週刊READING LIFE vol.252

「よく分からない」そう思ったときこそ仲良くなれるチャンスです。《週刊READING LIFE Vol.252 AIと私》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2024/3/4/公開
記事:松本萌(READING LIFE編集部ライティングX)
 
 
恥ずかしながら私は「AI」と聞くと身構えてしまう。正直なところよく分かっていないのだ。そのため極力距離を置きたいジャンルなのだが、今やそう言っていられなくなってしまった。
 
テレビでAIの台頭によって無くなる仕事ランキングが取り扱われており、何気なく見ていて衝撃を受けた。新卒以来転職せず約20年間銀行に勤めているが、私が長年やってきた仕事は数年後にはAIに取って代わられる仕事にランクインしていた。安定した職業として選んだつもりだが、どうやらそうではないらしい。
替わりにと言ってはなんだが、いつか仕事にしたいと思いつつ「食べていくのに苦労する」と思い、なかなか踏み出せずにいる日本語教師はAI台頭後もニーズのある仕事になっていた。生成AIに「日本語教師の将来性は明るい?」と質問したところ「明るい」と前向きに答えたという記事をネットで読んだこともある。
AIは今の既成概念をぶち壊して新しい時代を作るのだということを感じた。
 
気がつけば私の周りにはAIが溢れている。
出勤前のバタバタした時間にテレビから流れてくるニュースは、数あるトピックスの中からAIが選定し、自動音声で内容を伝えてくれている。聞こえてくる声はプロのアナウンサーの語りと変わらず、たまたま耳にした「今からお伝えするニュースはAIがお届けします」というアナウンスを聞かなければ今でも気づいていなかっただろう。
 
銀行では様々な手続きを経てお客さまにサービスを提供できるようになっていて、私の勤めている会社も例外ではない。手続き方法が分からないときやミスへの対処方法を照会する部署が設けられていて、私が入社したころは手続きの生き字引のようなプロフェッショナルな猛者たちに教えてもらっていた。
まずは電話し事象を説明するのだが、すぐに回答が返ってくることはなかった。「あなたの今の説明、全然分からないんだけど。もう一度説明してくれる?」「はぁー…… どうしてそんなミスするの?」お客さまを待たせているときは焦りながら電話しているので確かに分かりづらい説明になっていただろうが、そんなことを言わなくてもいいじゃないか。ましてやミスしたくてしているわけではない。そう言いたい気持ちをグッとこらえて一から説明し、トゲのある声に耐えながら対処方法を確認して電話を切るころには、一仕事を終えたくらいの疲労を感じていた。
 
ある日「社員からの照会をAIが対応する手続きに変更します」と社内通達が発表された。タブレットにキーワードを入れると対処方法が提示され、それでも解決できないときに電話をするシステムに変わった。生き字引たちの定年退職に備え、AIで対応できるようにしようと会社は考えたようだ。
AIは優しい。「キーワードが不足していて検索できませんでした」とは言うものの、嫌みを言ったりため息をつくことはない。そしてAIが答えられないときに電話する先は外注となり、優しく丁寧な対応に変わった。
「ありがたい」と思う反面「こうして人のする仕事がどんどん失われていくんだな」という寂しさと焦りを感じた。
 
いまやたくさんのAIに囲まれてAIのおかげで私は快適で滞りない生活を送れている。これからはAIと共存する時代なのだ。「よく分からない」なんて言っている場合ではない。AIと仲良くする努力をしよう。

 

 

 

「仲良くしよう」と決めても、今まで毛嫌いしていたのでそう簡単にはいかない。なぜ自分はAI嫌いなのか振り返ってみることにした。
 
私が子供の頃、ファミコンが一世を風靡していた。男の子のいる家には必ずあったし、女の子姉妹の家でも見かけることが多かった。我が家はというと親が「ファミコンは目に良くない」という考えだったためなかった。親に「勝って欲しい」とせがむほどではなかったが、どんなものか気になっていた。当時は社宅住まいだったため放課後は同じ社宅に住む友達と遊ぶことが多く、ファミコンを持っている友達の家で遊ぶときは皆でファミコンをした。
 
