週刊READING LIFE vol.56

あの日、僕は火星でウルトラマンを見た《週刊READING LIFE Vol.56 「2020年に来る! 注目コンテンツ」》


記事:侑芽成太郎(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 

「太陽系、第四惑星火星。人類は新たなフロンティアとしてこの星の開発に乗り出していた」
藤岡弘さんのダンディなナレーションがテレビから聴こえる。
画面に映し出されるのは火星の大地。切り立った崖と岩以外は何もない赤い荒野だ。
「ジャック・シンドーとスタンレー・ハガードは有効な鉱物資源を求めるうちに、驚くべき光景に遭遇したのだった」
宇宙服を着た二人の地球人が登場する。
二人が見つめる先にいたのは……恐ろしい姿の巨大な怪物。
怪物が二人に気付き、近づいてくる。
 
その時、怪物の前に銀色の巨人が立ちはだかった。
 
「新しかウルトラマンば借りて来たよ」
1990年、ウルトラマン好きな子どもだった僕は三歳。「新しい」という言葉の意味をわかっていなかった。だけどウルトラマンという言葉に心躍った。早速父がビデオを見せてくれた。
 
作品名「ウルトラマンG(グレート)」
 
オーストラリアで製作され、日本ではテレビ放映でなく、ビデオ販売・レンタルの形で展開された当時の最新ウルトラマン。
そして、僕にとって生まれて初めて出会った過去の作品でないリアルタイムの新しいウルトラマン……つまり「僕のウルトラマン」だった。
 
第一話の冒頭、火星で繰り広げられるグレートとゴーデス(怪物の名前)の戦い。
その最中、地球人の一人であるスタンレーはゴーデスに殺されてしまう。戦いはグレートの勝利に終わるが、ゴーデスは身体を細胞にして火星から地球に逃亡。一人で火星に残されたジャック・シンドーの命を救うためグレートはジャックと一心同体になる……
 
ここから舞台が地球に移りゴーデスの細胞が生み出した怪獣と地球人、そしてグレートの戦いが描かれることになる。
 
この第一話を見た時の気持ちは今でも忘れていない。それはまるで、生まれて初めて映画館で映画を観た時のような大きな興奮を僕にもたらした。実家にあるアルバムにはその頃撮られた写真で、僕がグレートの光線技の真似をしている写真がある。子どもながらに台詞をいくらか暗記できるくらい、作品にのめり込んだ。
まだまだ世の中の汚い面など知らなかった頃の話だ。それ故にグレートに関する子どもの頃の思い出は優しい記憶として僕の中にある。
 
あれから来年で三十年の月日が流れる。
世の中も変わった。特撮の世界も変わった。ウルトラマンも変わった。だけど、最近感じていることがある。2020年にウルトラマングレートが来るのではないかと。
理由はいくつかある。
 
第一に作品のクオリティが高いのだ。
実はグレートが製作された時期は日本国内でウルトラマンの製作が中断していた時期にあたる。その間に時代は昭和から平成に変わった。グレートは平成に生まれた最初のウルトラマンだ。
そのため、昭和のウルトラマンの要素を受け継ぎながらも新しい作品を作ろうとする作り手の熱に溢れている。
 
グレートは全十三話。決して話数は多くない。それにも関わらず話のバリエーションが豊富だ。
一話から六話までがゴーデスが生んだ怪獣と戦うゴーデス編、七話から十三話が様々な理由で出現した怪獣との戦いという構成。
ゴーデス編をとってみても、少年の心が怪獣を生み出すというファンタジックな話やオーストラリア原住民の神が怪獣化して現れる話など見ていて飽きない。
 
特撮の部分においても見どころが多い。どちらかというと街中よりも自然の中でのロケーションが多いのだが、オーストラリアの広大な土地を活かした撮影はリアリティに溢れている。
これが日本だとどうしても見知った風景が特撮で描かれたら違和感を感じる部分があるが、グレートは舞台が遠い海外ということもありそうした違和感をあまり感じさせないものになっている。
グレート自身も武道の型を取り入れたアクションが格好よく、巨大感と力強さがこれでもかと伝わってくる。
 
