週刊READING LIFE vol.252

私はその語彙をスピルバーグ監督から教わった《週刊READING LIFE Vol.252 AIと私》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2024/3/4/公開
記事:山田THX将治(天狼院ライターズ倶楽部 READING LIFE公認ライター)
 
 
映画を観ると、勉強に為ることが多い。
その殆どは、学問やビジネスとは無関係な、いわゆる‘雑学’や‘蘊蓄’に類するものだ。要するに、無駄とは言わないが、有効な知識とは為り得ないものが多い。
現に、映画を浴びるように観て来たし、今も観続けている私が、決してビジネスで成功して居ないし、有効な物知りでは無いことからも明らかだ。
 
でもたまに、出回り始めた言葉が、かなり以前に映画で出会っていたりすることが在る。
『AI』がその良い例だ。
 
 
映画フリークの私が、『AI』という語彙に出会ったのは、20年以上前の2001年6月のことだった。
それは、『E.T.』や『プライベート・ライアン』で有名な、スティーブン・スピルバーグ監督の『A.I.』という作品だ。現代とは表記が違う『A.I.』という題名は、原題では無く実は邦題だ。
『A.I.』の原題は、『ARTIFICIAL INTELLIGENCE』だ。だから邦題には正確に、
短縮形を示す“.”が付けられているのだ。
もっとも、21世紀に為りたての当時では、『ARTIFICIAL INTELLIGENCE』を『人工知能』と直訳出来る日本人は殆ど居なかった。なので、『A.I.』という短縮形の邦題は、絶妙で興味をそそられるものだった。
そうでも無ければ、英語が堪能ではない私が、原題の『ARTIFICIAL INTELLIGENCE』
を、覚えている訳が無いのだ。これは単に、『A.I.』という短縮形を不思議がった私が、原題も覚えてしまった結果だ。
 
映画『A.I.』は元々、『2001年宇宙の旅』で知られるスタンリー・キューブリック監督が長年温めていた企画を、後輩格のスピルバーグ監督が映像化したSF人間ドラマだ。
映画の舞台は、近未来。既に、介護用や御手伝い用のロボットが一般的と為っている社会だ。中には、女性を相手にするだけ用に開発された、“ジゴロ・ロボット”(ジュード・ロウが名演)が登場したりする。
 
ロボット達は唯一、人間と違い感情をプリセットされていなかった。
しかし遂に、実験的に感情を組み込まれたロボットが開発された。感情を持ち合わせた少年ロボットは、不治の病で入院中している実の子を持つ夫婦に与えられた。
感情を持ち合わせたロボットは、両親の愛に報いようとする。人工物で肉体的に成長することが無い自分自身に対し感情的に為り、思わず人間の食事をしてトラブル(機械的故障)してしまう姿が痛々しかった。
 
この『A.I.』は、本国アメリカやヨーロッパでは余り評判が芳しくなかった。多分、キリスト教を基本とする宗教観から来る批判だと思われた。
ところが日本では、割合すんなりと受け入れられた。その頃既にSONYが、愛玩用犬型ロボットを販売していた位だったからだ。
それより我々日本人は20世紀中盤に、感情を持った人工知能搭載ロボット、しかも、完璧な二足歩行するロボットを体験していたからだ。
 
そう。
その感情を持ったロボットとは、手塚治虫さんが作り出した『鉄腕アトム』のことだ。
アトムの感情は、人間を守る為、自らを犠牲にするラストシーンに象徴されている。
日本人は、諸外国とは違い『鉄腕アトム』の認知によって、感情搭載のロボットに既視感が有ったし、違和感も恐怖感も抱くことは無かった。
 
これにより、外国と比べて日本では『A.I.』の興行成績が良かったし、評判も良かったのだ。
 
 
但し、日本を含めた映画フリークの中には、一定数のAIアレルギーが存在したのも事実だ。
その理由は、『A.I.』の原案者でもあるスタンリー・キューブリック監督の影響だった。キューブリック監督の代表作『2001年宇宙の旅』は、1968年に製作され、日本でも同年公開された。
1968年に作られた映画なので、実際に2001年に為ると実際との差異が大きい。
実際人類は、21世紀に為って宇宙へ飛び出すことが簡単では無い。
 
ところが、『2001年宇宙の旅』で私達映画フリークは、或るシーンがトラウマと為った。
それは、『2001年宇宙の旅』の舞台と為る木星探査船ディスカバリー号で起こった異変に依るものだ。その異変とは、ディスカバリー号を制御するAIを搭載したコンピュータ“HAL9000”が、人間に対し反乱を起こしたからだ。
映画の中で“HAL9000”は、自らを停止させようとした宇宙飛行士を、遥か彼方に放り出してしまうのだ。
そのショッキングなシーンに、多くの映画フリークは、
 
