週刊READING LIFE vol.25

人生の終わることのない壁を乗り越え続けたいから、私は書き続ける《週刊READING LIFE Vol.25「私が書く理由」》


記事:小倉 秀子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「人生が変わるライティングゼミ」

この言葉に衝撃を受け、
読むのも書くのも嫌いだったはずの私が書くことを始めてから、
この4月で1年になる。
 
いつの間にか、そんなに経っていたとは。
まさか1年も、書き続けるとは。
 
「ずいぶん大げさな宣伝文句だな! 本当にそんなことあるの??」
 
と半信半疑だったものの、何故か惹きつけられた。
 
「こんな私でもついていけるかしら」
 
とかなり慎重になったけれど、それでも清水の舞台から飛び降りるくらいに勇気を出して、天狼院書店のライティングゼミの受講を始めた。
 
あれから、1年。
「人生が変わる」は、本当だった。
 
これが、今の私の率直な心境だ。

 
 
 

1年前、書くことは私にとって、「やらなければならない課題」だった。
一番初めに提出した2000字の課題は、確か3日間くらい考えに考えて、ついに書き上げた時には夜が明けていたという記憶がある。
そのくらい苦しんで産み出していた文章だけれど、思いを形にする「産みの苦しみ」はこの上なく楽しかった。続けていくと難なく2000字を書けるようになっていった。
 
2000字の文章を毎週課題として提出すると、プロライターもされている天狼院のスタッフさんが真摯にレビューしてくれる。それがまるで手紙の返事をもらうようで嬉しく、毎週せっせと提出し続けた。
掲載レベルと判定されると天狼院書店のサイトに掲載される。ど素人の私の文章が、広く人々にお披露目できることが信じられず、そして嬉しく、それでまたせっせと書いた。
 
「ライティングゼミ」で書きはじめて2ヶ月が過ぎた頃、毎週5000字を書く「ライティングゼミ・プロフェッショナルコース」(通称プロゼミ)が8期で最終期となるという知らせがきた。
なぜか私は、これに敏感に反応してしまうのだった。
 
「最後ならば受けねばなるまい!」
 
なんの義務感からなのか未だに不明だけれど、これを逃してはならないと本能が訴えてきた。
本能にしたがい、まだ毎週2000字のライティングゼミも終わっていないのに、毎週5000字のプロゼミも受講するようになった。
 
5000字の壁は本当にきつかった。
5000字の最初の課題も、一晩苦しみ抜いて書きあげた。書き終えて気づいたら窓の外が白みはじめていた。この時、私のこれまでの全人生を書ききった気がした。
文章力ではなくほぼ根性で書き上げたこの文章は、初回にして掲載された。生まれてはじめて書いた5000字の文章。しかも掲載され、一つステップアップした気がしてとても嬉しかった。
 
ところが、この後5000字の壁に七転八倒することになる。
 
毎週書いても書いても掲載されなかった。
5000字を読者の方々に読んでいただけるだけの文章を書くことができていなかった。プロゼミのレビューは三浦さんだった。何週も連続して落ち続けた。「プロゼミ」はまさにプロフェッショナルなゼミなので、ともに学ぶ仲間は皆優秀。本が好きで、秀逸な文章を書く方達ばかり。こんなに落ち続けているのは私だけのような気がした。4週続けて不掲載が決まった晩、私は人しれず大泣きした。
 
こんなに全身全霊で書いているのに通らない。
ライティングゼミで書き方を教わってからプロゼミを受講しているのは皆同じはずなのに。
私がここにいるのは、場違いなのか。
これが私の限界なのか。
 
もうこれ以上、みじめな思いはしたくない、
これ以上はもう無理、
ここでやめよう
 
本気でそう思った。
 
でも。
ひとしきり泣ききったら、吹っ切れた。
ここでやめても何も残らないし、この先も何も得られない。
そう思ったからだ。
そして新たな闘志が湧いてきた。
 
私にある考えが浮かんだ。
まだ、全身全霊で書ききっていない。
私の心の奥深くには、文章に綴るべき、書くべき題材があるはず。
 
それ以来、私は自分のことを文章にするだけでなく、二人の息子たちや夫といった、家族のことを書くようになった。
 
自分のことなら恥ずかしいことでも忘れたい事でもいくらでも書けたけれど、家族のことは書くべきではないとそれまで避けていた。
もっと正確にいうと、家族について書く覚悟が出来ていなかったのだ。
 
