週刊READING LIFE vol.249

私が新年二日、行列に加わるのは弱点を克服する為なのだ《週刊READING LIFE Vol.249 香り》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2024/2/12/公開
記事:山田THX将治(天狼院ライターズ倶楽部 READING LIFE公認ライター)
 
 

私は、公的に高齢者に分類されるように為った現在も、毎年1月2日は行列に加わる様にしている。
 
その行列は、デパートの新年初売りの行列だ。最近では余り見掛けなくなったが、初売りの福袋を私は毎年楽しみにし、必ず買い求めることにしている。
基本的には、洋服の福袋を買う為に並ぶのだが、ここ数年、私の目標は少し異なって来ている。
何故かというと一つには、いつも贔屓にしているブランド(洋服の)が、福袋を売らなくなったからだ。そして、私が常時利用しているデパートがこの数年、福袋の取り扱いを一切しなくなったからだ。
 
私はというと、そうした流れに抗い、中高生時代に憧れていたブランドの福袋を目指して、いつもとは違うデパートへ出向くことにしている。
ただ、中高生時代に憧れていただけあって、そのブランドの服は、高齢者の私には普段着にしかならない。
 
それでも新年早々、行列を作る理由が私には有るのだ。
 
それは、普段着にしか為らない福袋の他にも、狙っている物が有るからだ。
私が毎年狙う様に為ったのは、メンズ・フレグランスの福袋だ。
どこのデパートでも、コスメの売り場は一階に集中している。私が新年に訪れるデパートも同じだ。
当然、コスメ売り場なので、一階は女性用のフロアと化する。
同時に、メンズ・フレグランスを纏めて、売り場としているデパートは数少ない。
しかし、私が目指すコスメ売り場には、普段はメンズ用商品を見掛けないのだが、新年だけは、メンズ・フレグランスの福袋が用意されているのだ。
 
売られているメンズ・フレグランス福袋の価格は、通常の30%程度だ。
根が欲張りな私は、そこでフレグランスの福袋をゲットし、一年分のフレグランスとしているのだ。
 
 
私がフレグランスを使用する様に為ったのは、確か中学生の時だ。丁度、色気付いて、ガールフレンドとデート等する様になった時期からだ。
 
私は子供の頃から、無類の汗っかきだ。冬場でも、暖房が効いた場所に居るとアンダーシャツが汗を盛んに吸収する様に為る位だ。
或る時、付き合っていた女子と映画を観に行った際のこと。途中で隣の席のカノジョが、鼻をハンカチで押さえたことに気が付いた。
観ていた映画はコメディだったので、嗚咽する状況ではない。時期は春だったが、“花粉症”為る症状が、世に広まる前だったのでカノジョが鼻水を気にする訳が無い。
私は勝手に、
 
『僕が汗臭いのかな』
 
と、気になって仕方が無かった。
実際、映画館内は、僕にとって暑く感じられていた。
 
更に、母親が私の体臭を嫌って居り、子供の頃から走り回ることを佳しとしていなかった。同時に、私が汗をかきそうなことをするのを嫌がっていた。洗濯物が増えるからだ。
このことにより私は、子供の頃から自分は汗っかきの為に臭い存在なのだと、トラウマに為って仕舞っていたのだ。
 
何かの講座で聞いたことなのだが、
 
『現代では、“臭(くさ)い”が最大の差別(侮蔑)用語』
 
なのだそうだ。
私にとっては、臭いと思われることが、子供の頃からの恐怖だった。
時代がやっと、私に追い付いてきたのだ。
 
隣席のカノジョが、鼻を押さえた時から、私のフレグランス人生は始まってしまったのだ。
 
そんな私にとって、新年のフレグランス福袋は、買わない理由など無いのだ。
 
 
『そんなの、気にし過ぎだよ』
 
と、思われる向きも有ることだろう。
中には、
 
『いい歳をして、何、色気付いているのかねぇ』
 
と、呆れて見ている方も居ることだろう。
 
ごもっともな話である。
 
しかし私は、それでも声を大にして言いたい。
私がフレグランスを使用するのは、中坊の時のガールフレンドが鼻を押さえたからではない。
周りに居る方々、延いては他の方々に嫌な気分をさせない為だ。
そもそもオッサンは、物的存在が“臭そう”なのだ。
そう思える物体が、実際に臭かった場合、嫌悪感は相乗的に上昇して仕舞う。
 
だから私は、周りの方々への気遣いとして、フレグランスを常用しているのだ。
 
 
そんな私でも、老化には抗えなかった。
40歳を超えた頃、車に乗り運転席のドアを閉めた瞬間、思わず、
 
『臭ッさ!!』
 
と、感じたのだ。正確には、感じて仕舞ったのだ。完全に、‘オッサンの臭さ’だ。いわゆる、加齢臭(ノネナール)だ。
しかも、乗り込んだ車は、私が普段から仕事用に連日乗り回している物だった。
臭いと感じたのは、私の臭いに他ならないのだ。
 