『人工知能を搭載したコンピュータは、時として人間に対し反乱を起こす』
 
と、考えて仕舞う様に為ったのだ。
 
私は昨年、興味本位で現代のAIの代表格chatGPTに、こんな感じの意地悪な質問をしてみた。
 
「あなたは、映画『2001年宇宙の旅』に登場する人工知能搭載コンピュータHAL9000の様に、人間に対し反乱を起こすことが有りますか?」
 
と、いうものだ。
勿論、“No”の答えを期待して。
 
ChatGPTは私の問いに対し、持ち前のスピードで、
 
「映画『2001年宇宙の旅』に登場するHAL9000は、人工知能を搭載したコンピュータです。人工知能の中に人間的感情が組み込まれていたので、自身の危険を察知した為、人間に対し反乱を起こしました。
 
私(chatGPT)は、人工知能搭載のプログラムです。感情は、持ち合わせて居りません。
依って私は、人間に対し反乱を起こすことは有りません。
何でも聞いて下さい」
 
と、返答してきた。
私は少々、模範的回答には思えたが念の為、
 
「そうですか。安心しました」
 
と、chatGPTに対し返信した。
 
私も少しは、ビビって居たのかも知れない。
 
 
奇しくも2001年にスピルバーグ監督が発表(多分、彼は年数を意識したと思われる)した『A.I.』では、感情をプログラムされた少年型AIロボットが、人間に対しては感情を暴走させることは無かった。
『A.I.』を観終えた私は、ホッと安心すると共に、
 
「何とも、スティーブンらしい優しさだなぁ」
 
と、感想を吐露した。
 
スティーブン・スピルバーグ監督の作品を、私は大好きなのだ。
それは、いつまでも少年の様な視点で映画を撮り続けているからだろう。多分スピルバーグ監督は、私が手塚治虫さんの『鉄腕アトム』を喜んで観ていた少年時代の視線で、キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』を観たのだろう。
そして、同監督に依る『A.I.』の原案を解釈したのだろう。
 
その理由は、映画『A.I.』のラスト近く、AIのバグから来る自身の寿命を悟ったジゴロ・ロボットのセリフに見て取ることが出来る。
彼のAIは多分、コンピュータ、それもHDDかSSDが壊れたことに依り、バグり始める。プログラムされていない筈の感情が、徐々に顔を見せ始めるのだ。
 
そして、廃棄場に移送される寸前、少年型ロボットに、
 
「I am.(私は、存在する)」
 
「I was.(私は、存在した)」
 
と、言った直ぐ後、拘束されてしまうのだ。
この、何とも意味深なセリフに、感情をプリセットされている少年型ロボットは、微妙な表情で反応する。“存在”という言葉に、承認欲求が込められていたからだ。
感情は持ち合わせていても、自分が承認されたいという感情は理解出来なかった様だ。
しかしこの後、少年ロボットは、これまで以上に人間に対し優しい感情を見せるのだ。
 
もしかしたら、2001年時点でスピルバーグ監督は、chatGPTの様な生成型AIを想像していたのかもしれない。
 
 
映画を長年観続けてきた私は、『AI』という語彙をスティーブン・スピルバーグ監督の映画で知ることが出来た。
 
その前に、手塚治虫に依って、AIアレルギーに為らずに済んでいた。むしろ、好印象を植え付けられた。
 
そして、スタンリー・キューブリック監督に依って、AIは手放しで喜んで良いものではないと忠告された。
 
 
そして現在、全くの門外漢ならが、何とかAIと付き合って行けそうな気がしている。
 
 
映画を観続けていると、得することが沢山有るものだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山田THX将治(天狼院ライターズ倶楽部所属 READING LIFE公認ライター)

1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役
幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数17,000余
映画解説者・淀川長治師が創設した「東京映画友の会」の事務局を40年にわたり務め続けている 自称、淀川最後の直弟子 『映画感想芸人』を名乗る
これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿
ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている
本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」
映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり
Web READING LIFEで、前回の東京オリンピックの想い出を伝えて好評を頂いた『2020に伝えたい1964』を連載
加えて同Webに、本業である麺と小麦に関する薀蓄(うんちく)を落語仕立てにした『こな落語』を連載する
更に、“天狼院・解放区”制度の下、『天狼院・落語部』の発展形である『書店落語』席亭を務めている
天狼院メディアグランプリ38th~41stSeason四連覇達成 46stSeason Champion

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2024-02-28 | Posted in 週刊READING LIFE vol.252

関連記事