週刊READING LIFE vol.255

オムツ交換から、「ハードに伴ったソフトの更新力」を学ぶ《週刊READING LIFE Vol.255 フリー》

thumbnail


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2024/3/25/公開
記事:青山 一樹(READING LIFE編集部ライターズX)
 
 
「あっ! いいところに来た。オムツ交換の練習をしよう!」と言ったのは、二日前に出産を終えた妻だった。
 
私は、娘と妻の見舞いに病室を訪れた。妻の手ほどきを受けながら、私は初めてのオムツ交換に臨んだ。妻から教えてもらった、テープタイプのオムツ交換の手順は、次の通りだった。
 
1. 赤ちゃんを仰向きに寝かせる
2. 赤ちゃんの足首を持って、お尻を持ち上げる
3. 新しいオムツを赤ちゃんのお尻の下に滑り込ませる
4. 汚れたオムツを外し、クルクルと小さく巻いて、テープで留め脇に置く
5. オムツが当たる赤ちゃんの部分を、お尻拭きで優しく拭き取る
6. 新しいオムツを広げて、おへその上あたりでテープを留める
 
手順が多いように思えるが、慣れた人がオムツを交換すると30秒もかからない。しかし、私は不安と緊張に包まれながら、10分ほどかけて、大人しく寝ている娘のオムツ交換を終えた。
 
妻や娘との面会時間は、1日30分であった。この日の私は、オムツ交換に10分、残りの20分は娘の寝顔を見るという時間配分になった。私は病室を後にする際「これから、スムーズなオムツ交換をできるだろうか……」という不安に駆られた後ろ姿を、妻に見せていた。
 
また、この時、オムツには、テープタイプと、パンツタイプがあることを初めて知った。一般的に、生後から6~8ヶ月目まではテープタイプを使い、その後はパンツタイプを使う
 
母子ともに退院し、自宅に戻るまで、残り5日間だった。この時の私は、オムツに関する知識と技術を何一つ持ち合わせていなかった。そこで、私は、YouTubeの動画やオムツメーカーのWebページを何度も見て、オムツ交換のシミュレーションを行った。そして、二人が退院し、私の育児生活が本格的に幕を開けた。
 
新生児のオムツ交換の平均回数は、1日10回である。初回のように、娘が、おとなしく仰向きに仰向けに寝てくれた時は、交換しやすかった。しかし、泣き叫んでいる時も交換しなければならなかった。この時、足首を持ってお尻を持ち上げようとすると、娘はすごい力で、バタバタと足を動かす。足首を持っている私の手が、外れそうになってしまう。足首から手を外さないように力を入れると、娘の足の骨が折れてしまうのではないか、と心配になる。
 
動画やWebページでは学べなかった、緊張感溢れるオムツ交換の現実が、私に襲いかかる。私は、妻の手を借りながら、ようやくテープを留める手順にまで、たどり着いた。娘は、まだ泣き叫んで、手足をバタバタ動かしている。私は、彼女の泣き声に焦りを感じ、素早くオムツを交換してしまおうと、おへその上ではなく、下でテープを止めてしまった。
 
締め付けが足りないオムツは、娘の排泄物の重さで、ズルズルと下がってくる。そして、娘のオムツは、遂に脱げてしまった。その結果、娘の衣服やベビーシートなどを汚すことになった。この後も、娘の機嫌が悪い時のオムツ交換は、どうしても上手くいかなかった。
 
泣いている娘が、オムツに締め付けられ、窮屈そうに見えてしまう。そして、かわいそうに思った私は、緩めにテープを留めてしまう。その位置が、おへその上であっても、オムツの締め方が緩ければ、脱げるだけではなく、背中や太ももの部分から漏れてしまう。その結果、服やシートなどが汚れ、洗濯物が増える。
 
現代のオムツというハードウェアは、高品質の商品ばかりである。正しく着用すれば、オムツからの漏れを100%防ぐことができる。その一方で、私は、自分の育児技術というソフトウェアの拙さを痛感していた。
 
ソフトウェアの技術を伸ばすために、私は、再びオムツメーカーのWebページを訪れた。今回は、オムツが脱げない着用方法と、オムツからの漏れを防ぐ着用方法を学ぶために。すると、私と同じように困っている先輩ママ、先輩パパもいることが分かった。そのお困りごとに関して、メーカー側も丁寧に回答していた。これを知った時、私以外の人もオムツ交換で悩んでいたことが分かり、少し安心した。
 
やはり、お腹側は、おへそが隠れるくらいの位置でテープを留める。Webページには、次いで背中側の気をつけることも、書かれていた。背中の下から3分の1が隠れるくらい、深めに着用する。そうすると、太もも周りでもオムツがフィットするので、背中と太ももからの漏れを、防ぐことができる。更に、オムツがシワシワになっていると、その個所から漏れやすくなる。テープの端を斜め下に向けて、逆ハの字型に留めると漏れにくくなる。なども記載されていた。私は、これらのアドバイスを忠実に守り、オムツ交換を行った。
 