初めてのときは全く操作方法が分からず、手取り足取り教えてもらった。楽しいかどうかは分からないものの、友達が「楽しい」というものを自分もできたことが嬉しかった。年上のお姉さんの家に遊びに行ったときは丁寧に教えてもらい「ファミコンって楽しいな」と思うこともあった。それでも「自分の家にもあったらいいのに」と思うことはなかった。友達の家で遊ばせてもらうだけで十分だった。
 
なぜかというと不器用で瞬発力の無い私にとって、手元のコントローラーを見ずにワザを繰りだしたりジャンプして敵を回避するのは至難の業だったからだ。せっかく友達が教えてくれるのだから頑張ろうと思うと体に力が入り、余計手元の動きが鈍くなった。下手ならば練習すればいいのだが家にはファミコンがないため練習ができない。そのうち面倒に感じ、友達の家に行っても人がやっているのを見るだけになった。上手い人がやっているのを見るのは楽しかった。難なくクリアする友達が頼もしく思え、ラスボスを退治できたときは気持ちがスカッとした。
 
身体能力が低いのであれば頭脳でカバーすればいいのだが、遊びのために細かい字で書かれた攻略本を読もうとは思わなかった。同級生の男の子が攻略本を基にいかに難しいステージをクリアしたかを自慢げに話しているのを見掛けたが「ファミコンにそこまで熱中できるってすごいな」と冷めた目で見ていた。
 
この頃から私の機械毛嫌いは始まり、最先端のものや苦手なものに対し及び腰になる癖がついてしまった。
 
中学の頃はポケベルが流行り、高校になると携帯電話が世の中に出てきたが、当時はどれも持ちたいとは思わなかった。「自分は使いこなせない」という思いが根底にあったからだ。
たまごっちが流行っていたときは友達から借りてやってみたが、部活をやっている間にかわいいひよこが不気味な成鳥になった瞬間、興味が失せてしまった。不気味な成鳥になったことが「やっぱりゲームは自分に合わない」という思いに変換され、再チャレンジする気持ちが湧かなかった。
 
大学生になり「Wordでレポートを作成して提出」と言われたときは「面倒くさいな」と思いながら学校のパソコンや姉のノートパソコンを借りて取り組んだ。「自分は機械全般が苦手」「どうせ自分は使いこなせない」と最初からパソコンと仲良くなることを放棄し、購入しようとすら思わなかった。
 
大学生までは苦手なことから逃げてもなんとかなっていた。しかし会社勤めをするようになり、そういかなくなってしまった。
 
初対面の人と話すのが苦手だったため学生時代は接客業のバイトを避けていたが、何の縁あってか接客が必須の銀行で働くことになった。街中にある支店への配属だったため店頭や電話でお客さまと話さなければならず、対面接客は苦痛だった。
「いらっしゃいませ」「お待たせいたしました」「ありがとうございました」を言わなければいけないのに声が出ず、先輩に「頑張って!」と言われる日々が続いた。入社して三ヶ月経った頃、やっと大きな声で「いらっしゃいませ」と言えるようになった。
 
接客に抵抗がなくなったころ、金融商品を販売する仕事に就いた。
お客さまと話すことに慣れたと思ったら、今度は営業をしなければいけないと思うと気分が滅入ったが「銀行で働いているんだ。やるしかない」と自分を鼓舞して挑んだ。
 
初めて担当したお客さまはとてもいい人だった。
何枚もの契約書に都道府県から住所を書いてもらわなければならず、お客さまが書類に住所を書くたびに「千葉県から書いてください」と恐縮しながらお願いしたところ「今日の合い言葉は『千葉県から』だね!」と笑いながら丁寧な字で書いてくれた。
 