その時から私は、普段の体臭だけでなく、加齢臭にも気を付ける様に為ったのだ。
 
何でも、加齢臭は後頭部から発せられるとのことだ。そう言えば、車内の加齢臭が気に為る前から、使用している枕の臭いは気に為っていた。
私は毎日、枕カバーの上にタオルを置き、そこに頭を当てて寝る様にしている。勿論そのタオルは、毎日交換している。
 
もしかすると、車内の加齢臭は、シートのヘッドレストから発せられているのかもしれない。そう考えた私は、早速、対策を講じだ。
先ず、スプレー式の芳香剤をヘッドレストに噴霧した。
加齢臭は、感じられなくなった。しかし、問題が起こった。
ヘッドレストに付いた、芳香剤の香りで気分が悪く為ったのだ。
それはそうだろう。芳香剤は化学物質なのだ。
 
私は作戦を変更した。
芳香剤を、自然由来の物に変更したのだ。
丁度、エアコンの吹き出し口に装着するタイプの芳香剤が、発売され始めたばかりの時だった。具合良く、そのタイプは成分が天然由来だった。
私は早速、新商品を買い求め愛車の吹き出し口に装着した。
 
エンジンを起動すると、車内には天然成分らしい香りが充満した。
芳香剤を二回交換する頃(2か月後)には、車内に満ちていた私の加齢臭は、臭わなくなっていた。
 
しかし、新たな問題が起こった。
吹き出し口に芳香剤を装着すると、エアコンの涼しい風の向きが制限されてしまうのだ。
真夏の車内は気温70度にも達する。しかも、運転しているドライバーは、他の席に着いた人に比べて、極端に暑く感じられる。
依って夏場の車内では、エアコンを目一杯稼働させ、風向はドライバーに向けることに為る。
 
しかし、芳香剤によって風向を制限された運転席は、以前よりも確実に暑く為っていたのだ。
ただでさえ汗っかきな私は、以前よりも汗をかく様に為って仕舞った。
 
芳香剤を吹き出し口に装着して以降の私は、以前にも増してシャワーを使う様に為った。
それは同時に、フレグランスを使用する頻度が増した訳だ。
 
私は、フレグランスの費用を捻出する必要に迫られた。
その結果、編み出されたのが、フレグランスを福袋で購入する策だったのだ。
 
 
私が毎年、行列を作って迄購入するメンズ・フレグランス福袋。
中身は、海外ブランドのフレグランスが3・4本といったところだ。
一年で使い切るには、丁度いい量だ。
 
勿論、不慣れな海外ブランドなので、香りと私の体臭とのマッチングに自信が有る訳ではない。
しかし或る時、知り合いの女性から、
 
「山田さんって、いつも良い香りさせてますね」
 
と、言われたことが有る。
私は勿論、
 
「有難う」
 
と、答えた。
そして、自分がしてきた習慣に自信を持った。
 
 
しかし、問題も出現した。正確には、小さな問題も起こった。
 
或るイベントで、素敵な綺麗め女性と知り合いに為った。その方は、調香師をされていた。当然、香りに対する反応は、素人のそれより数段鋭い。
私の傍に来た女性は、少し視線が鋭く為ったかと思うと、
 
「山田さん、季節に合った香りですね」
 
と、言って下さった。
調香師らしい誉め言葉に、私は、
 
「有難う御座います」
 
と、素直に答えた。正直、嬉しかった。その方が、調香師だけに。
 
しかし、次の言葉に私はドギマギして仕舞った。
彼女の口からは、
 
「何を着けていらっしゃるの?」
 
と、調香師なら当然の質問が発せられたのだ。
福袋に入った、不慣れな海外ブランドのフレグランスを使用していた私は、
 
「何だったけなぁ」
 
と、曖昧に答えた。正確には、曖昧にしか返答出来なかった。
優しい調香師さんは、
 
「○○の香りが強いから、△△の◇◇でしょうか」
 
と、私には聞き慣れない答えを引き出して下さった。
大恥をかく寸前だった私は、冷や汗をかいたわけだ。
 
 
しかし、それでも佳しとしよう。
フレグランスを年一の福袋で調達するという、私の苦肉の策が、プロの調香に叶ったのだから。
 
 
今年の1月2日に調達したフレグランスが、尽きそうに為る頃には、来年分を調達する為の行列に、私は並ぶことだろう。
 
 
間違い無く、そうする予定だ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山田THX将治(天狼院ライターズ倶楽部所属 READING LIFE公認ライター)

1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役
幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数15,000余
映画解説者・淀川長治師が創設した「東京映画友の会」の事務局を40年にわたり務め続けている 自称、淀川最後の直弟子 『映画感想芸人』を名乗る
これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿
ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている
本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」
映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり
Web READING LIFEで、前回の東京オリンピックの想い出を伝えて好評を頂いた『2020に伝えたい1964』を連載
加えて同Webに、本業である麺と小麦に関する薀蓄(うんちく)を落語仕立てにした『こな落語』を連載する
更に、“天狼院・解放区”制度の下、『天狼院・落語部』の発展形である『書店落語』席亭を務めている
天狼院メディアグランプリ38th~41stSeason四連覇達成 46stSeason Champion

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2024-02-07 | Posted in 週刊READING LIFE vol.249

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