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週刊READING LIFE vol.46

手品で鍛える! 編集力《 週刊READING LIFE Vol.46「今に生きる編集力」》


記事:吉田けい(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 

貴方は、手品を間近で見たことがあるだろうか。
 
Mr.マリックだとか、プリンセス天功だとか、てじな~にゃだとか、セロだとか、マギー司郎だとか、その他の方でもなんでもいい。ああいう類の手品を、ステージなり、対面なり、とにかくテレビではなく自分の目の前で見たことがあるだろうか。もしも見たことがないのなら、是非とも一度プロマジシャンの妙技を堪能してみることをオススメする。どうせ何か仕掛けがあるんだろう、見破ってやろう、というシニカルなスタンスの人ほど、目の前で起こった不思議な出来事に呆気にとられるはずだ。
 
実際のところはタネも仕掛けもあるのが手品だ。
 
それを如何に見破られないように実行するのが、マジシャンの技量である。マジシャンは人を騙しているわけではなく、手品を通じで、自分が描く少し不思議な世界を表現しているのだ。タネも仕掛けもある手品だが、同じタネの手品でも、違うマジシャンが演じれば全く違う手品のように見える。観客は、マジシャンそれぞれが表現する、現実にはあり得ないような不思議な世界に魅了されるのだ。
 
そんな手品は、編集力に鍛えるのにぴったりだ、と、もと学生マジックサークルに所属していた私は思う。しかも、普通に仕事やライティングで編集力を鍛えるよりも面白い。
 
今日は、そんな不思議な手品の世界について、ご紹介したいと思う。

 

 

 

始めに断るが、マジックサークルに所属していたからと言って、今の私も手品ができるわけではない。ピアノを習ったことがあっても毎日練習しないとすぐに腕が落ちてしまうのと同じで、手品も練習しないと出来なくなってしまうのである。また、これは手品を嗜む者の鉄の掟なのだが、何かの種明かしをすることもない。種明かしをしてしまうと、その人が「不思議!」と思う気持ちを一つ奪ってしまったことになるからだ。その点はどうかご了承いただきたい。
 
さて、大学のマジックサークルというのは、毎日コツコツ練習しなければいけないため、思いのほか体育会系な雰囲気であることが多い。私が所属していたサークルもそうだった。手品は大別するとステージマジックとテーブルマジックに分けられるが、サークルはステージマジックをメインに活動している。演目がいくつか決まっていて、技を伝授するための師弟制度がある。上級生が下級生を指導するのだが、自分のやりたい演目を演じたことがある師匠に弟子入りをするのだ。
 
演目は、ステージで取り扱うメインのアイテムの名前を冠して呼ばれることが多い。カード、ワイン、ハト、ネックレス、シンブル、四つ玉、リング、ゾンビ、フェザー、イリュージョン、パラソル、メリケンなど、学生マジックを知っている人ならば、これらの演目を聞けば、だいたいどんな手品なのか、ある程度想像がつく。新入生の時は、師匠に教えられた定型の演技をきちんとなぞるだけだ。オリジナル要素を入れようと思ったら、よほど練習して上達していないと認められない。二年生以降になると、演目を選んだら、師匠はつくものの、自分で演技を考えなければいけない。
 
演技を自分で考えるとはいえ、演目が決まっているのでは、オリジナル要素はあまりないのではないか。サークルに入会したばかりの私はそんな風に考えていたが、それは全くの間違いだった。同じ演目でも、演者が違えば、全く違う演技になる。たとえば路上マジックなどでもよく見かける、金属製の輪がつながったり外れたりする手品がある。これは演目ではリングというが、普通に路上マジックのように演じることもできるし、可愛らしいドレスを着て演じることもできる。高校まで新体操をやっていたという美人の先輩が、レオタードで新体操をしながらリングを演じてみせた時は度肝を抜かれたものだ。どれも同じリングの演目だが、共通項目はそれだけで、全く異なるステージとなった。
 
もう一つ、メリケンという演目は、帽子の中から花やポンポンなど、いろいろなものが飛び出してくる手品だ。演目名の由来はアメリカンハットから来ているらしい。アップテンポの曲で、帽子をもってコミカルに踊りながら演技をするので、私がいたサークルでは女子が演じることが多かった。しかし、マイケルジャクソンが大好きな男子が、マイケルそっくりの衣装で、キレッキレのダンスを踊るメリケンを披露した時は、サークル員みなその発想に仰天したし、発表会当日の会場はものすごい熱気に包まれた。
 