でも書くもの書くもの次々と落とされ、題材も尽きかけていた。
書く覚悟が無くても、もうこの「家族」の聖域を掘り下げる以外に5000字の壁を超える方法を思いつかなかった。
 
そうして私は、
これまで心配しない日はなかった長男のこと、
「あなたの家庭には社長が4人います」と算命学の占い師さんに言われたほど4人バラバラな家族のこと、
楽しい中学生活を送るとばかり思っていたのに自由な毎日を過ごす次男のこと、
 
これらで、5000字の壁を超えた。
そして、これらは三浦さんから最高の誉め言葉を頂いて掲載された。
 
このとき、私は書くことで、揺れながら過ごした過去と向き合い、これで良かったのだと肯定することができるようになった。将来の展望について、前向きに考えられるようになった。
そして、長い間違和感を感じてきた家族のあるがままを受け入れられるようになった。
 
さらには、書くことで考えが整理され、
 
「私はこんな風に考えていたんだ」
 
と、自分でも気づいていなかった本当の気持ちが見えてきて、
 
「私にはこんな面があるんだ」
と、本当の自分を知ることができた。
 
また、プロゼミの仲間の文章は毎週ほぼ全員の文章を読んでいた。彼らもまた、毎週全身全霊で人生を書き綴っていた。
それらを読んできたから、会ったこともないのに、または会って間もないのに、なぜか互いに昔のことまでよく知っているというおかしな現象が起きていた(笑)。そして心の奥深くまで通い合っているような親近感を感じた。
他のプロゼミ生も同じことをおっしゃっていた。
 
「親友にも打ち明けたことがないような、誰にも話したことがない事を、プロゼミ生は知っている」
 
本当にその通りだった。
だから実際にお会いしたときには、昔から知っている間柄のような親しみを持って会話ができた。
 
書くことで自分を深く知り、相手のこともより深く知ることができる。
この醍醐味を知ったのも、私が書き続けている大きな一因だ。
 
プロゼミは昨年8月で終了してしまったけれど、その後9月から今まで、ライターズ倶楽部で書き続けている。
毎週決められたテーマに沿って文章を書いているけれど、いまの私が書く理由、それは、
 
「人生の終わることのない壁を乗り越え続けたいから」。
 
他のライター仲間の方々のように、
 
年間1000本映画を観ているとか、
お酒が大好きでお酒のことなら永久に書き続けられるとか、
毎年の芥川賞と直木賞受賞作を当てることがこの上ない愉しみとか、
 
そこまで熱狂的に好きなものも思い当たらず、圧倒的な熱量を込めた文章を書けずにいるけれど、この1年間様々なテーマの文章を書き続けている中で、目の前の壁(障壁)を乗り越えずにはいられない自分にも気づけた。そうして書くことにおいては、2000字の壁を超え、5000字の壁を越えてきた。今は「READING LIFE公認ライター」の壁を越えようとしている。
 
この壁もなかなか越えられなくて苦しいし、正直諦めたくなるけれど、でも今やめても何も残らないし、この先何も始まらない。
どんな手を使ってでも、必ず乗り越えたいと思っている。
 
書くことで、私の人生は変わった。
自分との向き合い方を知り、人を知ることができた。これまでの自分や周囲を肯定できるようになった。
この先困難がおとずれたとしても、書いている限り、以前のようにやり場のない悲しみに打ちひしがれたり、誰にも打ち明けられない理解されない孤独を感じたりすることはないと思える。書くことで癒され、悲しみは浄化し、思いを伝えられ、きっと返事も帰ってくるだろうと思っている。そう、1年前のライティングゼミの時からずっと、返事が楽しみで、書くことで読んでくださる人と通じ合いたくて、私はせっせと書いている。
 
これからも、様々な試練や壁が立ちはだかるだろうけれど、書くことで私自身を知り、相手を知り、思いを届け通じ合い、壁を乗り越えていきたい。

 
 

❏ライタープロフィール
小倉 秀子(READING LIFE 編集部ライターズ倶楽部)
東京都生まれ。東京理科大学卒。外資系IT企業で15年間勤務した後、二人目の育児を機に退職。
2014年7月、自らデザイン・製作したアクセサリーのブランドを立ち上げる。2017年8月よりイベントカメラマンとしても活動中。
現在は天狼院書店で、撮って書けるライターを目指して修行中。
2018年11月、天狼院フォトグランプリ準優勝。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

http://tenro-in.com/zemi/70172



2019-03-26 | Posted in 週刊READING LIFE vol.25

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