先輩達がフォローしてくれたため滑り出しは順調だったが、一人で対応するようになると何度も壁にぶち当たった。
「他の銀行でお願いすることにしました」「今回は話を聞きたかっただけなので、必要になったときに連絡します」と反応してくれるお客さまはいいのだが、迷惑そうにされたり電話をガチャ切りされるのは堪えた。
断られるたびに何がいけなかったのか、どんなトークであればお客さまは購入してくれたのだろうか、先輩だったらどんな説明をしただろうか、様々なことを考え工夫する日々が続いた。
 
何年か経つうちにお客さまが首を縦に振らない理由にはいくつかパターンがあることに気がついた。
営業なので一度断られただけでは引かないが、明らかに購入しないことが伝わってくるお客さまにセールスを続けるのはお客さまにとっても私にとってもメリットが無いためスッと引くようにした。
私が諦めずにコンタクトをとり続けたお客様の特徴は「よく分からないから購入しない」だった。
 
私は商品の内容やメリットデメリットを分かった上でお客さまに説明しているが、今まで商品を知らなかったり、言われるがまま購入して放置していたお客さまは「よく分からない」のだ。よく分からないという不安な気持ちのまま「銀行の人が勧めるから購入してみよう」とはならない。不安に感じるものから避けようとする人が多く、自分事ととらえて向き合う人は少ない。
 
それならばお客さまの「分からない」を解決することで購入に結びつくのではないかとひらめいた。
「よく分からない」と思っているお客さまは分からないが故に私からの電話を拒否することはなく、コンタクトを取りやすかった。話していくうちに何を理解していないのかが分かっていき、ポイントを抑えて説明すると納得して購入してくれた。
 
説明ミスで「購入しない」と言われたものの丁寧に説明し直したところ「今まで何度も銀行の人が説明してくれたけど分からなかったことがやっと理解できた」といって購入に至ったこともある。最後は「ここまで銀行の人と色々話せたのは初めてです。ありがとうございました」と言っていただけた。
 
詳しく説明したことで「自分に必要ないものです」と断られたこともある。その時はガッカリするが、「必要ない」とお客さまが判断できる手助けをできたと思えば無駄ではない。
 
「お客さまが求めるものを提供するだけではプロとは言えない。お客さまが気づいていないニーズを発掘できてこそプロだ」という上司の言葉をお守りに、何人ものお客さまと真っ向から向き合ってセールスをし続けた十数年間は私にとって大切な経験だ。
今の部署ではお客さまとお話しをする機会はないが、営業で培った経験を存分に生かして仕事をしている。

 

 

 

振り返ってみると私は仕事を通じて「よく分からない」ことがどんな状況になるのか分かっていたのに、自分の事になると見て見ぬふりをしていた。「よく分からない」と言うお客さまと全く同じ状態だった。
 
AIはファミコンやたまごっちとは違うのだ。無くてはならないものだ。「よく分からない」なんて言っていたらあっという間に時代遅れになってしまう。このままではいけないと一念発起し、天狼院書店のAI講座を受けることにした。
 
もちろん勉強することは大切だが、もっと大切なことは「自分にとって未知なるものではない」「実は親しみ深いものだ」と気づくことだ。いつの間にか毎朝AIアナウンサーにお世話になっているし、仕事ではAIに手続き方法を教えてもらっている。自分の身近にあり、しかも私に快適な生活を提供してくれていると思うと感謝の気持ちが湧いてくる。毛嫌いや食わず嫌いはよくない。
2024年はAIと仲良くなる年にしよう。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
松本萌(READING LIFE編集部ライティングX)

兵庫県生まれ。千葉県在住。
2023年6月より天狼院書店のライティング講座を絶賛受講中。
「行きたいところに行く・会いたい人に会いに行く・食べたいものを食べる」がモットー。平日は会社勤めをし、休日は高校の頃から続けている弓道で息抜きをする日々。

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2024-02-28 | Posted in 週刊READING LIFE vol.252

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