週刊READING LIFE vol.251

花金に夜ふかしという贅沢なプレゼントを捧ぐ《週刊READING LIFE Vol.251 夜ふかしの相棒》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2024/2/26/公開
記事:やすこ(READING LIFE編集部ライティングX)

夜ふかしはサラリーマンにとって最大の贅沢である。

休みの日の前日のお決まりは、就寝時間も起床時間も決めないこと。
要するに、夜ふかしOKの日として自分に時間というご褒美を捧げる至福なひと時である。普段自由に時間を操ることができないサラリーマンにとって、明日のことを考えなくて良い時間ほど贅沢なプレゼントはない。

こんな特別な日を演出するため、私は夜ふかしの相棒たちのアイテムをひとつひとつかき集め、最高の夜ふかしを花金のために準備していく。

それは仕事退社後からすでに始まっている。
「応答します。やすこ、今週もお疲れ様でした。明日は念願の休み。それでは決行します!」

私は仕事帰りにニヤニヤしながらひとり言をつぶやき、ネオン通りをスキップしながらスイスイと人混みを通り抜けていく。

気持ちが上向きだと、毎日同じ通りでもキラキラと輝いて見えるのはなぜだろう。
私は土・日・祝が休みの普通のサラリーマン。
普段は9:30スタートからの仕事が終わり次第のゴールまでが日常のルーティン。

社会人になった時、新人研修で厳しく言われた「自己管理も仕事です」というフレーズ。
私はくそ真面目にも十数年間プロ社会人として反抗することなく養成されてきたこともあり、仕事がある日は絶対に無理をしない。大事を取って、決まった時間に寝て、決まった時間に起きるのだ。

そういう自分を唯一開放できる日が一般的にも言われている花金で休みの前日なのだ。
今では死語と呼ばれる花金という言葉も、思い入れ次第で心の沁み具合が変わっていく。
なんかやっちゃっても、明日休みだしと思うと行動が大胆になる。
雑音にしか聞こえない人の話し声や車のクラクションさえもまったく気にならない。
水曜日と木曜日は疲れすぎて死にそうだったのに、明日休みだと思うと急に元気になる。
そんなちゃっかり者の自分を客観的にみている第3者の自分がちゃんといて、笑っている。

待ちに待った花金。
夜ふかしの相棒その一は、ちょっと贅沢な見切り品。
飲み会の予定も特にないので、私は自宅近くにあるパルコによりお気に入りのマルシェで地産地消の商品を購入する。ここの商品は、地元の野菜、卵、カフェ、レストラン、洋菓子店、和菓子屋の商品が売っている。閉店間際になるとなんと値段が半額になる。
明日休みだと思うと心も胃も財布も思いっきり緩む。

サラリーマンにとってささやかな自分へのご褒美に半額になった商品を見定め、欲望のまま食べたいものを食べたいだけカゴにぶちこんでいく。今日の夜は寝かさないというばかりに食べたいものがカゴの中に溜まっていく。私の横にいる人が私のカゴを覗きこみ量の多さに驚いている。気づいているけど私はそんなことは気にしないのだ。休みの日の前日は食べたいものを食べたいだけ食べると決めているからだ。

さて、会計を済ませて、次に向かう場所は同じフロアにあるドラックストア。

夜ふかしの相棒その二は、嗅覚と実績を兼ね備えたバスソルト。
ここで私は1週間の疲れを癒すためにいつもより少し高い入浴剤を選ぶ。オーガニックという言葉に弱い私は天然素材の商品やアロマと記載されている商品に手を伸ばしていく。
「こんなのでたんだ。パッケージが私好み」と新しい商品を眺める。
この世の中、みんな疲れているんだなと同情したくなる気持ちがわき上がるほど、リラックス効果を前面に押し出す商品で売り場の棚は溢れていた。
優柔不断な私は今日のひとつを決めるのに毎回時間がかかる。
新しい商品を選びたいけど花金に失敗したくないと思うとやっぱり天然成分とアロマが融合されたいつも通りの極上バスソルトを選んでしまう。

自分の出す結論はなんとなくいつも同じ。

しかし私はこの日だけは1回きりの単品を選んで購入する。もちろん単品は割高だが花金という理由で私は毎回その日の気分で商品を選ぶことを何よりも贅沢な時間として歓迎している。その時、自分が何を感じるのかを優先順位の最上位にしているのだ。

