したいと思っている。「離れ」を習得することで自分の目指す弓道と素直な自分を実現するつもりだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
松本 萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

兵庫県生まれ。千葉在住。
2023年6月に天狼院書店の「人生を変える『ライティング・ゼミ』」に参加し、10月よりライターズ倶楽部を絶賛受講中。実体験を通じて学んだこと・感じたことを1人でも多くの人に分かりやすい文章で伝えられるよう奮闘中。

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2024-01-03 | Posted in 週刊READING LIFE vol.246

関連記事