また、主人公ジャック・シンドーとグレートが明確に別人格と設定されていることも魅力的だ。
過去の作品ではウルトラマンと融合した主人公の人格がどうなっているのか曖昧になっている部分があった。
1979年放送の「ザ★ウルトラマン」というアニメのウルトラマンにおいて両者の人格が別であると表現されたことがあったが、グレートはこの部分にさらに一歩踏み込んでいる。
ザ★ウルトラマンにおいて、ウルトラマンと主人公の関係は導く側と導かれる側として描かれていた。ここにはウルトラマンを人類がなるべき理想の姿として描く狙いがあったと考えられる。
対してグレートでは、ジャックとグレートの関係は同等として描かれている。怪獣事件への対処の方法を巡って両者の意見が対立する描写もされている。
これは表現が後退したのではなく、ウルトラマンを地球人と同じ宇宙に生きる生命体として描くことで、互いが信頼で結ばれていくそれまでより一歩進んだ描写であった。
 
登場する人物達も魅力に溢れている。
主人公のジャックとそれを取り巻く防衛チーム「UMA(ユーマ)」の仲間達だ。
海外製作なので勿論、演じている俳優陣は皆外人なのだが、様々な人種がバランスよく配置されている。
主人公のジャックは不思議な主人公だ。設定年齢26歳。若さや未熟さを前面に押し出すでもなく、かといって力強さを前面に押し出すわけでもない。常に飄々と笑みを浮かべていて、どこか捉えどころのない人物だ。だが、強大な存在であるウルトラマンに臆さず一人の人間の立場を貫く姿勢、誰もが絶望的な状況でも諦めない勇気など主人公にふさわしい魅力も備えている。
UMAの面々も個性的だ。
強い信念を持ちながらもユーモラスな場面もあるアーサー・グラント隊長。
現実的ながら仲間思いのロイド・ワイルダー副隊長。
コミカルな場面の多いムードメーカーの科学者チャールズ・モーガン隊員。
勝ち気で男勝りだが子どもに優しいキム・シャオミン隊員。
優秀なエンジニアであり、パイロットでもあるジーン・エコー隊員。
これらの人物の魅力が芸達者で豪華な吹き替え俳優陣によりさらに魅力的になっている。
作品を追っていくと、最初はUMAの面々もまとまりが今一つのように感じられるのだが、段々と信頼ができあがっていく様子を見ることができる。
さらに個人的な感想だが、UMAが国際的な組織という設定に海外製作という部分が非常にリアリティを与えているように感じた。
日本のウルトラシリーズでも設定上、海外にも防衛チームの基地が存在している。しかし、製作上の制限もありそれらが具体的に描写される例はそう多くない。
グレートで描かれる海外にも防衛チームがあるという描写は、UMAという組織の大きさと存在感をきっと観た人に感じさせてくれるだろう。
 
来年グレートが来ると僕が感じる理由の二つ目がここ数年のグレートの盛り上がりだ。
ファンは少なくない本作だが、元々がビデオ展開ということもあり知名度では他のウルトラマンに劣っていることを否定できない。また、時代が変わる中でなかなかDVDやブルーレイ化に恵まれなかった。
しかし、2017年にブルーレイが発売されグレートを知らない世代の人にも観てもらえる環境ができた。
さらに展示会、フィギアの発売、関連書籍の発売、ファンによる自主製作動画の撮影などここ二年でグレートに関する事柄が盛り上がっている。
現在、グレートにリアルタイムで接した世代の年齢が30歳前後だろうか。自分たちの意見を発信できるようになってくる年代だ。子どもの頃、僕の周りにはグレートを知っている子どもがほとんどいなかった。だからグレートがこんなにもたくさんの人に愛されていることを知りとても嬉しく思う。
また、若い世代の方が初めてグレートを観て好きになったという声を聞くととても嬉しい。
また、この時代の変化の中で思いがけないこともあった。グレートに出演した俳優の近況を知れたことだ。
海外製作の都合上、出演した俳優は現地の方でありインターネットを使っても近況がわからない方が少なくない。
そんな中で、主人公ジャックを演じたドーレ・クラウス氏の近況がツイッター等で度々伝わってくる。
年齢を重ねても、あの頃の笑顔はそのままだ。よく海外の特撮系のイベントに参加されているらしい。
ジャックもまた僕にとって憧れのヒーローだった。だから、ドーレ氏が元気にされていることを知れて感動した。いつか来日してほしい、いや、その前に僕の方からでも会いに行きたい。密かにそんな風に思っている。
そして、そう考えているファンはきっと僕だけではないはずだ。だってこんなにもたくさんの人がグレートを好きなのだから。
 