夜ふかしの相棒その三は、目的のないフラフラ時間を自分に許可。
ドラックストアを後にして、用事がないのに休みの日の前日はすぐに自宅には帰りたくない症候群が一時的に発症する。サラリーマンは常に一分一秒に追われ生活をしている。目的を終えたら、自宅に早々に帰宅し、ご飯を食べて、お風呂に入って就寝する。しかし、花金はなんでこんなにも元気になるのかは分からないが、目的のないフラフラ時間を満喫しながら目視だけのショッピングを楽しむ。明日、休みだと思うと背負っている重い鎧から解放されたかのように心も身体も軽くなる。何も考えなくて良い時間。

ピンッ。
突然のラインが入ってきた。
いつもお世話になっているオーガニックサロンのオーナーからだ。
メッセージを見ると「今日の予約OKです」とのこと。

夜ふかしの相棒その四は、友人とのつかぬ間の時間と肌のお手入れ。
私は当てもないショッピングを切り上げ、パルコから3分ほどで着く友人のサロンに向かう。花金には事前予約はしない。気分によって当日予約できるなら行くというながれにしている。

サロンに着くとアロマの良い香りがフワッと匂い嗅覚から脳へ刺激され癒される。
常にミステリアスなオーラを纏う弥生さんも優しくいつも通り迎いいれてくれた。

私は早速バスローブに着替え、化粧を落とし、ベッドの上に横になる。
準備ができたころを見計らい、弥生さんが部屋に入り、フェイシャルマッサージがはじまる。「乾燥しているね。顔がこっているね。頭皮が固いね」等言われつつ、今週1週間の報告を弥生さんにしながらいつの間にか寝てしまうパターン。

フェイシャルマッサージを終え、肩のマッサージも軽くしてもらい今日の施術は無事終了。花金にここまでの予定が完了できたら、明日はもうベッドから動かなくても済む。

夜ふかしの相棒たちのアイテムがどんどん集まっていく。

自分の服に着替え、サービスのホットハーブティーを飲んで、弥生さんに挨拶をした後、
私はすっぴんのまま、すぐ近くにある自身のマンションに帰宅した。

ドスンッ。
仕事道具のパソコンや買い物した食品を玄関先に置く。
すぐに洗面台に向かい、手洗いやうがいを入念にする。
終わったら早速夕飯タイム。
もちろんいつもの夕食時間よりだいぶ遅い。

時計はすでに22時をまわっている。
今食べたら確実に太る時間。
しかし、今日は花金。
だから私は時間に一喜一憂を左右されない。
さて、食べたいものを食べるのだ。

今日の夕食は、
温泉卵付きの有機野菜のシーザーサラダ、
チキンカレーとチーズナン、
デザートはみたらし団子とシフォンケーキ。

電子レンジで温め「いただきます」と一声かけ、静かな空間でゆっくりと夕食を食す。

しかし、秒殺。職業病かびっくりするほど食べるのが早い。

本日のデザートは、みたらし団子とシフォンケーキ。
和と洋のアフュージョン。
そして、職場の上司から頂いた静岡県の本山茶を淹れ一服。
高級なお茶なので、きちんと香りが立つ。なんとも贅沢な癒しの時間。
みたらし団子とシフォンケーキの組み合わせも絶妙である。
段々と気張っていた身体の力が抜けていく。

食べた後、お風呂のバスタブにお湯を入れ、その間に食器を片付ける。
バスタブには今日買ったバスソルトを入れる。
湯けむりとともに悩殺され、好みの香りが漂ってくる。
私は匂いに癒されながら、髪や体を丁寧に洗い、湯が溜まるのを待つ。
全て終えるとちょうどいい感じで湯がバスタブに溜まる。

私は波を立てないようそうっと全身を湯船に沈めていく。
じわじわと肌の細胞に浸水してくる湯の温かさと
アロマの匂いに今週のすべての疲れからスルスルと解放されていく。

