週刊READING LIFE Vol.39

その音は天使のささやき《週刊READING LIFE Vol.39「IN MY ROOM〜私の部屋の必需品〜」》


記事:青木文子(天狼院公認ライター)

カタカタカタカタ。

「その音、結構うるさいよね」

耳にはヘッドセット。電話をしながらキーボードを打っていた私。友人と事務所で仕事をしながらの電話でした。ヘッドセット越しにキーボードの音が響いてたようでした。

そうか、キーボードの音って、気にしなかったけれど、うるさいんだなぁ。

「うるさくないキーボードってあるんじゃないかな?」

事務所のキーボードも使い始めて6年目。すこしキーボードがガタつくようになってきたところでした。そろそろ買い替えてもいいかもしれない。ちょうどそんなことを思った矢先だったのでドンピシャのタイミングだったのです。

この時代、キーボードを触らずに仕事や日常が過ぎていく人ってどのくらいいるでしょうか。年代にもよりましが、結構な数の人がキーボードを使っているのでしょうか。そう考えるとキーボードは現代の必需品であるとも言えそうです。

探し始めて驚きました。キーボードってこんなに種類があるんだ!

むむむむむ。

安価なもの、有名メーカーなもの、奇をてらったもの、それからそれから沢山の種類がありました。調べれば調べるほど、キーボードの種類が沢山林立する樹海に迷い込むようでした。

そんな時、ある言葉が目にとまりました。

「プレミアムキーボードの最高峰」

なになに? プレミアムキーボード? しかも最高峰?

正直、よくあるキャッチコピーだと思いました。まあ、よくありますよね。史上最高! とか全米が泣いた! とか。ぬけぬけとプレミアムキーボードだなんて。しかもその最高峰だなんて。

そのキャッチコピーが冠されていたのは、東プレのREALFORCEシリーズキーボード。

半信半疑で調べ始めました。

何かの評価をネットで調べようとする時、あなたはどうするでしょうか? 多くの方がそのものさしとするのはいわゆるレビューや口コミです。すでにそれを使っている人の感想です。

私は早速東プレのREALFORCEシリーズキーボードのレビューや口コミを検索でたどってみました。

驚きました。

たとえばAmazonに掲載されているREALFORCEシリーズキーボード。機種は何種類があるのですが、そのいくつもにアマゾンのレビューが60とか70ついているのです。つまり、それだけの人がレビューをしているということです。

そして驚くのがその評価です。Amazonのレビューは5点満点で評価をすることができます。REALFORCEシリーズキーボードは5点満点中、軒並み4.5点。いやいやいやまるで食べログ4.0以上のお店が並んでいるようです。

「高かったけれど満足している」
「値段以上の価値がある」
「キーボードの価値観が変わった」
「このキーボード、本当に買ってよかったです。後悔していることはただひとつ。なんでもっと早くわなかったのだろうということだけです」

レビューにはそんな言葉が並んでいます。

むむむ、むむむむむ。

本当だろうか。

説明が遅れましたが、この東プレのREALFORCEシリーズキーボード、決して安価な部類ではありません。正直かなり高価な部類に入ります。キーボード1台に2万円、3万円。今私が使っているキーボードの約10倍は軽くするのです。

さらに調べていきました。REALFORCEシリーズキーボードは、プロのライターさんや作家さんで使っている方が多いのです。

「柔らかい打ち心地とそのレスポンスにどこまでも文章を書いていたくなる」

こんなことを書かれたら!このキーボードを買うだけで文章がうまくなるんじゃないかと錯覚を起こしそうです。

もともとこのキーボードは、キーボードを触る時間の圧倒的に多いデーターセンターの方たち御用達。金融機関の業務用、計算センターでのデータ入力用、などの、大量のキーボード入力をする入力専用機として、進化してきたキーボードです。

話をもどしましょう。私が探していたのはカタカタ音のしないキーボードでした。いわゆる静音タイプといわれるキーボードです。調べてみるとこの東プレのREALFORCEシリーズキーボードにも静音タイプがありました。

候補になったのはREALFORCEシリーズの中でも、一番最近発売された最新型静穏タイプR2S-JP4-BKです。

ちょうどその頃、クリスマスの前。

「ええぃ、今年のクリスマスプレゼントだ!」と勢いをつけて、えいやっ! と今までの10倍の価格のREALFORCEシリーズキーボードをポチりました。

届きました。

早速事務所のパソコンに繋ぎました。真っ黒というよりもややグレー寄りの筐体に、ゴールドで文字が入っています。

そして実際の打鍵感はどうだったのでしょうか?