理由の三つ目はウルトラマンを製作する円谷プロダクションがウルトラマンの「〇〇周年」という区切りを大切にしていることだ。
ウルトラマン誕生四十周年の時は歴代の俳優陣が登場する映画を、ウルトラセブン40周年の時にはセブンの新作「ウルトラセブンX」を製作した。記念の年に製作する最新ウルトラマンに過去のヒーローを登場させ、大活躍させることが多くファンとしては嬉しい限りだ。
来年はウルトラマングレート生誕三十周年だ。
勿論、グレートの新作や続編は無理かもしれない。だけど、例えば海外ウルトラマンの新作やグレートのキャラクター性を受け継ぐ新しいウルトラマンの登場などのサプライズはあるかもしれない。
近年、少しずつ少しずつ育ってきたグレートを取り巻く明るい種が来年、一斉に開花する予感が十分にある。
 
色々と語ったが、実はグレートを観た順番が僕は変則的だ。一話から三話、六話から七話、十二話から十三話はリアルタイムでビデオ。
四話と五話は何年後かに地上波で放送があった時に観た。
では八話から十一話は?
何故か近くのビデオ屋にそれらを収録した巻が無かったので何年後かに別の店で借りてビデオで観たのだが、実はそれ以前にその話に出てくる怪獣の場面を集めたビデオを父親が買ってくれていた。だから、どんな怪獣が出てくるのかも知っていたし本編を全話観てなくても僕は平気だった。
 
僕の父親は特撮好きな人間ではない。逆にほとんど詳しくない。だけど、この時だけは僕がグレートの後半の話をほとんど観れないことを知っていたのだろうか、そのビデオは今でも持っている。
そのことは僕にとって何よりも大切な思い出だ。父とはあまり共通するものがなく、不仲ではないけど仲が良いというわけでもない。僕が年齢を重ねる分、見たくなかった知りたくなかった面を見ることもあった。
 
それでも、特撮に詳しくない父がグレートのビデオを買ってくれた。そこには確かに父が僕のことを思っていてくれたことを感じることができる。
僕にとってグレートは一つの作品である以上に、幼少期の自分を取り巻く風景そのものなのだ。
そんな風に思える作品に出会えたことを誇りに思う。
 
「〇〇は神」という言い方を最近よく聞く。僕にとって「ウルトラマングレートは神」だ。
懐かしい思い出と、先への希望をくれる。楽しみもくれる。
 
三歳の頃、僕の心は確かに火星に行った。そこで銀色の神に出会った。
これからもその神を愛し続けていきたいと思う。三つ子の魂百までという。ならば一つくらいは子どもの頃から好きなものを死ぬまで愛し続けたっていいじゃないか。
一人の人間の心を動かす力がこの作品には確かにある。
 
だからいつかまたグレートに会いたい。それがどんな形でも。来ると信じている!
 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
侑芽成太郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

ゆうがせいたろう。
サラリーマン生活を送る一方、煮え切らない日々の中で天狼院書店に出会う。だけどやっぱり煮え切らずに悩むこと一年。やっとゼミに通いだす。
グレートが好きと語ることはあっても、文章という形でその思いを綴るのは今回が初めてです。本当に些細なことかもしれませんが、少しでもグレートの盛り上がりに協力できたならばそれ以上の喜びはありません。
ライティングゼミを経てライターズクラブを受講中。

http://tenro-in.com/zemi/102023

 


2019-11-04 | Posted in 週刊READING LIFE vol.56

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