そう、マジシャンは、手品を通して、自分の世界観を表現しているのだ。だから、どんな演技にするか考える時は、自分が何を表現したいのか、突き詰めて考えなければいけない。日頃からいろいろなマジックを研究しておくのはもちろんだが、映画やドラマ、話題になっているスポットやエンターテイメントなど、いろいろなことに興味を持って情報収集しておくことが大切だ。
 
続いて肝要なのは、演技の流れが面白いかどうかである。せっかく世界観を作り込んでも、観客から見てマジシャンが何をしているのかが分からなければ、それは良いステージとは言えない。また、技術的に難しいことをしていても、観客から見て不自然な動きをしていたら、それは手品として優れているとは言い難い。観客が期待するほど不思議なことが起きず、がっかりさせてしまうようなものは論外だ。私のサークルでは演技の流れのことをルーティーンと呼んでいたが、このルーティーンをしっかり練り込んで、たくさん練習しておくのが何よりも大切なのだ。
 
編集力という言葉を巷でよく聞くようになり、こうして課題にもなったので改めて調べてみた。つまるところ、情報収集と、情報の取捨選択、そして説得力のあるアウトプット、ということらしい。
 
なんか、これ、昔サークルでやったな。
 
ステージマジックの世界観を作り上げるために、いろいろな知識を蓄える。その中から、今回のステージの世界観に合うものを選ぶ。観客を興奮させ、わくわくさせるようなルーティーンとしてアウトプットする。私も、あまり上手ではなかったけれど、ステージの上に自分の世界を作り、どうしたら観客がびっくりするかな、とあれこれ工夫を凝らした。当時はちょっと気恥ずかしいような気持もあったのだけれど、あの時培った編集力が、こうしてライティングをするときに大いに役に立つことになるとは思いもよらなかった。
 
私が記憶しているステージマジックで一番印象的だったのは、先輩が演じたスケッチブックのマジックだ。この先輩は今でもプロとして活躍している方で、当時もずば抜けて手品の技術が卓越していた。ステージに現れたマジシャンが、無地のスケッチブックに絵を描く。絵に描いたものを、次々と絵から現実へと取り出していくのだ。初めて見た時は魔法を見ているようだったし、練習風景を見てタネと仕掛けが分かった時は、その呆気ないほど単純な仕掛けと、その仕掛けを思いついた先輩の発想の斬新さにぐうの音も出なかった。先輩の演技は、ペンを持つ手の向きはどっちがいいか、スケッチブックをこうやってめくると大きな動きになるのではないか、と細部まで計算されつくしていた。そうした緻密な計算が、観客の心理や視線までコントロール可能にする。そうして、あっという間に観客をマジシャンの世界のど真ん中まで引きずり込んでしまうのだ。当日、観客席が悲鳴のような大歓声に包まれたのをステージ袖から見た時は、ただただ私も感動するしかできなかった。

 

 

 

もしも貴方が編集力を上げたいと思ったら、下手に書類の作り方をどうこうするよりも、趣味で手品を始めてみるのがオススメだ。なにもステージマジックをやれというわけではない。最近はデパートだけでなく、百円ショップでも気軽に手品グッズを購入できるようになった。インターネットには、手品の解説をしている動画やサイトがたくさんある。サークルに入らなくても、一人で手品を学びやすい環境が整いつつあるのだ。動画や解説を見ながら練習した手品を、どんな風に披露したら、相手は喜んでくれるのか。それは技術レベルだけではなく、会話やちょっとした仕草にも細心の注意を払わなければならない。それらを一つ一つ楽しみながら上達させていけば、おのずと編集力も身に付いているはずだ。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
吉田けい(READING LIFE編集部公認ライター)

1982年生まれ、神奈川県在住。早稲田大学第一文学部卒、会社員を経て早稲田大学商学部商学研究科卒。在宅ワークと育児の傍ら、天狼院READING LIFE編集部ライターズ倶楽部に参加。趣味は歌と占いと庭いじり、ものづくり。得意なことはExcel。苦手なことは片付け。天狼院書店にて小説「株式会社ドッペルゲンガー」を連載。
https://tenro-in.com/category/doppelganger-company

 
 
 
 

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2019-08-20 | Posted in 週刊READING LIFE vol.46

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