ひとこと「軽い!」

キーボードのホームポジションから撫でるようにキーボードを高速でブラインドタッチしても、きっちりその入力を受け取って、画面の文字が出てきます。間違いのないレスポンス。キーにそれぞれの列でキーボード面が微妙に違う角度になっています。これがタイピングの際の指のタッチ感を高めてくれているようです。

今回は静音タイプということでタイピングの音の静かさ低さを期待したのですがこちらもいい感じ。ヘッドセットで電話中にタイピングしても、向こう側にはカタカタと打つ音はほとんど聞こえないようです。くだんの友人も「ぜんぜん気にならなくなった!」 と感心していました。

その音はまるで天使のささやきのようでした。

でも思ったのです。
これ、気のせいではなかろうか。
ネットのレビューや口コミで「これはすごいキーボードだ!」と自分が思い込んでいるせいではなかろうか。試しに今までのキーボードに戻して打ってみました。
はっきり、わかりました。あぁ、もう全然違います。別次元です。REALFORCEシリーズキーボードの指触りや打鍵感が全く違います。
Amazonのレビューにあった「キーボードの価値観が変わる」
それを書いた人を見つけ出して、強く共感の握手をしあいたい。そんな気持ちになりました。

そこから1年半。

最近、自分の部屋が増えました。

事務所の執務机と別に、自分の机が増えたのです。留学でいなくなった子どもの部屋。この部屋を天狼院のライティングやや自分の仕事ができる部屋にしようと思いたちました。

机の上にはノートパソコンを置いて、外付けのモニターと外付けのキーボードを用意しよう。

外付けのモニターは自宅に使っていないものがありました。キーボードも使っていないものがありました。でも、もう、あのキーボードの打ち心地を知ってしまった私には、別のキーボードを使うことはできない。

え? どうしたかって?
そう、お察しのとおりです。2台目のREALFORCEキーボードを注文してしました。

文章を書くとは表現です。
弘法大師のような天才は、筆を選ばないといいますが、凡人であれば、触っていて感激する、その能力を発揮させてくれる道具は選ばないといけません。あらためてそう思いました。REALFORCEキーボードを一言で言えば、「とにかくキーボードを打つのが楽しくなるキーボード」です。

これで少しは文章上手くなるでしょうか。すこしは文章に熱が込められるでしょうか。
答えはYESです。
なぜなら表現には熱が必要です。自分が使っていてワクワクする道具であれば、その熱はより一層その表現に込められるはずです。もちろん今この記事も愛すべきREALFORCEシリーズキーボードで打っています。

事務所の部屋と自宅の部屋。
それぞれの部屋には、REALFORCEキーボードが私の部屋の必需品として、いつも使われるのを待っていてくれます。

◻︎ライタープロフィール
青木文子(あおきあやこ)

愛知県生まれ、岐阜県在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学時代は民俗学を専攻。民俗学の学びの中でフィールドワークの基礎を身に付ける。子どもを二人出産してから司法書士試験に挑戦。法学部出身でなく、下の子が0歳の時から4年の受験勉強を経て2008年司法書士試験合格。
人前で話すこと、伝えることが身上。「人が物語を語ること」の可能性を信じている。貫くテーマは「あなたの物語」。
天狼院書店ライティングゼミの受講をきっかけにライターになる。天狼院メディアグランプリ23nd season総合優勝。雑誌『READING LIFE』公認ライター、天狼院公認ライター。

http://tenro-in.com/zemi/86808

 


2019-07-01 | Posted in 週刊READING LIFE Vol.39

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