週刊READING LIFE vol.57

孤独でないと得られないもの《週刊READING LIFE Vol.57 「孤独」》


記事:ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 

「私に話しかけないで」
 
そんなオーラを全身から発している人をよく見かける。職場やカフェなど、大勢の人が空間を共有している場所では、1人で集中して作業をすることが難しい。なぜなら人は、案外気軽に話しかけてくるからだ。
 
他愛ない話題のときもあれば、ちょっとした頼みごとのこともある。
たったそれだけのことで集中力が途切れ、仕事のパフォーマンスが落ちる。
それがいやだから「私に話しかけないで」オーラを纏う人がたくさんいるのだろう。
 
私も、そんな1人である。
とにかく話しかけないでほしい。他愛ない話題なんていらない。こっちは仕事をしているのだ。つまらない話を1分することで、集中力は落ちるし、気の流れががらりと変わる。
せっかく乗ってきたのに、ツマラナイ他愛のないちょっとした会話で、その大事な流れを損なわないでほしいと、心から願っている。
こんなふうに考える私は、ひどい人なのだろうか。
 
「いいじゃん、ちょっとぐらい」
「何なのよ、お高く止まってるんじゃない」
「それほど重要なことをしてるわけ?」
反対意見はたくさんあるだろう。そんなことは百も招致だ。
 
しかし、やはり思う。
仕事に集中させて欲しい。
そしてそう思っていることを表現して何が悪い、と。
 
仕事とは、基本的に1人でするものだ。チームワークで成し遂げる種類の仕事もあるだろうが、大体は自分の課題である。自分で考え、行動し、結果を作り、振り返って反省し、また次の仕事に取り掛かる。それの繰り返しだ。起業をして個人事業主となったり、自分で会社を経営しているならなおさら、自分が動いてなんぼである。経営者とは孤独な職業だ。
 
うまくいっても喜ぶのは自分ひとり、またうまくいかなくても悲しむのは自分ひとり。起業とは、1人きりを味わうものである。そうしてある程度仕事ができるようになり、仕事をするって孤独なことだと感じ始めたあたりでこう言われる。
「1人で出来ることには限界があるよ」と。
大きな仕事をしたいのなら1人では無理だから、仲間やチーム、従業員がいたほうがいい。孤独でいることはしんどい。それならば、と仲間を募り、人を雇い、1人じゃない環境を作って孤独からは脱出できたと思ったら、実はそれがさらなる孤独の始まりとなることに、多くの人は気づかない。
 
経営者は、誰にも相談することができない。仕事の悩みや従業員の悩みは、社員には相談できない。うまくいかないことを相談するのは家族にもはばかられる気がして、経営者は抱え込んでしまうのである。
また、みんなのためによかれと思ってやったことも、その想いが伝わらずに結局
 
「社長が勝手にやっていることでしょ」
「社員のこと考えてないよね」
 
と言われて理解もしてもらえない。
そればかりか社員たちの飲み会には誘ってもらえず、こちらから歩み寄ったら却ってうざいと言われる。社員を叱ったら疎まれ、下手に出るとバカにされる。経営者と社員という、ほんの少し立場が違うだけなのに、なぜかトップは仲間はずれにされ、孤独を味わっていく。
 
1人では成し得ない、大きなことを成し遂げるためにチームを作ったはずなのに、結局はそのチームを作ることに振り回されて、本来の目的にたどり着けなくなってしまう。そうなるとそもそもチームを作ったことすら後悔しはじめ、これだったら自分ひとりで動いている方がよっぽど動きやすいと、またもとの1人体制に戻ったりする。1人のほうが気楽で動きやすく、チームビルディングという面倒くさい仕事も発生しないからだ。こんなに人付き合いが煩わしいなら1人で結構、孤独バンザイなのである。1人でも孤独、チームがあっても孤独、どちらに転んでも孤独なのであれば、どちらを選んでもいいではないか。ならば人付き合いが面倒くさくない1人を選ぼうと、考える人は少なくないだろう。
 
だけどそれ、成長のチャンスを逃している。
 
人付き合いが煩わしいからそれを避けるとか、チームビルディングが面倒くさいからそれをしないとか、そんなことばかり言っていたとしたら、一体いつ人は成長できるのだろう。
 
苦手なことを避け続けていたら、いつまでたっても出来るようにはならないのと一緒で、自分が苦手だと思う環境を避けてばかりいたら、いつまでたっても自分の器は大きくならないのである。
 
面倒くさいことにチャレンジするからできるようになるし、嫌いな人に向き合っていくから人の気持ちに寄り添えるようになる。苦手だろうとまずは一生懸命に、目の前の課題に取り組むことで、人は成長するのである。
 
孤独はツライと多くの人は言うけれど、果たして本当にそうなのだろうか。
孤独があるから、仲間といることの大切さに気づけるのではなかろうか。
孤独を知らない人が、人づきあいの大切さを心から理解することは、不可能といっても過言でない。孤独は私たちに、人に愛されることの大切さを伝えてくれる。
 
「私に話しかけないで」オーラを出し続けているのも、今は少々、とんがっていてもいいのかもしれない。それはきっと、いつか仲間の大切さに気付けるようになるための、大事な最初の一歩なのかもしれないのだから。
 
「話かけないでオーラ」を出しているうちは、まだまだ自分が未熟だということだ。
少しぐらい話しかけられても揺らがないぐらいの、度量や人格、キャパを手に入れればいいじゃないか。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)

食べかた研究家。京都の老舗料亭3代目として生まれ、現在は東京でイギリス人の夫、息子と3人ぐらし。食べることが好き、が仕事になり、現職は食べるトレーニングキッズアカデミー協会の代表を勤める。2019年には書籍「1日5分!子どもの能力を引き出す!最強の食事」、「子どもの才能を引き出す!2ステップレシピ」を出版。

http://tenro-in.com/zemi/102023

 


2019-11-11 | Posted in 週刊READING LIFE vol.57

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