「今週もお疲れ様。よく頑張ったね!」

大人になると自分をほめてくれる人なんていない。
だからこそ、花金くらいは、私は自分で自分をしっかりとほめてあげる時間をつくるのだ。

お風呂からでると、鏡越しに映る自身の身体から湯気が出ている。
オーガニックサロンで購入した化粧水と美容液を顔につけ、フェイスパックをしながら髪を乾かす。この時間が何とも言えない至福のゴールデンタイムとなる。

時刻はすでに1時過ぎ。

私はベッドの下で軽くストレッチをした後、酵素ドリンクを飲んでベッドに入る。

まだまだ花金は終わらない。
夜ふかしの相棒のアイテムは現在4つ集まった。
夜ふかしの相棒その一は、ちょっと贅沢な見切り品。
夜ふかしの相棒その二は、嗅覚と実績を兼ね備えたバスソルト。
夜ふかしの相棒その三は、目的のないフラフラ時間を自分に許可。
夜ふかしの相棒その四は、友人とのつかぬ間の時間と肌のお手入れ。
花金に夜ふかしという贅沢なプレゼントを私に捧げるために、
私は毎回夜ふかしの相棒を準備する。
そして、夜ふかしの相棒その五は、iPhone二台で無制限のネットサーフィンと動画視聴。
これでコンプリート。

明日の起床時間を考えないでベッドの上でゴロゴロしながら二台のiPhoneを使用し、一つは動画再生用、もう一つは気になっていることや一週間のSNSの更新をまとめて見るネットサーフィン用。だから、私にとって夜ふかしをする時は、iPhoneは2台必要。

夜ふかしの相棒たちによって入念に準備された極上の贅沢な一夜は、時間に支配されないということ。私は花金に実行する夜更かしに向けてひとつひとつのアイテムを自由に気ままで自分の意思によって確実に揃えていく。

そして、最後は寝落ちしてコンプリート。就寝時間も起床時間も何もかも未確定なのだ。

夜ふかしはサラリーマンにとって最大の贅沢である。

私たち日本のサラリーマンは組織の社畜として育成され、日々、効率性、生産性、選択と集中、優先順位、時間厳守、上下関係の徹底等重視され生きている。その対価に、手厚い福利厚生と毎月の給料と年二回のボーナスを手に入れることができる。安定した身分を確保するため、決められた時間に、自分の業務を確実に丁寧にこなしていく。そこには自分の感情など特に必要はない。必要とされる人になるために私たちは量産されている。

「夜ふかしという贅沢は敵です」と言われそうだが、社畜の私たちにも人間の心がある。

唯一、人間の権利が与えられる日が花金だ。
自分で自由に時間をつかい、
自分で自由に選択できる。
誰かがきめるのではなく、自分で決めるのだ。

花金は、私にとっては花の金曜日だが、
花金はその人にとって、心がワクワクしたり、ウキウキしたりできるような、
自分にとっての金の花を咲かせ、捧げる日である。

そう思うと、夜ふかしの本当の相棒は、花金という言葉なのかもしれない。
花金という言葉で、私は魔法にかかり、すべてから解放され、自由になれる。
だからこそ、その日だけは自分へのご褒美のために、夜ふかしの相棒のアイテムをひとつひとつ揃えていくのだ。

そのアイテムは一個でも百個でも良い。

自分が自分で幸せと感じることができるのなら。
あなたがあなたらしくいられるのなら。

花金に夜ふかしという贅沢なプレゼントを捧げる。

さて、今から夜ふかしの相棒その五と過ごそうじゃないか。
私が寝落ちするまで。

□ライターズプロフィール
やすこ(READING LIFE編集部ライティングX)

愛知県生まれ、名古屋大学大学院(教育人類学領域)卒業
地方公務員、大手教育民間企業総合職、国際協力等の職を経て、2023年3月から埼玉県秩父郡横瀬町地域おこし協力隊全国初のウェルビーイング担当として着任。「横瀬町の一人ひとりの幸せとは何か」をテーマに活動中。月1回横瀬町の町民向けに紙媒体でウェルビーイング通信「ぬくとまる」を発行。SNSのnoteにて「横瀬町の日常で感じる幸せ」を随時発信中。メディア出演:JICA海外協力隊 DELIGHT THE WORLD第4回目出演

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2024-02-21 | Posted in 週刊READING LIFE vol.251

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