更に、自分だけのオリジナリティーを加えた部分もあった。それは、テープを留めた時の、オムツとお腹の隙間の幅である。オムツのパッケージやメーカーのWebページでは、この隙間は、指2本が入るくらいの幅が妥当と書かれていた。しかし、私の場合、指2本が入るくらいでは、どうしても締め付けが緩くなってしまう。
 
そこで、私は「女性の場合は、細い指2本が妥当な幅になるだろう。男性の自分は太い指1本が妥当ではないだろうか」と考え、指1本分の幅にした。しかも、授乳直後でお腹が膨らんでいる時は、小指1本分と狭くし、後々締め付けが緩くなっても、オムツが脱げにくいように。逆に、授乳から時間が経っている時は、元々、お腹が凹んでいるため、親指1本分と広くした。このように、娘の状況によって、幅を計る指を変えることを試みた。
 
これらの取り組みが功を奏し、オムツが脱げる、オムツから漏れることが無くなった。しかし、すぐに新たな問題が発生した。
 
生後1ヶ月も経たないうちに、サイズアウトが起こったのだ。ある日、オムツ交換をする際、娘の太もも一帯にオムツの後がクッキリと残っていたことに気づいた。生後2日目にはブカブカだったオムツが、いつの間にか小さくなっていた。そこで、新生児用のSSサイズから、Sサイズのオムツへ切替えた。
 
すると、オムツ交換を開始した頃と同じような事態になった。「脱げる」と「漏れる」である。サイズを変更したにも関わらず、同じような着用方法にした結果、同じ失敗を起こしてしまったのだ。
 
私は、三度、オムツメーカーのWebページを訪れ、着用方法で抜けている個所を確認した。それは、漏れ防止ガードを立てることだった。このガードを立てずに、オムツを着用したため、漏れが発生していたのだ。また、どうしても漏れを防ぐことができない場合は、別メーカーのオムツに切り替え、娘の体調に合わせて、2社のオムツを交互に使用した。
 
追加でオリジナリティーを発揮した点は、やはりオムツとお腹の隙間の幅であった。Sサイズのオムツは、小指1本の幅であっても緩くなってしまう。SSサイズのオムツは、3~5キロくらいの赤ちゃんが着用するのに適している。一方、Sサイズは、4~8キロくらいの赤ちゃんに最適だ。しかし、4キロの赤ちゃんと、8キロの赤ちゃんでは、身体のサイズが全く異なる。
 
当然、ウエストのサイズも違うため「Sのオムツは、伸縮力が大きいのでは!」と私は考えた。そこで、私は、着用時のオムツとお腹の隙間の幅を、さらに狭くした。私の小指が入らないくらいまで。そうすると、オムツが脱げなくなった。
 
このように、オムツ交換だけでも試行錯誤しながら、育児開始から2ヶ月が経過した。「二人で合計600回はオムツ交換したかも」と、妻が言った。私の交換回数は、妻には及ばないものの、少なく見積もって200回には達している。では、このオムツ交換という、一見すると単純に思える作業を200回も繰り返したことから、何を学んだのだろうか?
 
それは、ハードウェアの更新に合わせて、ソフトウェアも更新することの大切さだ。オムツ交換の場合、ハードはオムツだけでなく、成長する娘も該当する。娘が成長するから、オムツのサイズが大きくなる。娘が成長するから、娘の体格だけでなく、体調にも合わせたオムツを使わなくてはいけない。
 
このようにハードが更新された時、育児技術というソフトも更新していかなければ、スムーズにオムツを交換できない。オムツのサイズによって、もしくはオムツのメーカーによって、または娘の体調によって、少しずつ着用方法を変更しなければ、娘だけでなく、私たち夫婦も不快な思いをする。そうならないように、私は、オムツメーカーのWebページを何度も見て、自分に不足している知識と情報を収集した、更に、自らの仮説に基づいたオムツ交換を実行した。このように、知識・情報・仮説思考を織り交ぜながら、オムツ交換という育児技術を磨いた。
 
3ヶ月におよぶ、私の育児休業も残り半月である。育児の現場より、ビジネスの現場の方がハードの更新ペースは速いだろう。職場復帰した時、時代遅れの社員にならないよう、オムツ交換で学んだ、情報・知識・仮説思考というソフト面のアップデート力を、意識的にビジネスへも活用していこうと思う。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
青山 一樹(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

三重県生まれ東京都在住
大学を卒業して20年以上、医療業界に従事する
2023年4月人生を変えるライティングゼミ受講
2023年10月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に加入。
タロット占いで「最も向いている職業は作家」と鑑定され、その気になる
47歳で第一子の父親になり、男性育児記を広めるべく、ライティングスキルを磨き中

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2024-03-20 | Posted in 週刊READING LIFE vol.255

関連記事